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コンビニライフ

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 夜を迎えた店内では、パートナーの葛葉 杏(くずのは・あん)を家に残し、自称バイトリーダーとして夜の店を率いる橘 早苗(たちばな・さなえ)の元、健全に運営されている様に思えた。
「いいですか、バイトだからといってタメ口とか聞いちゃ駄目ですよ。バイト中は常に敬語で互いをさん付けです!」
 昼から夜へとシフトが変わる前のバックヤードで行われた簡易ミーティングにて、早苗は他の店員の南部 豊和(なんぶ・とよかず)レミリア・スウェッソン(れみりあ・すうぇっそん)樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)相沢 洋(あいざわ・ひろし)乃木坂 みと(のぎさか・みと)リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)南雲 アキ(なぐも・あき)日堂 真宵(にちどう・まよい)琳 鳳明(りん・ほうめい)南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)を前にそう宣言した。
 店員達は思い思いの表情を浮かべて頷く。
「口調の乱れは店内の風紀の乱れを生みます、絶対に見過ごせませんからね!」
「うむ。最もな意見だ」
 話を傍で聞いていたセルシウスも頷く。
「よって私のことは橘さん、もしくは先輩とよんでください」
「ちょっと待って、早苗!」
 そう声をあげたのは、店員の雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)である。
「橘さん? ですよ? 雅羅さん?」
「……橘さん? どうして同期なのに、あなたが『先輩』なのかしら?」
 雅羅の言葉に、他の店員達も頷く。
「……さぁ、みなさん、頑張りましょう!! 夜はお客の数が少ないから店内清掃もしっかりやりましょう。ただでさえ荒野にある店なのですぐに汚れてしまいますからね!」
「あ、誤魔化した」
 明後日の方向を向いた早苗に、リリィがポツンと呟く。
 ちょうど同じ頃、早苗のパートナーである杏は自室のベッドで寝転び、深夜テレビをザッピングしつつ、早苗の身を案じていた。
「早苗、大丈夫かな? 様子を見に行きたいけど私は夜は練る主義だし……」
 そもそも、貧乏且つ大家族というエンゲル係数著しい環境で育った早苗が言った「仕送りのために時給のいいバイトないでしょうか?」の問いに、クランマートでの夜勤を薦めたのは杏であった。
「夜のコンビニということは時給がいいはず、これはぜひバイトしなければ!!」
と、闘志を燃やす早苗を見て杏はポツンと呟く。
「そう言えば、バイトリーダーに昇格したら、少しは時給が上がるって聞いたわよ?」
「ほ、本当ですか!? 杏さん?」
「あ、うん。噂でだけど」
 しかし、想像以上に早苗の闘志が燃え上がっていた事を知らぬまま、杏の手からテレビをザッピングしていたリモコンが落ち、彼女はスヤスヤと眠るのであった。

「いいですか、絶対に金額は間違えないでください」
と、杏に釘を刺されてレジを打つのは、雅羅と豊和とレミリアである。
「ありがとうございましたー!」
 豊和は笑顔で客を見送った後、こっそり溜息を漏らす。
「僕はレジ打ちは難しそうですから、商品の陳列をしながら店内の見回りをしようと思っていたのに……強引だなぁ、橘さんは」
「全くよ」
 雅羅が強く同意する。
「第一、お金の桁が一つでもズレたら許せないなんて、ファジーさを持たないのね、ここの人たちって!」
 雅羅の発言を軽くスルーしたレミリアが話題を変える。
「時に、雅羅様はコンビニのアルバイトは初めてか?」
「当たり前よ。私は代々軍人の家系なのよ、商人なんて誰もしたことないわ!」
 そうは言っても、雅羅は自分を変えるためにパラミタにやってきた。そのために不慣れなコンビニのバイトに応募したのだろう、と豊和は思った。
「ふふ、だが大船に乗ったつもりで良いですよ? 実は私はゲーム○ーイが発売した頃から日本に滞在していたクチでな。コンビニはよく利用していた。その私がコンビニ店員として働く以上、もはや競合他店に勝ち目無しだ!」
「レミリアさん? 何か秘策があるのですか?」
 豊和が聞くと、レミリアは金色の瞳を輝かせる。
「店員には一つ、絶対に覚えておいて欲しい事がある。それは……ショーケースの中の肉まんやから揚げは絶対に切らすな、という事だ」
「へぇ……それはどうして?」
 雅羅が後ろのホットスナックの容器を見てレミリアに聞く。
「ある日ゲームにはまって気がつけば深夜。小腹が空いてコンビニへゴー! しかし、楽しみにしていた肉まんは売り切れ! から揚げも調理中! 哀しく呻く腹の虫! そんな絶望感を客に味合わせてはいけないのだ!絶対に!!!」
と、拳を握って熱弁するレミリア。
 豊和は「そういう無駄使いが家計が火の車のガソリンとなっています!」と突っ込もうとしたが、敢えて口をつぐむ。
 早苗程ではないにしろ、豊和もまた「夜勤ならきっとお給金も沢山出ますよね?」という思いで眠い目をこすりながら夜勤バイトに従事していた。
「……言っておくが、体験談ではないからな?」
「本当かしら?」

