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リアクション
「ええい、ふがいない!」
「テミストクレス!!」
辿り着いた広間に現れた男を見たソフィアが声を上げる。
その声を聞いた仲間たちは一斉に身構えた。
「こいつか……」
テミストクレスの姿を確認した源 鉄心(みなもと・てっしん)はティー・ティー(てぃー・てぃー)と共にいったん戦線を離れ、姿を隠しながら状況を窺うことにした。
「皇帝への叛逆にも取られる事をして徒で済むと思ってるの?」
「騎士ならば剣を捧げる主と国の為に生きるべきであろう。何ゆえ外道に墜ちるか」
ルカルカと共に夏侯 淵(かこう・えん)も声を上げた。
「ふん。貴様らに語ることなどないわ。それにしても……さすがはソフィア殿ですな。この短期間でこれだけの数の部下を集めるとは」
下卑た笑いを浮かべながら、テミストクレスが語る。
「部下ではない! 大切な友人……仲間たちだ!!」
「ほう、そんな仲間たちを、ご自分の国の事情に巻き込み危険に晒すわけですな。さすがは選定神のお嬢様だけのことはある」
「なんだと……!」
「不意のギアスに注意して。私達がギアスに屈したら作戦は失敗しちゃうから」
魔法防御を整えながらルカルカが注意を促す。
「ソフィアおねえちゃん、そいつ、おかしい事言ってるから聞いちゃだめです!」
ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)の強い声に、ソフィアは驚いたように振り返った。
「ご自分の国の事情って、そもそも原因そいつです〜」
「……まあそうだな」
ヴァーナーの言葉に、ソフィアや仲間たちは渋い顔で頷く。
「邪魔しおって……ソフィア、お前は……」
「みんな!! さっきのもう1回やろうか!」
少し離れた場所で、仲間たちとテミストクレスのやり取りを観察していた円は、テミストクレスがソフィアにギアスを発動しようとしていることを感じると、声を上げながら飛び出した。
「みんなで協力してテミストクレス倒すぞー!」
「おー!!!」
全員の声が重なり合い、テミストクレスの言葉をかき消す。
「円、助かった。ありがとう」
「この1回しか使えないとは思うけどね」
あまりにも想定外の対応に唖然とするテミストクレスを後目にソフィアは素早く円に礼を伝えるとすぐさま心を切り替える。
「せっかくここまで皆の力を借りてきたんだ。なんとしてでもテミストクレスを倒す!」
「相変わらず勇ましいことですな……まぁ、こちらにも考えがありましてね。そろそろ目に余りますな。さぁ、行くのだ!」
テミストクレスの声に多くの龍騎士に加え、カトブレパスが広間へと現れた。
「ソフィア様……」
龍騎士の一人から低く、小さく、苦しげに呟かれた声にソフィアが目を見開く。
「そなたたち……」
「意識はあるようだな。身体だけがギアスにより操られているというところか」
ソフィアの隣に立ったグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が状況を分析する。
「ソフィアよ、道は1つではないのだ……俯かない限りは、な」
「グロリアーナ……そうだな」
グロリアーナの言葉に頷くと、ソフィアは剣を構える。
「はあっ!! ……っ!」
そのままテミストクレスへと斬りかかるが、飛び出した龍騎士たちにはじき返される。
そこへ、カトブレパスの唸り声が響いた。
「厄介だな」
カトブレパスへと斬りかかるソフィアだったが、目を見ないことに集中する余り、カトブレパスの爪を避け損ねてしまう。
そこへ飛びかかる龍騎士たちの前へグロリアーナが飛び出すとブリザードで目くらましを試みた。
「ライザ様、ソフィア様が態勢を立て直すまでの間、宜しく御願い致しまする」
上杉 菊(うえすぎ・きく)はグロリアーナにそう伝えるとソフィアの手を引いて一度後方の遮蔽物の陰へと退避させた。
「菊、これぐらい大丈夫だ。それよりテミストクレスを何とかしなければ」
「お気持ちはわかりますが、小さな綻びが命取りになりかねません。腕が痛んでは思うように剣もふるえないでしょう」
「それは……」
「大丈夫です、すぐに済みます」
言ったとおりに、菊は素早くソフィアに回復を施すとにっこりとほほ笑んだ。
「さあ、終わりました」
「助かった。ありがとう」
ソフィアが前線に戻ると、グロリアーナがローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)の援護を受けながら龍騎士たちと交戦していた。
ローザマリアはこの短時間の中での龍騎士たちの動きを観察した結果を活かし、グロリアーナに先行しテミストクレスをけん制する連射を行っていた。
遮蔽物に隠れながらの狙撃の上、連射後すぐ移動するため龍騎士たちもなかなかその動きを防げないようで、連携が取れないようになっているようだった。
「ソフィアさん、こちらは引き受けますね」
「とどめを刺したりはしないから安心して!」
「ロザリンド、さゆみ……!」
唐突に龍騎士たちの中へ突撃したロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)と綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が振り向かないままソフィアへと声をかける。
状況を見ていたダリルがすかさず魔銃二丁で面射撃を行い龍騎士と手下を分断させるのをフォローする。
さゆみの後ろにつき龍騎士たちの動きを追っていたアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が一瞬だけ振り向くとソフィアに向かって頷いてみせた。
