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第12章 新たな魂と誕生 story3

「暗い場所だと蛍光色って、かなり目立つんだよな。んーと・・・、こっちか」
 エースたちが儀式を行う小屋を見つけた頃、仲間と合流しようと紫音たちはリボンをたどる。
「なぁ・・・、もしかしてあれか?」
「いくらなんでもそんなはずは・・・」
 今にも崩れ落ちそうな小屋を見つめ、彼らがそんな場所を選ぶはずないと、唯斗は首を左右に振った。
「(唯斗殿、今どの辺りまで来ているんだ?なんとか儀式に使えそうな場所を見つけたんだが)」
「(古びた小屋の近くまで来ている。リボンが見当たらないが、どっちに進めばいいんだ?)」
 淵にテレパシーを送られ、どの方角に進めばいいのか聞く。
「(もうついたみたいだな。目の前の小屋があるだろう?その中で待っている)」
「(こんなところで儀式を!?)」
「(教会についても、ゴーストに襲撃される可能性があるからな。それに、これ以上歩き回って、また魔女に見つかるわけにもいかない・・・)」
「(ふむ・・・そうだな・・・・・・。追っ手の相手ばかりしていると、こっちが不利になるか・・・)」
 新たな命を与える場には相応しくないが、2人の魔女を救うためには止むを得ない、と小屋の中に入る。
「なんだか埃っぽいな」
「これでもルカたちがちゃんと片付けたのよ。入った時は、蜘蛛の巣とか・・・いろいろ凄かったんだから」
「大変だったみたいだが・・・アルファはここでいいのか?」
「えぇ。皆さんがわたしくのために、危険な目に遭ってまで、太極器の材料を取りに行ってくださったんですもの」
「だからといって一生に1度のことだぞ?」
「元々、わたくしはここにあって、ないような存在でしたのよ。館にいるオメガの悪夢から生まれたような者ですの。実体化した闇世界のドッペルゲンガーの森がなければ、わたくしは今・・・ここにいないんですから・・・」
「確かに・・・あいつらがオメガさんに、悪夢を見せてあの森を実体化させなければ・・・。こうしてルカたちと出会うこともなかったのよね」
 十天君が憎いはずなのにやつらがいなければ、アルファは存在しなかったと思うと、複雑な思いでいっぱいになってしまう。
「だからといって、あいつらの存在や行いを認められないわ。オメガさんたちを・・・いろんな人を傷つけてきた連中だもの。こんなことがなくっても、きっと会えたんじゃないかって・・・そう思うことしか出来ないわ。どうしてもそうとしか、思いたくないのよ」
「ルカ・・・もう言うな。ここにいる皆が、そうだと思いたんだ」
 今にも泣き出しそうにルカルカの背を、ぽんぽんと淵が軽く叩く。
「なんか雰囲気が暗いよーっ!今日からアルファちゃんが新しい存在になるんだよ?笑顔で見届けようよ、にかーってさ♪」
「クマラの言う通りだ。これから新しい命を得る彼女に、暗い顔ばかり見せるのはよくないからな」
「だよねっ、エース」
「どんなキレイな場所よりも。こんな沢山の人たちに囲まれて、この地で暮らす命をいただくんですもの。これ以上の幸せは望みませんわ」
「泡さんが来たら始めようか。彼女にも見届けてほしいからね」
 エースは生体魔術の本を開き、泡の到着を待つ。
「その間に俺たちは銀色のフラスコを作って金属を作るか」
「わらわが無事に守りきったぞ」
「ありがとう、エクス」
「太極器の破損箇所を修理するんだよな?」
 紫音はエクスの傍から覗き込み、魔力の結晶をフラスコに入れて魔道具に作り変えている様子を見る。
 その中で結晶がアーバーのように溶け、じわじわと這うように溶け込んでいく。