 その時、ドンッとビール数缶とピーナッツ等のおつまみをレジに載せる客が現れる。
「いらっしゃいませー!」
 豊和がレジをピッピッと打ちつつ、奇妙な匂いに鼻をひくつかせる。
 チラリと客を見ると、どう見てもアルコールが大量に摂取されている息の匂いがする。顔も真っ赤だ。
 雅羅が豊和の打った品物を袋へと入れていく。
「おい、ねーちゃん?」
「はい?」
 雅羅が顔をあげると、男は雅羅の腕を触る。
「ねーちゃん、ベッピンさんだねぇー? 今晩何時まで働くのー? エッヘヘヘ」
「さぁ、シフトでは朝までですね」
 あくまで笑顔で努めようとする雅羅だが、男は執拗に言い寄る。
「なー、こんなとこより一杯金あげるからさぁー、俺と一緒に……」
 豊和は雅羅の不幸体質を知っていた。
 蒼学の図書室へ東洋魔術の資料を探しに行く時に『なんだかいつも不幸オーラ纏ってる人』と、雅羅をたまに見かけていたからである。
「(しかし、こんな所でも酔っ払いにナンパされるとは……)」
 不幸にもこういう場面で役に立つレミリアは『コンビニの命!』と宣言したホットスナックコーナーの補充に向かっていた。
「なぁ……?」
 酔っ払いの腕が雅羅をガシリと掴み、雅羅の顔色が変わる。
「いい加減にッ……!!」
 雅羅がそう言い、平手打ちの一発でもかまそうとした時、豊和が底抜けに明るい声で会計を言う。
「すいませーん!! お会計600Gになります!」
「あ? おお、にーちゃん、このおねーちゃんは幾らだい?」
 男が財布を開いて硬貨を豊和に渡そうとする時、豊和が密かに雷術を溜めた手で男の手を硬貨ごと握る。
バチィィッ!!
「あ、痛テッ!?」
「はい、丁度。あ、雅羅さんはホットスナックの方を手伝ってきてもらえますか?」
 豊和がウインクして雅羅がその意図に気づく。
「ええ、ありがとう。豊和」
 そう言うなり男の腕を振りほどいた雅羅がレミリアの去った方へと向かう。
「おい、にーちゃん? 今手に痺れが……」
「ここはそーいうお店じゃありませんっ!」
「な、何をぉぉ!?」
 酔っ払いの男が腕を振り上げる。
 そこに同じく店員の洋がツカツカとやってくる。
「何か、トラブルでありましょうか?」
「あん? ……ああ、いや何でもねぇよ」
 男は洋を見て直ぐ様態度を軟化させ、店を出て行った。
「助かりました、洋さん」
 豊和が洋に頭を下げる。
「ええ。コレが火を吹かないで良かったであります」
「コレ……?」
 レジから雅羅と豊和がヒョイと洋の指すものを見る。
 エプロンに隠れた洋の腰には自衛用のマシンピストルが装備されていた。
「外してないんだ……それ」
「基本的には荒野の中なので、用心にこしたことはありません」
 洋を見ていたセルシウスは「ううむ。店員の皮を被った軍人を置くとは……夜は一味違うな」と頷く。
 こうして洋の威嚇により一人の客の生命は守られたものの、ちょっと変わった場所では別の生命が絶滅の危機を迎えていた。