リアクション
■アジトに潜入
―アジト崩壊―
蒼空学園前の広場では抜け殻になっている火焔の姿があった。
「いつまでそうやっているのだ! 早く追いかけるのだ!」
「いい加減、復活しやがらないと、その自慢の鼻にワサビ突っ込むぞ、この野郎……ですの」
そんな火焔の背中を押しているのはリリと橙歌だ。
「はい! 復活します! なのでワサビは……」
火焔は一気に復活した。
青い顔から察するに一度やられた事がありそうだ。
「なんかさ、火焔と橙歌ってどういう関係なんだ?」
様子を見ていた蒼也が疑問を口にした。
「…………ほぼ初対面の人に話せるほど面白い話しじゃねぇ……ですの」
橙歌は氷の眼差しを蒼也に向けた。
火焔は頭をぼりぼりかき、蒼也の近くまで行った。
「すみません、橙歌が話したがらないかぎり、オレも話すわけにはいかないのです……」
申し訳なさそうに呟いた。
「そうか……いや、共通の地球人のパートナーとかがいるのかと思っただけだから」
蒼也はそう言うと、苦笑いした。
「で、怪盗達を追いかけなくて良いのかえ?」
ロゼの言葉ではっとなった火焔は自分の鼻をチェックする。
「まだ……いつもの調子ではないですね。いつもなら、薔薇の香りが充満していようと他の匂いも嗅ぎ分けられるんですが……」
火焔は申し訳なさそうにした。
「そうですか……使い魔を怪盗さん達について行くように言っておいてあるのですが……」
残念そうにソアは言った。
その手にはフクロウの羽が一枚握られていた。
使い魔のものなので、これで匂いを辿っていけばと考えていたようだ。
「大丈夫です。美羽が連れ去られているので、携帯のGPS機能が使えます。今、やっているのでちょっと待って下さい」
コハクは自分の携帯の画面を見つめる。
しばらくすると、美羽の位置情報が入ってきた。
「空京の……東の方かな……うん、東です」
コハクが場所を伝えると、火焔達は移動を開始したのだった。
空京にある怪盗アジト前。
火焔達は突撃の前に中を確認する。
中では、美羽達が食べ物によって精神的ダメージを蝶子に与えているところだった。
「…………」
無言になる一同。
ちょっとだけ蝶子が可哀相に見えてきた。
「えーと……と、とにかく突入です!」
火焔の号令でコハクは連れてきていたオリヴィエ博士改造ゴーレムをプレハブに突っ込ませた。
そのまま、火焔達もプレハブの中へと突撃と思っていたのだが……プレハブが壊れてしまった。
かなりもろくなっていたのかもしれない。
ゴーレムは器用に屋根を外し、中の人に怪我がないようにしている。
中にいた愛美もどきや蝶子達はぎょっとしている。
何が起きたのかよくわかっていないようだ。
当然と言えば、当然だろう。
「美羽大丈夫?」
コハクがまだ中身の入っている皿を持ったままの美羽に駆け寄った。
「大丈夫! 来てくれてありがとう!」
びっくりはしていたが、すぐにお礼を言う。
「ベル?」
「あ、はい! 大丈夫ですよ!」
蒼也が言うと、ペルディータはにっこりと笑った。
「フォール、来てくれると思った」
「勿論だ。自分の妻を取り返しにこない馬鹿などいるわけがない」
カイルフォールはぎゅっとアスティを抱きしめた。
逃げようとする蝶子と青太。
「はい、ストップ」
「春美さん、そこをどいて欲しいわ」
蝶子を止めたのは春美だ。
「ダメ。だって、私はマジカルホームズ、探偵だから。今回は蝶子さん達を見張る為に潜入していただけだから」
春美の言葉を聞いて驚いてはいたが、それでも落ち込む蝶子ではない。
むしろ楽しそうだ。
「残念だわ。せっかく良い怪盗仲間になれると思ったのに」
蝶子が言うと、春美はちょっと複雑そうな顔をした。
こうして、蝶子と青太は春美とピクシコラ、司とウォーデンによってぐるぐる巻きにされてしまったのだった。
―母親登場―
「あら、簡単に捕まっちゃったのね」
一緒に来ていた峯景の後ろから現れたのは――
「ママ!?」
蝶子と青太の声が重なる。
「まだまだね〜」
そう、この2人の母親だったのだ。
蝶子は母親とそっくり。
しかし、妖艶さではまだまだ母親の方が上だ。
「な、なんでここに!?」
蝶子が心底驚いた声をあげる。
そして、周りの人達全員が驚きのあまり絶句していた。
「だって〜、何も言わずに行っちゃうんだもの。この人達に頼んだのよ」
母親は峯景、アレグロ、エリシアを指差した。
「あのね、悪戯をしたくて集落を飛び出したのは構わないけど……」
(構わないのか!!)
