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開け、魔法の本 ~大樹の成績を救え?~

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開け、魔法の本 ~大樹の成績を救え?~

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第3章(2)
 
 
「精霊、こいつを喰らうっス!」
 広間の中心部ではアレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)が愛刀の花宴を振り回していた。攻撃を受けた精霊は増殖こそしないものの、ダメージが有効に入っているとは言い難い。
「なっ!? 師匠! こいつ攻撃があんまり効いてないっスよ!」
「どうやら普通の攻撃だと、増えない代わりに攻撃も余り効かないみたいね……でもアレックス、あなたの場合はそれだけが原因じゃないわ。武器を扱いきれてないのよ」
 師匠と呼ばれたリカイン・フェルマータが相手の特性を分析する。そしてそれを基にしたアドバイスをアレックスに送るが、彼はいまいち理解出来ていないようだった。
「どういう事っスか? 僕の力は前より強くなりました。こんな小さな精霊に後れを取る事は無いはずっス!」
「そんな考えだから駄目なのよ。私が『技』の試練にあなたを連れて来た意味、良く考えてみなさい」
「『技』の意味って言われても……と、とにかくやってやるっス!」
 手当たり次第に乱撃ソニックブレードを放つ。だが、今までと同様に有効なダメージは入らないままだ。そんな状況でスキルを連発した事が祟ったのか、アレックスの動きが徐々に鈍くなって行く。
「はぁ……はぁ……くそっ、手に力が……でも、師匠に情けない姿を見せる訳には……!」
 何とか刀を精霊へと振り下ろすが、それ以上の力が入らず自然の重力に任せる形で刀を引く。すると、今まで全くと言って良いほど効果の無かった攻撃が、魔法攻撃ほどでは無いとはいえ、ある程度有効に入った。
「え……!? いつもより弱い攻撃だったのに、何で……?」
 刀を下げたまま呆然とするアレックス。試しに同じように攻撃をしてみると、次の精霊へも同じように有功打が入った。
「! そうか! 武器を扱いきれてない……そういう意味だったんスね、師匠!」
 一般的に刀剣は戦争で大勢の敵や鎧を纏った敵と戦う為に作られた耐久力・打撃力重視の剣と、『殴る』よりも『斬る』に重きを置いた剣の二種類に大別出来る。言わずもがな、刀は後者だ。
 今までアレックスが武器を扱いきれていなかったのは、刀を前者の使い方で扱っていたからである。
(やっと分かったようね)
 リカインが鞘に収めたままのシュトラールとラスターエスクードで精霊を色別に弾き飛ばしながら微笑を浮かべる。どうやら彼をこの洞窟に連れて来た甲斐はあったようだった。
「さすが兄貴! 頑張ってるね。それじゃ、私も応援するよ!」
 サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)が奮闘する双子の為に歌を歌いだす。すると、それに反応して黄色の精霊が集まり始めていた。
「あ、あら? 確か黄色って炎が弱点だったよね。兄貴の修行の為に出来るだけ魔法は使わないって言われたけど、自衛なら仕方ないか。それじゃ……ショルダーキーボードON、燃えちゃえー!」
 集まってきた精霊に向かって炎が飛び出す。攻撃を受けた精霊達は次々と消滅していった。
「そっか、黄色は歌に反応するんだね! だったら私達の出番だよ、輝!」
「うん、アカペラになるけどいいよね。曲はやっぱりアレ?」
「もちろん! 私達の新曲、ここで初お披露目よ!」
 歌といえば私達、私達といえば歌――そんな846プロのアイドル、シエル・セアーズと神崎 輝は自分達の力を発揮出来る機会とばかりに背中合わせに立った。
 音響も無い、照明も無い、更に言えば舞台も無い。だが、そんな事は関係無い。歌いたい自分達がいて、聴いてくれる皆がいる。それだけで二人にとってはその一つ一つが最高のステージになるのだ。
「ボク達、『Sailing』の新曲。曲名はまだ決まってないけど……皆、聴いて下さい!」
 
