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第6章 生きる気力を奪う血の池

「ヨウエンたちを壊す・・・ですか。十天君に協力している以上は、どんな手でこようとも容赦しませんよ?」
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は闇に潜む少女に向かって冷酷に言い放つ。
 怒りや憎しみ、自己嫌悪・・・。
 ふつふつと胸の内から湧き出てくるが、気を荒立てることを通り越して冷静な態度だ。
「そうなの、じゃあ跡形もなく壊れて。お姉ちゃんをいじめる人は、皆壊れちゃえばいいの」
 プツッとトラップのワイヤーを斬り、斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)は憎しみの言葉を小さな声音で言う。
 パシィイッ、カンッカララ・・・。
 紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)に虚刀還襲斬星刀で全てナイフを叩き落とされてしまう。
「(普通の刀と違ってそれで終わりと思っても、思いもしない方向から斬られてしまうんですよ)」
 避けられないよう遙遠に目配せをする。
「我は射す・・・光の閃刃!」
 遙遠は小さく頷くと黒翼を抜き、光の刃を放ちハツネたちを斬り刻もうとする。
 ヒュヒュヒュッ。
「皆は傷つけさせません」
 完全に不老不死になった天神山が盾となりハツネたちを庇う。
「金光聖母さんの方にはもう1人いるからこっちに来たんですが。間に合ってよかったですよ」
「邪魔をするなら、真っ二つにしてあげます」
 ドシュゥウッ。
 天神山の身体を黒い刀身の餌食にし仕留める。
「あっけないですね」
 逃げる隙を与えず遥遠が、蛇腹の刃でハツネたちを狙った瞬間・・・。
 ゴゥウウウッ。
 背後から紅蓮の炎が襲いかかってきた。
「―・・・遥遠!」
 遙遠はハツネたちから離れ彼女を抱きかかえ床へ伏せる。
「生き物っていうのは・・・目の前の得物を仕留めたと思い、油断することもあるんだがな。冷静なフリしてそんなことも分からないとは・・・ククッ」
 勝利を目前に回りの気配を察知しきれなかった彼を鍬次郎が嘲笑う。
「(あまりにもあっけなさすぎたせいか油断して、ディテクトエビルで察知するのが遅れてしまいましたね・・・)」
「倒したと思った達成感にでもひたっていたのか?」
「そんな言葉くらいで気を荒立たせるヨウエンたちじゃありませんよ。(それにしても、ちょろちょろと動かれては、位置を探知しずらいですね・・・)」
 冷静さを保ちながらも、魔女たちの殺気と存在に紛れている彼の気配を探知しきれない。
「やあ、君が王天君とやらかい?・・・僕は新入生だから今までの経緯は知らないけれど、依頼だからね。討たせて貰いましょうか」
「オレ様を・・・てめぇみたいな、ガキがか?笑わせんじゃねぇよ」
 散々邪魔をされたあげく、さらに邪魔者が現れたことに王天君は苛立ち柄を握る。
「姿形だけで言うなら、そっちの方が年下に見えますけど?」
「見つけたわよ、シュウ!」
「うわっ、ティア・・・っ。(もう追いついてきたんですか)」
「こんな危険な任務を、まさか1人でやる気だったの?」
 勝手に1人で行った彼を軽く睨む。
「いえ、そういうわけじゃ・・・。―・・・銃弾がっ!?」
 ズドンッと足元に撃ち込まれ、ディテクトエビルで相手を探すものの、魔女の中に気配が紛れている上に姿がまったく見えない。
「光学迷彩で姿を隠しているようですが。見えなくとも吹雪で飛ばしてしまえば、問題ありません」
 ブリザードで闇に潜む東郷 新兵衛(とうごう・しんべえ)を遙遠が吹き飛ばそうとする。
