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白百合革命(第1回/全4回)

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白百合革命(第1回/全4回)

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『1.サーラの症状』

 瑠奈とサーラの部屋にて。

(熱は……ないみたい)
 サーラの額に手を当てて、ネージュは彼女が平熱であることを確認した。
 それから、口を開けてもらい、中を確認し、首にも触れてみる。
(喉も腫れてないし、リンパも腫れてない)
 スキルを駆使して、サーラの状態を調べようとするが……。
(どこも悪いところないみたい? 風邪、引いてないと思うんだけどなー)
 疑問に思うけれど、サーラの顔は青く、時々震えてもいて。
 調子が悪そうには、見える。
(調子が悪いというより、怯えてる? 何か怖いことでもあったのかな)
 それなら、安心させてあげることが、一番の薬なんだろうなとネージュは思う。
「あたしはもう少し残って、元気の出る料理作ってあげるね!」
 自分の出来ることで、彼女を元気づけて、癒してあげられればと、思うのだった。


『2.シスト・ヴァイシャリー』

 瑠奈とサーラの部屋にて。

 モニカに手を伸ばしたシスティに、円はテレパシーを送った。
(シストさん落ち着いて)
 システィの手が止まる。
(間違えてたら、ごめんね。
 一応テレパシーで、周りに配慮してるつもりだよ)
(……何だ)
 円の脳裏に、システィ……シスト・ヴァイシャリーの声が響いた。
 やっぱりそうなんだ、と。
 円はふうと息をついた。
(瑠奈先輩の恋人と友人でね、心配になったから。
 合宿の日、先輩との会話聞いてたの)
(……)
(サーラさんが、パートナーロストしたのかな? と思ってたけど、ボクが前経験してた状況よりは軽そう)
 円がサーラを見る。
 顔色はよくないものの、体調はそこまで悪くなさそうに見えた。
(ただ、ゼスタが一緒に消えたって言うのは、異常かな。彼は、たぶん強い。学生以上にね。
 だから、単純な災害ではない、そんな気がする)
(……それで?)
(例えば……瑠奈先輩に渡した指輪。あれが原因で瑠奈先輩が狙われたってことはないよね? プロポーズじゃないと言いつつ、意味深な感じだったし。一応、確認でね)
 円がテレパシーで言った後、システィはサーラに目を向けて問う。
「サーラ、合宿の日に瑠奈が持ち帰った『百合の指輪』を知ってる? 彼女がどこにしまったのか」
 その問いに、サーラはびくっと震えた。
「わかりません。た、ただ、その指輪があれば……瑠奈を助けられる、かも」
 絞り出すように、苦しそうにサーラはそう言った。
「指輪を譲って欲しいって、瑠奈に持ちかけた人がいるみたいなんです。私もサーラにその話を聞いていたところですが……。問い詰めても語れる状態じゃないみたいですし、もう少し時間をいただけませんか? 彼女が不調な原因は、パートナーの影響じゃないと思います」
 つまり、風見瑠奈は無事ですよと、モニカはシスティに言う。
(指輪かぁ……その指輪特別な効果でもあるの?)
 再び、円がテレパシーでシスティに問いかけた。
(お前に話す必要はない)
(んーと……)
 円は少し考えながら、こう話す。
(システィの瑠奈さんへの想い、本物だと感じたんだ。
 貴方は瑠奈先輩を助ける為に、本気になるし不利益な事はしないと思う)
 これまでのこと、瑠奈がいなくなって見せた苛立ち。
 そんなシスティの態度が、システィの瑠奈への想いの強さのように感じられていた。
 だから、システィが1人で無茶するのが怖いこと、同じ百合園生として心配でもあるってことを伝えていく。
(立場上、無茶な事をするようなことはない。瑠奈のことは確かに案じている。だが、瑠奈が自分に相応しい女かどうか知るチャンスでもあると感じている。
 それよりも、俺が苛立っているのは……)
 円に話すべきかどうか、少し迷ったのだろう。
 多少の間を開けた後、システィは話しだす。
(サーラは古代シャンバラ時代、ヴァイシャリー家の祖先に仕えていた。近年記憶を取り戻し、それからはヴァイシャリー家に忠誠を誓い、秘密裏に仕えている。その彼女が、俺からの電話に出ない、隠し事をする……そして、指輪があれば瑠奈を助けられる?)
 システィ――シストは口元に軽く笑みを浮かべた。
(想定外の大きな事件が起こりそうだ、桐生円。
 おまえ、俺の存在については仲間に話してもいいが、システィの正体については今は言うなよ)
 ちらりと、シストは円を見た。鋭い目で。


