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白百合革命(第1回/全4回)

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白百合革命(第1回/全4回)

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第9章 舞台裏

 ベッドだけ置かれた部屋に、攫われた地球人の若者達は寝かされていた。
 両手両足は縛れて、ベッドに固定されていて逃げることは出来ず。
 ここがどこなのか。
 どれだけ時間が過ぎたのか。
 一体、自分は何をされているのかも理解できないまま。
 薬を投与され、攻撃魔法と思われる力を、その身に浴びせられ、叫び、苦しみ、発狂し。
 命を落としていった。

「はあ……はあ……はあ……」
 粗い呼吸を繰り返しながら、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は目を開いた。
 飲まされた薬の副作用か、意識がはっきりとしない。
 体中が焼けただれているように、痛かった。
 首を回して周りを見て見ると、隣のベッドの娘――白百合団員に所属しているマリカ・ヘーシンク(まりか・へーしんく)の苦しげな姿が見えた。
「がんばる、です、よ……」
「あたしは、大丈、夫。でも、多くの人が……」
 周りで苦しんでいた人々のうめき声が少なくなっている。
「みんな、眠って……しまったんです、ね。ここは、病院じゃ、ない、ですか……」
 ヴァーナーの声も、次第に小さくなり、消えた。
「病院じゃ、ない……。これは、人体実験……うっ、げほっ、ごほっ」
 マリカの口から血が溢れる。
 喉が、燃えるように熱かった。
(あたしは、死なない、こんなところでは……死ねない!)
 唱えながら、マリカも意識を失っていく――。

○     ○     ○


 ヴァイシャリー家の一室。
 ミケーレ・ヴァイシャリーの部屋に、シスト・ヴァイシャリーが訪れていた。
 ミケーレはヴァイシャリー家現当主の息子であり、ラズィーヤの弟だ。
 シストは、現当主の長男の息子、次期当主の息子。ラズィーヤとミケーレの甥にあたる。
 ミケーレは、ソファーに腰かけワインを、シストは窓際で夜空を観賞しながらノンアルコールのカクテルを楽しんでいた。
「シスト、お前は特殊な指輪を預かっていたよな?」
「そうだけど。俺のことより、そっちは? ついこの間まで小指にしてたよな」
 ミケーレの指に目を向け、シストが言った。
「俺の指輪は、百合子に預けてある。まだ公表はしていないが、口頭で結婚の約束はした」
「へぇ……オメデトウ」
「で、お前は? ……風見瑠奈さんに渡したのか」
 シストは答えず、ミケーレと目を合せ。
 同時にふっと息を漏らして、浅く笑った。
「しかし、タイミングが良すぎる。指輪を求めている者から、何か連絡を受けていたのか」
「俺は“兄さん”達より、ここによく顔を出していたから、何かが起こりそうな予感はしていたさ」
 グラスをテーブルに置き、ミケーレはシストを見据える。
「風見さんを、囮にしたのか?」
「それはそっちだろ。錦織百合子を囮に使うつもりだろ?」
「百合子はパートナーだ。彼女にもしものことがあれば、俺も影響を受ける。しばらくは傍に置いて、彼女のことは守るよ」
 言葉通り、ミケーレは百合子を側に置いていた。
 彼女は現在、ミケーレと共にここヴァイシャリー家に滞在している。
「お前は、好きな娘を危険にさらして、平気なのか?」
 ミケーレの問いに、シストは特に感情を表さずに答える。
「瑠奈のことは好きだが、そう執着はしていない」
 ぐいっと、カクテルを飲んでシストはギラリと目を輝かせた。
「亡き恋人の為に、警察の必要性を訴えるという展開なんてどう?『こんなことが二度と起こらないように、俺が警視総監になり、ヴァイシャリーを守る!』とか」
 クスッとシストは笑みを浮かべた。
「……お前、あと2年は議会に出られないだろ。大体、風見さん他に恋人いるそうだし」
 ため息をつきつつ、ぼそっとミケーレは呟いた。

 ――白百合革命第1回 完――