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【怪盗VS探偵】闇夜に輝く紫の蝶

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【怪盗VS探偵】闇夜に輝く紫の蝶

リアクション


■当日準備


 予告当日。
 予告時間少し前。


―探偵サイド―



 蒼空学園前のちょっとした広場では、愛美が盗まれるのを防ごうと集ってくれた人達が沢山いた。
 それと妙にそわそわした男たちがいた。
 そう、円が出会い系で会う約束をした人達だ。
 花束を持っていたり、服に気合を入れていたり、香水をきつめにつけている人がいたり……とにかく、広場はちょっとした祭会場のようなごった返しになっている。
 愛美を守ろうとして集まってくれている人達は広場の真ん中にある木の場所に固まっていた。
「お待たせしましたですわー!」
 火焔達のもとに走り寄ってきたのは、狭山 珠樹(さやま・たまき)と愛美だ。
 愛美が皆の近くにくると、ふわりと薔薇の香りがしてきた。
 その香りに出会い系の男たちは振り向く。
 珠樹の提案でさらわれても香りで分かるように、薔薇のお風呂に入ってきたのだ。
「薔薇の花びらが入ったお風呂、すごく気持ちよかったよ!」
 愛美は相当気に入ったのか、満面の笑みだ。
「わ〜! 良いな! 私も今度やってみるー!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が実に羨ましそうに言う。
「あたしも、あたしもー!」
 透明に近いカスリ網を準備していたネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)も同意した。
「私も今度挑戦してみたいです」
 目を輝かせているのは、メイド服を着たラグナ アイン(らぐな・あいん)だ。
「姉上が薔薇の香り……素敵です! しかもメイド服姿……素敵過ぎます!」
 アインの事で熱くなっているのはラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)
「憧れますよね。薔薇の花びらが浮く湯船……うっとりします」
 心底うっとりした表情で呟いたのはレジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)だ。
 女性陣は薔薇のお風呂という素敵単語で盛り上がりを見せた。
「もう1つ提案があるのですが……ここでパーティーをしてしまいましょう!」
 一通り会話が終わったところで、珠樹がもう1つ進言をした。
「そっか! それで仮装しちゃえば……わからなくなるよね!」
「そうだね」
 美羽の言葉にコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が頷いた。
「自分はもう準備万端であります!」
 後ろを振り向くと、そこには女生徒用の制服を着用して化粧までした金住 健勝(かなずみ・けんしょう)がいた。
 化粧はあまりうまくなく、おてもやんになってしまっている。
 しっかりとムダ毛も剃られており、胸にはパッドまで入っている念の入れようだ。
「何やってんですか!? 健勝さんが女装したってちっとも可愛くないです! 本人に失礼ですよ! それに私の化粧品勝手に使いましたね!?」
 レジーナはつっこみのエルボーを入れる気力もなく、うなだれた。
「自分の身長の小ささを役立たせる絶好の好機なのでありますよ!? 愛美殿との身長差は……たったの3センチであります! あ、言ってて悲しくなって……きた……であります……」
 健勝の目からほろりと涙が流れた。
「に、似てるのかな……?」
「身長わね……」
 愛美の言葉にマリエルが返したのだった。
 レジーナは仕方ないと、健勝に付き合い、自分はマリエルに変装をしてくると学園の方へと歩いて行った。
「私も行って来るー!」
 その後ろを美羽が走って付いていった。
 さらに珠樹が化粧を手伝いについていったのだった。


 変装が終わり、3人が戻って来ると愛美は広場の中央にあった木に登山用ザイルでぐるぐる巻きにされていた。
 それをやっているのは如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)だ。
「なんでマナミン縛られてるの!?」
 為すがままになっていた愛美がはっと我に帰った。
「こうしておけば簡単には誘拐なんてことにはならないだろう?」
 佑也は跡が残らないように、タオルを挟みながらそう告げた。
「……マナ、大丈夫?」
「……うん」
 マリエルが心配そうに聞いたのを愛美は力なく頷いた。
「小谷、上手な攫われ方を伝授しよう!」
「い、いきなりどうしたの!?」
 マリエルからメールをもらって参上した久途 侘助(くず・わびすけ)の言葉に愛美は驚きの声を上げた。
「俺達は小谷さんを守るために来ました」
 侘助の後ろには香住 火藍(かすみ・からん)がいた。
「それは有難う……って、それと上手な攫われ方って関係あるの!?」
「無様な格好で攫われるより、綺麗に可憐に攫われる方がいいだろう? ヒロインぽくて」
「なるほど!」
 どうやら納得してしまったようだ。
「こんなに仲間がいるんですから、小谷さんは絶対に攫わせませんよ」
「有難う!」
 火藍の言葉で愛美はかなり元気になってきたようだ。
 愛美は侘助に上手な攫われ方の教えを乞いながら、珠樹の手によって、変装させられていくのだった。
 化粧でケバイ感じになり、カツラをかぶせられた。
 まるで、キャバ嬢のように変身してしまった。
 愛美が変身している間にネージュは透明のカスリ網を愛美の周りに設置して、罠を仕掛けていたのだった。