 辛いことがあっても 挫けそうになっても
 諦めないで もう一度やってみよう
 少しずつでいいから 前へ進んでいこう
 
 全力を出して 諦めずにやり続ければ
 出来ないことは 何もないから
 皆で一緒に 頑張っていこう
 
「凄い凄い! 前に聴いた時も良かったけど、今度の歌もいい歌だね〜……あれ、どうしたの? タツミ」
「いや……ちょっと紅白の時のトラウマが……」
 昨年末に行われたシャンバラ独立記念紅白歌合戦。そこでは多数の者達が個人として、或いはグループとして数々の歌を披露していた。その参加者の中に846プロの二人がいたのだが、それとは別に風森 巽とティア・ユースティもバンドを組んで参加していたのである。
 ――ただし、巽は女装姿で。
 事前に『何でもやる』と言ってしまったが為の悲(?)劇を、二人の歌で思い出してしまったらしい。
 
 まぁそれはともかく。
 
 二人の歌に惹かれて多くの黄色い精霊が集まってきた。それをティア、ダリル・ガイザック、神代 明日香等が炎系の魔法で消滅させて行く。
「いっくよ〜!フレイム・ブリッツ!」
「……燃えろ」
「ファイアストーム、行きます〜!」
 最初に集まった精霊達を倒し終わり、再び輝とシエルが歌を歌い始めようとする。すると、そこにキーボードの音が聴こえて来た。
「音楽があった方がいいでしょ? あなた達の紅白の歌も聴いてたし、即興だけど合わせてみせるわ」
「あ、ありがとうございます! シエル、盛り上がっていくよ!」
「うんっ! 今日の『Sailing』はデュオじゃなくてトリオね!」
 サンドラの演奏に合わせ、二人の歌声が広間へと広がる。キーボードによる若干のアレンジが加わったその曲は、アカペラとはまた違った魅力を引き出していた。
 
 
「はぁ〜、素敵な歌ですねぇ。私もああして――あら?」
 歌に聞き惚れていたルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)が周囲の変化に気付く。赤と黄色が誘導され、残りは三色。その中の青い精霊が自身の周りに集まり始めていたのだった。
「あらあら? 精霊さんが寄ってきてますねぇ。確か、赤がひらひらした物で黄色が歌ですから……もしかして、これかしら〜」
 視覚、聴覚ときたら次は嗅覚――そう思って鞄からドーナツを取り出すと、精霊の反応がはっきりとし出した。どうやら甘い匂いに反応しているらしい。
「ふふ、ドーナツが好きなんて、私と同じですね〜。ほらほら、美味しいのはこっちですよぉ〜」
 ドーナツを差し出したまま少しずつ後ずさる。匂いに惹かれた精霊達は次第に他の色から離れ始めた。
「なるほど、甘い匂いですか……なら、私のこれも役に立ちそうですね」
 ルーシェリアの行動を見て青の特性に気付いたルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)が持っていた甘酒の蓋を開ける。するとその匂いに反応した青い精霊達がルシェンの方にも集まりだした。
「零さないように気を付けて誘導しないといけませんね……さぁ、こちらにいらっしゃい」
 両者の誘導する精霊達が次第に一箇所へと固まり始める。そこに篁 天音とキュー・ディスティンが駆けつけた。
「ルーシェちゃん、もう少し! ここまで来たら一気に片付けちゃうよ」
「アレックスの修行も目処が立ったみたいなのでな、我も援護しよう」
 ルーシェリアとルシェン、二人が同じ位置へと集まり、攻撃の準備が整う。まずは天音とルシェンが天のいかづちを放ち、その数を減らしていった。
「ルシェンさん! 奥を!」
「分かりました。手前はお任せしますね」
 炎や氷と違い、完全な面攻撃では無い為に所々に取りこぼしが出てくる。それをキューが的確に雷術で潰していった。
「派手なものばかりが魔法では無いのでな。こういった支援は任せてもらおう」
 次第に数が減り、十何匹かを残した状態にまで持って行く。そこで止めとばかりにルーシェリアが深緑の槍を構えた。
「もう少しですねぇ〜。それでは後は私が……やってしまいましょう!」
 今までののんびりした言動からは想像も出来ない機敏さで一直線に駆け抜ける。反対側まで抜けた時には、残った精霊の全てが槍へと突き刺さっていた。
「これでお仕舞い……です♪」
 槍の帯びる電撃が精霊へと伝わり、跡形も無く消滅していく。後に残ったのは槍を抱えてにっこりと微笑むルーシェリアだけであった。
 
