シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

特別授業「トランプ兵を捕まえろ!」(第2回/全2回)

リアクション公開中!

特別授業「トランプ兵を捕まえろ!」(第2回/全2回)

リアクション


第一章 移動に対峙に滾らせて

 南の別荘、平地な一帯。ついさっきの今し方まで、縦に大きく口を裂き開いてノーム教諭の言葉を吐いていたクチバシ走り亀ラがチマチマと離れて行くのを見つめて、蒼空学園のセイバー、東條 カガチ(とうじょう・かがち)は、太ももの上で寝息を立てているパートナーの柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)の頭を指で優しく叩いた。
「ん、ふぁぅ、カガチ、おはよぅ」
「さぁさぁ、なぎさん、そろそろ行くよぅ」
「カガチっ、ケガは? 大丈夫っ?」
「あぁ、なぎさんのヒールのおかげだよ。ありがとう」
 カガチが、そしてなぎこもゆっくりと立ち上がる。
「戦場、乱戦を用意してくれたみたいだからねぇ」
 見上げるなぎこの頭にカガチは、そっと手を乗せた。
「もう一度、楽しんでも良いかぃ?」
「もちろんですよ♪」
 なぎこの笑みにカガチも笑み得る。
 ポールを通過するには絵柄兵のチームを突破する必要がある、ならば必然的に参加生徒たちが集まるわけで。
 クイーンが多いのは、西門か。新戦力のサニーにもムーン兵にも、そしてクイーン兵とも。
 今一度の楽しき”ひととき”を胸に描いて、二人は小型飛空艇に乗り込んだ。


 瞳と視線をクチバシ走り亀ラから上空へと移して、蒼空学園のウィザード、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)はパートナーの紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)を見つけ見開いた。
 箒に乗りし、ピエロなジョーカー。3メートルもの巨体をして振り下ろしたカルスノウトの一撃が、それを受けた遥遠を小型飛空艇ごとに撃ち落としていた。
「遥遠!」
 地に衝突する直前に、ようやくに体勢を整えた遥遠を見て、遙遠は大きな恐怖を地に下ろせた。
「大丈夫か? 遥遠」
「えぇ、ですが……」
「くけけけけけけ」
 声をあげて笑うジョーカーを見上げながら、遙遠は遥遠に追加ルールの幾つかを伝えた。
「ジョーカーは50点ですか、それならば」
「あぁ、ジョーカーを狙う生徒も現れる、集まってくる、それまでは俺たちで、行くぜっ!」
 飛空艇に乗り飛び出した遙遠を追いながら、遙遠の言葉遣いが遥遠の背筋を一層に伸ばした。
 普段は丁寧な遙遠が、きっとに追い込まれている、それ程に、なのだ。
 遙遠と遥遠がジョーカーに向いて行く、それを見上げる蒼空学園のセイバー、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)と波羅蜜多実業高等学校のローグ、ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)は重痛なる体を起こしていった。
「あら? そんな体で戦えるのかしら?」
「当り前でしょ、まだ戦えるわ」
 ジョーカーの重き一撃に何度も飛ばされた、叩きつけられていた、故に学園の制服も波羅蜜多ツナギも体同様にボロボロにホロホロだった。
「あの動き、あの巨体。面白すぎるわ♪」
「一撃に、全てをかける」
 アリアの飛空艇にヴェルチェも手を掛け乗りて飛ぶ。とにかくにまずは、あの笑い声を止めてみせようか。


「やってくれるよ、全く。マスター♪」
 百合園女学院のローグ、桐生 円(きりゅう・まどか)はパートナーのオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)に声を投げた。オリヴィアはクチバシ走り亀ラの尻尾の先を炙って笑んでいた。
「マスター、ミネルバを呼んで貰っても良い?ボクは試してみたい事があるんだ」
 そう言って円は、箒に跨り空を行くサニーの4を見上げ見てから、手元のトランプに「情報攪乱」をかけた。
 北の山脈、大きな岩がゴロゴロとしている眼下に目をやっていたサニーの8は、催眠が解けた様に顔を上げると、眼下を見る事なく飛び過ぎて行った。
「ミネルバとはどこで会うぅ?」
「……」
 腹立たしい。ノームの言葉を円は思い返した。折角手に入れたトランプもポールを通過しなければポイントにならない、冗談じゃない!ポールが三か所、そこに集まり群がるならば。
「南にする、そう伝えて♪」
 ミネルバも呼んだ、手札も十分、一枚くらい絵柄も欲しいし♪
 ! ! !
 円はサッとその身を岩陰に隠した。サニーの8が戻ってきたのだ。
 5分と経っていない。「情報攪乱」の効果はそれだけしか持たないという事なのだろう。
「全く、アイツの授業は本当に厄介だよ」
 瞳を細めた円を見て、オリヴィアも瞳と唇を笑み細めた。


 南の別荘地帯、その一棟から出てきた薔薇の学舎のバトラー、清泉 北都(いずみ・ほくと)は手に、布と小麦粉と輪ゴムを持っていた。
 パートナーのプリースト、クナイ・アヤシ(くない・あやし)は白馬を引きながら北都に問いかけた。
「それは……、何をなさるのですか?」
「あぁ、目潰しだよ。今回は大きな罠よりも機動力が重視されそうだからね、まぁ、それが狙いなんだろうけどねぇ」
 ポール前は絵柄兵たちが立ち塞がる、つまり今回は敵陣に向かって行かなくてはならないという事になる訳で。
「トランプは僕が持つよ、クナイには、はい、これ」
 言って北都は拳ほどのお手製目潰しをクナイに手渡した。
「目潰しと馬とタイミング。これが鍵になりそうだね」
「一つだけ。トランプ兵は倒した方が宜しいので?」
「無理する事は無いよ、ポールを通過するのが目的だからね。まぁ、ソーマは戦いたがるかも知れないけど」
 ソーマの名にクナイは小さく顔を歪めた。共に北都のパートナー、しかしどうにも共に互いを邪魔に思えているのだ。
 北都が率いる二人のパートナー、北都を守る二人のパートナー。肩を並べて慣れ合えずとも、同じを向いているならきっと。
 白馬に跨り、北都とクナイは南門を目指して駆けだしていった。


