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第23章 後半――Start the Game in the Game

 風森望は悩んでいた。
 白の飛び入りが言うように、自分の意思で両チームのゴールにシュート決めるプレイヤーなんて聞いた事がない。「おイタが過ぎた」なんてレベルではない。
 サッカーはスポーツ。敵味方に分かれて技を競い合う「競技」であって、「敵」「味方」の区別は前提だ。「敵か味方か分からない」なんていう冗談みたいなプレイヤーは、存在してもらっては困る。退場処分に値する、とは思う。
 しかし――
(この飛び入り、審判の言う事なんて聞くかしら?)
 レッドカードを出すのはいい。
 が、「ヤだ」とか言って拒否したあげく、他の選手とさらに揉めたり、頭に来た観客がなだれ込んできたりしたら、大会はメチャメチャになる。
(いや、むしろそれを望んでいる?)
 なら、どうすればいい? 
「その飛び入りさんのお相手は、私がします」
 声がした。また新たな飛び入りだ。白の23番。
「選手の皆様方は、どうぞ試合を続けて下さいな。皆さんはサッカーをするためにここにいるのであって、乱闘や戦闘をするためではないでしょう?」
「どちら様?」
 騎沙良詩穂の問いに、白の23番は微笑んだ。
「リカイン・フェルマータと申します。騎沙良詩穂さんといいましたっけ? 少しおイタが過ぎましたわね?」
「ふぅん。相手、ねぇ?」
 騎沙良詩穂は、エヴァルトの手を振り解いた。リカインの正面に立つ。
「どう相手して下さるのかしら?}
「そうですねぇ……お互いに1対1でボールをひたすら奪い合い、最後まで立っていられた方の勝ち、というのはいかがでしょう?」
「面白そうねぇ? で、ボールはどうする?」
「せっかくですから、今ゴールが決まったパンダボールを使いましょう。1対1でやりあうのにキックオフもないでしょうから、センターサークルでのドロップボールからスタート、というのはいかが?」
「いいねぇ、とてもいいよ。1対1って所がとってもステキ」
「……そういう事です、審判さん」
 リカインが転がっているパンダボールを拾い、風森望に言った。
「恐縮ですが、私達のためにどなたか専属の審判をつけて下さいませんか?」
「……分かったわ。今手配する」
 風森望は、無線機を取り出した。

《こちら審判、風森望。本部応答せよ》
《こちら本部、浅葱翡翠。どうしました?》
《審判がひとり入り用になりました。アリーセさんに替わってもらえませんか?》
 浅葱翡翠は振り返ると、無線機のマイクを後ろにいた一条アリーセの方に持って行った。
 アリーセは、憮然とした表情でマイクを受け取る。ハーフタイム後に会場から逃げだそうとしている所を水無月零、神代聖夜らの会場警備担当に見つかり、そのまま捕まえられて本部まで連れてこられたのだ。
《……一条アリーセ。何かご用?》
《見ての通り、ちょっと特殊な勝負をすることになりました。勝敗を見届ける立会人が必要みたいだから、やって下さらないかしら?》
《……今し方の、飛び入りふたりの決闘の、ですか?》
《まさしくその通り。察しがいいですわね?》
《失礼ですが、迂闊に近くにいたら、どんな巻き添えがあるか分かったものじゃないのですが?》
《あなたのやらかしたステキドリンクの一件。蒼学が開いたイベントへの妨害ですよね、これって? 蒼空学園を通じてシャンバラ教導団に正式に抗議しようかどうしようか考えてるんですが。
 できれば私も、あまり話を大きくしたくはないんですけどねぇ?》
《了解しました。大任、勤めさせていただきます》

 状況が落ち着いた所で、プレーは再開された。
 その時には後半も半分を過ぎ、雨が降り始めた。