 
「さて、残るは白と黒の二色。そろそろ僕達が動く番かな」
 そう言って自信満々に現れたのは飛鳥 桜(あすか・さくら)だった。広間の中央に残る二色の精霊を見据えた桜は――
「ちょっとちょっと」
 え? 何ですか?
「この格好見てよ。今の僕は飛鳥 桜じゃなくて、正義のヒーロー『ヴァルキュリア・サクラ』だからね。そこの所、よろしくっ」
 ――あ、はい。分かりました。
 飛鳥 桜改め、桜をモチーフにした和風戦闘服に身を包んだヴァルキュリア・サクラは二色の精霊を見据え、狙いを定める。
「白が光、黒が闇って事は、当然弱点はその反対。だったら僕達は黒を攻めるべきかな」
「俺も黒相手になるかな。せっかくだから援護させて貰おうかねぇ」
 月谷 要がサクラの隣に並ぶ。そしてそこから少し離れた位置に七刀 切が立った。
「ならワイは白相手か。ま、実力行使で叩き潰すとしますか」
 それぞれが自身のスキルで狙う相手を決める。どちらにも行く事が出来る巽は人数差を考え、白側に回ろうと考えた。
「我も七刀さんを援護しよう。この闇の輝石なら効果があるはずだ」
 そう言って握り締めると輝石から闇の気が流れ出してくる。確かにこれなら白の精霊相手に効果がありそうだ。
「よーっし、それじゃ行動開――あれ?」
 飛び出そうとしたサクラの動きが止まる。黒の精霊が先手を取って動き出したかと思うと、巽に向かって集まってきたからだった。
「な、何でこっちに来るんだ? 貴公達の相手は我じゃないぞ?」
 巽が横に避けるが、精霊もそちらへと寄ってくる。巽が黒の反応する何かを持っているのは明らかだった。
「ひょっとしてだけど……その石に反応してない? その子達」
 ジェミニ・レナード(じぇみに・れなーど)が原因を指摘する。巽が輝石を持つ手を緩めて闇の気の流出を止めると、黒い精霊達の動きも収まった。
「確かにその通りだ……とはいえ、白を倒すには闇の気が必要で、黒はその闇の気に反応するか……厄介だな」
「ま、それならそれで黒から先に倒せばいいって事で。わいと巽さんもそちらのお手伝いと行きますか」
 結局白黒同時攻略は諦め、誘導方法のはっきりした黒の攻略を優先する。
 おびき寄せる方法が闇の気と分かったサクラがパートナーの三人を自分の周りに集めて宣言した。
「よーし!じゃあ、リーダーが指示するぞ!」
 ちなみにリーダーとはあくまでサクラの自称であって、パートナー全員が認めた訳では無い。だが、そんな些細な事はサクラには関係無いのだ。
「まず、親分とジェミニは僕の援護。トラッパーで罠を仕掛けるから、その間黒精霊が攻撃して来ないように牽制して頂戴」
「援護な、了解や。お前の事は、俺が護ったるからな」
 親分と呼ばれたロランアルト・カリエド(ろらんあると・かりえど)が頷く。
「あたしも異存は無いけど、アルフはどうするの?」
「アルフは冥府の瘴気で黒精霊を誘導する。で、僕の罠が完成したら、そこにおびき寄せて掛かった所を一気に叩く! これが僕の作戦だけど、どうかな? いいよね? よし、けって〜!」
「決定〜じゃねぇ! そりゃつまり俺が囮になるって事じゃねぇか!」
 相変わらずの突っ走りを見せるサクラにアルフ・グラディオス(あるふ・ぐらでぃおす)が抗議の声をあげた。
「君はフェルブレイドだろ〜。それに囮じゃないよ、餌だ!!」
「なお悪いわ! この剣術ヒーロー馬鹿がぁぁぁぁ!!」
「あー、もう! お前ら喧嘩はあかんー!」
(喧嘩するほど仲がいい、のかな……?)
 ぎゃーぎゃー言い合うサクラとアルフをロランアルトが止めにかかり、それをジェミニが遠めに見ている。精霊の事などそっちのけだ。
「……これ、我が闇の輝石でかき集めた方がいいんじゃないかな」
「ワイもそう思う」
「同感」
 そんな外野の声も、四人の耳には届いていないようだった――
 