 こちらも白馬に跨り、駆けている。 
 薔薇の学舎のローグ、北条 御影(ほうじょう・みかげ)は思考を巡らせながらにサニーの4と並走していた。無論に地上と上空の高低差はあるのだが、一撃を避ける毎に数字兵が空へと戻るのは、樹海の木々を警戒しての事だろう。それを含めて御影の思い通りだった。
「西の樹海は罠を張るには適していた、待ち伏せを狙った生徒の多くが樹海に居たはず、それなら」
 降下してきた数字兵のカルスノウトをダガーで受けて、方向を変える。御影が向かうは、北の門。
「罠を張るような奴らが、正面から絵柄兵たちに向かって行くとは考えにくい。つまり西を目指しても似たタイプが集まる可能性が高い」
 ふと気配を感じて御影は、傾いた巨木の幹を走り、白馬ごと空中へと飛びだした。
「他者が戦う内に通過するを狙うなら、西以外の門が良い」
 空中へ飛んだ白馬を目指して数字兵は一直線に向かい来た、そこへ、その後方からパートナーのゆる族、マルクス・ブルータス(まるくす・ぶるーたす)が同じく白馬ごと飛びだし来ていて、数字兵の背を撃ち抜いた。
 連続の射撃の後に数字兵はトランプへと姿を変え舞った。
「待つアルよ〜 、御影ぇ〜」
 サニーの4、手札も増えた。「ノーム教諭のモルモット」、この称号がポールの通過の意義を成している。
 薔薇の学舎の学生として、不名誉な称号を受ける訳には行かないからな。
 一部の始終を振り向き見ていた御影は小さく笑んで、着地と共に駆けるを続けた。

 
 南の別荘地帯から南門を目指した道の脇、小さき森の一角で、蒼空学園のセイバー、葉月 ショウ(はづき・しょう)ムーンの7の銃撃に身を隠していた。隠していても、数字兵は追いて撃ってくる故に、どうにも逃げながらに隠れるを続けさせられていた。
「くそっ、距離を詰められない。二丁持ってるなんて聞いてないぞ」
 木の陰から見つめみる。構え撃つのはムーンの7、その両手には一丁ずつアサルトカービンが握られている。
「こんな所でバーストダッシュを使ってる場合じゃないぞ、ったく」
 モルモットの称号なんて全くに御免だ。それならポールを通過する為にもSPは温存しておくべきで。それに自分一人で向かって行ったなら。
 ショウは大事そうにクチバシ走り亀ラを抱えるパートナーの葉月 アクア(はづき・あくあ)を見つめて目を鋭くした。
「いっその事、飛空艇で一気に距離を詰めるか。いや、飛空艇を壊されたら余計に痛い。くそっ」
 ショウが再び目を向けた時、数字兵は両手を下ろして駆け来ていた。数字兵の方から一気に距離を詰めに来たのだ。
 その姿は瞬くの間に目の前に。
 ! ! !
 咄嗟にショウがアクアに覆い抱き寄せた瞬間、数字兵が背中を反らせて奇声を上げた。
 背に衝撃を受けたのだろう、明らかに体勢を崩している。この判断、そして瞬時にカルスノウトを振れた事はショウ自身も驚きであり、大きな一歩であった。
「お兄さんっ」
 数字兵がトランプへ戻りゆく中、駆け寄りて来たのはショウのパートナー、ローグのガッシュ・エルフィード(がっしゅ・えるふぃーど)であった。
「ガッシュか、助かったよ」
「あぁ〜! ガッシュだぁ、どうしたの?」
「どうしたの? じゃないよ、僕も仲間に入れてよ〜」
 数字兵の背を撃ったのはガッシュの小弓。さすがはローグと言ったところか、途中参加であるにも関わらずの早さで合流を果たした。
 ガッシュの存在が、チームの力と幅を広げる。ガッシュとアクアの笑顔を見て、ショウも小さく笑んでいた。


 薔薇の学舎の制服をして白馬を走らせるなら、それはもう絵になる訳で。
 ナイトのアラン・ブラック(あらん・ぶらっく)は合流したパートナーのプリースト、セス・ヘルムズ(せす・へるむず)とナイトのアーサー ペンドラゴン(あーさー・ぺんどらごん)と共に南門を目指していた。白馬の上、セスの後ろでアーサーが声を投げた。
「アラン、そのソルジャーとは、それ程に強いのか?」
「えぇ、こちらが消耗していたとは言え……実力者である事は間違いありませんね」
「ねぇアラン、ケガはもぅ大丈夫?もっとヒールする?」
「いえ、もう平気ですよ、ありがとう」
 アランの傷は癒えてはいない、体力は回復しても体は傷を覚えている。北の山脈にて桐生 円(きりゅう・まどか)による襲撃を受けた、彼女とそのパートナー共々に強者であった。
 それでもアランは自身のパートナー二人を呼び寄せた。現在ポイントは無し、数字兵との戦闘は経験しても、絵柄兵との戦闘はしていない。
 倒れて見上げた空を見つめ、残りの時間を如何に過ごすか。思いついたは絵柄兵への挑戦であった。
 パートナーのセスとアーサー。今度は自身のチームで、戦術を。怒りや悔しさなどは奥へと置いて。三人で奏でる戦連携を想い、アランは胸を躍らせていた。