校長室
秋はすぐそこ
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Episode16.手紙 コーラルワールドから帰還し、朝永真深の墓参りを済ませて少し経った頃、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は、真深の遺品が未整理のまま、蒼空学園の寮に残されていることを知った。 既に整理され、遺族の元に返されているのだろうと思っていたが、教導団の調査が入って遅れていたようだ。 そして、終了したので整理するようにという連絡が、何故か自分のところに来たのだった。 真深のことを忘れようと努めるかのように多忙な日々ではあったが、それらの仕事も、丁度一段落ついたところだった。 「さゆみ……」 アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が、痛ましく声を掛ける。 さゆみが、真深のことで深く傷ついているのを、アデリーヌは見ている。 「真深のことなどどうでもいい」と言って見捨ててしまった、と、さゆみは自責の念に捕らわれている。 忙しい時はいいけれど、ふとした時に溜息をついたり、涙を流したり、精神的に参っていた。 「さゆみ、辛いのなら、あなたが行かなくても」 「ううん……行くわ」 「そう……」 アデリーヌは心配したが、このことで、少しでも気持ちに区切りをつけることが出来れば、と願った。 寮の部屋には余裕があり、空部屋があることで、真深の部屋もとりあえずそのままにされていたらしい。 荷物はそれ程多くもなかった。カラスと一緒に行くと決めた時、自分である程度の整理をしたのだろうか。 パソコンや真深自身が書いたノート等はひとまとめにされている。一旦押収され、戻されたのだろう。 日記があればと探してみたが、見つからなかった。 その習慣はなかったか、押収されたまま戻されていないのか。 「さゆみ、これ……」 衣類を片付けていたアデリーヌの手が、堅い物に触れた。見ると、フラッシュメモリである。 「こんなところに?」 隠されていたとしか思えない。 さゆみはパソコンの電源を入れてみた。 中にあったのは、テキストファイルがひとつだけ。 ファイル名が、「先輩へ」となっていた。 さゆみはどきりと震え、ファイルをクリックした。 『先輩へ。 これ見てるということは、きっと私は死んだわね。裏切ってごめんなさい』 宛名に名前は書かれていなかった。 万一他の者に見られた場合のことを考慮したのか、けれど、これが自分宛てであることが、さゆみには解った。 『怪我をした精霊を拾ったの。 でも全然治療をさせてくれない。こっちを全然信用しない。 でも動けないので数日置いておいたら、その内口を滑らせて、どうやら、この子の頭の中にはアールキングしかないみたい』 他の誰も信用しないのは、裏切られたことしかないからなのか、じゃあ私を利用したら? と真深は言った。 『それで私は思ったの。 それなら私が絶対この子を裏切らず、傍にいてみようって。例え私が裏切られても、問題はそこじゃない。 あの子を、絶対に裏切らない存在に、なってみようかな、って。 それに興味が沸いたわ。 物語では、最後に必ず正義が勝つけど、もしも本当に今の世界が無くなって、アールキングの世界が出来たら、それはどんな世界になるの?』 一旦興味を惹かれたら、どこまでものめり込む。 そんな自分の性格を、先輩だけが知っていたわね、と苦笑する真深の表情が見えるようだ。 『とてもとても――興味があるの。 ごめんなさい、私あの子と行くわ。 でもきっと、こんな私を、先輩が止めてくれる……止めてくれたって、信じてる。 ありがとう。さよなら』 「……馬鹿」 ぽたりとさゆみの手の甲に涙が落ちた。 「こんなメッセージじゃなくて……ちゃんと言いなさいよ、馬鹿。 そうしたら、ちゃんと止めてあげたのに」 行かせたり、しなかったのに。 泣き出すさゆみの横から、アデリーヌがそっと抱えるように抱きしめた。