「頼むぞ!!」
「じゃあ、こっちは詩穂たちのお仕事だよね」
「死にたくなければ魔物でも盾にしていろ……そいつらがいなければだいぶ楽になる。渋々従っている連中も逃げ出し易くなるしな……」
動きを制限するようにカトブレパスの前に騎沙良 詩穂(きさら・しほ)と、魔鎧化したベルトラム・アイゼン(べるとらむ・あいぜん)をまとったエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が立ち塞がった。
「しかし、カトブレパスの目は……」
「……分かった! これで大丈夫だもんね!」
「詩穂、完全に目が塞がれているが……」
楊霞のバイザーでその目を覆った詩穂の姿にソフィアが驚く。
「大丈夫大丈夫。目隠ししてても綱渡りだってできるよ」
そう言うと、詩穂は危なげなくカトブレパスへ接近し攻撃を開始する。
「確かに大丈夫そうだが……エヴァルトはどうするんだ?」
「眼を、見ずに狙う。当たらなくても、怯めばそのまま首を刎ねる!」
「そ、そうか」
カトブレパスへと飛び掛かりながら伝えられたあまりにも頼もしい言葉にソフィアは思わず引きつった笑みで頷いた。
「……あの格好……おもしろいですわね。ソフィア様、一つ思いついた事が御座いますの。あのカトブレパスをぶっとばしますわよ!」
「麗! しつこいようだが、そいつの目は……」
「分かっておりますわ!」
背後の一般兵をぼこぼこにしていた白鳥 麗(しらとり・れい)がサー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)の力を借りてカトブレパスに接近すると、その姿を見るなり楽しそうに声を上げた。
ソフィアの言葉に軽く頷くと、そのまま詩穂とエヴァルトと連携した間合いに飛び込む。
「ランダー! 合体だよっ!」
「合体はいいでありますが、自分たちの合体では能力値的には変わらな」
「機晶合体! キングロートラウト!!」
至極冷静に指摘しかけた合身戦車 ローランダー(がっしんせんしゃ・ろーらんだー)の言葉を遮りロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)は合体を宣言した。
「……今のボクは……剣を向けられたら、相手が戦えなくなるまで斬り伏せる、そんな状態だよ……それでも怖くないって人だけ……来ていいよ……ちょっと、自分でも制御できないから……!」
「それにしても、すごい装備ね」
「やっぱりこうでないと、か弱い乙女としましては不安で仕方ないのですよね」
「か弱い、ね……」
全身を武具で覆った姿で、慣れた仕草で武器を構えるロザリンドにさゆみが苦笑いをこぼした。
「さゆみ、右ですわ!」
さゆみと背中合わせになるような体制で周囲を窺っていたアデリーヌが、龍騎士の動きを見て強烈な閃光を放つ。
「操られし騎士よ我が槍の前に倒れなさい!」
すかさずロザリンドが龍騎士たちを挑発すると、さゆみは龍騎士たちをけん制しながら、自分へと引き付けつつ、攻撃を躱す。
3人は互いの死角をフォローしあいながら、挑発とけん制を繰り返し、龍騎士たちを自らのところで足止めすることに集中する。
「なんでこんなに操られてんのよ!」
「皆さん苦しそうで戦いづらいですね……」
複数人の龍騎士からの攻撃を避けつつ、とにかくその場に足止めをさせなければならないという状況で、3人の疲弊度は時と共に増してゆく。
「っ!!」
「さゆみ!」
「少し下がってください!」
攻撃を避け損なったさゆみの腕から血がしたたり落ちる。
駆け寄ったアデリーヌが治癒を施す間、ロザリンドは槍を振り回し龍騎士たちの動きをけん制する。
「アデリーヌ、ありがとう。 ロザリンドさんごめん、もう大丈夫よ」
「では、続けましょうか」
さゆみはすぐに戦線に戻ると、再びロザリンドとアデリーヌと共に時間稼ぎに集中した。
「これでもう目の心配はないから、詩穂がカトブレパスの気を引けばいいよね」
そう言うと、詩穂は床だけでなく城壁までも使い移動すると間合いを様々に変化させながらカトブレパスの周囲を動き回り、攻撃を仕掛けていく。
ゆさゆさと首を動かすカトブレパスの姿を見たエヴァルトは、素早く近づくと首の近くで刀を抜きざまに斬り付けた。
「もう少し左だよ!」
目を見ないようにするために若干ブレた矛先を、詩穂が誘導する。
背後からはロートラウトが高速で攻撃を仕掛け、カトブレパスを混乱させる。
その隙にアグラヴェインは盾で麗を庇いながらカトブレパスに近づくと、槍での攻撃を繰り出し意識を自分に向けさせた。
瞬間、麗が盾から飛び出し、カトブレパスの地面に垂れた頭へとアックスボンバーを打ちこんだ。
「む……」
下から持ち上げられる形になったカトブレパスの頭。
ちょうど正面で槍をふるっていたアグラヴェインは、期せずして正面からカトブレパスの邪眼と目を合わせてしまった。
「皆様、首から下を!!」
アグラヴェインが石化するのに気づきつつも、麗は振り返らず仲間たちに声をかける。
アグラヴェインが身を挺して護ったこのチャンスを逃すわけにはいかない。
麗に頭を跳ね上げられた状態で踏ん張ったカトブレパスは首から下の身体が完全に空いていたのだ。
そこを狙い詩穂とエヴァルト、ロートラウトは一斉に身体へと攻撃を加えにかかる。
が、それを察知したカトブレパスは激しく首を振り回したため、一同は仕方なく一度後ろへと飛び退いた。
「アグラヴェイン……必ず、戻しますわ……」
麗は石化したアグラヴェインが、攻撃の拍子に割れてしまったりしないよう、抱え上げると遮蔽物の陰へと避難させるのだった。
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