「へぇ〜すぐに出来るのか。ちょっとインスタントな感じがするけど」
 銀色に変化していく様子をもの珍しそうに観察する。
「かなりの量を集めたはずだからな。これで純度の高い、金属を生成出来ればいいが」
 唯斗は集めておいた砂鉄をザーッとフラスコに入れ、その中にぽとんっと残りの結晶を入れる。
 結晶と砂鉄が混ざり合い、ゼリー状のとろとろした淡い琥珀色の金属へ変質していく。
「解けた金属だというのに、スプーンですくっても平気な温度なのだな?」
「確かに不思議だよな、エクス。これは水と同じような温度なんだ」
 首を傾げる彼女に見せてやる。
「触れても平気なのか・・・」
「破損した部分に塗りつけていく感じだな。完全に液体っていうわけじゃないから、修復しやすいんだ。エクス、内側を指で押さえてくれ」
「ふむ、他のところにつかないように、気をつけねばな」
「それだけじゃない。厚みを均等にしないと、動作不良を起こしかねない」
 指先につけ撫でるよう、エクスと一緒に修復する。
「―・・・よし。後はこの中の小さな輪に魂をはめこむだけだ」
「それじゃあ魂をもらう人以外のものは返しておくわ」
 サンプル用に預かった魂を、小箱から取り出したオルベールは紫音たちの身体に戻した。
「俺じゃなかったのは、ちょっと残念だけど。アルファに適合する相手がいてよかったぜ!」
「地球人の魂は2人とも合わなかったけど、まさかルカが縁者なんてな」
「えへへ♪だってアルファと私はもう魂の姉妹だもの」
「ルカがそうなら、オイラたちもってことだよね」
「わっ私も、アルファさんと姉妹ですか!?」
「あはは、なんだか急に家族が増えた感じがするな」
「家族・・・。それも、ずっと独りだったわたくしには無縁な言葉ですわね・・・」
「友達だっていっぱいいるじゃないか。ここには寂しいことなんて、何もないんだし。準備が終わってるまで、待っていようぜ」
 わしわしっとアルファの頭を撫でて、紫音が笑顔を向ける。



 魂の縁者から少し分けもらう前、リボンをたどりやっと泡が到着した。
「ずいぶんと汚い小屋ね。本当にこの中かしら・・・」
 眉を潜めて訝しげに古ぼけた建物を見つめる。
「皆・・・いるの?」
 扉の傍から小さな声音で言うと・・・。
「泡殿か?皆、中で待っているぞ」
 中から聞き慣れた仲間の声音が聞こえてきた。
「明りはそれ1つしかないのね」
「あぁ、奥の方にな。それにあまり明るくすると、ゴーストに気づかれる危険もある」
「儀式どころじゃなくなってしまうわね・・・」
「そういうことだ。扉を閉めてくれないか?」
「あっ、ごめん」
 僅かな明りでも見つけられては、やつらが寄ってくるかもしれないという淵に、泡は慌てて扉を閉めた。
「ねぇ、アルファ。魂を提供する候補者ってもう決まったのかもしれないけど、私の魂も適正があるか調べてもらってもいいかな?」
「泡さんと・・・?」
「オメガに会ってね、アルファの事やこの仲間達で行おうとしている事を話したんだ。そしたら“理性で制御しようとしても、本能が欲して欲にかられていつ奪われるか分からない”って言われたわ・・・まぁ、オメガ本人に言われた訳じゃないけど」
「その方の言う通りだと思いますわ・・・」
「だからって私は諦めたくない。オメガとアルファ、2人が笑顔で一緒に遊べる、そんな未来を作りたいの!」
「でも、皆さんが何て言うか・・・っ」
「だから、私の魂を使ってほしい・・・そうすれば、いつでもどんな時でも私とアルファは一緒に居られる・・・本能だって理性で抑えられるはず・・・。だって、2人でオメガの所へ行った時、アルファはオメガの事を襲わなかったじゃない・・・ね?」
「えっと・・・それは・・・・・・」
