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第9章 偽りなくとも伝わりきれないもの・・・

「封神台や不老不死のベースの技術を、あの人たちは全部知ってたっていうことかな?」
 椎名 真(しいな・まこと)が呟いていると・・・。
「うるさい、探し物に手中出来ないだろ」
 睨むように椎葉 諒(しいば・りょう)が言い、彼を黙らせようとする。
「何か気になってさ。過去にも同じようなことがあったのかな、って思って・・・」
「他に知っていそうなヤツといったら。紀元前に生きていた英霊とか、ナラカ人なら知っていそうだが。あいにく俺は知らないんでな」
「だよね・・・。封神台のことを知っていても、作り方までは知っているとも限らないし」
「まぁ、ここにある文献には記されていないようだが。そもそも、真たちに教えたのは誰だ?」
「えーっと・・・確か、十天君と敵対している妖怪だったかな」
「そいつに聞けばいいんじゃないか。十天君どもが真に教えるとは思えないしな」
 思い出しながら言う真に直接聞けばいいと、冷たくあしらう。
「うーん、そうだよね。ねぇ、不老不死になった人とかっていないのかな?過去にさ」
「いろんなヤツが挑んでいるようだが、成功した記述はどこにもないぞ。そう簡単になれるものじゃない、ってことだろ。死ななきゃ永遠に生きてる種族もいるし」
「あぁ〜、魔女とかはそうだよね。でも俺が知りたいのは、そういうこことは違うんだよなぁ。―・・・何か今更だけど。機材や材料って、魔女と十天君だけで要したのかな」
「本当に今更だな」
 諒にそっけなく、さらっと言葉を返される。
「そうじゃなきゃ、今頃大騒ぎになってるんじゃないか?じゃなきゃ、一切情報が漏洩しないなんて妙だろ」
「う、ごもっとも・・・。過去に俺たちみたいに止めようとしている人がいたなら、他の人が気づいてもっと早く片がついているはずだろうし」
「そういうことだ。それに知っていそうなヤツに聞こうにも、今は他の生徒と行動してるようだからな」
「聞ける状況かも見なきゃいけないか」
 謎ばかり脳内に蓄積していき、真はしょんぼりとする。
「俺の方は義体を作る技術が欲しいだけだし。不老不死以外に、役立たないものは処分してやるよ」
「―・・・・・・うん」
 もし見つかっても道具と教えてくれる人がいないと、無意味なんだよな・・・という言葉を飲み込む。
「(はぁ、こんなところに来てまで、懲りねぇな)」
 肉体がある者のと、憑依する者がいないと活動出来ない霊体との違いかと思いつつ、原田 左之助(はらだ・さのすけ)は呆れ顔をする。



「魔女たちが慌てて外に逃げていっているアル」
 荷物を纏めて出て行く魔女の様子を、チムチム・リー(ちむちむ・りー)が物陰でじっと見る。
「チムチム・・・そっちは見つかった?」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)はパートナーが実験動物を探せたか声をかける。
「ううん、見つからないアルよ」
「困ったね。もう持ち出されちゃっているのかな」
 どこかでまた実験に使われるのではとレキは不安そうな顔をした。
「レキ、諦めちゃそこで終わりアル」
「そうだよね・・・」
「あぁそうだ、レキ。ドッペルゲンガーの魂を作ろうとしている人と、偶然会ったアルよ。チムチムが見つけた魔道具が欲しいっていうから、あげたアル」
「新しい命が手に入れば、もうオメガさんは教われないってことだよね?」
「うん。けど・・・十天君が制裁を加えるかもしれないアル・・・」
「これだけ妨害されていれば、そうなっちゃうか」
 裏切り者や屋敷にいる魔女を、このまま放っておくわけはない。
「死んだら封神台へ行かず、2度と生き返らないんだよね。もう、誰かが悲しんだり、傷ついたりするのはやだよ・・・」
「確か、封神台の下層部にはいけないけど、上層部には行けるはずアル・・・。とっても危険だから、少人数じゃ無理だから行けなかったけど。十天君たちならやりかねないと思う」
「っていうと・・・?」
「守ってくれる人がいなくて、制裁として消そうとなるなら・・・。1人しかいないアルよ!」
「嘘・・・、そんなっ」
「まだ治りきってないかもしれないし、ちゃんと記憶もあるかどうかも分からない・・・。けど、行かなきゃきっと後悔しそうな・・・。そんな気がするアル・・・」
「早く実験動物たちを助けて、行かなきゃ!」
 焦りながらもレキたちは捕らわれたモルモットたちを探す。
「この部屋は・・・もう放棄されているみたい。入っても大丈夫アルよ、レキ」
 チムチムが先に入って様子を見て、魔女たちがいないと分かるとパートナーを手招きする。
「いたアルよ!だけど誰かが機材を破壊した時に、破片が刺さっちゃっているアル」
「連れ出して手当てしなきゃ!」
 カゴを抱えてレキたちは外へ出ようとする。
「誰も破壊しに来ないなー」
 怪我人をイナのところに連れて行こうと、ミナは研究所内をうろつく。
「ん?誰か慌てて外に出ようとしているけど。手に持っているのって、実験動物?ちょうどいいや、それでもいいから連れて行こうっと」
 パートナーのところへ連れて行こうとレキたちの傍へ駆けていく。
「檻の中のヤツが怪我しているのかな?こっちに来て、イナ姉が手当てしてくれるからさ!」
「えっ、あ・・・ちょっと!!」
 まるで人攫いのようにミナに引きずられ、救護室に連れて行かれる。
「怪我人・・・!じゃなくって、動物・・・ですか?体に何か刺さっていますね、早く手当てしてあげないと!」
 苦しんでいるモルモットをカゴから出してやると、イナは小さな針を熱湯消毒する。
「麻酔もないから痛いけど、我慢してくださいね」
 破片を取ってやるとすぐさま細い糸で縫い合わせ、カーゼに含ませた液でちょんちょんと消毒してあげる。
「応急処置はこんなものでしょうか」
「じゃあ早くここから出よう、外側から研究所を生徒たちがもうすぐ破壊するアルよ」
「えぇ!?急がなきゃ生き埋めになっちゃうよ、イナ姉〜」
「せっかく救護室を作ったのに・・・」
「救護室よりもイナ姉、自分の命を大事にしてくれ!」
 めそめそとするイナをミナが、ずるずると引きずる。