「(―・・・・・・くっ、だが・・・銃弾までは・・・吹き飛ばせまい・・・・・・)」
 壁際に吹っ飛ばされながらも新兵衛は、彼に向かってスナイパーライフルの銃弾を放つ。
「遙遠、腕に傷が・・・っ。いくら痛みを知らぬ我が躯で痛みがなくても、ちゃんと避けてください!ライフルの銃弾は掠っただけでも危険なんですよ」
「(確かに・・・殺がれでもしたら、リジェネレーションでも治りきる保障はありませんからね)」
 スナイパーの攻撃には気をつけなければと徐々に癒えていく傷を見る。
「(というか遥遠も避けてくださいなんて、簡単に言いますけど。こっちの方が早く動けても、大人数を相手ですと避けづらいんですよ・・・)」
 ライフルはマシンガンのようには連射出来ないものの、一発命中するだけでも重傷になりかねない。
「いい感じです、この怒りの感情・・・」
「そんな・・・蘇るなんて!?」
 感情を糧に姿を現した天神山を見た遥遠が驚きのあまり目を丸くする。
「鬱陶しいやつらだ、片付けていこうぜ」
 王天君は紅水陣を発動させようと、襲い掛かってきた者と仲間を円の中に囲み取り込む。



 ざぷっと靴を濡らす血の池を見たティアンが驚きの声を上げる。
「何ですか、この血の池は!?」
「ティアンまで術の中に入ってしまうとは・・・」
「まずはおまえからくたばってみるか?」
「うぐっ。(思ったよりも重いですね・・・)」
 玄秀は歴戦の防御術で鍬次郎の刃を錫杖でガードするが、あまり長い時間防戦一方では崩されてしまう。
 ディテクトエビルで姿を隠している者を探し、途中で積んできた花束を纏めた包装紙を、サイコキネシスで纏わりつかせようとする。
「(―・・・・・・自分も、・・・ずいぶんと、・・・なめられたものだな)」
「うわっ、失敗でしたか・・・」
 花弁で隠れ身の効果を解除しようとするが、あっけなくライフルで狙撃され血の池に落とされる。
「いつまでも1人の相手をしているわけにもいかないからな。沈んでもらおうか」
「うっ、もう腕がっ」
 ドボォンッ。
 足を滑らせた玄秀は血の池の中に倒れる。
「さっさと散りな」
「―・・・・・・っ」
 女王の加護で何とか掠っただけですんでいるが、避けているだけじゃいずれ相手の刃の餌食になってしまう。
「シュウったら、何をやっているの!」
「あいつの相手をしていてくれれば、ヨウエンたちが仕掛けやすくなりますね」
 玄秀を助ける様子もなく遥遠は王天君を狙う。
「我は射す・・・光の閃刃!!」
「んんっ」
 放たれた刃を虎徹でハツネがガードしようとするが、身体に傷を受けてしまう。
「このクソ野郎っ、ハツネに何しやがるっ」
 ドプ・・・と血の池から人の指のようなものが現れたかと思うと、人の手のように伸び遥遠を捕らえようとする。
「遙遠・・・・・・!?・・・邪魔をしないでください、魔女!」
「フフッ、あの男がそんなに大事かしら?」
 彼のところへ行かせまいとウィザードたちがブリザードで妨害する。
「(少し飛びすぎてしまいましたか・・・)」
 浮力が落ちてしまい、仕方なく遙遠が血の池へ降りる。
「こんなものに捕まるほど、遅くありませんよ」
「ヨウエンの敵・・・」
 ぼそっと傍で囁くような少年の声音が聞こえ・・・。
「また幻影ですか。―・・・・・・うっ」
 少女を傷つける少年の姿が目に映ってしまい、過去の古傷が再び痛み出す。
「こんな時にっ」
 血の塊の手に捕り生きる気力を吸い取られる。
「―・・・すみません、すみません。生きていてすみません・・・」
 がくっと膝を突きボソボソと小さな声音で、ネガティブな言葉を吐く。
「何言っているんですか、遙遠。生きていてくれなきゃ、遥遠が困ります!」
