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 Episode18.晩夏の夜の風


 過ぎる季節を惜しむように、空京でお祭が開催されていた。
「ふふ、今年の浴衣、着納めだね♪」
 丁度訪れていた遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)は、浴衣姿でみなとくうきょうの祭の会場を歩く。
 人も多く、歌菜は、つん、と横の羽純の手を突付いた。
 羽純は、それに応えるように歌菜の手を握る。
「えへへ、ありがと♪」
 逸れないように。
 二人は手を繋いで歩く。
 日中はまだまだ暑いが、夜になると、少しだけ冷たい空気を含む。
 そんな空気に、季節の移り変わりを感じた。

「羽純くん、あそこ、ビアガーデンがあるよ」
 くい、と歌菜が羽純の手を引いて指差した。
「ああ、本当だ。賑やかだな。少し寄ってみるか」
 歌菜はビールが飲めただろうかと思いつつ、二人は空いている席を見つけて座る。
 歌菜がビールを、次に羽純がおつまみを適当に幾つか見繕った。
「うん、この焼き鳥、美味いな」
 ビールが進む。歌菜は羽純のジョッキが空になりそうなのを見て、二杯目を買ってくる。
 少し羨ましそうにジョッキを渡した。
「ビールは、一杯目は美味しいのに、二杯目からは、ちょっと苦いよね……」
 残念そうに言う歌菜に、ありがとう、と受け取りながら、羽純はくすりと笑う。
「ビールが苦い……か」
「うぅ、子供扱いされたっ」
「別に子供扱いしてない。ビールは確かに苦いものだ」
 その苦さが、ビールの魅力なわけだが。
「ビール以外にもお酒あるかな?」
「ああ、あそこの店はカクテルもあるようだぞ」
 今度は羽純が立って、綺麗な桃色のカクテルを買って来る。
「ありがとう! 甘い、美味しい〜」
「飲みすぎるなよ」
「わかってるもん」
 歌菜はあまり酒に強い方ではない。酔いが回らないように、おつまみと一緒に味わって飲む。
「そういえば、フルーツと一緒に飲むといいって聞いたような……」
 思いつき、いそいそとフルーツの盛り合わせを買いに行く歌菜の後姿を、羽純は愛おしく見送った。

 何気ない一時にふと、幸せな気持ちがふわりと膨らむ。
 この可愛らしい色のカクテルのように、綺麗で、甘く、ゆるゆると酔わす、愛する歌菜に、そんな人生を贈りたいと願う。


 ドン、と大きな音が響いた。
 夜空が色とりどりに輝いて、花火が上がり始める。
「あ、花火始まったね。
 やっぱりお祭のラストといったら、これだよね」
 戻って来た歌菜が、うっとりと空を見上げた。
「……こんなところで見るのはちょっと勿体無いね。場所移動しようよ」
「そうだな」
 歌菜の提案に、二人は空飛ぶ箒で眺めの良い建物の上に移動した。
 他にもあちこちの建物の上から花火を見物する者は多かったが、歌菜達が選んだところには、他に誰もいなかった。
「ラッキー、穴場発見!」
 二人はそこから、次々上がる花火を見る。
「わぁ、凄く綺麗だね、羽純くん……!」
 輝くような歌菜の笑顔こそ、とても綺麗だと羽純は思う。
 ああ、綺麗だ。花火も、その輝きに照らされる歌菜の姿も。
「そうだな。……少し、寂しいような気もするが」
「……うん」
 これで、夏の花火も見納めだろう。羽純は、歌菜の肩を抱き寄せる。
「来年もまた、二人で花火を見よう。再来年も、その次も……」
「うん……」
 微笑んで、歌菜は羽純に寄り添う。

 ふと、花火が途切れ、羽純は更に近くに歌菜を抱き寄せながら、想いを込めて、口付けた。