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リアクション
――東シャンバラ・雪山エリア2――
「……ぱるぱる……大変です、リッシュ」
水橋 エリス(みずばし・えりす)が言った。
その口癖がなんともまずい状況に陥ったのだとリッシュ・アーク(りっしゅ・あーく)は思った。
「どうした腹でも空いたか……? 俺がサバイバル技術で、そこらの猪を狩ってきてやってもいいんだぞ」
多分、違うだろう――。
そう思いながら、軽口を叩いて、答えを待った。
リッシュは知っている。
その答えを知っているのだが、答え合わせをしたかった。
「ぱるぱる……迷子です」
「だろう、な……。一体どれだけの時間、誰とも合わずに雪山を歩いてきたと思っている」
「人が遭難する時、それは誰にも見つからないから、遭難するのです。だから私は人気のない所人気のない所を巡れば必ず……」
なんとなく筋は通っているのだが、なんとなく間違っているような気もすると、リッシュは頭を掻いた。
「せめて何か反応があれば、合流でもできものだが……」
グオオオオオオオッ――!
「ほら、私の言葉通りです。きっとあの声の方向には、救助者が待っています」
*
「この人数だが、まあ……なんとかなるでしょう」
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)はようやく発見した雪火龍を木の陰から見、そう呟いた。
「ちっ、こんなときパッフェルでもいたら、遠距離から一撃で狙って脚を止められるってのによ」
「ごめんね、助っ人召喚に失敗したよ」
白狼の毛皮の外套に身を包み、雪とほとんど同化して見えるセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)が、助っ人にパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)を呼びきれなかったことを謝ると、つい愚痴った強盗 ヘル(ごうとう・へる)は手ですまないと制した。
「何、いないならいないで俺が撃ち抜いてやるぜ」
トレードマークのカウボーイハットのツバをひょいと持ち上げ、ライフルを構えたヘルは任せろと宣言した。
「うー、わくわくしてきたぜ。なあ、行こうぜっ」
ウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)が相対を待ちきれず腰を浮かせながらそわそわしているのをレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)が彼女のロングヘアを引っ張って制した。
「まあ、お待ちなさい……。本当にこちらは西に比べて少数なのです……。せめて……各々の狙いをきちっと理解してから参りましょう。私は……そうですね……火球とドラゴンが飛翔した時の対処を致しましょう」
「あたしは脚だぜ! だからアルハは尻尾な、尻尾!」
「うっす、あたいはずっと尻尾狙ってくよ! 姐さんに褒めてもらえるように頑張る!」
「それじゃ、俺も尻尾と行くぜぇ! 1人じゃ物足りねぇだろ?」
ガルム アルハ(がるむ・あるは)とオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)が尻尾を狙うことになった。
「俺は援護だ。ドラゴンへのダメージは期待するなよ」
「わかってるさ、ヘル。なら自分はウルフィオナさんとは反対の脚をいきましょう」
「じゃ、あたしは取り付いて頭でも狙います」
ヘル、ザカコ、セフィーと狙う場所が決まった所で、エリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)が武器を取った。
「では……私が一番槍を務めさせてもらう。用意はいいか?」
エリザベータの言葉に全員が頷いた。
「……全員……私に続けぇえッ!」
大きく深呼吸した後に、大号令を発した。
*
「ドラゴンよ、覚悟おッ!」
エリザベータが近づく気配に気付かないドラゴンではない。
地に脚をつけ休んでいた雪火龍は一気に脚を広げ身体を突き出し、威嚇に鳴き声をあげた。
「その程度で怯むとでも思っているのか!」
ならば、と首を動かし口内に火を溜め込むと、火球として吐き出した。
*
「はい、残念でした……」
レイナがアイスフィールドで氷壁を火球の前に続け、我慢比べを開始した。
「あなたの炎が消えるか、私の氷が溶けてしまうか……」
続け様に二度目の火球を氷壁にぶつけてくるのだが、三度目はなかった――。
*
三度目の火球と行く前にエリザベータが抜け、喉元に槍を突きつけドラゴンの頭を跳ね上がらせたからだ。
「よし、纏わりつくよ」
バーストダッシュで駆けるセフィーはその姿も相まって――まさしく雪原を駆ける白狼で、高い敏捷性をもってドラゴンの身体を登って行った。
一気にドラゴンの背を登りあげ、自らの外套を脱いだ。
「お気に入りだ、汚さないでくれよ」
それをドラゴンの片目に覆い被せると、剥がされないように馬乗りになってしっかりと握り引っ張った。
*
ドラゴンの意識が上へ上へと向けられる中、ザカコとウルフィオナが駆けた。
マントを翻してザカコはカタールを両手に、ウルフィオナはククリを二刀持った。
「さあてと、本気出していくよ! 大物相手だ、加減はいらないよなぁ!」
神速で駆けるウルフィオナが一刀のククリをドラゴンの脚に向かって投擲した。
ザシュと肉とは思えぬ硬いものを裂いた音の後、突き刺さったククリにウルフィオナが追いつくと、更に抉るように突き刺した。
「知ってるかぁ!? ククリってのはなぁ……」
抉り広げた切り口に、もう一刀のククリを突き刺し、こちらも手首を捻りながら抉った。
「血を吸うまで納めちゃいけないんだぜ! たっぷり吸わせてくれよなぁ!」
ウルフィオナは力のすべてをククリに込め、手を広げるように横裂きした。
それに対してザカコは円を描くように脚の周りをくるくると移動し、両のカタールで斬りつけていく。
「少しでもダメージを蓄積させないとですからね」
脚の裏側に回り、完全に死角に潜り込んだザカコは、まずは一刀を突き刺し、腕の力で振り上げ、更にもう一刀を突き刺すと、身体に巻きつけるように薙ぎ、十字の切り傷を与えた。
「おら、そのどてっ腹に一発」
遠くからヘルの銃声が聞こえ、その銃弾が宣言通りドラゴンの腹を撃つと、ヘルへ目標を定めたように前を向いた。
「何所へ往くのです? 貴方の相手はこちらですよ」
ヘルを相手に定めたはずのドラゴンだが、ザカコのアボミネーションに反応し、気付けば傷だらけの脚で踏みつけをしていた。
*
「ちびっこぉ、おまえのその小さな身体で尻尾を斬り落とせるのかぁ!?」
「ちびっていうなー! そっちこそ、ちゃんとやれんだろうね!?」
「ハッ……誰に聞いてんだよっ!」
ブンッ――!
