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空京の勝負日



 新風燕馬が海京でコリマ・ユカギールと対面しているころ、フィーア・レーヴェンツァーン(ふぃーあ・れーう゛ぇんつぁーん)は空京大学の図書館で一人調べ物をしていました。
 新風燕馬にとっ捕まった後は、キャッシュカードを取りあげられてこってり説教されました。反省文1万回……を勘弁してもらう代わりに、新風燕馬が天沼矛で海京へ下りている間に調べ物をするように命令されたのでした。
「とは言っても、契約解除する方法だなんて……」
 そんな方法あるわけないですぅっと、思いっきりふてくされながらフィーア・レーヴェンツァーンが端末から資料検索をしました。
「えっ、あったですぅ!?」
 あっけなくデータがヒットして、フィーア・レーヴェンツァーンがモニタ画面をのぞき込みます。
「ええっと、何々……。コンタクトブレーカーを使います――って、誰でもそんなことは知ってますですぅ!」
 たった一行の説明に、フィーア・レーヴェンツァーンが呆れます。
「で、その、コンタクトブレーカーは……」
 さらに、フィーア・レーヴェンツァーンが検索を続けます。
「某所に厳重に保管され、現在は使用できません――まあ、そうですよねぇ」
 表示された短い説明を見て、フィーア・レーヴェンツァーンが、なんでこんなことをしなくちゃならないのかと溜め息をつきました。とりあえず、リューグナー・ベトルーガー(りゅーぐなー・べとるーがー)に知らせます。
「何を調べているのですか?」
「げっ、なんであなたがここにいるのよ」
「それは、こちらのセリフです」
 突然現れたサツキ・シャルフリヒターが、何やら怪しい調べごとをしているフィーア・レーヴェンツァーンを問い詰めました。どうせ、新風燕馬の命令で、何かをしているに決まっています。
 問い詰められて、フィーア・レーヴェンツァーンがあっさりと白状しました。なによりも、彼女には黙っている理由がありませんでしたから。
「私はもう一般人には戻れない――そんなこと、燕馬も分かっていると思ってたんですけどね……」
 半ば呆れながら、サツキ・シャルフリヒターが言いました。うんうんと、フィーア・レーヴェンツァーンもうなずいて同意します。
「これは、一度なんとかしないといけないかもしれませんね」
 うーんと考え込む、サツキ・シャルフリヒターでした。

    ★    ★    ★

「さあさあ、コイノボリ大会開催中よー!」
 シャンバラ宮殿前の公園にテントを張った酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が、大きな声を張りあげました。
 その声に、なんだろうと人々が集まってきます。そんな人々に、ペンギンや係の者たちがチラシを配っていきました。そこには、「オリジナルコイノボリを作ろう」と大きく書かれています。
「この白いコイノボリの素に、自由に色を塗ってオリジナルコイノボリを作ってね。完成したコイノボリは、ここであげていただいたり、お持ち帰りできますよー」
 酒杜美由子が、集まった人たちに説明しました。それを聞いて、わーいと子供たちがもらった白いコイノボリに思い思いの色を塗っていきます。それを見て、ちょっと複雑な笑みを酒杜美由子が浮かべます。
 自分のやるイベントで、みんなが笑顔になってくれれば、それでいい……のでしょうか。なんだか、リア充の結果である子供たちが楽しそうにコイノボリを作っていく様子を見ていると、ふいにぼっちが身に染みたりもします。
 ええ、これも何も、きっと酒杜 陽一(さかもり・よういち)のせいです。いえ、別に酒杜陽一の幸せを否定するわけではないので、ロイヤルガードのイケメンの一人や二人でも紹介してくれればいいわけですが。
「ふう……。ああっ、そこ! 変なコイノボリあげない!」
 公共で展示不可なコイノボリを見つけて酒杜美由子が叫びました。すぐに撤去に走ります。ひとまず、気晴らしになってはいるようです。

