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リアクション
*
「おら、猿公、背中ががら空きだぜぇッ!」
ロジオン・ウインドリィ(ろじおん・ういんどりぃ)が馬乗りになり、エペを突き刺すのだが、勇みすぎたか――。
「おわッ!? 大人しくしやがれッ!」
大型猿を勢いよく起き上がると、身体を大きく振り回してロジオンを背中から引っぺがし、宙に飛ばされたロジオンのその脚をつかむと、味方に向かって放り投げた。
ドン――ッ!
「大丈夫か……?」
大吾がロジオンを受け止めると、攻めきれなかったことを恥じてか、その手を弾いた。
「まあ、勇気はかうぞ」
「うっせーよ」
「……くるな……」
急激に空気が冷え込むと、大猿獣の角を青白い煙が漂い始めた。
バチッ――!
割れるようなその音は雷のような電撃の類ではなく、氷が砕けるような音――。
「全力で受け止めて見せる……防御に自信がない奴は俺の後ろに下がりな」
大吾はアイスプロテクト、オートガード、オートバリアと持てる全ての防御に関する術を使い、盾を構えて腰を落とした。
「俺達みたいなちっぽけな存在は、1人1人がやることを必死にやらなきゃならないんだ」
それはロジオンを見ての言葉だ。
「説教かよ」
「違う、だから勇気はかうって言っただろ? あんたがまず大猿獣の注意をひいて立たせて、視線を俺に向かわせた。そして俺は俺の役目としてこの攻撃を防いで視線を釘付けにする。その間に誰かが攻撃をすればいいんだ。こうやって1つずつパズルを組み合わせるように戦っていこうぜ」
「ヘッ! じゃあオレは後ろで座ってるからな、攻撃を止めろよ」
大猿獣がアイスブレスを吐いた――。
凍てつく氷はまるで閃光のように煌めき、大吾達を襲うが、踏ん張り、己が盾で耐えた。
パチリと1つ、またパズルのピースが埋まった。
次なるピースは――角を壊すこと。
*
「ロジオンが注意を引いたのなら、私達も必死にやらないとね」
「そうだね。見せつけられたし、僕達も出来る限りやって、次の人にバトンを渡しますか」
蜂須賀 イヴェット(はちすか・いう゛ぇっと)が銃を、マラク・アズラク(まらく・あずらく)が弓を構えると、緋柱 透乃(ひばしら・とうの)、芽美、霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)の4人が前線に飛び出した。
「ふ……この身の全てを捧げて皆を守って見せるぜ」
槍を頭上で振るいながら器用に前線メンバーへアイスプロテクトをかけると、風斬り音が聞こえるように大猿獣の真横で縦に虚空を裂いた。
ならば――と大猿獣はアイスブレスを吐きながらその標的を泰宏に変えた。
「大吾にできて、私にできないはずはない……ッ!」
防御術の全てを用いて気を入れると、泰宏は目の前で槍を風車のように回転させ、ブレスを四方に散らして見せた。
「はぁい、歪みなさいよ」
死角から入った芽美が大猿獣の横っ面に鳳凰の拳を入れた。
ブフッ――と歪んだ口元からブレスが止むと、芽美を掴みにかかるのだが陽子の鎖によって腕を絡め捕られた。
ならばもう片腕をブン回して叩き落してやろうとするのだが、こちらは後方のイヴェットとマラクの遠距離攻撃に合い、痛みに腕を引込めるしかなかった。
「では、貴方も調教されてらっしゃい……」
陽子は絡め取った鎖を伝うようにファイアストームを放った。
腕から肩へ、肩から顔へ灼熱の炎が走った。
苦悶の表情を浮かべる大猿獣が閉じかけた瞳で捉えたのは、飛び込んできた透乃だった。
「情けない顔に情けない声なんて、ぞくぞくしちゃうじゃない」
感情の昂りを力――百戦錬磨、チャージブレイク――に変えて烈火の戦気を纏った拳の疾風突きが、陽子のファイアストームも相まって、大猿獣の角を折った。
ア゛アアアッ――!
「人間みたい。あ、一応猿だから人間には近いんだよね」
両手を一つに合わせ、ハンマーの如く拳を振り落とした一撃が、大猿獣を地に叩きつけた。
「余裕だね。終わっちゃったよ」
透乃は仕留めた手応えと、相手の手応えの無さに肩を竦めてみた。
仲間が1人、1人と駆け寄る中、弛んだ鎖を回収しようとした陽子が、真っ先にその異変に気付いた。
力を入れていないのに、距離も近くなっているのに、鎖がずるずると引き摺られ――張った。
「まだ……ッ!」
ヴォオオオオオオオオオオ――ッ!
地面を両手の手で叩き、悔しさを露わにするような仕草を見せ立ち上がると、そのまま洞窟内で高く飛び上がった。
無論、低い天井に頭を打ち、出血もするのだが、それも厭わずにただただ身体を打ち付ける。
天井、壁、地面――。
大規模地震のような縦揺れの中、地割れと亀裂がところどころ起こり、徐々に洞窟が崩壊を始めた。
「駄々っ子! 思い通りにいかないからって暴れないでよね」
透乃がもう一撃を与えに飛びかかるのだが、もはや崩壊も厭わない大猿獣には全てが投擲の対象なのだ。
氷塊も岩石も、落盤すら強引に叩いて炸裂させ、投げつけた。
「このッ!」
進む暇すら与えず、透乃がその場で拳を振るい、1つずつ破壊する。
それは他の仲間も同じだ。
「くっ、キリがない!」
イヴェットが銃を乱射し、落盤を1つ1つ砕き、
「いたたッ……小石がもう雨みたいだ……。砕ききれないよッ」
マラクが雷術で更に細かく砕く。
「じゃあ、退却するの!? ここまで追い込んで!?」
「何も手がないなら、そうするしかなよ」
膠着どころか、明らかに契約者達の方が分が悪い。
全員が全員崩壊の洞窟で1つ1つの岩や氷を砕くのに手一杯で、全くといっていいほど大猿獣に近づけない。
*
そんな中、加夜はじっと大猿獣の眼を見つめていた。
「ぼーっとしない、死にたいのっ!」
イヴェットが加夜の頭の上に落ちかけた岩石を銃で砕き、傍によって肩を掴んだ。
「あ、ありがとうございます」
冷静なのか天然なのか判断のつかぬ返しで、イヴェットに怒られても加夜は大猿獣を見続けた。
「私、思うんです。あのモンスターはもう実は睡眠薬が回ってきているんじゃないですか?」
「どこがよッ! 元気100倍で暴れてるじゃない!」
「透乃さんが駄々っ子って言って思ったんですけど、ほら、小さい子って大暴れしたり大泣きした後に、それが嘘みたいにスヤスヤ眠るじゃないですか。モンスターもそれに近いのかなーって」
「だとして、どうするの!? 誰があそこに睡眠薬を打ち込みにいくの!?」
「……歌います!」
呆気にとられた。
一瞬加夜が何を言っているのか、理解できなかった。
「というわけで、少しの間守って頂けますか?」
「え、あ……うん」
思わず返事をしてしまったイヴェットだった。
「では……オホン。あーあー……。ねーんねーん……♪」
本当に加夜は歌い出し、それには多くの契約者が困惑し一瞬動きを止めて見た。
それでも加夜はヒプノシスの一種であると子守唄を歌い続けた。
崩れゆく岩の音の中、その歌声は妙にハッキリと聞き取れ、次第に――大猿獣の投石や地団駄のペースが落ちて行ったのだ。
「ぼーやーは……よいーこーだ♪」
今なら、誰かは仕掛けられる――!
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