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第13章 新たな魂と誕生 story4

「モップなどもあったのだが、さすがに古すぎて使えぬな」
 エクスたちは儀式をおこなう陣を描くために、魂の適合チェックに使った魔法陣を靴の裏でさっさっと消す。
「まぁ、都合よくキレイな掃除道具があるとは思えぬが」
「誰も使っていない放棄された小屋みたいだしな。それこそ、そんなのがあったら、やつらのトラップだろ?」
「確かに・・・唯斗の言う通り、見え見えのトラップでしかないな。―・・・これくらい消しておけば、発動に誤作動は起きないのではないか」
「そうだな・・・。―・・・鴉、そろそろ起こしてやってくれないか」
「おい、起きろ・・・おっさん」
 ぐったりしているラスコットの肩を鴉が揺らして起こす。
「んー・・・?完成したのか」
 茶色の髪をぐしぐしと掻きあげ欠伸をする。
「エース、その本こっちにくれ」
「あぁ・・・うん」
「―・・・えっとこのページ辺りに。ん、これだな」
 ぽんっと渡された生体魔術を開き、チョークで陣を床に描く。
「見たそのまま描いているのか?」
「いや、対象によって文字を書き変えなきゃいけないところもあるからな」
 アルファを中心に円を描き、術式の文字を書き込む。
 “Dort ist nein Ursprung das leben, das eine hexe will, drei seelen, zu leben. gibt es.
 Aufenthalt stelle licht und dunkelheit schmelzen inzu.groβ gr’’un.
 G’’unstig wasser ist stelle.”
 “元無き魔女が欲する生命を、3つの魂を糧に与える。
 留まる地は光と闇が溶け込む・・・大いなる緑。
 水に恵まれし地。”
「ずっと屈んでいると腰にくるな〜・・・。アルファ以外、陣の中に入るなよ」
「近くで見てるから、不安になったら私たちを見てね」
「えぇ、泡さん・・・」
「アルファが今取り込んでいるのは、オメガだっけか?その本物の魂が出たら、悪魔のお嬢ちゃんが回収してくれ」
「どのタイミングで取り出せばいいのかしら」
「生成し終わった魂をアルファが取り込む瞬間だ。数秒遅れるだけでドッペルゲンガーはここに留まれず、闇世界の戻ってしまうからな」
「難しい注文だけど、やってみるわ♪」
「本質の生命を読み込み、汝ら・・・ゼロを受け入れ記憶せよ」
 ラスコットの呼び声に反応し、大極器の大極図が回転し始める。
 3つの魂は混ざり合い、霧となって噴出す。
「見てっ、大極器から白色と黒い霧が出てきましたぇ〜」
 シュァアアッと吹き出るそれを、目を真ん丸にして風花が驚く。
「汝ら・・・1つの魂となり、魔の力から生まれしこの者が、この地で生きる糧となれ」
 霧はアルファの姿の形へと変わっていき・・・。
「―・・・・・・・・・っ!!」
 抱き締めるように身体へ入り込んでいき、器は声にならない悲鳴を上げる。
「無理やりひっぺがしちゃう感じなるから。ちょ〜と痛いけど、我慢してねアルファちゃん!」
「あぁああぁああーーっ」
 ズズズ・・・と身体から本物の魂がオルベールに剥がされ、見を砕かれそうな激痛に絶叫する。
 本物のオメガの魂がオルベールの元へ回収され・・・。
 新たな命が全て器へ入り込むと、フッと意識が途絶え、床に倒れこんでしまった。
「―・・・アルファ!」
「まだ大極器は動いている。勝手に入るな」
 友の元へ走り寄ろうとする泡を唯斗が止める。
「だってあんなに悲鳴を上げて倒れたのよ。傍に行って起こしてあげなきゃ!」
「不要に入られて陣が消えてしまっては、失敗する可能性だってある。アルファの身体に、魂が定着して起きるまで待て」
「でも・・・」
「心配なのは分かるが。助け起こしてやりたいのは、皆同じだということを忘れるな。先走らず信じて待ってやれ」
 どうしたんだ・・・何故起きないんだ。
 帰ってくるのはここのはずだろ・・・?
 いつ目を覚ますか分からない魔女の傍に、今すぐにでも駆け寄りたい気持ちを堪え、じっと見守る。



