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開け、魔法の本 ~大樹の成績を救え?~

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開け、魔法の本 ~大樹の成績を救え?~

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第3章(3)
 
 
 パチパチパチパチ――
 
 突如、洞窟に拍手の音が鳴り響く。見ると、入り口側に新たなる人物が数人立っていた。その中心にいるエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が拍手の手を止めると、周囲に向かって穏やかな笑みを浮かべた。
「ご苦労様です、皆さん。いやぁ、どの方もお強くて何より」
 言いながらこの場にいる者達を順番に眺めていく。そして篁 天音の所で視線を止めると、予測が外れたとばかりに軽くため息をついた。
「おやおや、篁さんが魔法の本をお持ちという事で来て見たのですが、他のご兄弟の事でしたか。私とした事が、とんだ勘違いをしてしまったものです」
 エッツェルは本を奪うタイミングとして、この時を狙っていた。精霊のうち四色が倒された状態からなら残りの一色を倒すのはさほど難しい事では無い。ましてや残ったのは光属性を持つ白なのだ。闇に身を纏ったエッツェルとしては、相手の攻撃こそ厄介ではあるものの、逆に倒す事に関しては一番苦労がいらない相手であった。
「ふむ……精霊と聞いていたが、意外と美味いな……」
 その白い精霊は、いつの間にか現れていたシュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)によって捕食されていた。触手によって次々と捕獲され、『手記』の体内へと消えていく。
「なるほど、どうやら本をお持ちの方は他にもいらっしゃる様子。さあ、私にその本を渡して頂きましょうか」
 魔法の本を持っている人物が天音以外にもいる事を見つけると、エッツェルはそれを奪うべく行動を起こそうとした。だが、ある人物が視界に入ると思わずそちらに目を留め、そして面白い物を見つけたとばかりに微笑む。
「ほう……これはこれは。あなたも素晴らしい『闇』をお持ちのようで……」
 彼の視線が射抜いた人物。それは榊 朝斗だった。朝斗はその視線に先ほどの胸騒ぎがこの事を警戒していたのを悟る。
(――来る!)
 素早く二丁の魔道銃を抜く。対するエッツェルはそれよりも早く三体のアンデッド――レイスを召喚し、朝斗へと襲い掛からせた。
「くっ……このっ!」
 魔道銃が魔力を放ち、レイスを射抜く。
 一発、二発――あと一発が足りない。
「筋は良い。ですが……ふふ、今のままではね」
 レイスに気を取られていた朝斗の目前に、いつの間にか刀を抜いたエッツェルが忍び寄っていた。振り下ろす刀を必死で回避するが、左肩にその刃を受けてしまう。
「ぐぅっ……!?」
「朝斗!」
 パートナーの危機にルシェン・グライシスが駆け寄る。するとそれを妨害するかのようにレイスがルシェンへと向かった。先ほど射抜かれたレイス達も復活し、三体に進路を妨害される。
「お退きなさい! 邪魔をしないで!」
「ふふ……いけませんねぇ。無粋な真似をしているのはあなたの方ですよ」
 こちらへ近寄る事も出来ないルシェンをエッツェルが笑う。余裕からか、朝斗には背を向けた状態だ。当然その隙を逃さず、朝斗が魔道銃でお返しとばかりに肩を射抜く。だが――
「おや、何かされましたか?」
「なっ!? 効いて……無い?」
 エッツェルの体躯は通常の攻撃で痛みを知る事は無く、更にダメージそのものもリジェネレーションで自然回復していく。魔力弾を受けて傷ついたはずの傷跡が徐々に塞がり、仕舞いには攻撃を受けた事など無かったかのように消え去ってしまった。
「なるほど……その目、その精神……ますます気に入ってしまいましたよ。ですが……おいたはいけませんねぇ」
 驚愕している朝斗に刀を一閃。脚に傷をつけ、その場から動けなくする。更に刀を仕舞うと朝斗の身体に拳をお見舞いした。
「お仕置きです。愛の拳をお受けなさい!」
 
「榊さん! 月谷さん、七刀さん。榊さんを助けるぞ!」
「分かった……」
「了解、ワイの剣技、披露させてもらいましょうか」
 風森 巽、月谷 要、七刀 切の三人が朝斗を助け出す為に駆け出す。その三人の前に、それぞれ立ちはだかる者が現れた。
「無粋な真似はよしなさいと言っているでしょう? もうすぐ生まれるんだから、邪魔しちゃ駄・目」
「ククク……主公の……邪魔…………を……しては……いけません…………よ?」
「うむ、これならいくらでも食べられ――む?」
 ……最後が締まらないが、立ちはだかったのは坂上 来栖(さかがみ・くるす)ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)、そして『手記』だった。もっとも『手記』は精霊を捕食し続けている過程で切の進路とかち合ってしまっただけなのだが。
 三人が足止めを喰らったのを見て、他の者達も朝斗を助けようと動き出す。だが、そちらにはネームレスが生み出した瘴気の獣が襲い掛かり始めていた。
 
