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 遅い食事を終えたセルシウスは、円と歩がレンジの対応で追われる中で出会った別の店員、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)によりレクチャーされた事を思い出す。
「この機械は一体何だ?」
 セルシウスの問いに、紙詰まりを直していた詩穂が振り向く。
「コピー機だよ?」
「コピー機?」
 詩穂が「よっと!」と詰まっていた紙を取り出し、蓋を開けると、紙が一枚挟まっている。
「あー、また漫画原稿用紙の忘れ物だー」
「忘れるのか?」
「ええ。たまに、週刊少年シャンバラって漫画雑誌に連載している漫画家さんが来るんですよー。セルシウスさん、多分夜にその人がやって来ると思うんで渡しておいてくれません?」
「わかった」
と、原稿を受け取るセルシウス。
 見ると、少年漫画らしいアクションが独特なタッチで描かれている。
「コピー機とは複製するものか……成程な」
「フッフッフ、でもそれだけじゃないんですよー?」
「何ッ!?」
 詩穂がパッと携帯電話を取り出す。
「これ、さっきセルシウスさんと記念に獲った詩穂の写メなんですけどー……」
 詩穂は携帯電話とコピー機をコードで繋ぎ、ボタンを押す。
ウィィィンッ!
 コピー機が光り、何やら吐き出す。それを手に取った詩穂が「ジャジャン!!」とセルシウスに見せる。
「こっ……これは!」
「これがさっき詩穂と一緒に写した写メのプリントです。コピー機はこんな使い方もできちゃうんですよ〜♪」
「現像すら可能なのか……やるな、コピー機め」
 セルシウスが険しい顔でコピー機を見ると、詩穂が「まだまだ機能あるんですよ?」とほくそ笑む。
「もっとすごいのがコレ! コピー機から申込書を印刷してレジへ持って行くと、人気イベントのチケットが買えちゃうんです♪」
「馬鹿な……発券システムすら内蔵している、だと?」
 セルシウスの目に映るコピー機が、ゴゴゴゴと音を立て彼のイメージの中で巨大化していく。
 そこにレンジの修理を試みていた歩がやって来る。
「詩穂ちゃん? 何してるの?」
「今ね、セルシウスさんにコピー機の使い方を教えていたの」
「コピー機? あたし、こればっかりは苦手なのよ」
「平気だって! 慣れたら誰でも使えるように作られているんだから……て、何してるんです!?」
 詩穂が驚愕したのは、セルシウスがコピー機を分解しようとしていたからである。
「騙されんぞ! きっとこの中には、誰か人間がいるに違いない!!」
「そ、そんなテレビを初めて見させられた様なベタな土人のノリを!」
と、セルシウスを引き止める詩穂を歩が呆然と見ていたが、ふと足元の何かに気付きしゃがみこむ。
「これは……?」
 それは表の顔はアイドルとして活躍する詩穂のライブのチケットであった。
「アイドルも大変なんだね……」
 セルシウスと揉みあう詩穂を見て歩がしみじみと呟く中、円の「あじゃじゃしたー」という声が聞こえるのであった。


 そうやって、詩穂によりエリュシオンには無い高度な技術を魅せつけられたセルシウスは考えていた。
「(この文化を我がエリュシオンに持ち帰る事こそ、私の仕事、義務ではないか? ここで辞めたら、蛮族に敗北したと同じだ。それこそ、崇高なる国家であるエリュシオンに戻れなくなる……)」
 さほど渋いわけではないだろうに、やたらと渋そうな顔でお茶の最後の一口を飲んだセルシウス。
 そんな折、少々砂まみれの{ICN0002924#【ヴァイシャリー800メ−・・・1】}がコンビニ前の駐車場にやって来て停車する。
 助手席のドアを開けて降りてきたのは、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)である。
「ふぁー、お仕事とはいえ、流砂には困ったもんだねぇ」
と、伸びをするミルディア。
 反対側の運転席のドアを開けて降りてきたローザ・ベーコン(ろーざ・べーこん)が、ミルディアを元来目つきの悪い目で見る。
「ミルディは座ってただけじゃん。まぁ、大型車両の運転はボクしかできないんだから仕方ないのか」
「えー、目的地周辺の危険情報の確認もあたしがしたし、横転しない限りは荷崩れしない様に、荷台というかコンテナにしっかりと荷物を縛って固定したわよ? 第一、思う存分暴れちゃってもいいからね! って言ったのはそもそも荷物さんになんだからね?」
「ボクが少し揺れるが勘弁してくれよって言ったら、ミルディも頷いたじゃん?」
「アレが少し? バンバン揺れたわよ! シェイクされすぎてもう少しで溶けそうなくらい!」
 プンと頬を膨らますミルディアを見たローザが口の端を歪め、
「まぁ、胸は揺れ……あぅッ!」
 ミルディアのチョップがローザの額にビシリと炸裂する。
「……っと、そんな事よりさっさと荷物運んじゃおうよ? まだ次の配送先もあるんだからね!」
と、ミルディアが手慣れた手つきで台車を出し、荷物を積み降ろしていく。
 台車に荷物を乗せてやって来るミルディアは、興味深そうにこちらを見ているセルシウスと目が合う。
「まいど〜! ディスティン商会です、荷物の運搬に来ました〜!」
「荷物? 配達か?」
「そうですよ……どうかした?」
 身構えるセルシウスにミルディアが首を傾げる。
「私は、もう試食はしないからな!!」
「試食? あたし達は文具とかコスメ商品とか、地上商品の販売をしてるんだよ?」
「……そ、そうか。ならば安心だ」
 ローザもミルディアと同じように台車をカラカラと押してやって来る。
「それにしてもコンビニか……ボクがいた時代には、商品は自分の手で仕入れるのが基本かつ常識だったけど、ここまでの規模になると仕入れや納入までを他社に委託するという仕組みが出来ているんだな。実に興味深いや」
 ローザの言葉にセルシウスも頷く。
「うむ。私もこのシステムは素晴らしいと思う。ただ……」
「ただ……何?」
「いや、この便利さは人と人の関係の妨げにもなるのではないか、とふとそう思っただけだ」
「考えすぎだよ!」
と、セルシウスを見てミルディアが笑う。
「便利さでみんな幸せになるなら、それは悪い事じゃないよ」
「……そうか、そうだな」
「さぁて、あたし達も店長さんにディスプレイの場所聞いて、お仕事済ませちゃおう!」
 ローザを促したミルディアがカラカラと台車を店内へと押していく。
 セルシウスは、先ほど投げ捨て自身のエプロンをチラリと見た後、「やるか!」と大きく息をつく。
 エプロンを再びその手に取って店内へと戻って行くセルシウス。
 ふと振り返ったローザには、橙色の夕日が映える景色がまるでセルシウスの背を押している様に見えたのであった。