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白百合革命(第1回/全4回)

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白百合革命(第1回/全4回)

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第5章 行方不明者

 瑠奈とゼスタが本当にダークレッドホールに巻き込まれたのか。
 それを確認するために、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)はツァンダを訪れた。
 2人の足取り調べ、たどり着いたのはツァンダの東の森にある、小さな空の港町だった。
 2人が本当にダークレッドホールに吸い込まれて行方不明になっているのなら、助ける為に突入する覚悟だってある。
「この日に本当に来たんだね?」
 レキは携帯電話に落としてきた瑠奈の写真を見せながら、酒場のマスターに問いかけていた。
「間違いないよ。びしっとした百合園の紋章入りの服を着てたからね。一緒にいた兄ちゃんも派手だし、目立つ2人だったから」
 マスターはグラスにジュースを注ぎながら答えてくれた。
「2人はタシガンへ向かったんだよね?」
 レキの他にも、瑠奈とゼスタの足取りをたどり、ここを訪れた者がいた。
 蒼空学園生の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だ。
 そして、公務実践科に通っているレグルス・ツァンダもここで情報を集めていた。
「そうだよ。ただ、噂でしかしらないんだが、その船が荒くれ者達に乗っ取られてしまったらしくてね」
 ここは、政府や6首長家が運営する船着き場ではない。
 現地人が渡し船のようにタシガンの岸まで旅行者達を運んでいる、民間の空の港なのだ。
「蒼空学園の生徒会に聞いた話では、何でも瑠奈さんが生徒の安全の為に、ダークレッドホールを気にしていて、近くを通るこのルートでタシガンに向かうことを望んだそうだ」
 レグルスがレキにそう説明をする。
「それで、船はどうなっちゃったの?」
 美羽は不安げにマスターに尋ねた。
「そのまま消息を絶ってしまったらしく、詳しい事は誰もわからないんだ」
「その日、タシガンに到着していない便があるそうだから。その便で間違いなさそうだね」
 レキはここを訪れる前にタシガン側の空の港にも問い合わせ、瑠奈とゼスタが消息を絶った日の運行状況について聞いてあった。
「その荒くれ者達は、乗っ取って何をしようとしていたのかは、知らない?」
「……ダークレッドホールに突入するぜ、とは言ってたね」
 レキの問いに答えにくそうにマスターが答える。
「あー、それね。俺は止めたぜ」
 近くで飲んでいた中年の男性が話に入ってきた。
「モヒカン達じゃなくて、兄ちゃんと姉ちゃんの方をな」
 一般人が集団の荒くれ者を止めることができないように、マスターも客達も荒くれ者達を諌める事は出来なかった。
 だけれど、巻き込まれないよう一般客に注意を促す事は出来る。
「けど、あの子達は腕に覚えがあるみたいで、自分達にまかせてくれと言って、船に乗ったんだ」
「一般人が乗らなくても乗っ取った本人たちも、船長さんも大変な目に遭うしね、団長は危ないことを考えている人達を、止めようとしたんだろうな……」
 瑠奈がモヒカン達を説得しようとしている姿を思い浮かべ、レキは大きくため息をついた。
「ここはダークレッドホールにも近いし、なんか噂とか聞いてないかな? 中はどうなっているとか、傍まで行った人の話とか」
 レキはマスター、そして酒場の中にいる人々に、ダークレッドホールについて聞いてみる。
「中に入ってそこから出てきたってヤツはいないな。近づいただけで消し炭になるって噂はある」
「渦巻く炎を突破した先には、宝がざくざくあるって噂があってな、突っ込む命知らずの若者が後を絶たないんだ」
「そうなんだ……あと、このニュースは本当?」
 ここは銃型HCに落としておいた、ダークレッドホール絡みのニュースを見せる。
 ダークレッドホールが大きくなっているという情報や、ダークレッドホールに吸い込まれたと思われる若者たちが発見されたというニュースだ。
「大きくなってるのは確かかもなー。元々トワイライトベルトの中だったから発見が遅れたんだが、最近ではトワイライトベルトの外からでも見えるしな」
「森で発見された者のほとんどが契約者だそうだ。
 この酒場では、飛び込んでも無事だった奴らは、中にいる未知の生物にあれこれ調査されて、捨てられるって噂が流れてるぞ」
「んー、UFOに連れ去られ、人体実験された地球人みたいな?」
 レキは続いてレグルスに目を向ける。
「ツァンダさんは他に何か知ってる? 噂についてはどう思う?」
「そうだね……僕が聞いた話では、発見された人達は検査服のようなガウンを纏っていたらしいよ。だから、人体実験というのも全くのでまかせじゃないのかも……」
 眉を寄せて考え込みながらレグルスが答えた。
「おじいちゃんは何か知ってる?」
 美羽は隅の席で新聞を読んでいる老人に近づいた。
「昔にもこういうことあったとか」
 半分ほど減っているグラスに、ビールを注いであげながら尋ねる。
「わからんのう。迷惑しとるんじゃが、観光客が増えたお陰で生活は楽になった。複雑な気分じゃよ」
 苦笑しながら、老人は美羽が注いだビールをぐいぐいと飲んでいく。
「どれくらいの頻度で、どんな層がダークレッドホールに向かっていくの?」
「怖い物知らずの若者が多いのぉ。近くの島の木に、命綱を縛り付けて、突入するって言っていた若者もいたんじゃが、そやつも帰ってこなかったのぉ」
「その綱はどうなったの? 引っ張ってみなかったのかな」
「仲間の話では、千切れていたとのことじゃった。のう、マスター」
「ええ。強固なワイヤーを仕込んでいたらしいんだが、溶けたかのように切れていたそうだ」
 そういったこともあって、飛び込んだ者は消し炭になるという噂が流れたそうだ。
「契約者だったら、熱に耐えられるってことなのかな……」
 美羽がそう言葉を漏らした。
「団長とゼスタさんなら、吸い込まれたのだとしても、無事だとは思う、けれど」
 レキもゼスタのパートナーの優子が不調であることは聞いていた。
 兎に角、2人がダークレッドホール絡みの事件に巻き込まれたことには間違いはなさそうだ。
 レキと美羽、そしてレグルスは協力して情報集めてまとめ、白百合団への報告書を作成する。
 その最中に、他の場所に行った者達からの報告も、レキとレキを通じてレグルスと美羽にも届いたのだった。

