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リアクション
第4章 花見at校庭東側
「おぉ! 何ていうか若干違うとこもあるけど和風な学校だな!」
校門をくぐった長曽我部 元親(ちょうそかべ・もとちか)の第一声は、感動に満ちていた。
学内を見渡していると、わくわくしてくる。
(よかった、元親さん嬉しそう)
(イルミンは洋装だからなぁ……少し緊張するっていうか、そんな気持ちがバレちまったんだろうなぁ……)
元親の表情に、東雲 いちる(しののめ・いちる)もつられてにっこり。
参加を持ちかけたのはいちるなのだが、元親に和風のモノに触れて欲しかったのだ。
(イルミンスールは洋装ですし、食事も洋食が多いですから。
戦国武将さんの英霊である元親さんにとっては疲れる部分があるんじゃないかなと)
(いちるに気をつかわせちまって申し訳がないが、ありがたく受け取るよ)
声に出さずとも、お互いを想う気持ちは通じ合っているよう。
あらかじめ敷かれていたござの上に座ると、お弁当を拡げ始めた。
(気にいってくれるといいなぁ)
「できるだけ和のものにしようと思って、『おにぎり』や『卵焼き』を作ってみました」
期待と心配の入り交じる、いちるの心。
喜び勇んで、元親は弁当を頬張った。
「綺麗な桜の下で、こんなに美味しい飯を食えるなんておつじゃないか」
(せっかくだしいちるとのんびりさせてもらうけどなぁ……ギルベルトの奴が機嫌損ねてないか心配だな。
独占欲強いくせにまだ気持ち言えてないもんだから、たまにあたってくるんだよな。
いちるもギルベルトが好きだってのに、不器用なもんだ)
もぐもぐしている間に、元親の関心はいちるの片想いの相手へ。
妹のように可愛がっているいちるには、幸せになって欲しいと思う元親であった。
「ふぅん……初めて来たけれどなかなか壮観だね、一面桜だ」
くるりと校庭に視線を巡らせ、黒崎 天音(くろさき・あまね)は感嘆をもらす。
基調は鶸(ひわ)色、帯や襟に臙脂(えんじ)を効かせた春らしい彩りの着物に、着物より少し渋めな色合いの羽織を着用。
臙脂の足袋に総柄(そうがら)の下駄をはき、つやつや黒髪を後ろで束ねている。
「ヨルがどんな弁当を用意してくるか確認していなかったけど、足りるかな?」
「こちらも一品だけだが量はかなりのものだぞ、そうそう不足することはないと思うが」
「そう、周りにふるまうくらいの量になったら面白いね。
あとレジャーシートが便利だけど、今日の場合はござか」
「こだわりは結構だが、我だけが荷物を持っている状況はどうだろうな」
「デザートは花見らしい甘味を選んでみたけれど、気に入るかな」
「……」
瞬間、何を言っても無駄だと悟ったブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)。
食器も料理も、すべてブルーズが運ぶという構図は、タシガンへ帰り着くまで変わらなそうだ。
「あ、いたいた〜お待たせ〜!」
ブルーズの絶望を打ち消すような、元気な声がこだまする。
鳥丘 ヨル(とりおか・よる)が、校門の方から走ってきた。
「くせっ毛はどうにもならなかったよ」
いつもと変わらぬぼさぼさの髪に、ヨルは頭をかく。
若草色の小袖と濃紺の袴で、一見すると大学生の卒業式みたいな格好だ。
「まずは1枚、桜を背景に……かっこいいよ!