「うわっ、魔女たちが来たぞ!って、スルーされていないか?」
 通り過ぎていく彼女たちを見て、左之助がぽかんと唖然とする。
「もうすぐここを破壊するみたいよ、急いで出ましょう!」
 そう騒ぎながらゲドーが破壊した壁の裏口から逃げていく。
「俺たちも行くぞ!」
「もう少し見ていたい、先に行け」
「黙れっ、これ以上は待てないぞ」
 真の身まで犠牲にする気かと左之助は彼を、無理やり引っ張る。
「この野郎、何すんだ」
「おまえ1人の体だと思うなよ」
「―・・・何か、響きが気持ち悪いんだが」
「はぁ?さっぱりわかんねぇな。さっさと行くぞ」
 左之助が研究所から出ると、レリウスたちが研究所の破壊を始めた。
「全て燃えてなくなりなさいっ」
 爆炎波の炎で叩き壊しにかかる。
「コンクリか・・・。ちょっとメイスがキツイな」
「木造は研究所に向かなかったのでは?引火とかの問題で」
「う〜ん」
「下がってください、ハイラル」
 爆弾を屋根に向かって放り投げると、鼓膜を破りそうな爆音が轟く。
「ラスタートレインでは破壊しづらいみたいですね」
 美羽たちと外に出てきたベアトリーチェも、破壊しようとするが物理的ダメージのないものでは壊しきれない。
「もう中に誰もいないみたいだな」
 グラキエスがドラゴンアーツの鉄建で壁を粉々に破壊する。
「支えている柱さえ壊せば、もう使い物にならないだろう?」
「了解だ、アウレウス」
 建物の四隅を狙いランスバレストで崩壊させる。
「私が守るべきものは・・・」
 目の前にあるはずなのに、何だか物悲しいように思えたベルテハイトは、研究所を破壊しつつも心に靄がかかっている。
 暴走した魔力に体を裂かれ、無残な最期をとげた弟の代わりとは思っていないが・・・。
 契約してくれた彼のことを、心のどこかで本当に代わり扱いしていないか、自分の気持ちを疑ってしまう。
 弟と同じ金の瞳の彼は狂った魔力を宿している。
「いけない・・・っ。そんなことを思っているから、幻影を見てしまうんです・・・」
 無力だった自分が彼の助けになることで、助けられなかったただの贖罪をしているのかと・・・。
「ベルテハイト、おいベルテハイト!余計なことを考えると、幻影を見てしまうぞっ」
「分かっています・・・ですがっ」
「お前は俺をこの先も助けていく。それだけだろう?」
「―・・・ずるいですね、そんなことを言われたら。ずっと一緒にいるしかないじゃないですか・・・」
 まだこれで終わりじゃないが、全て終わってもベルテハイトは幻影を見ないように祈る。



「行かないでください、魔女さん!」
 十天君について行こうとする魔女を、真言が止めようとするが、話を聞いてくれず怒気ばかりぶつけられる。
「あんまりしつこいと、ぶちのめしたくなっちゃうんだけど?」
「おい、こんなに必死になって連れ戻そうとしてんのに。その言い草はないだろ!」
 ツンとした態度で言う魔女にマーリンが怒鳴る。
「仲間を殺されてはいそうですかって、戻るわけないでしょ。ばぁ〜かっ」
「このっ」
「やめてください、マーリン!」
 今にも殴りかかろうとする彼を止める。
「助けられなかったことに関しては、謝るだけしか出来ません・・・。でも、この先ついていけば、命を落としてしまうことだってあるんですよ!?」
「落とさないかもしれないでしょ?じゃあねぇ♪」
「私は諦めませんよ・・・絶対に」
「はぁ・・・。じゃあさっさと行って、捕縛されているヤツと一緒に連れ戻そうぜ」
「マーリン・・・来てくれるんですか・・・?」
「おいおい、また1人で行くきか?守りたいなら、もっと他に頼れってーの」
 ばしっと彼女の背を叩き、魔女たちを追いかけさせる。