 罠を仕掛け終わると、橙歌にアイスを手に近づいて来る5歳くらいの女の子がいた。
 とてとてと歩く姿が愛らしい。
 辺りを見回しながら歩いていたので、足元を見ていない。
 やっぱりと言うべきか、地面に落ちていた小石につまずき、転んでしまった。
 手にしていたアイスは橙歌の白いワンピースにべっとりとくっついてしまった。
「うみゅぅ……アイス……」
 自分が転んで、膝をすりむいたことよりもアイスがもう食べられない事にショックを受けているようだ。
「大丈夫でいやがりますか……ですの」
 橙歌がすぐに抱き起こしてやり、膝や服についた土を払ってやる。
 目に涙を溜めていたが、アイスをつけてしまった本人に言われ、悪い事をしたともっと泣きそうになってしまった。
「橙歌の服なら気にしやがるな……ですの」
「おねーちゃ……ごめんなさい……」
 シュンとしてしまった女の子の頭を火焔が撫でてやる。
「橙歌くんのワンピースなら後でオレが新しいのを買ってあげるので大丈夫です」
 ニカッと笑顔を向けると、女の子は不安そうに橙歌の顔を見る。
 それに橙歌はこくりと頷き、大丈夫だという意思を示した。
「おねーちゃん! だいすきっ!」
 女の子は笑顔で橙歌を抱きしめた。
 橙歌も子供に抱きしめられて、満更でもなさそうだ。
「何か代わりのものを……」
 橙歌が周りを見渡すと、咲夜 由宇(さくや・ゆう)アレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)と目が合った。
「良かったらこれどうぞですぅ」
 由宇は自分の持っていた水筒から冷たいお茶を取り出し、女の子と橙歌に手渡した。
「わ〜! ありがとう!」
 女の子は嬉しそうにそのお茶を受け取る。
 それを見て、橙歌もお茶を手に取る。
「これも良かったらどうぞ〜」
 弥十郎は手作りのパンナコッタを女の子と橙歌に渡し、火焔にも手渡した。
「お、美味しい!」
 火焔は一口パンナコッタを食べるとそう叫んだ。
「それは良かったぁ」
 弥十郎は火焔の口の周りにパンナコッタが少しついているのを見て、満足そうにし、そのままどこかへと去って行った。
「いやぁ、あんなに凄腕の料理人もいるんですねぇ……って、橙歌くん!?」
 弥十郎を見送って、振り向くと、そこには女の子と橙歌が眠っている姿があった。
 2人とも由宇に膝枕をされていた。
「あらら、疲れていたのですね〜」
「由宇のお茶に何か入っていたのかねぇ?」
「ええ!? 何も入れてませんよ!?」
 アレンは慌てている由宇を見て、実に楽しそうだ。
(ま、睡眠薬を入れたのはオレだからねぇ。見たいテレビがあったのにつれだされた報復として……)
 アレンの考えていることなど、わかるはずもなく、ワタワタしている由宇だった。
 火焔は急いで橙歌を起こしたのだった。
 女の子の方は、小さい子を巻き込まないようにと火焔が配慮してそのまま寝かせる事になった。


 その頃、広場の近くのトイレでは――
「はわわ……遅いですぅ……何かあったんでしょうか……?」
 ローザマリアに特殊メイクを施され、完璧な橙歌に変装したエリシュカがスタンバイしていた。
 そう、あの女の子はローザマリアがちぎのたくらみを使っての姿。
 橙歌にトイレに付き合ってもらって入れ換わる手はずだったのだ。
 事務所の近くのマンションからじっと見つめていたのも、橙歌の所作を盗む為だったのだが……きっとこのまま待ちぼうけとなるだろう。




―怪盗サイド―



 広場の様子を遠くからじっと見つめているのは如月 正悟(きさらぎ・しょうご)シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)の使い魔フギンとムニンだ。
「なるほどね……これはちょっと面倒そうだね」
 正悟は探偵達の動きを見るとそう呟いた。
 使い魔のフギンとムニンはその様子をカメラで撮影している。
 警備の情報を入手すると、正悟達は怪盗のもとへと戻っていったのだった。


 広場の近くまで来ていた蝶子達の元に現れたのは、仁科 響(にしな・ひびき)だ。
「探していたんだ。頑張ってね。君なら絶対にできるよ」
 そう言うと、みんなに手作りのアップルパイを配っていった。
「あら、もうあたしのファンがいるのね!」
 蝶子は高らかに笑うと、何の疑いもせぬままアップルパイを口の中へと放り込んだ。
「蝶子お姉ちゃん! 少しは疑おうよ!」
 青太は止めようとしたのだが、時すでに遅しとなってしまった。
「美味しいわよ? 食べないならあたしが――」
 素早く青太の手からアップルパイを奪うとそれもペロリと平らげてしまった。
「ありがとう! 頑張ってくるわね」
「うん、期待してる」
 響はそれを言うと、皆の前から去って行ったのだった。