    ★    ★    ★

 某月某日。スマホをなくした。盗賊団討伐任務に駆り出されたら、愛銃が二度もジャムって危うく死にかけた。
 翌日、前日壊した銃を教導団の装備課に修理に出したら「ごめーん、壊しちゃった。てへ☆」と言われた。私物だったので、結局、買い直すはめに。スマホをなくした。
 某月某日。高級ホテルの宿泊券の懸賞に応募して当たった。と思ったら電話がかかってきて「間違って発送したので返してくれ」とか言われた。スマホをなくした。
「こ、これって、デスノート!? それとも、呪いの書!?」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の日記を偶然読んでしまったセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が絶句しました。日記と言うよりは、不幸ノートです。
「お祓いに行きましょう!」
 福神社お祓い予約券をひらひらさせて、セレアナ・ミアキスがセレンフィリティ・シャーレットに切り出したのは当然とも言えます。夏合宿で手に入れたチケットが、今こそ役にたつというものです。
「えーっ、お祓い……?」
 そんなんで、不幸属性がどうにかなるものなのかとセレンフィリティ・シャーレットが渋りました。
「あたしはシャンバラ一不幸な美少女だー」
「少しでも気が楽になるわよ。それに、セレンのそんな顔は見たくないわ」
 嘆くセレンフィリティ・シャーレットをなんとか説き伏せると、セレアナ・ミアキスは一緒に福神社へとやってきました。正式なお祓いを受けるのですから、ちゃんとした正装で赴きます。
 さて、福神社にやってきたセレンフィリティ・シャーレットとセレアナ・ミアキスでしたが、出迎えてくれたのは福の神 布紅(ふくのかみ・ふく)ではなく、バイト巫女のビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)でした。
「一度着てみたかったのじゃあ〜」
 巫女服を見せびらかすようにして、ビュリ・ピュリティアが言いました。
 なんだか、すでに暗雲が垂れ込めています。
 とはあれ、ちゃんと本殿でお祓いは受けることができました。
「はい、次はこれに着替えるのじゃあ〜」
 ビュリ・ピュリティアが差し出したのは、なぜか水着です。
「なんで水着!?」
 これでは、普段の格好とあまり変わりがありません。というか、普段の姿の方があれではありますが。
「着替えないと、お祓い返しが来て、祟りがあるのじゃあ〜」
 なんだか、凄みのある低い声でビュリ・ピュリティアが言いました。
「今の不幸など、上げ底で、さらなる奈落の底が待っているが、いいのかのう〜」
 渋るセレンフィリティ・シャーレットをビュリ・ピュリティアが脅かしました。
「着ます、着ます、なんでも着ます」
 せっかくオシャレしてきたのですが、これ以上不幸にはなりたくないので、セレンフィリティ・シャーレットは水着に着替えました。つきあいなさいと言うことで、セレアナ・ミアキスも水着にさせられます。
「じゃあ、これを羽織ってついてくるのだ」
 そう言うと、ビュリ・ピュリティアが二人に白衣を手渡しました。和服の下着に当たる白衣です。
 仕方なくそれを着てついていくと、何やら水の音がする場所に出ました。
 滝です。
 いつの間に作ったのか、そこそこの高さから怒濤のように水が迸り落ちてきます。どう見ても、ポンプかなんかで人工的に増量しているでしょう。
「では、打たれるのじゃあ〜」
「えっ!?」
「私はつきそいで……」
 ちょっと待ってと、セレンフィリティ・シャーレットとセレアナ・ミアキスがどん引きました。
「拒否すると、お祓い三倍返しが……」
「や、やります……!」
 ビュリ・ピュリティアに脅かされて、仕方なくセレンフィリティ・シャーレットとセレアナ・ミアキスが滝壺に入ります。
「どはああああ……痛い痛い痛い!」
「喋ると、口に水が、ゴボゴボ……」
 凄まじい勢いで頭上から落ちてくる水に、二人がもみくちゃにされます。
「そう、その煩悩の全てを洗い流すのじゃあ〜♪」
 そう言って、ビュリ・ピュリティアがポンプのパワーを勢いよく上げました。
「ゴボゴボ……しは……ゴボゴボ……バラ一不幸……ゴボゴボ……だー」
「ゴボゴボ……がうで……ゴボゴボ……」
 何やら言いながら、セレンフィリティ・シャーレットとセレアナ・ミアキスが流されていきました。その後ろから、滝の勢いで剥がされた二人の着ていた白衣と水着も流されていきました。

    ★    ★    ★

「また、デートですか、そうですか。追うわよ!」
 夜、シャンバラ宮殿の展望レストランへと連れだって姿を消す酒杜陽一と高根沢 理子(たかねざわ・りこ)の後を追跡しながらセレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)が言いました。
「あのー、もう仕事が終わった後ですから、プライベートはいいのではないのでしょうか……」
 さすがに、こういつもいつも監視しているのはやりすぎではないかと、テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)がおずおずと進言しました。うんうんと、隣にいる皇 彼方(はなぶさ・かなた)もうなずきます。
「何を言っているの。ロイヤルガードは、しっかりと要人を警護しなくちゃダメでしょうが」
「はあ……」
 そう言われてしまうと、返す言葉がありません。
 そうっと、酒杜陽一たちの後からレストランに入っていくと、セレスティアーナ・アジュアたちは個室の方へと案内されました。どうやら、酒杜陽一と高根沢理子は、二人っきりの個室でキャッキャウフフしようとしているようです。これは、いけません。
「隣の部屋から、中の様子をうかがうわよ」
 そう言うと、案内された部屋に入っていったセレスティアーナ・アジュアたちですが……。
「どうぞ、よくいらっしゃいました。さあ、おかけになってください」
 部屋の中で迎えたのは、他ならぬ酒杜陽一と高根沢理子でした。
「いつも心配をかけているようなので、たまには御恩返しをしたいと思いまして」
「今日は、陽一が奢ってくれるそうだから、好きなだけ食べてちょうだい」
 どうやら、いつもの行動はバレバレで、今日は最初から仕組まれていたようでした。
「まあ、今さら隠れてもしょうがないわね」
 あっさりとありがたく食事をいただくことに決めると、セレスティアーナ・アジュアが皇彼方たちも一緒のテーブルに座らせました。
 酒杜陽一が合図をすると、なぜか給仕係のポムクルさんたちが、次々に食事を運んできました。何人かのポムクルさんは、団扇でみんなをあおいだりしてくれています。
「たまには、みんな一緒で気兼ねなく食事するのもいいでしょう?」
 肉にかぶりつきながら、高根沢理子が言いました。
「まあね。で、あなたたち、けじめはいつつけるのよ?」
 酒杜陽一にお酒をついてもらいながら、なぜだか恐縮するテティス・レジャと皇彼方の横でセレスティアーナ・アジュアが訊ねました。