 紆余曲折あって、当初の予定通りにアルフが精霊をおびき寄せる形になった。
「ったく、面倒くせぇ……」
 ぶつぶつ言いながらもしっかりと冥府の瘴気を使用する。たちまち広間中の黒い精霊がアルフ目掛けて突撃を開始した。
「うげっ!? 気持ち悪ぃ! 寄って来んなこの野郎ぉぉぉ!!」
 黒いものがわさわさ寄って来る光景など、確かに普通なら見たくも無いだろう。しかも今回は確実に自分が対象だと分かっているのだ。当然の事ながらアルフは反対側へと全力疾走する。
「ちょっとアルフ! 罠はこっちだよ、ちゃんと誘導して!」
「そんな事言ったってよ! どちくしょー!!」
 何とか軌道を修正するが、それによって数匹の精霊が追いついてくる。そのままアルフへと魔法を放とうとする所に、それよりも早くロランアルトの光術とジェミニの銃弾が精霊へと飛んでいった。
「弟分に手ぇ出したら許さへんで! 代わりにこいつをプレゼントや!」
「右に同じ! ウチの弾丸も喰らいや!」
 危ない所を切り抜けたアルフがサクラの仕掛けた罠の上を飛び越える。それを追ってきた精霊達は落とし穴へとはまり、次々と落ちていった。
「よーっし、作戦通り! それじゃ、僕が決めるよ!」
 サクラが高く跳び上がり、銃型の光条兵器を抜くと穴目掛けて連射する。更に破邪の刃を放ち、それに追い討ちをかけた。そして止めに武器の聖化で光属性を纏った飛び蹴りを精霊達にお見舞いする。これが――

「飛鳥流剣術奥義! 暁光滅闇舞!」
 
 ちなみにどこが剣術なのかと突っ込んではいけない。お兄さんとの約束だ!
 
「おい桜! 無事か!?」
 結構な勢いで突撃したサクラを心配したアルフが穴を覗き込む。
 穴の底では精霊を全て打ち倒したサクラがVサインをしていた。
「へっへ〜ん、どうだ! これがヒーローの実力だよ!」
「……何だよ、ピンピンしてんじゃねぇか。ったく、心配させ――じゃねぇ。俺は心配なんてしてねぇからな」
 いえ、してましたよ? ほら、4行前。
「うっせぇよ!!」
「? アルフ、誰と話してんの?」
「何でもねぇ! とにかく、とっとと上がってこい。まだ白いのが残ってんだからな」
「あ〜、それなんだけどねぇ」
「何だよ?」
「ロープか何か持ってない? 深く掘りすぎちゃった」
「…………」
 このまま埋めようか。一瞬そんな考えが頭をよぎるアルフなのであった。