 夢の中から目覚めないアルファは・・・。
「この森は・・・イルミンスールの森とは違う感じがしますわ」
「アルファ、おいで♪ルカたちと一緒に遊ぼう」
「今日からオイラたちと、ここで暮らすんだよ!」
 見知った顔の2人が魔女を手招きする。
「―・・・この薄暗い冷たくて凍えそうな森は・・・。もしかしてドッペルゲンガーの森ですの!?わたくし・・・さっきまで小屋の中にいましたのに」
「えー、何か夢でも見たんじゃないのかな。アルファちゃんはずーっと、ここにいたんだよ」
「早くこっちに来いよ」
 どこか見覚えのあるもう1人の者が、彼女の手をぎゅっと掴み、引き寄せる。
「俺たちがいるのは、そっちじゃないぞ。約束しただろ?ずっと一緒にいるってさ」
「帰ってきてよ。また遊園地とかに、遊びに行こう。アルファ・・・」
「おまえたちはアルファちゃんに触っちゃダメ!」
 彼女を連れ去ろうとする手を、バシッと魔女の少年が叩く。
 闇世界と元の世界がすっぱり切り離されたかのように、鏡のような壁で2つの世界が断絶された。
 それは器が生まれた場所へ、引き戻されなくなったからだ。
「美味しいお菓子とかいっぱい食べて、ショッピングしていっぱいオシャレもしようよ。今度は皆とね」
「ルカもコーディネートしてあげたいな♪」
「どこに行きたい?俺たちが連れて行ってやるよ!」
「わたくしが・・・行ってみたいところ・・・。それは・・・・・・」
 言葉を終える間もなく目が覚めた場所は・・・。
「アルファさんが目を覚ましましたよ!」
 睡蓮は青色の瞳に涙を浮かべ走り寄る。
「ずっと眠ったままかと思って、心配したんですよ」
「ごめんなさい、帰ってくるのが少し遅くなってしまったようですわね」
「帰ってくるって・・・?」
 何のことかさっぱり分からない少女は、きょとんとした顔で彼女を見上げる。
「お誕生日おめでとう!今日が、アルファちゃんが生まれた日だよ」
「わたくしが・・・生まれた日?」
 まだ意識がはっきりしない中で、ぼんやりと辺りを見回す。
「ここに・・・ずっといられるんですのね」
 誕生の場であり、一生を過ごす場をこの地に選んだのだ。
「そうだぜ!なかなか起きないからヒヤヒヤしたな〜」
「夢の中で紫音さんたちの声が聞こえて・・・。そっちじゃない、こっちだって・・・」
「うん・・・?アルファが言うなら、たぶんそうなんだろうな。あははっ」
「アルファさんに似合うお花はやっぱり、この白い椿かな」
 少女の青色の髪に、エースが白い椿を飾りつける。
「うん似合うね。花言葉は何か分かる?」
「いいえ、分かりませんわ・・・」
「完璧な愛らしさ、だよ」
「そんな・・・わたくしはエースさんが思うほど、可愛くありせんのよ・・・」
「ううん、とっても可愛いよ。ね、皆もそう思うだろ?」
「ルカもそう思うけど?淵の感想も聞いてみちゃおうかな」
「堂々と言えるわけが・・・っ」
「んー、赤くなったわね?」
 オルベールがニヤニヤしながら、からかうように言う。
「あっはは、皆若いな〜」
「30代でもうおっさんな言葉しか言えないのか」
 タバコをふかしながらじじくさいセリフを言うラスコットに鴉が顔を顰める。
「え〜・・・三十路なんてもうおじさんだって」
「―・・・老けたことばかり言って、いろいろごまかしているよな。何者だ・・・、あんた」
「通りすがりの医者だったり、ボランティアの魔法使いさんだったりするけど。基本的に、悪〜い子をお仕置きする係りって感じだな」
「ほう、仕置きか・・・」
「後はまだヒミツ♪」
「(表情が読めないヤツだな・・・)」
 考えがまったく分からない男だと眉を潜めた。