オルフィナとガルムに振り回された尻尾の攻撃を、一方はジャンプで、もう一方は屈んで回避した。
「ほらみろー、ちびって便利なんだよ!」
「自分で言ってんじゃねぇか……!」
「ハッ――!?」
「さあて、おふざけは終わりだッ! 斬り落としてやるよっ!」
「あいよっ!」
ガルムが回転しながらアンカーを放り投げると、突き刺さったそれは重さも相まって尻尾を地に落とし、反動で深くに突き刺さった。
アンカーの抜き去った後、オルフィナが切れ目に更に剣で斬り付け、最後の一押しを試みた。
グオオオオオオオオオオッ――!
盛大に血を噴射し、龍はたまらず吠えた。
*
こうも集られては大型モンスターであろうとたまらない。
空だ――。
自慢の巨体を生かし、人が及ばぬ場所へ立てば、有利になろう――。
ドラゴンは翼を羽ばたかせ、地からその身体をわずかに浮かせたところで、
「逃げられるとでも……? もう大地に縛られることしかできないと……わかりなさい」
レイナの天のいかづちがドラゴンの両翼に落雷し、無様に大地に再び脚をつけることとなった。
情勢は決したか――?
*
「これは……マズイですね」
「ああ、助けに言った方がよさそうだ」
戦いの場へと追いつき、状況を見たエリス達は、狩りをする仲間達の元へと駆けた。
それは外から見て初めてわかる変化、状況――。
暴風と強雨で立っているのもやっとの天気の中、その台風の目が晴れているような、そんな現象――。
ドラゴンを避ける様に、青空が逃げ、黒く淀んだ曇天が覆い始めていた。
*
雪火龍が暴走した――。
高音の咆哮を天まで響かせ、体内の血液を炎に変えては、唾を吐くように吹き続けた。
かといってそれらが契約者を討つわけでもなく、ただただ虚空へ放つ。
傷ついた両脚を今一度広いスタンスでとり、両の手で雪面をバンバンと叩く。
そして身体を起こし仰いでは咆哮し、同じことを繰り返す――。
兎にも角にも、このドラゴンはもう終わったのである――。
圧倒的な畏怖も殺意も感じることはなく、さあ、確保かそれとも討伐かと、契約者達が歩み出て、それは起きた。
広い雪山がドラゴンに耐えきれず、固まった雪面が本来の露出すべき地面と共に割れた。
亀裂――クレバス――ッ!
ドラゴンが何度も何度も儀式を行うように行為を繰り返し、たちまちに穏やかな雪面が亀裂を多く走らせた。
動きが取れず、落ちないように尽力する契約者達を後目に、一等大きなクレバスにドラゴンはその身を投げた。
*
『うッ……手が……ッ』
ザカコがウルフィオナを、セフィーがガルムとオルフィナを、それぞれ岩壁に剣を突き刺し、クレバスへの転落を手で繋いでいた。
しかし、持ちこたえるには、あまりに厳しい状況だった。
だが、そこに丁度たどり着けたのが、エリス達なのだ。
エリスとエリザベータ、レイナがザカコ達を、リッシュとヘルがセフィー達をクレバスから救出し、なんとか事なきを得た。
『助かったよ……』
「いえいえ、無事で何よりです……んー……」
エリスはかけられる感謝の言葉を聞きながら、クレバスの奥底を覗いた。
(中々賢いドラゴンのようですね……下は洞窟に繋がっていますか……。多分開通していない未知の部分でしょう。上がダメなら下へ……。これでは狩りの方々も追撃ができないでしょう)
捕獲、討伐、いずれも成し得なかったが、深い傷を負ったドラゴンが再び陽の目を見るには、長い時間を要することは明白だった。
大型龍撃退――200点。
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