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乙女達の収穫祭

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第16章 そして、長い夜が明ける。


 事態が収束し、空も白み始めた頃、美咲は村に宿泊中のテスラに連絡を取ると、急いで警察を連れてきてもらよう手配した。
「まさか、子爵夫人が偽物だったなんて、ショックだわ」
 完全に偽メアリを信じていた美咲は、ひどく落ち込んでいた。
 執事の翔とステンノーラが荒れた屋敷の庭にテーブルを作り、お茶やお菓子、朝食をふるまい、皆の疲れを労う。
「よかったら、これもどうぞ!」
 と、ルカルカが木陰に隠しておいた鞄からお菓子を取り出し、テーブルに置いた。
「チョコバー、レーズンチョコ、ラムレーズンクッキー、沢山あるから、遠慮しないでね!」
 そういって、チョコを口に放り込んだ。
 朝食をとりながら、本物のメアリの事情や、偽メアリが何をしていたかという情報が交換される。
 偽メアリが吸血鬼ではないかと疑っていた朔は、地下室での出来事を聞いて納得した。
 ヴァーナーは、傷をたちまち治す魔法の『天使の救急箱』で、怪我人の手当てをしながらその話を聞いていた。
「ボクがねむっているあいだに、そんなことがあったですねー」
 最後まで目の覚めなかった者達は、荒れ果てた館の姿にまだ戸惑っている。

「皆様、このたびは、本当にありがとうございました」
 涙ぐみながら礼を述べる本物のメアリに、美咲が提案した。
「ねえ、やっぱり、収穫祭はやるべきだと思うのよ」
 収穫祭が本当にメアリの生まれ故郷の伝統行事で、葡萄が贈られたのも本当の事で、こんな事件がなければ、何事もなく開催されていたはずならば、やらないのは勿体ないと美咲は主張する。
「村の人もメアリ夫人もひどい目にあったんだから、ここらで仕切り直した方がいいわ。お祭りをすれば、解決したっていう実感もわきやすいんじゃないかしら」
 しばらくして、警察官と警察から連絡を受けた村長とともにやって来たテスラも、美咲の意見に賛成した。

 話し合いの結果、収穫祭は1日遅らせて開催する事が決まった。
 テスラは館の片づけの手伝いの募集と、改めて収穫祭の案内を出すため、再び村に戻っていった。
 警察官は、美羽と朔、ロザリンドから雇われネクロマンサーの男達と偽メアリの身柄を引き取り、そのままヴァイシャリー警察へと移送する事になった。
 給仕をしていた野々が、今日の予定を皆に告げた。
「それでは、皆さん、朝食を終えて、ひと休みされたら、後片付けとお祭りの準備をすることにいたしましょう」
 まずはメアリの頼みで、ネクロマンサーのオリヴィアと日奈々が、館のあちこちで倒れているアンデッド達を操って裏山の墓に片付ける事になった。

「かたづけ…かたるけ…かたりゅけ……」
 ひとりつぶやいていたルカルカは、にぱっと笑ったかと思うと、突然門の瓦礫に向かって、『疾風突き』を繰り出した。本来は敵の急所を狙って繰り出す強力な突き技であるそれは、見事瓦礫を粉々にした。
「ひっく…かたるけは、消毒にゃーっ!!!」
 ルカルカの突然の奇行に皆が怯えるなか、ロザリンドが慌ててルカルカを抑え込む。
「誰か手を貸して下さい!」
 ひとりで抑え込むのは無理と悟ったロザリンドが助けを求め、ルカルカは被害を拡大する前にぐるぐる巻きで拘束された。
 明日香が、ルカルカの席にあった食べかけのレーズンチョコを見つける。
「原因は、多分、これですねぇ」
 こうして、葡萄の香りで酔ってしまう体質だと皆にバレてしまったルカルカは、収穫祭当日の出入り禁止を言い渡された。