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リアクション
――東シャンバラ・洞窟エリア1――
「イングリットがいなくたってぇ……わたくしはやれますわ!」
白鳥 麗(しらとり・れい)は吹き飛ばされた身体の誇りを払いながら叫んだ。
イングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)が助っ人として不在の時点で、多少気持ちは落ちていたのだが、だからと言ってこのまま引き下がるわけにもいかない。
「お嬢様、これ以上は無茶です。私達だけで大猿獣をあえては無謀すぎます」
サー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)が制止しようとするのだが、麗はその手を振りほどき、再びモンスターにとびかかった。
「ハアアッ!」
睡眠薬を塗ったセスタスで攻撃を仕掛けるのだが、如何せん単騎特攻。
攻撃をさせる一点に集中していれば何も怖くはない。
あくまで複数人で攻めるからこそ勝機が生まれるのだ。
「キャア!?」
再び脚を掴まれ、ブン投げられた。
それを受け止めるのがアグラヴェインの仕事となっており、何度目かのキャッチに成功した。
「うう……もう少し誰かいれば……」
「真っ向勝負を挑まれるお嬢様を非難する者など誰もいません。いえ、いてはなりません。しかし、今回ばかりは分が悪うございます」
「それでもッ――!」
「ウッ……ホッ……ウッ……キッ……」
小気味よいリズムで怪しげなステップを踏みながら、さるさるスーツを着たブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)とステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)が麗達が現れた。
助太刀というには、あまりに気力が抜ける立ち振る舞いだった。
「ブルタ、ブルタ……。それでは猿というよりゴリラです……」
「え、本当? おかしいな……ジャングルはこうしろって言ってたんだよ?」
ジャングル・ジャンボヘッド(じゃんぐる・じゃんぼへっど)の助っ人は得られなかったが、その助言を聞いてきたブルタは首を傾げた。
「す……助っ人……?」
思わず麗が疑問形で返すと、ブルタはサムズアップで答えた。
「お嬢様お気を付けください。私達を欺く刺客かもしれません故……」
「あれ……何か鋭い視線を感じるよ……。ステンノーラ、ボク、変じゃないよね?」
「ええと……ちょっと失礼しますわ」
ステンノーラはブルタに断りを入れ、麗達の元へ寄って小声で作戦を話した。
………………。
…………。
……。
『えーッ!?』
*
「ボク、ブルタ。よろしくね。あ、そうだ、これお近づきの印。ボクとキミの友好の証」
ブルタは大猿獣の前に座ると、攻撃されることも厭わずにおいしいバナナを差し出した。
モンスターも一瞬構えたのだが、全く感じない殺気に警戒を緩め、ブルタとバナナを二度三度交互に見てはバナナを受け取りむしゃむしゃ食べだした。
「こ、こちら……肉でございます……」
ぐるぐる肉焼きセットで肉を焼いたアグラヴェインが恐る恐る近づき肉を差し出すと、大猿獣は2本指でそれをちょいと摘まんで口元に放り投げた。
オオオオオと恐れおののくようなカチカチの表情でアグラヴェインが戻ってくるのが麗にはおかしかったが、今度は自分の番だと思うと笑っていられなかった。
「こ、これジャガイモ、ですわ……」
「こちらは今食さないで頂けると嬉しいですわ。こう、半分に切りまして、土に植えて、適度に水をあげてください。そうすると収穫の時にはもっと多くのじゃがいもが手に入りますわ」
恐れる麗とは真逆に、ステンノーラはじゃがいも栽培の実演をして説明していた。
伝わってるのは定かではないが、ジャガイモだけは大猿獣も食さなかった。
(お嬢様……うまく行くとお思いですか?)
(私に聞かないでよ。でも……東が勝つには……この方法も悪くない……のかしら?)
こそこそと話す麗達を後目にブルタが本題に移った。
「というわけでおサル君。キミとボク達は友達だよ。なーんにも戦う必要なんてない。というわけでどうだい? ボク達にキミの仲間を紹介してくれないかい?」
これがブルタの作戦だった――。
「いやいや、1000人紹介してくれなんて言わないよ。そうだなー友達100人できるかな♪ ってところで、そのくらい。どうかな?」
ようは一網打尽で捕獲して――というものだったのだが、事態は思いがけない方向へ。
大猿獣がゆっくりと麗に近づくと、
「な、何?」
ひょいとお姫様抱っこした。
「……なるほど……」
ブルタの持つラブセンサーの針が振り切っては煙を上げて壊れた。
それが意味すること、即ち――。
「どうやらキミが嫁に欲しいらしい」
大猿獣が頷いた。
「い……」
いやあああああああああああああああああああああああ――!
こうして100人捕獲計画は失敗に終わり、麗は時間切れまで大猿獣と追いかけっこをする羽目になった。
大猿獣、求愛――失敗!
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