『3.盗難』

 ヴァイシャリー家での相談を終えて、ロザリンド、舞香、シリウスが百合園に帰ろうとした時。
「ミケーレ!」
 荒々しい足音と共に、ドアが開いた。
「どうしたシスト? 話があるのなら、彼女達を送ってからにしてくれ」
「いい、白百合団にも話しておきたい」
 現れたのは、若いが品格のある茶色の髪、青い瞳の男性だった。
 ちらりとロザリンド達を見た後、そのシストと呼ばれた男性はミケーレへと近づいて、声を落として言う。
「書庫に置いてあったデータと道具が盗まれたそうだ」
「……!?」
 ミケーレの穏やかな目が鋭さを帯びる。
「データはロックが外されていて、複製の形跡があるだけでいつ盗られたのかはわからない。道具は月初めの確認の段階ではあったそうだ」
「何が盗られた?」
「……判明しているのは、離宮で発見された古代書物のデータ、マジックアイテム、魔力増幅の杖、アルカンシェルに関するコピーデータ。全て厳重に管理されていたものだ」
 ロザリンド、舞香、シリウスの心臓がドキリと跳ねる。
 それらは、自分達が命を懸けて持ち帰ったものだったり、危険性を知っている書物やアイテムだ。
「古代に関するもののみか?」
「多分。まだ調べてるところらしいけど」
「犯人の目星は?」
「恐らくは秘書長。先日、彼女のパートナーの幼子にねだられて、レイルが指輪を渡したそうだ」
 その後、その子の姿を見た者はいない。
 秘書長も、長期休暇をとっており現在ヴァイシャリー家にはおらず。
 連絡もとれないとのことだった。


『4.瑠奈とゼスタの行方』

「見つけた、見つけたのよ私は!」
 門前払いをされたレオーナが、沢山のガラクタを抱えて治療院に戻ってきた。
 少女の身元を知る何か手がかりになるものはないかと、島を回って探していたのだ。
「ええと、ゴミ拾いご苦労様! いやあ、島が綺麗になって気持ちがいいよ」
 といいつつ、院長がゴミ袋を持ってくる。
「レオーナさん、お掃除をされていたのですね、お疲れ様です!」
 イングリットも感心しつつ、レオーナが集めてきたものを捨てようとする。
「ち、違っ。これはお宝なの、重大発見なのよ、きっと!」
「そういえば、目撃者……はいなくても、衝撃的な事件を目撃した物品はあるかもしれませんねぇ」
 ルーシェリアはレオーナが集めてきたガラクタを摘まんで皆に見せてみる。
「これは傘の一部すねぇ。こっちは……なんでしょぉ」
 金色のカバーのようなものを、ルーシェリアが摘まみあげた。
「ん? ……見たことあるような」
 イングリットは首をかしげて考える。
「ゼスタの……剣?」
 刀真が眉を顰めつつ言う。
「調べてみましょう!」
 早速、美咲がサイコメトリで探っていく。
 それは――普段、ゼスタが背に担いでいる大剣の柄の一部であった。

 飛空艇の甲板に落ちていたゼスタの剣。
 拾い上げた瑠奈。
 大剣を手に瑠奈は、私も皆を助けに行く。あなたの剣としてと、ゼスタに言った。
 ゼスタの肩には、光の刃が突き刺さっている。
 彼の側には倒れた少女。治療院に運ばれた少女だ。
 ゼスタが瑠奈に、その剣はお前には扱えない。
 剣の柄を回せと指示し。
 瑠奈は剣の柄を回して……中に仕込んであった小剣を取り出した。
 船が揺れて、剣の柄の一部は島へと落ちた。

○     ○     ○

 島民とローズの治療の甲斐があり、少女は数日後に意識を取り戻した。
 まともに言葉をしゃべれない彼女に、交代で付き添って看病をしていた。
「ご気分は悪くありませんか? ここは安全なところですから、安心してくださいね」
 凛は優しく微笑みかけて、少女の世話をしてあげる。
 意識が戻ってからも、少女は茫然としており、その顔には何の表情も現れていなかった。
「ご家族、心配していると思いますわ。名前、教えてくださいますか?」
 凛の言葉は聞こえているようだけれど、彼女は何も言葉を返してこない。
「お家はどこですか? お送りしますよ」
「……赤い、渦の中……帰る」
 少女の口から出たのは、そんな言葉だった。
 その後、少女はツァンダの病院へと移送された。