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白百合革命(第1回/全4回)

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第4章 ダークレッドホール

 タシガン空峡のトワイライトベルトの中に突如現れたダークレッドホール。
 政府は注意を呼び掛けているが、近づく者の姿は絶えない。
「これ以上は危険かしらね……」
 百合園女学院で教師を務めている祥子・リーブラ(さちこ・りーぶら)は、ワイバーン・オルカンに乗って、ダークレッドホールに接近していた。
 ギフトの宇都宮 義弘(うつのみや・よしひろ)――同田貫義弘【刀】と、魔鎧「八式」【剛】を装備し、有事にも備え、慎重に行動している。
 祥子は女王の加護により、危険をひしひしと感じ取っていた。
 デジタルビデオカメラを取り出して、ダークレッドホールの全体を撮影するが……トワイライトベルトの中であることから、綺麗に映し出す事は難しいようだ。
「だいぶ離れていますが、熱さも感じますね」
 祥子の後ろには、白百合団の特殊班に所属する冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が乗っていた。
 彼女も魔鎧のエンデ・フォルモント(えんで・ふぉるもんと)を纏い、備えていた。
「望遠カメラを用いてもはっきりした写真を撮るのは難しそうよね」
 以前の祥子なら、このままではラチが開かないって、真っ先に飛び込んでいったかもしれない。
 でも、今は立場や、諸々な理由により、そういった行動はしない。
 二重遭難や二次災害を出すわけにはいかないと祥子は思っていた。
「風見団長とゼスタさんが消息を絶ったのは、多分このあたり……。サーラさんのお見舞いに行った円さんからの連絡によると、風見団長はご無事のようですが、ゼスタさんの状態はかなり悪いようですね」
 小夜子に友人や団から届いた連絡によると、瑠奈のパートナーの不調はパートナーロストの影響によるものではなさそうだったが、ゼスタのパートナーの不調の理由はパートナーの状態によるものである可能性が高そうだった。
 小島に向かったメンバーからの連絡はまだこの時点では入っていなかった。
「やはり、外から見ただけでは限界がありますね……」
 小夜子は銃型HCを起動しておく。
「ダークレッドホールについて調べているのですね?」
 写真を撮り続ける祥子に、小型飛空艇ヴォルケーノに乗った少女が近づいてきた。
「無人機を近づけますわ」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナーで、ツァンダ住民のエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)だった。
「ただ、この辺りには電波が届いていないので……データの受信は無理そうです」
 エリシアは、目だたないように塗装した『イコプラ:マリーエンケーファーII』に、デジタルビデオカメラと籠手型HC弐式を組み込み、撮影とデータ送信が出来るようにセットしてきていた。
 念のため、ファイヤーリングも装備させている。
「日に日に大きくなっていると聞きますし、内部を調べてみたいのですが」
 方法はないものかと、エリシアは悩む。
 式神の術でイコプラを式神化し、遠隔操作が出来ればいいのだが、式神が命令を実行している間、エリシアは集中をしていなければならなくなる。
 となると、飛空艇の操縦さえも出来なくなってしまう。
 式神の術ならば、陰陽師自身は何も出来なくなってしまうが、電波状況も関係なく、同じ世界である必要もなく、式神を派遣した場所の状況を式神を通して知る事が出来るかもしれない、のだけれど。
(運転を代わっていただけそうな方は、いませんね……)
 今のところ自分自身が突入をするという選択肢は持っていなかった。
 蛮勇的行動であることと、自分の生命以外にも、パートナーロストの影響で迷惑をかけてしまう可能性があるから。
 幸せに暮らしている、御神楽夫妻に迷惑をかけるのは以ての外だ。
「無人機か、賢い! 通信はそうね……ビデオトランスミッターを持たせるっていうのはどうかな?」
 祥子の案に、エリシアが頷く。
「そうですわね。すぐには用意できませんが、次の調査の時には持たせることを検討しますわ」
 今日はどうしようかとエリシアは考える。
 イコプラを投げ入れることはできる、が。
 戻って来られなかった場合、情報を得ることもできない。
「通信が出来なくても、調べられることもありますわよね」
 戻ってこなかった場合はまた用意すればいいと考え、エリシアがイコプラを突入させようと決めたその時。
 バーバ・ヤーガの小屋が、接近してきた。
「待って!」
 そのままダークレッドホールに飛び込むと思われた小屋の前に、祥子がワイバーン・オルカンを操って飛び出た。
 中にいたのは、若葉分校生で、ゼスタの友人である魔女のリン・リーファ(りん・りーふぁ)だ。
 パートナーの関谷 未憂(せきや・みゆう)は一緒ではなかった。
「周囲を回ってみたけれど、出口と思われる場所はないわ。入った物質が出てきたこともない。興味本位で近づいたら駄目よ」
 不安な表情のリンを祥子は嗜めようとする。
「興味本位じゃない……ぜすたん、あの中にいる。きっとそう!」
 リンは行方不明となっているゼスタと親しくしていた。
 つい先日、一緒に空京でスイーツを食べて笑い合ったばかり、なのに。
 その時、彼が言っていた言葉と表情が頭にこびりついて、離れなかった。
 彼がとても強いということを、リンは知っている。
 連絡がつかなくなることも多々あるけれど、こんな形で行方不明になることは、今までになかった。
 パートナーの優子は寝込んでいるという。彼女だって、よほどの状態じゃなければ、学校も仕事も休むような人ではない。
 悪い予感と、悪い想像がリンの中で渦巻いていた。
 そして、目の前の赤黒い渦を見て、リンは確信をする。
「この血色の渦が、ぜすたんを連れ去ったんだ……」
 リンは小屋を捨てて、地獄の天使で翼を生やして、祥子を振り切ってダークレッドホールへと飛んでいく。
「私も行きます。目的、近いようですから、一緒に行った方がいいでしょう」
 プロミネンストリックで飛んで、小夜子がリンの後を追う。
「小夜子……今、テレパシーで副団長のティリアに連絡をしたんだけれど、二次災害につながるようなことは避けなさいって」
「はい」
 小夜子は返事をして微笑んで。
 そのまま、リンを追いかけて彼女の腕をつかんだ。
 出かけにも、二次災害にならないように注意するよう、言われていたけれど……。
 こういう危険な役目は自分の仕事だと思っているから。
「連絡、しますね」
 一度だけ振り向いて、小夜子は祥子に言った。
「危険を感じたらすぐに戻ってきなさい。気を付けて!」
 大きな声でそう言い、祥子は小夜子を見送る。
(凄まじい熱さです……! 魔法の力のよう……)
 突入直前、小夜子から祥子にテレパシーが届いた。
 その後は、1分経ち――5分経っても、何も連絡はなかった。
「……燃え尽きるかもしれませんが、こちらも行かせますわね」
 エリシアは接近して、イコプラを投げ込もうとする。
 その前に。
「……なるほど。楽しいことが起こりそう?」
 お菓子を持って……いやいや、食料を持って装備を整え、興味本位で観光に訪れていた百合園生の牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が、エリシアのイコプラを三つ首の龍に乗せた。
「出入りが出来るのか、どこに出るのか、脱出方法があるのか、ちょっと調べてきますねー」
「アルコリアさん」
 地球ならば当然教師として止めるべき、だけれど。
 アルコリアの実力は知っている。だから、彼女に託すべきなのか……祥子が迷っているうちに、アルコリアの姿はダークレッドホールの中へと消えていった。

 それから、数分、数十分、数時間。
 そして、数日が過ぎる。
 しかし、アルコリアは戻らず、小夜子からの連絡も届かなかった。