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The Sacrifice of Roses 第三回 星を散らす者

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The Sacrifice of Roses 第三回 星を散らす者

リアクション

3.


「さすがに、穏やかでないな」
 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は、空を見上げた。南中にさしかかった満月が、まもなく、儀式が始まろうという時刻だと告げている。
 張り詰めた糸のような緊張感が、周辺には漂っていた。
 教導団が用意した灯りが周辺を照らし出し、あちこちに配備された警備が、それそれに警戒をしながら、この夜が終わるのを待っていた。
「ジェイダスはどうして、自分の命が無くなるかもしれないのに夢を叶えようとするんだ……」
 儀式のことを聞き及び、忍は契約者である織田 信長(おだ・のぶなが)とともに協力することにした。だが、どこか、納得しきっていない部分もある。
「忍よ、お前には命をも犠牲にしてまで叶えたい夢はあるか?」
 刀の柄から手を離さぬままに、信長が尋ねる。
「そうだな……俺の夢はまだ見つからないけど、もし夢が見つかったらその夢を大切にしたいし、命を犠牲にしてでも叶えたいかはその夢次第かな?」
「そうか……」
 光源に照らされて浮かび上がった忍の端正な横顔を見つめ、信長は暫し沈黙する。そして。
「夢を叶えるという事は、何かを犠牲にしてでも成し遂げねばいけない覚悟をしなければいけないのじゃ。この私がそうだったようにな……」
 その言葉は、微かに苦く、それでいて強さを感じさせるものだった。
「信長。……よし、それなら俺は、儀式が終わるまでジェイダスの夢を守ろうかな」
 忍はそう答えると、再び暗闇に目をこらした。
 すでに、不穏な気配は色濃く立ちこめている。
 先日、レモがここを訪れた際にわかったことだが、ナラカからの死者たちもまた、この装置によって穴……ゲートとも呼べるだろう、それを固定化させたいようだ。そのため、周辺に現れた死者は、洞窟内部へ入り込もうとする。それを阻止することが、彼らの役目だった。
 ……儀式のためだろうか。不思議な音色が、洞窟の奥から微かに響く。どうやら儀式は本格的に幕を開けたようだ。そして、同時に。
 その音に誘われるように、暗闇の中、蠢き出すモノたちがいた。
「…………」
 忍の手に握られた大型剣、【ブレイブハート】が、忍の心に応えるように、闇夜の中で白銀の光を放った。

「たくさん……、すごい数です」
 敷島 桜(しきしま・さくら)が、高島 真理(たかしま・まり)の背後から、そう伝えた。彼女にとっては、周囲はびっしりとどす黒く染まっているかのように感じられている。うずまく敵意に、桜は怯えたように真理の制服の裾を掴んだ。
「大丈夫! ボクの側にいて」
 真理は力強く答え、桜の頭を撫でた。兎の耳がふるりと震える。
「的はいくらでもあるようでござるな」
 源 明日葉(みなもと・あすは)が、弓矢をつがえる。
「……そうね」
 南蛮胴具足 秋津洲(なんばんどうぐそく・あきつしま)は、ごく小さな光を光術で呼び出し、彼女らの手元の灯りとした。
 四人がいるのは、洞窟の入り口が見下ろせる高台だ。遠距離攻撃を得意とする彼女らに、叶 白竜(よう・ぱいろん)が一任した場所だった。
 やや離れている分、背後からの攻撃に対しては、桜がディテクトエビルとダークビジョンで常に警戒を続けている。
「ここは、通さないんだもん!」
 真理と明日葉のセフィロトボウから、光輝く矢が次々と放たれる。
 逆に、相手から打ち込まれた矢は、秋津州の剣から吹き出した炎が焼き尽くした。
 眼下では、炎と光があちこちで炸裂している。教導団や、そのほかの生徒たちも皆、この儀式のために力を尽くしているのだ。
 ふと、その想いもまた、ジェイダスに届けばよいと真理は思った。
 少なくとも自分たちは、薔薇の学舎の生徒たちのために、自分たちができることで協力したいと思ったから、ここへ来た。
 この儀式がどうなるのか、そして、新たなエネルギーとはなんなのか。気にはかかるが、その結論は、薔薇学の生徒たちが見つけることだろうし、そしてそれが、明るい未来へと続くものであるよう祈り、信じるのみだ。
 それにしても、だ。
 アンデットたちは、一体一体はさほど強くはないものの、とにかく数が多い。後から後から、まさにわき出してくる、といったようだった。
「真理!」
 明日葉が声をあげる。彼女めがけてアンデッドの放った火玉が、真理の間近で爆発した。
「きゃあ!」
 咄嗟に身をかわしたものの、爆風に少女の身体が転がる。髪がやや焦げつき、咄嗟についた手の平はすりむけていた。
「…………!」
 秋津州が無言のまま真理を庇うように立ち、一旦目印になりかねない灯りを消した。桜と明日葉がその間に、岩陰にに真理を運び込み、ヒールで治癒をする。
「大丈夫ですか?」
 桜は青い瞳を潤ませ、心配そうに真理を見上げて尋ねた。
「ありがと、もう全然平気!」
 しかし、真理は気丈に答えると、すぐさま再び弓を手にとる。
「このくらいで、休んでなんていられないよ! 儀式が終わるまで、絶対、守ってみせるんだから!」
「おぬし……」
 呆れたように呟きつつも、しかし、明日葉は弟子の勇敢さを頼もしげに見つめる。
 秋津州もまた、再びその視線を、戦場へと移していた。
「とはいえ、場所を悟られた上でこの場に留まるのも愚作でござる。少々移動をし、再び攻撃を開始するでござるよ」
「うん、わかった! 桜、案内して」
「はい!」
 桜は、テディベアのぬいぐるみを抱えなおし、闇夜に目をこらす。そして、いつの間にか背後に回り込み、近づきつつある一団を察知した。
「あっちから……」
 桜が森を指さすと同時に、激しい銃声音が響き渡る。
「え?」
「あなた方、動けますか」
 サポートに現れたのは、夜霧 朔(よぎり・さく)だ。
 彼女たちの危険を察知し、ダッシュローラーで即座に駆けつけたのである。
「助かったわ」
 素直に真理が礼を言うと、朔はややぎこちなくながら、微笑んだ。
 彼女もまた、遠距離攻撃も得意とするタイプだ。ここは一旦合流し、再びポイントを変えて、遠距離攻撃を続行することにした。


 アンデットたちとの戦いは、まだ、終わる気配はなかった。