天音を巡るライバルに送って自慢しちゃおうっと!」
和服姿の天音を桜の下に立たせると、ヨルは携帯で激写する。
写真を保存すると、添付メールで一斉送信した。
「ヴァイシャリーでお花見弁当を買ってきたよ、料理はさっぱりなんだ……分け合って食べようよ!」
ござに座ると早速、3人は持参したお弁当のふたを開ける。
ヨルが購入した2段重ねの重箱は、上段に『玉子焼き』、『煮物』、『えび』、『煮豆類』、『漬物』が。
さらに下段には、『お稲荷さん』と『筍のおこわ』が入っていた。
ブルーズが取り出したのは、『太巻き』の入った重箱と、水筒に『鯛のお吸い物』。
ちなみに具の『三つ葉』と『生麩』は、別にタッパーで持ってきている。
そして『桜のロールケーキ』と『桜の生クリーム大福』で、お花見料理は完璧。
あれ、天音は何も持ってきていない……突っ込まない方が身のためだ。
「でもお茶だけは自信があるんだ、『特製ブレンドほうじ茶』だよ。
ほのかな苦味と、深みのある味がおいしいと思うんだ」
魔法瓶を示して、にっこり笑うヨル。
もうひとつおまけに、二合徳利入りの『甘酒』も準備していたり。
「さて、約束の件だが……」
「『おしとやかなヨルを見たい』、って言われても……」
花見の約束をした際、天音とヨルはお互いに『して欲しいこと』を1つずつリクエストしていた。
リクエストにしばし考え込むが、ぽんっと手を叩いたヨル。
天音の横に正座をすると、持たせた杯へと甘酒をお酌する。
あくまでも、笑顔で丁寧に。
「おしとやかなヨルも可愛いね、ずっとそうしててってリクエストしてみようか?」
「いや、無理だよ〜」
ヨルが嫌がることをわかっていて、天音はわざと問いかけた。
予想どおりの反応に、嬉しい半面残念な気持ち。
「しかしヨルのリクエストは『五百円玉を曲げて見せて欲しい』……ね。
それはお安いご用だけど、それだけじゃ芸がないか」
ヨルから渡された五百円玉を、【ドラゴンアーツ】でいとも簡単に曲げてみせる天音。
そのまま強く握るって……開いた手のひらの上には、竹細工の『鶯笛』が載っていた。
「鳴らし方には少しコツがあるんだけどね」
手のひらの鶯笛は、ヨルへのプレゼント。
自分用を着物のそでから取り出すと、鶯の鳴き声を真似して吹いてみる。
鶯の声が響くと、校庭は華やかな雰囲気に包まれるのであった。
「うーん、綺麗であります。
ハイナ校長は日本の心をよく知っていると見受けられるであります」
「はい、本当に綺麗です。
でも大勢で樹の下に座ってお弁当を食べるなんて変わった風習ですね、日本じゃみんなこうなんですか?」
「花見は日本では欠かせない行事であります、桜がいつ開花するのかニュースでやるほどでありますよ。
それくらい日本人は桜が好きなのであります」
満開の桜を見上げ、金住 健勝(かなずみ・けんしょう)は感嘆をもらす。
レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)も感激しているのだが、それ以上に花見の風習が不思議でたまらない。
健勝の解説を聞くと、そんなものなのかと首を縦に振った。
(今度日本に帰れるのはいつでありましょうか……そのとき自分は、この世界は、どうなっているでありましょうか。
遠くパラミタの地に来ても、やっぱり自分は日本人なのであります)
ふと、故郷で見た桜並木が脳裏をよぎる。
ちょっと感傷的に、健勝はしみじみと考えていた。
「去年の修学旅行は秋だったから桜は見られませんでしたね……いつか、日本の桜も一緒に見に行きましょう。
さ、お弁当を食べましょう」
物思いにふける健勝を元気づけようと、笑顔で誘うレジーナ。
すべて自身の作ったお弁当を取り分けると、健勝へと皿を手渡すのだった。
「花見か……さぁ皆、握り飯でも食べるかのぅ」
グラン・アインシュベルト(ぐらん・あいんしゅべると)は、パートナー達と一緒に作ってきたおにぎりを口へと運ぶ。
しかしこのおにぎり、見た目は壊滅的。
もはや、塩味のきいたご飯と味付け海苔である。
「……っごほっ」
「大丈夫かえ!?」
と、喉をつまらせるオウガ・ゴルディアス(おうが・ごるでぃあす)。
苦笑しつつも優しく、グランは背中をさすってやる。
「美味しいからって、急いで食べてはいけないのだよ」
オウガをたしなめるアーガス・シルバ(あーがす・しるば)だが、その手元には普通のお弁当。
何と、自身の分だけはお弁当を作っていたのだ……ちゃっかりしているアーガスなのであった。
「ラルク、ツマミがねーぞ!」
「おっと、料理がきれちまったか……どっかからもらってくるから闘神は席見張っててくれよ!」
持参していた枝豆がなくなり、秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)はラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)へと催促する。
ラルクもまだまだ飲み足りないらしく、立ち上がると酒のおともを探して旅立った。
「すまん! ツマミが欲しいんだがもらっていっていいか?」
と、お願いして回ること数箇所。
ラルクは、両手にいっぱいのおつまみを入手して戻ってきた。
「葦原いい所だな! 何か日本ぽくってよぉ……こういう空気の中ぁいると江戸っ子の血がたぎってきちまうぜぃ!」
「おうーおま……って結構飲んでんのな……」
杯を離し、手の甲で口をぬぐう闘神の書。
ラルクのがんばりを余所に、独りで酒を楽しんでいたらしい。
あきれのような、残念な気持ちを抱いて、ラルクは闘神の書の隣へと座り込んだ。
