シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

秋はすぐそこ

リアクション公開中!

秋はすぐそこ
秋はすぐそこ 秋はすぐそこ

リアクション

 
 Episode22.揺るぎなく


 記憶は、唐突に戻った。
 まるで、外れていたコードが不意に接続されたかのようだった。
 そして、彼は知ったのだ。自分は、シャヘル・アシュヴィン(しゃへる・あしゅう゛ぃん)ではなかったことを。

「……クローン?
 シャヘルがクローンだって? ……何言ってんだ、お前?」
 シャレム・アシュヴィン(しゃれむ・あしゅう゛ぃん)がポカンとした顔で言う。
 シャヘルは、五歳の時に誘拐され、十五歳の時に偶然再会した際には記憶を失っていた。
「『シャヘル』が誘拐された施設で……僕は、彼のクローンとして作られたんだ……。
 そして、脱走する時に、『シャヘル』は、僕もついでに、助けた」

 実験動物のように扱われ、虐待を受けたその施設に、自分と同じ顔の者がこれからも此処に残り、モルモットにされ続けるのは気分が悪い。
 殺して行くか、一緒に逃げるか迷い、余裕があるので逃がすことにした、と、『シャヘル』は言ったという。
 だが、脱走後に二人ははぐれ、シャヘルは初めての外の世界に混乱してパニックになり、要因は自分でもよく解らないが、記憶を失ってしまった。
 そして、入れ替わるように、シャレムと出会ったのだ。

「僕は、シャレムの弟じゃなかった……。
 シャレムと一緒にいるべき本物のシャヘルは、何処か、別のところにいるんだ……」
 シャヘルは、絶望的な表情で言った。
 自分は記憶喪失だったのではない。最初から、シャレムの弟としてあるべき記憶など、存在しなかったのだ。
 シャレムは自分を見つけてくれたが、本当に見つけるべきだったのは、自分ではなかった――

「――そんなこと、関係ないだろ!」
 シャレムは思わず声を荒げた。
「そんなの、双子だったのが、三つ子だってわかったようなものだ。
 大事な家族に変わりない。俺は、シャヘルが大好きだからな!」
「シャレム……」
「もう一人、家族が何処かにいるっていうなら、これから二人で探してもいい。
 見つけたら、三人で一緒に生きてもいいし、無理でも、そいつがちゃんと幸せにやってることが確認できたらいい。
 話くらいはしたいよな。お前を助けてくれたお礼も言いたい。そいつはどんな奴かな」
 そう言って、シャレムは、でもな、と笑った。
 色々気になることはある。けれど、大事なことはひとつだ。
「俺が一番大事なのはお前だよ。シャヘル。
 会ってからずっと、お前を幸せにしたいって思ってきた。今も変わらない。
 大好きだからな!」
「……」
 泣きそうに顔を歪ませるシャヘルを、シャレムは笑って抱きしめる。
「……うん」
 涙声で、シャヘルは頷いた。
 ありがとう、と、続けたかったけれど、もう声は詰まってしまって、出て来ない。

(ありがとう、シャレム
 僕は、一生、シャレムの為に生きる……
 大好きだよ)