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まほろば遊郭譚 最終回/全四回

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第四章 死闘2

「エリュシオン帝国第四龍騎士団は、直ちに撤退してください。これは最後の警告です。繰り返します。エリュシオン帝国第四龍騎士団は……」
 志方 綾乃(しかた・あやの)は三頭四足のイコンツェルベルスに乗り込み、第四龍騎士団に向かって呼びかけを行っていた。
「これは蒼の審問官 正識(あおのしんもんかん・せしる)の個人的な戦いです。あなた方がそれに付き合う必要はありません……!」
 同乗しているラグナ・レギンレイヴ(らぐな・れぎんれいぶ)は、モニター越しの敵陣を伺っている。
「うーん、反応無いな。やっぱりあれだ、ここは俺たち紛争屋の出番しかないようだな」
「そうなのかしら。正織への忠誠か、己の矜持か分からないけれど、誰も戦で命を落とすことなんてないのに。噴花に連れてかれた人たちは、死にたくない、まだこの地で生きたい、と思ってた人間だっているでしょうに……」
 綾乃もこのマホロバで起こった出来事に、シャンバラの行く末を重ねてしまう。
 これ以上各地で紛争を抱えれば、シャンバラはいよいよ八方塞がりという状況になりかねない。
 ラグナは彼女のそんな気持ちを知って知らずか、イコンの加速装置を解除していた。
「だからって俺達のやることはこれしかない。立ちふさがる奴を……叩き潰す!」
 機動力を上げたツェルベルスが先陣を切って出る。
 遠くでラッパの音が聞こえた。
 龍騎士が一斉に舞い上がるのがレーダーでも肉眼でも確認される。
「対空砲火で一人ずつ撃ち落とすわよ!」
「了解。そのつもりだ!」
 ラグナが標準を絞り、レーザーバルカンの引き金を引く。
「これより幕府軍との連携を視野に、各個撃破を目指す。囲まれたら逃げるのではなく、敵陣を突っ切り活路を見出すんだ!」
 ツェルベルスが唸りを上げて飛び出した。



「第四龍騎士団は勧告に応ずる気配はなしか。そうでしょうね」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、マホロバ海軍軍艦ワタツミに乗船し、戦闘の皮切りを知った。
 甲板には彼女のイコンHMS・レゾリューションが陽光に輝いている。
 操縦者のグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)は既にHMS・レゾリューションに乗り込んでいた。
「鬼鎧、イコン部隊はすでに戦闘に入っていう。わらわも艦隊護衛へ赴くぞ。ここで龍騎士共に落とされる訳にはいかぬ」
「ええ、海軍奉行並の篠宮悠殿へは、艦隊運用に関する意見書と作戦計画書をすでに提出してあるわ。艦隊の運用は、歴戦の提督たちにお任せしましょう」
 HMS・レゾリューションが射出され、軍艦ワタツミにつく。
 士官として乗艦したジョン・ポール・ジョーンズ(じょんぽーる・じょーんず)はそれを確認した後、他の船への伝達を怠らなかった。
「このまま艦隊を組んで行動しますよ。今までの訓練が活かされる時です」
 艦隊は一艇の距離を保ちながらも、均衡を崩さない。
 ジョンは舵を切らせた。
「このまま離れ過ぎないで下さい。艦隊の砲火とイコンの砲火は束ねてこそ偉力を発揮するのです!」
 ホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)は、その様子に満足気な笑みを浮かべた。
「やるものだな。さて、ワタツミ乗艦の諸君。我々はイコン部隊と共に砲撃を行う。上空の敵を誘い込み、一掃する作戦だ。一瞬でも気を抜けば空の藻屑となるだろ。心してかかるように」
 ワタツミの砲台に鉛の弾が積み込まれる。
 発射と同時に、龍騎士の攻撃も始まった。
 船隊が大きく揺れる。
「はは、そうこなくてはな。追い込む魚は活きがいいほど追い込みがいがあるというもの――イコン部隊に通達を! 絶好の好機である、とな!!」



「ここまでつなげた絆――そう簡単に断ち切らせるものか」
 海軍奉行並篠宮 悠(しのみや・ゆう)は、軍艦ワタツミらたの合図を受け取っていた。
 他の鬼鎧も一斉に動き始めている。
 すでに龍騎士と混戦し、味方の動きを把握する余裕もなくなっている。
 だが、彼は仲間の動きを信じている。
「龍騎士団だって正義と信じて必死に向かってくるなら、文化をどうのという戦いなら、これは……殺す為の戦いじゃない。私は信じてるわ。私の命と同様の剣も、悠に預けるから!」
 真理奈・スターチス(まりな・すたーちす)は、悠と共に剣を振るっている。
「狙うは千人隊長級……正識を討つ人たちの邪魔はさせないわ」
 杏奈・スターチス(あんな・すたーちす)は彼らに向かって光条兵器を渡す。
「皆死なないでね勿論、悠も。また、みんなでごはんいっぱい食べようよ」
「仁義に従い道理を通す…それ以上の正義は、エゴでしかないんだ。だから、それをキミに知ってもらいたくて、俺は悠に纏われる。生きて、マホロバをよく学び、共にマホロバの未来を創り、見届けるべきだと思うから」
 魔鎧オリーヴェ・クライス(おりーぶぇ・くらいす)は自身を鎧に変え、悠に力を授ける。
 悠は己の中に力と複数の意思を感じた。
「俺は絆を武器に戦う。相棒達との絆、人と鬼とが結んだ絆、マホロバを守る為に共に戦ってくれた人々との絆……どれが欠けても、今の俺はここにはいなかったはずだ」
 思えば、マホロバに来て今日、苦難の連続であった。
 逃げようと思えば、何時でも逃げ出せたはずだ。
 しかし、彼も、他の人々も此処で共に戦っている。
 護るものがあったからだ。
「恭司、上空は艦隊と対空用鬼鎧・イコンに任せて、地上の敵は俺たちで止めるぞ! なるべくなら……殺さずだ」
「分かってる。威嚇と『不殺の意思』得意分野だ。おそらく」
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)は人体の脆い部位を狙い、戦闘不能に陥らせていく。
 敵は可能な限り気絶させ、不可能ならば腕や脚を折り戦場に出れなくする、と彼は言った。
「俺達にとって、不幸中の幸いは相手が人間だったってことだ。言葉の通じない相手なら、平和への望みは薄い。だけど……そうじゃない。しかも相手は元々は『マホロバ人』なんだ」
 恭司はこれまでとくに言葉にしてこなかったが、マホロバの文化を気に入っている、
 マホロバの民に戦火が及ぶのはどうしても避けたかった。
「桜の花びら……こんなところにまで!」
 ふと戦いの最中にも扶桑の花びらが舞っていることに気づく。
 恭司は舌打ちした。
「俺がひきつける。その隙に、思い切り叩きこめ!」
「わかった。そいつには気をつけろよ」
 恭司の合図に悠が刀を構えた。
 狙うはこの一撃だ。
 一回り大きい龍騎士――千人隊長の一人に斬りかかった。
 桜の花びらが四散する。
「いざ参る。覚悟!」
 悠の太刀が相手を捕らえた。
 千人隊長の兜が真っ二つに割れ、桜の花弁が包み込んだ。
 その姿は一瞬で消えていた。