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コンビニライフ

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コンビニライフ

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「何か盛り上がっているようだな。結構な事だ」
 
月夜の黒焦げのナゲットを頬張り、涙を流して買い求める客(男のみ)を見つつ、セルシウスがそう呟く。
「店長代理殿も参加されますか? 食べ残しは駄目だそうですが……」
 洋がセルシウスに問う。
「いや、私は店長代理として自身の健康管理を考えねばならぬ」
「賢明なご判断であります……では説明の続きを致します」
「頼む」
 勇敢で軍規を重んじる洋とは何かウマが合うな、とセルシウスはこれまでの会話から感じていた。ゆえに、店員として店内の巡回任務を行っていた洋にコンビニについてのより詳しい説明を求めていたのだ。
 要請を快諾した洋は、店内を回りながらセルシウスにコンビニを説明する。
「コンビニ、正式名称はコンビニエンスストアといいます。基本的に補給拠点である配送センターから定期的にトラックなどで送り込まれる食糧、日用雑貨などの販売をしております」
 飲料のコーナーで洋は一つ商品を取る。
「こちらは飲み物になっております。未成年にはお売りできませんが、こちらの店舗では酒類も扱っております」
「うむ……特にコンビニでは酒類の販売に厳しいと聞いたが、何故だ?」
「酒類を未成年に売った場合、煙草より面倒な事になるからであります」
「面倒……アル中か!」
「ええ。煙草でラリる事はあまりありませんが、酒は人によってその許容量が違いますから」
と、洋は商品の側面にある印を指差す。
「実はこのシステム、バーコードと呼ばれるこの棒状のラベルでどの商品がどの程度売れたか記録、その店ごとに管理し、配送センターに送ります。そうすると人気のない商品は消えます。つまり新商品と人気商品だけが生き残るという激戦区! 広くない店舗であるが故の苦悩です。この効率的な物資管理、教導団も使っております」
「ぬぅ……昼間にも聞いたが、在庫を持てぬ狭い店舗で売上げを追求するのだな!」
「そうであります」
 唸るセルシウスを前に、洋は思惑通り事が進んでいる事を確信していた。
 洋の思惑。それはセルシウスにコンビニを教え、シャンバラの物資管理能力の高さを示して見せる事に他ならない。
 洋もまた、セルシウスがエリュシオン人である事を見抜いている一人であった。
 セルシウスがコンビニを作れるようにしながらも、シャンバラにはコンビニと言う効率的な補給拠点がある事と文明の違いを見せつけ、シャンバラとエリシュオンとの決戦の際の兵站を想像させる目的があったのである。
「だが、商品の仕入れ等、商品管理は誰がするのだ?」
「みと?」
「はい、それはわらわがしますわ」
 洋とセルシウスの後を付いて回っていたみとが、出番到来!とセルシウスの前に回り込む。
「基本的には店長の趣味が商品管理の基本となります。子供向けにお菓子とジュースをメインにするのか? 働く人のために昼のお弁当と夜のお酒か? それに立地条件、つまり誰が集まるのか、そう考えればコンビニの商品管理は簡単なのですわ」
「そうか……だが、この店は至ってそういう特色がないな」
「まだ、オープンして間もないからですわ。十分なデータが無いうちは、大胆は展開は出来ませんもの」
 そして、書籍コーナーへと移動しようとした時、レジにいた豊和とリリィから「洋さん、みとさん、ヘルプお願いします!!」との声に、洋とみとが立ち去った……その時、店の自動ドアが開いて一人の男、アポロトスが入ってきたのであった。
「あ!」
 小さく悲鳴をあげたセルシウスに、アポロトスも驚愕の表情を見せる。
「お、おぬしは、セルシウス!! ここで何を!!」
 エリュシオン独特のトーガを羽織り、やや白いものが交じる髭面のアポロトスにセルシウスが駆け寄る。
「アポロトス殿こそ……どうして!? 我がエリュシオン一の設計士と言われた貴方が……」
「ワシの変わりように驚いておるのか……?」
「当たり前です。私が貴方を師と仰いでいた事をお忘れですか!?」
「ふふ……もう三年も会っておらぬからな」
「何故、姿を消されたのです!? そして、どうしてここに!?」
「シャンバラの蛮族どもの物量と文化は恐ろしい。三年前、ワシは王に進軍を提言し、この地へ左遷されたのだ」
「なんと……」
 アポロトスが店内を見渡す。
「見よ! 蛮族どもはここに物流の拠点を築き、我がエリュシオンへの進軍を着々と進めておる。これを見過ごすワシではない」
「馬鹿な……ただの商店ではないですか?」
 一笑に付すセルシウスにアポロトスは険しい顔をする。
「今夜、それを確かめるのだ。幸いな事にこの辺りには盗賊の類が多くいてな?」
 アポロトスはそう言ってペットボトルを一つ取る。
「おぬしもその蛮族どもと同じエプロンを捨て、トーガのままエリュシオンに戻るが良い。早くな……」
 沈黙するセルシウスを残し、アポロトスは店の入り口に向かって歩き始めるのであった。