○     ○     ○


「おかしいわね、何で私こんなところにいるのかしら」
 ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)は何故か森の中にいた。
 百合園の生徒手帳を持った少女が発見されたと聞き、前々から怪しいと思っていたゼスタが、瑠奈の血を吸ったのかもしれない。
 そんな迷推理のもと、パートナーの橘 舞(たちばな・まい)を百合園に残して、単独で小島の治療院を目指したはずなのに。
 何故か彼女は森の中にいる。
 小島に向おうとしていたが、乗り物に乗り遅れたり、乗る便を間違ったりして、たどり着いた先は小島ではなく、ツァンダの北東の空の港町だった。
 目的の島行きの便は出ていないということで、それなら森で発見された行方不明者にでも会って話を聞いてみようかと思ったけれど。
「話が聞ける状態じゃなかったのよね」
 森で発見された行方不明者は、ツァンダの病院で療養していた。
 彼らには一切の記憶がないらく、言葉もまともに喋れないらしい。
 分からない、怖い、という単語を繰り返し、震えているのだという。
 写真を見させてもらったが、知り合いでもなく、百合園生でもないとのことだった。
 外傷などはないため、近々その者たちは家族のもとに帰されるそうだ。
 発見された行方不明者に共通しているのは、ダークレッドホール付近を通った可能性が高いということ。
 そして、契約者、もしくは能力に秀でた者であったということ。
 その後、医療関係者に瑠奈とゼスタのチャラい写真を見せて、何か情報はないか尋ねてみたけれど、特に手掛かりは得られず……。
 ただ、ツァンダの森の中で行方不明者が何人も発見されているという話を聞いたため、森を訪れたのだ。
「で、ここはどこなのかしら」
 周囲を見回すが、見えるのは木ばかり。
 迷ってしまったようだ……。