 彼女がその場にいなければ、奪おうとしたかもしれない、という言葉を飲み込む。
「簡単に決められることではありませんし。あちらにとって、わたくしは命そのものを、奪おうとするような恐怖の存在でしかありませんのよ」
「―・・・そっか、すぐ受け入れらることじゃないものね。オメガを守っている人たちにとっても、そうだから・・・。ごめん、何だか急ぎすぎちゃったみたい」
「いいんですの。わたくしたちのことを、思ってのことでしょうから」
「えぇ・・・そのためにも。魂の縁者か、調べてくれないかしら」
「分かりましたわ。それではお願い出来ますか、エースさん」
「いいよ。えっと・・・まずはチョークで、床に陣を描いて・・・。で、教えてもらった術を唱えればいんだな。アルファさんと泡さんの手の平を重ねて」
「わたくしの手の平を上に重ねるんでしたわね」
「ていうことは・・・、私は下ね。こうかしら?」
「―・・・うん、そんな感じだな。この魔方陣の中に、術の対象者だけが立つんだ。―・・・もう少し真ん中に来てくれるか?」
 寄せるように手をひらひらさせて、立ち位置を指示する。
「Die Seele, Schicksal oder das nein, daβ Sie fordern, Die Seele, die Uns Verbindet, Verwandten・・・Karma, Aussehen entscheiden」
 “この魂、汝が求める宿縁か否か、魂で結ばれし・・・縁者か見極めよ”
「手の平の間が・・・赤く光ったわ」
「うーん・・・適合しないみたいだな。縁者の場合は緑色に光るんだ」
「こればかりは友達同士でも、どうしようもないわね・・・」
 自分も魂を分けてあげたかったと、少し残念そうに俯く。
「そう気を落とすことじゃないわ、泡ちゃん。これが成功すれば、ずっと一緒にいられるんだから」
 オルベールはニコッと微笑み、彼女を元気づける。
「アルファちゃんと魂の縁者の皆、こっちに来てちょうだい」
「どれくらい取るのかしら?」
 ちょいちょいと手招きされたルカルカたちはオルベールの傍へ寄る。
「本来は1g分いるから、その3分の1欲しいけど。そんなにもらうと提供者に負担かかるのよね。まぁ・・・必要な分はベースの魂を元に、太極器で作り出せるみたいだし♪」
 ほんの少しだけ魂を取り出し、手元へ引き寄せる。
「相手にも自分にも偽らない、真っ直ぐな魂だわ♪次ぎはクマラくんよ、いらっしゃい」
「はーいっ」
「とっても元気で素直そうな魂ね」
 取り出された無邪気な少年の魂が、ビー玉のようにキラキラと輝く。
「最後は睡蓮ちゃんね」
「私の魂も、アルファさんの一部になるんですよね・・・。何だか不思議です」
「フフフッ、そうよ。この色合いを見る限り、優しくていい子みたいだわ。見たままかしらね?」
 曇りのない鮮やかな桜色の魂を寄せ、ニコッと笑顔を向ける。
「これで揃ったけど。唯斗くん、太極器のどの辺りに埋め込めばいいのかしら」
「緑色と水色のチューブをつないでいる輪の中に、クマラの魂を・・・。茶色と水色のチュープがつながっている輪の、左側に睡蓮の魂、もう片方の輪にはルカルカの魂を埋め込むんだ」
「ちょうどピッタリなサイズね」
「それじゃあ、アルファ。この太極器を心臓のあるところに当ててくれ。アルファの元々の魂と結合するために、今までの記憶など・・・全て読み込み、形成させるんだ」
 オルベールから受け取ると陰陽の太極図が描かれた蓋を、かっちりと閉めてアルファに渡す。
「太極器・・・。これが・・・わたくしの魂を作り出すものなのですわね」
 この地で一緒に笑って暮らしたい。
 友の温かい思いがいっぱい込めれた太極器を、ぎゅっと両腕で抱き締める。