蝶子達以外の心の声が揃った。
「ちゃんと行ってきますを言いなさいね。流石に心配するから」
「はい……ごめんなさい……」
「宜しい! じゃ、あとは皆さん宜しくお願いしますね〜。お母さんはせっかくだから空京デパートでお買いものして帰るから〜」
そう言うと、本当にあとを任せてデパートへと行ってしまった。
(助けないんだ……)
この場にいる全員が同じ想いとなった。
―お仕置きタイム―
全員が蝶子達に向き直る。
「母親は、ああ言っていたが……な、もうこんな事はやめるんだ」
蒼也は前もって準備していたかつ丼を、どこからともなく取りだし蝶子達の前に差し出した。
「もうやめる……なんて言うわけないじゃない!」
蝶子は強気だ。
「……ププ。一体どこからどうやってかつ丼を……」
「いや、まだ笑うところじゃないだろう!」
こっそり笑いだしたアレグロに峯景が突っ込みを入れた。
「これだけの事をしたのですからちゃんとお仕置きが必要ですよね」
黒い笑いで近づいてきたのは翡翠だ。
その辺りにあるプレハブの欠片を拾ってきて、何かを書くと蝶子の側にそっと置いた。
『負け犬』
「ま、負け犬!?」
地味に精神的ダメージを与える事に成功した。
「ぶぷっ!!」
「峯景さまもそんなしょうもないところで笑わないで下さいよぉ!!」
今度は峯景がアレグロに突っ込みを入れられた。
「なんでやネーん★」
「うごっ!!」
エリシアは棒読みのセリフと共に、右手は峯景、左手はアレグロという同時に突っ込みを入れるという技を披露した。
しかし、その突っ込みは腹に強烈な水平チョップ……普通に悶絶ものだ。
2人に突っ込みを入れたくてうずうずしていたらしく、エリシアは満足そうだ。
「なんかお腹の調子が……」
蝶子の顔がみるみる真っ青になっていく。
「もしかして……あのアップルパイ!?」
青太は盗みに行く前にもらったアップルパイを思い出した。
「時限腹痛アップルパイだったとは……あたしもまだまだね……」
悔しそうに蝶子は言うが、はっきり言ってそれどころではなさそうだ。
「しょうがないなぁ……2人ともそんなに悪人じゃないみたいだし、許してあげませんか?」
春美の言葉に無言となる。
「あなた達ももっとがんばんなさい! そもそも、外から応援を呼ぶことが間違ってるのよ。私たち探偵は、あなた達と、頭のシンがしびれるくらいの勝負がしたいのよ。そこんとこ考えて出直して来て下さい。ねっ」
春美はウインク1つすると、ロープを解いてしまった。
「お、覚えてなさい!」
「待って、蝶子お姉ちゃーん!」
2人はどこかへと消えていったのだった。
「ふう……しっかり録画出来た」
ずっと小型飛空艇で上空にいたシオンは満足そうだ。
「おや、あなたも撮影でしたか」
話しかけたのは翡翠だ。
その手にはいつの間にかカメラがあった。
「ちょっと考えがあるのですが……協力してもらえませんか?」
「良いわよ」
黒い笑みを見せると、シオンも黒い笑みで返した。
「残念、これの活躍がなかったですね」
美鈴は手にしていたハリセンを見つめてそう呟いた。
近くに来た者にはそれでお仕置きが待っていたようだ。
「こっちもだな」
自分の足を軽くあげて、レイスはそう言った。
こちらも近づく者には蹴りでの攻撃が待っていたらしい。