「それじゃアルファ・・・。オメガの魂を返しに・・・謝りに行こう?」
「泡さん・・・返すだけでは、本当の謝罪にはなりませんのよ」
 まだそこに行くべきではないと、ふるふると首を左右に振る。
「今まで皆さんにも、ご迷惑をおかけしましたし。わたくしも相応の恩返しをいたしませんと・・・」
「そんな・・・・・・迷惑だなんて思ったことないのに」
「オイラたちが好きでやってることだし。皆、アルファちゃんが大好きだから、一緒にいたいんだよ」
「でもこれ以上、危険な目に遭わせるわけにはいかないですわ」
「(自分のせいで誰かが傷つくのが怖いのは、館にいるオメガと一緒なのね・・・)」
 独りで行こうとする彼女の姿に、泡はもう1人の友人の姿と同じように見えた。
「十天君たちは仲間をたくさん、封神されましたわよね。それだけでなく、研究も中断させたりしてきましたし。あの方々の立場になって考えてみたんですの」
「あいつらの・・・?」
 ルカルカは眉を潜めて彼女たちの、次ぎなる企みがなんなのか、想定するアルファの話を聞く。
「同じように苦しみや、悲しみを与えようとするに違いありませんわ」
「まぁ、十天君ならやりかねないわね」
「ここのいる皆さんに対してか・・・」
「研究所を破壊しに行った人たちに、絶望を与えるってことかしら?」
 格子の外を覗きアスカは研究所がある方へ視線を移す。
「―・・・えぇ。あくまでわたくしの予感ですが、何の守りもない者をターゲットにするはずですわ。2度と歯向かう気力が起きないようにするために・・・。殺そうとするか、人質に取ろうとしてくるかもしれませんの」
「誰かしら・・・?」
「アスカさんたちは、会ったことない方ですわね。ルカルカさんたちは、ひょっとしたら覚えているかもしれませんけど」
 首を傾げる彼女からルカルカの方へ振り返る。
「うーん?ちょっと思い浮かばないわね・・・」
「わたくしは直接会ったことはありませんが。館の彼女と記憶を共有していた頃ですから。その方の名前や過去の友達関係などは知っていますのよ」
「共有していたって・・・。今は向こうで何が起こっているのか、分からないってことね」
「えぇ、新たな魂をいただきましたから。別々の存在になったんですの。おそらくその影響ですわね」
「なんにしても人質にとったまま。どこかへ逃亡して、そのまま俺たちの前に現れなくなるってこともありそうだな」
「紫音さんの言う通り最も辛い目に遭わせる、彼女たちなりの仕返しを考えますと、そういう手段も考えられますわ」
「まぁいいや。どこに行きたいのかわんねーけど。勝手に行くっていうなら、俺たちも勝手についていっちゃうぜ。だよな、唯斗」
「オメガが自分に関わったばっかりに、狙われたと知れば・・・心を闇に沈めかねないからな」
「私たちの意志でアルファさんと助けたいと思ったんですし。一緒に行くのも、自由にさせてもらいますよ!」
 どこへ独りで行ってしまおうとしても、勝手に追いかけると睡蓮がアルファの手を握る。
「(もしかしたら・・・屋敷にまで、さらなる害を与えようとするかもしれませんわね)」
 それだけでは足りず、もっと悲しみを与えようとしてくるのではと、アルファは表情を曇らせる。

担当マスターより

▼担当マスター

按条境一

▼マスターコメント

こんばんは。

次回のシナリオは、今回のシナリオ内で終了した地点からスタートとなります。
十天君はゴーストを研究所から放ち、誰かを排除しようと企んでいるようですが。
もう1人消したい者がいるようです。
実験結果の該当者の描写はリアクション内にあります。

一部の方に称号をお送りさせていただきました。
それではまた次回、シナリオでお会いできる日を楽しみにお待ちしております。


2011.06.29

リアクションの一部を、修正させていただきました。