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【十二の星の華】黒の月姫(第1回/全3回)

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【十二の星の華】黒の月姫(第1回/全3回)

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 広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)広瀬 刹那(ひろせ・せつな)が昼休み、多少、強引に赫夜と真珠を連れ出す。
 他にも、数人の生徒達と輪になって、芝生の上でお弁当を広げ、わいわいとお弁当タイムを楽しむ。
「ファイは広瀬ファイリアと言いますですっ。よろしくですっ!」
「私は妹の広瀬刹那です。これからよろしくね」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
 赫夜と真珠も挨拶をする。
「緊張しないでいいよ。私も学校入ったばかりだから、一緒に慣れていこうね。銀細工、どんなのを作るの?」
 と、刹那が真珠に声をかける。
「ありがとうございます。彫金をやったり、銀のワイヤーでペンダントを作ったりするんです。刹那さんはどんな趣味を?」
「絵を描くのが好きなの。それに私、お姉ちゃんのおかげでここにいる事ができるようになったんだ」
「そうなんですか?」

「二人はお手製のお弁当なのですかっ?」
 赫夜と真珠の広げたお弁当の中身がほぼ、そっくりなのに気がつき、ファイリアが質問する。
「うちには、面倒を見てくれるばあやがいるから、ばあや弁当だ」
「姉様のお料理は、ちょっと難があるんです」
 くすくすと笑う真珠を、顔を赤くした赫夜がたしなめる。
「だまりなさい、真珠」
 お弁当を広げている面々もくすくすと笑いが漏れる。
「お二人は、ここに来てどういうことを目標にしているのですー? どこから来たのですー? 前の学校はどうだったのですかー? 部活はきめたんですかー?」
 ファイリアが質問攻めにする。
「私は自分を成長させることが目標かな。部活は剣道部にしようか、迷っている最中だ。…ただ、他のこともやってみたい気もする。天文学部にも興味があるんだ。…前の学校は至って普通の学校だったが、ただ、真珠のほうは学校に通えていないんだ。体が弱くてな。徐々に外にも出られるようになってきたので、私と一緒に蒼空学園へ入学することになったんだ」
「そうなんスか」
 刹那の言葉に
「もう、体の方は大丈夫なんですけれど、また、時々寝込むことがあるので、なんとか健康になりたいんです」
「そしたら、一緒に運動したりしようね!」
 ファイリアの明るい一言に、真珠もこくりと頷いた。

(ふう…パラミタのネットじゃ情報源は限られているわね)
 ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、藤野姉妹の見た目の違いに違和感を抱き、自分なりに調査をしていたのだ。
(葉月が転入生に興味があるみたいだけれど、葉月は私のものだから渡さないわよ…それにしても姉妹でここまで容姿が違いすぎるのは何かあるのではないかしら…特に妹のほうは日本人の名前なのにどう見ても日本人らしからぬ髪や瞳の色。ちょっと調べてみる価値はありそう…担当の先生に聞いてみたけど、特に問題があるわけではないし、でもそれ以上は無理そう。よし、本人に聞いてみるか)
 ミーナはお弁当の輪にさりげなく入り込んで、質問をした。
「あの、ワタシ、ミーナ・コーミアって言うんだけど、聞いてもいいかな」
「答えられることなら」
「藤野 赫夜と藤野 真珠って、髪の毛も目の色も、全然違うよね。姉妹にしたら珍しいなあって思うんだけれど、何か理由があるの?」
 その言葉に、ぴたっと赫夜も真珠も黙り込んでしまう。
「…ミーナさん、私たちにも色々事情があるのだ。そこは察して欲しい」
 固くなった空気にミーナも慌てる。
「ごめんね、急に変なこときいて」
「いや、ミーナさん、真珠がこのように内気なのは特別な意味があるのだ」
「と、特別って?」
 興味津々の面々に、「ね、姉様何を言い出すの?」と慌てる真珠。
「真珠は実は女装をしている、男の子だ。女性ホルモン注射がまだ、それほど利いてないので女声を出すのも大変で、このように内気なフリをしている。よく見てくれ、ハイソックスの下にはすね毛が生えているはずだ」
「ええー!!」
「うそお!!」
「嘘ではない、真実だ」
 どよめく一同に対して、真顔の赫夜。
「姉様、なんてことを言うの! 私、女装なんかしていないです! 姉様の嘘つき!」
 慌てて叫ぶ真珠のハイソックスを凝視する面々。照れて足を隠そうとする真珠の姿を一通りみたあと、赫夜はまたしても真顔で真実を告げた。
「…すまない、確かに私の冗談だ」
「ええ〜!?」
 緊張していた面々が、驚きの声をあげる。
「冗談で言ったつもりなのだが、私が冗談を言うと、本気に取られてしまうことが多々あるので、今度も試してみたかった。真珠は確実に女だ」
「ひどい、姉様!」

 その後も次から次へと、珍しい転校生に接触してくる生徒は絶えなかった。
イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)もその一人だった。放課後、イーオンと、パートナーのセルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)が声をかけてくる。
「最近は物騒でな。テロなどという低劣な行いをする輩が絶えん。送っていこうか?」
 イーオンは赫夜と真珠の二人がテロリストの可能性があると見て、それを探るため、帰りの護衛を申し出た。
「ありがとう。助かる」
 意外と素直にイーオンの申し出を受け入れる赫夜。
 イーオンに何かあっては、とセルウィーが横にぴったりとついていた。そして、その後ろを、フェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)が隠れ身で尾行してきていた。
「二人はどこから来たんだ?」
「どこから、と言われると、実家から、としか言いようがないな」
「実家? パラミタにあるのか?」
「いや、地球だ」
 しばらく、パラミタ郊外を歩いて行くと、一軒家が見えてきた。
「うちはここだ。古い一軒家だが、親が用意してくれたもので、私と真珠、それに執事とばあやがいる。今日は無理だが、また遊びに来てくれ」
 赫夜の言葉に、イーオンは言葉を返す。
「その時はよろしく…そうだ、今度の週末、手の空いている人間で近くを案内しようか」
「ありがとう。しかし、他の女生徒…なんといったかな、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)さんにパジャマパーティとやらに誘われている。イーオン殿は男性であるから、参加はできないだろうが、セルウィーさんはいらっしゃるといい。人が多いほど、楽しいだろう…それにもう一人、付いてきているのは…女性かな? も一緒にいらっしゃるといい」
 フェリークスの気配にすでに赫夜が気がついていたことに驚くイーオン。表情も変わらないセルウィーであったが、すっとイーオンを守る為、寄り添おうとする。
「そんなに警戒しないでくれ。私も剣士の端くれだ。それにあなたがたに危害を及ぼすつもりはない。…これからもよろしく頼む。イーオン殿、セルウィーさん。では失礼する」
 赫夜がすっと手を差し出し、イーオンとセルウィーと握手をして、真珠とともに家に入った。
「…やはり、ただ者ではなさそうだな」
 イーオンは赫夜の手のひらの感覚が残る手を一瞬見つめ、つぶやいた。