「出来ればそこを通して欲しいんだけどね、坂上さん」
「それは出来ませんね、風森さん。二人の戦いから感じ取れる物があるでしょう? 私はその先を見てみたいのです」
「だが、その為に苦しむ榊さんを放ってはおけない。邪魔をするのなら……押し通るまで!」

「あんたの武器は大戦斧か……へぇ、パワーファイトって訳かい」
「クク……そなた……我の……一撃…………を……受けきる……事が……出来…………ます……かな?」
「それはやってみてのお楽しみさ。面白い……受けて立つよ!」
 
「我の食事を邪魔するとは……退け、二度は言わぬ」
「食事だって? 大根みたいだからって本当に食べるとは、変な奴だねぇ」
「……あくまでも邪魔をするか。ならば……排除させて貰おう」
 
 それぞれがそれぞれの思惑で相手を見据える。最初に動き出したのは巽と来栖の二人だった。
 
「天に則り私を去る……青心蒼空拳! 輝翔天脚!」
 巽が光り輝く一撃を来栖へと繰り出す。彼の使用する武術『青心蒼空拳』の技の一つだ。
(なるほど、これが本家の力……やはりさすがですね)
 対する来栖は中国拳法を基本とした独自の型で応戦する。誰かに師事しなくても見よう見まねである程度は習得出来る、来栖らしい戦い方だった。
「どうやら肉弾戦には慣れていないらしいな。このまま我が押し通らせて――」
「ふふ、そう思っていますか?」
「――何っ!?」
 突然来栖の型が変わる。予測を外された巽に一瞬の隙が出来、そこに来栖の拳が襲い掛かった。
「くっ!」
 直前で回避。だが、朱の飛沫の効果で巽の制服の一部が燃え落ち、その下に着込んでいる戦闘服が姿を見せた。
「今の動きはまさか……青心蒼空拳!?」
「やはり気付かれましたか。えぇ、その通りです。基礎はあなた達から盗ませて貰いました。もっとも、剄や気の練り方までは盗めなかったので、その辺りはスキルで代用していますが」
「なるほど……表面的とはいえ、見事な模倣力だ」
「模倣……ですか。余りその言い方は好きでは無いですね」
「青心蒼空拳の教えは『王道覇道魔道に修羅道と数あれど、決して自身の道を外れる無かれ。正邪別なく自身の信念を貫く事なり』。貴公の道を進む為ならば、盗んだものだろうと遠慮なく使えばいい」
「あなたに許可を得るまでも無い。これは私の力、私が立ってるこの場所が私の道です」
「ならば、これ以上は問答無用……ティア!」
「うんっ! タツミ、変身だよ!」
 巽が破れた制服を脱ぎ捨て、戦闘服へと変身する。そしてティア・ユースティの投げたマスクが巽の頭部へと――
 
 ゴン!
 
「あだっ!?」
「あ」
 ――頭部へと激突した。ちなみにマスクはフルフェイスのバイク用ヘルメットをベースに作成した物である。痛い。とっても痛い。
「タ……タツミ、大丈夫?」
「何とか……」
 ティアのコントロールの良さが仇となった。人間はどこぞのアンパンヒーローのように頭が外れたりはしないのである。
 
 物を人の頭部に向かって投げるのは大変危険です。良い子の皆は真似しないで下さい。
 
「と、とにかく……変っ身!」
 巽が掛け声と共にマスクを被る。既に戦闘服を着込んでいた以上、新たに装着するのがマスクとマフラーだけというのは何ともシュールだが、ともかく全ての装備に身を包んだ巽は『ソークー1』へと変身する。
「蒼い空からやって来て、果て無き道へ挑む者! 仮面ツァンダーソークー1! 我の道を示す為、ここに参上!」
「タツミ、ずっとここにいたのに参上って――」
「細かい事は気にしない! それでは……行くぞ!」
 ソークー1が跳躍し、来栖へと蹴りを放つ。それを回避したら着地の勢いを利用して素早く後ろ回し蹴り。更に連続攻撃を仕掛けるソークー1に対し、来栖はスウェーとダッキングでの回避を余儀なくされる。
「速さが増しましたね。やはり制服では無く戦闘服での動きこそが本物だという事ですか」
「これはまだ序の口だ。貴公が退かぬのであればこの上の力を使わせてもらう」
「上の力、ですか……では、私も力を解放するとしましょう」
「何だと?」
 来栖が距離を取り、自身の身体から闇の気を放つ。あふれ出した気が来栖を包み込むと、次の瞬間には大人びた外見へと成長した来栖の姿がそこにあった。
「この気……自身を闇の化身としたか」
 絶対闇黒領域によって闇の力を手に入れた来栖が大人びた笑みを浮かべる。そして拳を握ると、改めてソークー1と対峙した。
「さあ、これで仕切り直し。私が進む道の一端、お見せしましょう」
「よかろう、我もこの技で応じてみせる……行くぞ! チェンジ! 轟雷ハンドッ!」
 二人が同時に駆け出す。闇と雷、両者の闘気が膨れ上がり、激しく激突した。
「はあっ!」

『青心蒼空拳! 青天霹靂掌!!』