 彼女よりも少し大人びた女神のような女性の姿をした、僥倖のフラワシを降霊し彼を優しく包み込ませる。
「よくもふざけたことをしてくれましたね」
 生きる気力を取り戻した遙遠は、王天君をギッと睨む。
「(やっと他の人が離れましたね)」
 玄秀は得物の九曜を伸ばし・・・。
「術士だと思って近接戦を仕掛けてこないと思ったかい!甘いな!」
 氷術で作り出した氷の刀で王天君に襲いかかる。
「王天君お姉ちゃんは傷つけさせないの」
 彼の刀をハツネが虎徹で叩き折り、壊してやりたいとギッと睨む。
「シュウ!無理しては駄目よ!待ちなさい!」
 玄秀が狙われないように鍬次郎の刃を、バスターソードで受けているティアンが叫ぶ。
「(相当頭に血が上ってきているようですね。これ以上、仕掛けるのはやめておきましょうか)」
 王天君を守ろうとするハツネに恐ろしい殺意を向けられ、当初の目的のために動き、きょろきょろと辺りを見回す。
「まったく見当たりませんね・・・」
 氷術で足場を作り術で補強しながら進み、生きる気力を吸い取ったものが、どこへ集められているのか探る。
「(もう、もちこたえられないわ)」
 吹っ飛ばされたティアンが血の池の中に、尻餅をついてしまう。
「なに、これ・・・!くっ、離せっ!触れられた所から力が・・・抜けて・・・あぁっ」
 必死に亡者の手から逃れようとするが、生きる気力を徐々に吸い取れれていく。
 パートナーが沈んでいく中、玄秀の方は・・・。
「陣の中枢がありませんが、特に集めているというわけじゃないみたいですね。術者が維持出来ないようにするか、その者が解除する他に解除する方法はないということですか」
「―・・・シュウ、私・・・もぅっ」
「ティア!?対策が無いなら逃げればいいものを・・・!」
 ようやく彼女の異変に気づき駆け寄るが、すでに生きる気力を吸い取られてしまっている。
「私・・・この世にいたくないわ」
「何を言っているんですか、ティア!」
「生きていてごめんなさい・・・この世にいてごめんなさい・・・。私はどうしようもないヘタレだわ」
「しっかりしてくださいっ」
 身体を揺すり正気に戻そうとしようとするが、彼女はナラカに逝きたいというふうにしか言わない。
「そっちももう、無理そうだな?」
「このままでは近づくことすら出来ないですね・・・」
 魔女の魔法から逃れつつ、必死に手の群れを避ける遥遠へ視線を移す。
「まさか逃げるわけないですよね?もっと遊んであげますよ」
 天神山は禍心のカーマインでクロスファイアを放ち彼女を襲う。
「これはもう、多勢に無勢です・・・っ」
「いったん退きますが、これで諦めたわけじゃありませんからね」
 遙遠はパートナーを連れて紅水陣から脱出する。
「さて、金光聖母たちと合流しようぜ」
 彼らがいなくなるのを見て王天君は陣を解除し、ハツネたちと魔女を連れて研究所から出て行く。



「うぅ・・・シュウ・・・・・・。なんだか気分がだるいわ・・・」
 少しずつ生きる気力を取り戻してたティアンが起き上がる。
「(予定とは違いますが、まぁ逃がしたことにはかわりありませんからね)」
 玄秀は立ち上がると彼らを追おうとする。
「ちょっとまさか、追いかけていく気?これ以上は無理よ」
 彼がまた無茶をすると察知した彼女が、彼の袖を引っ張り連れ帰ろうとする。
「一度受けたことはやり通さなきゃ。いやなら1人で戻ってください」
「んもうっ、仕方ないわね!」
 顔をムッとさせながらも彼を放っておけずついていく。
「あの後を追っていけば、十天君たちにたどりつけるってことでしょうか」
「絶対に逃してはいけません!」
「えぇ、後2人は葬らないと、オメガさんがあの屋敷から出られませんから・・・」
 物陰から様子を見ていた遙遠たちが後を追う。