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リアクション
3.
「生身で適うと思ってんのか? 甘いんだぜ」
 天馬のイコン、イカロスを操り、如月 和馬(きさらぎ・かずま)がせせら笑った。
 先に件の洞窟を発見できるならばそれで良かったが、こうして鉢合わせしてしまった以上は、邪魔者は排除する他にない。
 共に行動するグンツ・カルバニリアン(ぐんつ・かるばにりあん)は、出来る限り眠らせて彼らを足止めできれば良いとも思っていたが、和馬はそうとも言えないようだ。
「和馬、グンツ。いくぜ」
 ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)が二機を誘導する。三機で連携をとり、常に3対1の構図をとるのがジャジラットの戦法だ。例え戦力は遙かに高いイコンでといえど、手加減はしない。
 ジャジラットにしても、戦闘は本意ではない。バルバロイの姿をあえて見せることによって、逃げ帰ることを期待してもいた。
 しかし、どうやら薔薇たちは、立ち向かう道を選んだようだった。
「ならば……仕方ないな」
 ジャジラットの言葉に応えるように、バルバロイが不気味な舌なめずりをした。
 ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が、厳しい眼差しを上空に向ける。
 危険を伝えるためにかけつけた久途 侘助(くず・わびすけ)が、その傍らに立ち、同じように異形のイコンを見上げていた。
「なんの目的か知らねぇが、タシガン貴族の一人として、横からかっさらおうったってそうはいかせねぇぜ!」
 ソーマは片手をあげた。炎の嵐が巻き起こり、空中のイコンを狙う。
 同じく、瑞江 響(みずえ・ひびき)が刀を構え、バルバロイへと立ち向かった。アイザック・スコット(あいざっく・すこっと)が、後方で支援する。しかし。
「響!!」
 前へ出た響だけをねらい撃つイコンたちの攻撃に、響の身体が跳ね飛ばされる。アイザックは血の気が引くのを感じながら、彼へと駆け寄った。そして、その身を抱き上げると、手近な岩陰に待避する。
 響の白い肌に滲む赤い色に、アイザックは自身もまた傷を負ったかのような痛みを覚えた。契約者同士だからではない。それ以上の絆が、この痛みの理由だ。
「アイザック……みんなは、大丈夫か?」
「それはこっちの台詞だ!!」
 傷つき倒れても、アイザックや他の生徒を気遣う響に、アイザックは堪らずに怒鳴りつけた。
「そうだな。……すまない」
 響は素直に侘び、アイザックを見上げる。
「無茶しやがって。俺様はそんなにヤワじゃない!」
 響のそんなところが愛おしいとは思うが、やはり、彼が傷つくことはアイザックには耐えられない。アイザックは、魔力を注ぎ込むようにして、ヒールで響の傷を癒した。しかし、走ることはできても、満足に戦うことは難しいようだ。
「響、大丈夫か!?」
 リア・レオニス(りあ・れおにす)が駆け寄り、声をかける。
「ああ。とりあえず、動けそうだ」
「……響とアイザックは、しばらくここにいてくれ。向こうは一人ずつ狙ってる。バラバラでいても、的になるだけだ」
 リアはそう言うと、顔をあげ、走り出す。光一郎とクリスティーにも、とある作戦を告げるためだ。
 全員で力をあわさなければ、負ける。それだけは絶対に確かだった。
 レッサーワイバーンが、翼を広げる。クナイ・アヤシ(くない・あやし)が、移動のために連れていたものだ。清泉 北都(いずみ・ほくと)と共に乗り込むと、大空へと飛翔する。
「面倒事は嫌いなんだけどねぇ」
 北都はそう口にしつつも、時折振り返り、彼らを狙うイコンたちを確認する。サイコキネシスでもって、目くらましの岩をぶつけるが、いずれも容易に砕かれてしまった。
「さすがに岩だけじゃ無理かなぁ」
「北都、気をつけてくださいね」
 ワイバーンを操りながら、クナイがそう声をかける。
「大丈夫だよ。……クナイがいるんだから」
 微かに甘えた言葉に、クナイは微笑んだ。同時に、なにがあっても、北都を護ると強く胸に誓う。
 ワイバーンは、切り立った谷の合間を滑るように跳んでいく。まるで激流をかけのぼる魚のように、力強く。
「一旦二手に分かれるぞ。おまえらは、正面へ回り込め」
 ジャジラットが、そう指示を送る。二匹の天馬が上空へとさらにかけあがり、先回りをしようと一旦離脱した。
 むしろ、それがねらい目だ。
「捕まってください!」
 クナイが声をあげ、一気に、レッサーワイバーンがその高度を下げる。ほぼ、落下に近いスピードだ。振り落とされまいと、北都は懸命にクナイの背中にしがみついた。その後を、バルバロイが吠えながら追う。
「テペ、一気に燃やして!」
 サトゥルヌス・ルーンティア(さとぅぬるす・るーんてぃあ)が、フラワシの『テペロピ・テテ・テペルペ』に命じる。彼だけではない。機を狙い待ちかまえていた生徒達すべてが、その力を込め、バルバロイに必殺の一撃を放った。
 クリスティーの歌声が響く中、雷と炎が渦を巻き、炸裂する。
 轟音とともに、バルバロイがその身を捩り、咆吼をあげた。びりびりと大気が震え、霧と粉塵が舞い上がる。
「うわっ!!」
 サトゥルヌスは身をかがめ、跳んでくる破片を避けた。長い黒髪が爆風に靡く。少年を気遣うように、フラワシが彼の周囲を浮遊した。
「……大丈夫だよ、テペ」
 そうは答えるが、油断はできない。バルバロイがどうなったのかは、粉塵の向こうでようとしてわからず、そしてまだ、二体のイコンは残っているのだ。
 ――しかし。
「……なんの炎だ?」
 上空にいた和馬が、そう呟く。
 バルバロイは傷ついた身体を起こし、再び飛び上がった。一つには、その足元が急激に崩れるのを感じたからだ。
「全員、逃げろ!」
 シンプルかつ的確な指示を、光一郎が口にする。谷底に入った亀裂は、次第に広がり、重力に負けるように崩れ落ちていった。
 クリスティーが、サトゥルヌスの手を引く。互いにその身を庇いつつ、彼らは一旦、谷底から待避した。
「……なに、これ……?」
 サトゥルヌスが呟く。その声は、微かに震えていた。
 谷底に、ぱっくりと開いた口。それはまるで、大地の傷口のようでもある。
 そこから、赤い炎が不気味に燃え上がっていた。
 夕闇に沈んでいく谷に、その火だけが灯りとなった。
 マグマというわけではない。穴を構成する岩そのものが、赤い炎を上げて燃えているのだ。
 さながらそれは、地獄の門というようであり……。
「ナラカへの、入り口……」
 北都は、クナイの背中で、そう言葉をもらした。だが、これを目にした多くの者が、そう感じたことだろう。
 すると、呆然とする彼らの背後で、三体のイコンはその身を反転させた。まるで、何者かに呼ばれたかのように。
 そして、事実、彼らは呼ばれたのだ。あの『声』に。
(ああ、見つけたんだね。だけどそれは、まだ未完成品だよ。一度、戻ってくれないかな?)
「……ウゲンか」
 グンツが呟く。
「ちっ、しょうがねーな」
 和馬も渋々と、イカロスで離脱する。
 目的の物は、この炎のあぎとの奥にあるのか。しかしこの場で奪うには難しそうだ。
 彼らはそう判断をすると、その場を退くことにしたのだった。
 
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