「盛り上がってきたし隠し芸大会でもするかな! 1番ラルク! 筋肉踊りをするぜ!!」
「ラルク、てめーなんかよりも我ぇの筋肉の方が数倍すごいに決まってらぁ!」
「ってああ? 闘神……お前の筋肉の方が凄いだと? だったら筋肉で勝負だ!」
「周りに聞いてでも白黒はっきりさせてやるぜぃ!」
できあがったラルクは、率先して隠し芸大会を決行。
だが闘神の書が文句をつけたことにより、2人の筋肉自慢大会へ。
「どっちの筋肉がすごいと思うよ!?」
ラルクと闘神の書は、上半身裸になって校庭中を歩き回る。
聞きまくって、楽しんでいたのだった。
「桜の下でお弁当を食べるなんて、風流だ」
ござの隅っこで独り、静かに料理を頬張る弐識 太郎(にしき・たろう)。
朝早くから葦原明倫館に来ていた太郎だが、料理をしていたわけではない。
「花見の基本は場所取りから……だ!」
という持論のもと、精神統一を兼ねて場所取りをしていたのだ。
ちなみに太郎が到着した際には、まだ校庭のござは敷かれていなかった。
葦原明倫館の生徒達を手伝ったあとから、現在の場所に座っている。
「美味しいな、ありがとう」
太郎が食しているのは、このときに知り合った生徒作成のお弁当。
特別なことはしていないらしいのだが、とても美味しかった。
「これが……桜ですか……綺麗です、初めて見ました……」
「本当に、綺麗ですね……美鈴? ぼ〜としていると2人に食べられてしまいますよ?」
「はい……いただきます」
見とれてつぶやく柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)へ、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)が声をかける。
その間にも、お弁当はなくなり続けていた。
「すげ〜量も多いが、どれも美味そうだな? 花梨、お前失敗しなかっただろうな」
「大丈夫だよ〜翡翠ちゃんに手伝ってもらったし、レイスちゃんより、上手いもん」
豪華な弁当の全体を見回して、レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)は顔を上げる。
ぷうっと頬を膨らませながらも、箸を動かす榊 花梨(さかき・かりん)。
「花梨、レイス……そんなに、焦らなくてもたくさんありますよ」
翡翠は、そんな2人の姿を微笑ましく思っていた。
料理はちなみに、翡翠と花梨が午前中につくったもの。
翡翠作の『焼きめかじき』と『いちごタルト』に、飲み物は『紅茶』と『玄米茶』。
残る『鳥のからあげ』と『おこわ』は、花梨をメインに翡翠も手伝って作り上げていた。
「あれ、美鈴とレイスは?」
いつの間にか、花梨と2人きりになっていることに気付いた翡翠。
だがまぁすぐに帰ってくるでしょうと、とりあえず花梨と会話を始めた。
「久しぶりだな? 美鈴……まさか、お前と契約者が一緒になるとはな」
「本当に……久しぶりね、レイス……マスターは、私達が、友人と言うのは、気づいたかしら?」
「どうだろうな? 感は、鋭いぜ」
「あの時と同じことは、繰り返したくないわね」
「ああ……あんな思いは、二度とごめんだ」
「それでも、待って待ったわね、私達」
「確かに、今回は運がよかったがな」
葦原明倫館の屋上、眼下には翡翠と花梨がいる。
険しい表情で言葉を交わしているのは、レイスと美鈴だ。
散りゆく桜の花びらをすくう2人は、哀しさと嬉しさの入り混じった表情を浮かべるのだった。
「さすがは葦原明倫館、和風なイベントには眼がないと見える」
「……桜ですか……昔はよく庭先に咲いていたものを眺めていましたが……今はほとんど見れないのが残念ではありますね」
「桜を愛でながらの食事も風流だが、何より嫁の月桃とのツーショットはいい! あれは、眼福だ!」
右手の杯になみなみと酒をつぐと、鬼桜 刃(きざくら・じん)は一気に飲み干した。
左腕には、鬼桜 月桃(きざくら・げっとう)を抱いている。
「刃様と一緒にお花見できるとは……この銀、恐悦至極にございます」
(惜しむらくは……あの女と一緒ということか……)
『あの女』とは、刃の愛すべき嫁でありパートナーでもある月桃のこと。
犬塚 銀(いぬづか・ぎん)は、刃のことを好きな分だけ、月桃のことが嫌いなのだ。
だがしかし、絶対に表面には出さないのが銀の偉いところ。
「刃様、こちら『日本酒』でございます。
あと、おつまみ用の『いもけんぴ』にございます」
「……てか、いもけんぴはいらんぞ、銀よ。
それにお前も楽しめ、銀……これは命令だ」
「……ご命令とあらば」
「……いつも、尽くしてくれて、ありがとうよ」
銀は酒といもけんぴを差し出すが、いもけんぴは自身の腹へと収めることに。
刃にとって、酒のつまみはいもけんぴよりも『団子』の方がよかったみたい。
「……お団子も食べても味がわかりませんし……はあ……触って楽しみましょう……触れば……感じることができますから」
契約の後遺症によって、弱視と味覚障害を患っている月桃。
せめて鋭敏になっている触覚で楽しもうと、月桃は団子を優しく手のひらへ載せた。
そんな月桃の頭を、刃は優しく撫でることしかできない。
「……まあ、せっかくの機会だ、総奉行や神子とも一緒に楽しむか。
行くあてのない俺達を生徒としてかくまってくれた一応の恩人だ……こういうときぐらいは親しくするのもいいだろ」
淋しそうな月桃に提案すると、支えながら立ち上がる刃。
銀に留守番を頼み、ハイナと房姫を探そうと歩き出すのであった。
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