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第18章 スーパー百合園タイム


 踊るように葡萄を踏んでいた円とアルコリアは、すっかり葡萄の香気にあてられ、周りが見えなくなっていた。
「まどか」
 アルコリアは円の名を呼び、抱きしめると、その髪を撫でた。
「ねぇ、まどか。これは熟した果実? 未熟な果実?」
 アルコリアの手が円のうなじを撫であげ、そのまま両手が頬をなでる。その仕草に、円はうっとりと目を閉じ、アルコリアに身をゆだねた。
「アルコリアねーさま…」
「それはね、啄めば分かること。……雨を降らせましょう。この果実が私好みの味に育つように」
 アルコリアは歌うように言いながら、円の額に頬に鼻に、そして唇にキスの雨をふらせた。円は少しくすぐったいと思ったが、この瞬間を壊すのが怖かった。
(今日ぐらいは、いいよね。お祭りだし……)
「ねーさま大好きー」
「葡萄踏みの乙女の皆さん、交代の時間でーす」
 無粋な声が掛けられ、夢見心地の時間は終わりを告げた。
「ああ、もう終わったのね? さて、退きましょうか」
 アルコリアはあっさりと円を離し、台を降りた。いきなり1人にされて淋しさを感じた円を、休憩用の椅子に座ったアルコリアが手招く。
 魅入られたように近づいた円の頭を軽く押すように撫でたアルコリアは、葡萄にまみれた足を差し出した。
「まどか、足が汚れてしまったわ」
(ええと、アルコリアねーさまの足が汚れちゃってて、綺麗にしてほしいみたい。……でも、いいよね? アルコリアねーさまが汚れているのはイケナイことだし。仕方ないよね? 足を舐めなきゃ汚れたままだし……。別に変になったわけじゃないよ、ただ仕方がない、仕方がない)
 円はぼんやりとアルコリアの前にひざまずいた。
「うん、わかったアルコリアねーさま……」
 円はアルコリアの足に顔を近づけた。
「……ふふ、かわいいコ。一生懸命してくれて…くすぐったいわ。……かわいいコ、終わったら、もう片方もね?」
「うん、わかったアルコリアねーさま……」
 アルコリアは円が綺麗にした方の足で、円にイタズラを仕掛ける。
「……んっ」
 円がたまらず体を震わせる。
「ふふふ、どうしたのかしら? 余所見はダメよ? 集中して」
「ごめんなさい、アルコリアねーさま、集中します……」
「そう上手よ、まどか…」
 アルコリアは、円が足をきれいにし終えると、その顔を抱き寄せ囁いた。
「そろそろ、夢が覚めるわ、まどか。……金色の鶏の金切り声が葡萄色の夜を引き裂くわ」
 アルコリアの顔が円の顔を覆った。

 2人の様子を見ていたラズンがオリヴィアに尋ねる。
「あの2人、何してるの?」
 オリヴィアは葡萄ジュースを飲みながら、興味無さそうに答えた。
「葡萄踏みでしょー。楽しそうだし、放っておきましょう。下手に突っ込んで私達が弄られても大変ですものー」
「ふぅん」
 ラズンはそういうもんかと思いながら、葡萄のお菓子に手を伸ばした。

 そんなアルコリアと円の様子を、言葉もなく顔を赤くして見ていた男達は、隣で葡萄を踏む亜璃珠の足使いに顔を蒼くした。
「やっぱり、こう、葡萄のタマをぷちっとつぶすように優しく? 時には過激に? 踏んだ方が、跡形なく綺麗につぶせる気がしますのよね。……どう思います、小夜子?」
「なんだか、男の人達が痛そうな顔をされてますけど、十分、美味しそうだと思いますわ」
「そう、良かった」
 交代の合図で2人が休憩用の椅子に座ると、亜璃珠は隣の光景を興味深げに見ていた。ちょうど円がアルコリアの足に顔を近づけようとしている。
「ふぅん。……ねぇ、小夜子。流石に裸足で葡萄を踏むと足が汚れるのですけど、…どうしたらいいかしら?」
 戸惑う小夜子に亜璃珠はちらりと隣に視線をやり、ヒントを与える。
「……そう、ですわね。御姉様の足が汚れてしまいましたわね」
 小夜子は、亜璃珠の望み通り、両手で足を取り、顔を近づけた。
「葡萄も御姉様も、とても美味しいですわ……」
 手の中で綺麗になっていく亜璃珠の足に、小夜子は囁いた。


 乙女の生足で踏まれた葡萄ジュースは希望者のみにふるまわれたが、この桶の葡萄ジュースはやたら男性に人気だったとか……。