校長室
戦乱の絆 第二部 第三回
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5.城内・七曜〜ロイ・グラードの場合〜 「ふん、誰かが落ちたか?」 城内に響く轟音。 ロイ・グラード(ろい・ぐらーど)は鼻先で冷笑する。 「そろそろやるか?」 常闇の 外套(とこやみの・がいとう)は魔鎧化して、ロイの体に装着される。 彼は、迷宮の道の途中で待ち構えていた。 そこは窓もなく、一条の光すらない闇の世界。 「俺の闇術で、さらなる『闇』を作り上げてやろう」 指先をはじく。 と、そこに明りをともした学生達が現れた。 「何だか暗いなあ?」 「と、いうより、あ、明りが!!」 巨大な闇に吸いこまれてゆく。 そのまま絶叫と共に、彼等は打ち倒された。 外套の不気味な高笑いだけが、迷宮の闇に木霊する……。 ……宿敵が辿り着いたのは、直後のことだ。 ■ 「確か、この辺りだったな? 声が聞こえたのは?」 駿河 北斗(するが・ほくと)の息が荒いのは、絶叫を聞いて、駆けつけてきたためだ。 手に、強化型光条兵器・光輝の大剣ミストリカ。 道を照らすのは今、剣の明りしかない。 ベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)は、注意深く周囲を窺う。 「ええ、悲鳴よね? きっと、誰かに襲われて……」 ひっと、後ずさったのは、床にとっ伏した学生の姿があったから。 いくつもの弾痕があり、既に息はない。 「なんてことを!」 言ったとたん、光条兵器の明りがスウッと弱まった。 いや、闇が濃くなったのだ。 「っ! 気をつけろ! 何かいる!!」 毒虫の群――。 それを囮にして、闇の中からハンドガンが放たれる。 「危ない! 北斗!」 ベルフェンティータはサイコキネシスで弾をそらす。 「このやり口。 あんただな、ロイ・グラード。出て来い!」 「駿河北斗、か。 ここが、おまえの墓場だ」 闇の中から、七曜・ロイ・グラードの声が聞こえてくる。 ■ 「くそ、どこに居やがる? ロイ!」 北斗は、毒虫の群れに苦戦しつつ、剣を振り回す。 「北斗、頑張って!」 ベルフェンティータは北斗を全力で支援した。 怒りの歌を、 悲しみの歌を、 恐れの歌を。 ロイ達の顔色はさえなくなったはずだ。 力が弱まったせいか、その姿はおぼろげだが見える。 逆に、北斗の攻撃力は上昇した。 敵に対する怒りも。 「ありがとう! ベル」 北斗は大剣を構えなおした。 「あんたの力への渇望は分かったさ、俺とあんたは多分似ている。 でもよ、自分の手で掴めない力なんざ得ても仕方ねえ」 「与えられただけの貴方の偽りの栄光に、 私と、この馬鹿の光で……幕を下ろしてあげる!」 ベルフェンティータの赤い目がスッと細まる。 「それは、超霊のことか?」 くだらん、とロイは鼻先で笑った。 「歌で攻撃力と防御力をさげるか。 だが、俺には奥の手がある!!」 ライト・オブ・グローリーッ! 右手を掲げた。 ロイの前に、禍々しいフラワシが現れる。 だが、コンジュラーでない北斗達には見えない。 「くそ! こうなったら! ミストリカの設定を変えてやるぜ! 『斬る物』をフラワシに。 『斬らない物』を物質に!」 「……無駄だ」 ロイの言葉通り、強化型光条兵器にその設定は無理があったようだ。 北斗の剣は超霊を斬ることなく、 おまけに僅差で避けられ、空を切った。 北斗がもたつく間に、ロイは「超霊」に命じる。 「ライト・オブ・グローリー……城を。 この城を持ち上げて、奴らを叩き潰せ!」 右手をスッと置く。 そのまま北斗達がいる辺りの床を掴むと、床ごと城の一部を持ち上げて行く。 「なっ! なんだと!?」 そんなバカな! だが、北斗のその絶叫は、轟音と共に消えるのであった。 ■ 北斗達は敗北した。 城の一部ごと、激しく叩きつけられたのだ。 ■ 気絶した北斗達を眺めて、ロイは冷ややかに呟く。 「なるほど。 契約者相手でも、これほどの力が発揮できるとは! 奴の下らないお遊びに付き合ってやっただけの甲斐があったというものだ……」 激しい痛みが左腕を襲う。 「派手にやれるのは後一回というところだな」 幸いというべきか、こちらの方へ向かってくる生徒の気配は もう無かった。 「俺の役目は終えた。少し、休ませてもらうとしよう」 ロイは戦闘の際に落としてしまっていた、ウゲンから預かって いた迷路の地図を拾い上る。 「お、俺様は、ここに残ってもいいか?」 外套はベルフェンティータの胸が気になるようだ。 「好きにしろ」 魔鎧化を解いて外套を残すと、ロイは1人迷宮の奥へと消えた。