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白百合革命(第1回/全4回)

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第7章 光に包まれて

 9月上旬にファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)の元に、1通の手紙が届いた。
 その手紙には『シャンバラ王国の正常な統治のために“騎士の指輪”と同志を集めている』と書かれており、集会を行う日時が記されていた。
 騎士の指輪とは、シャンバラ古王国時代、女王と近しい立場にいた親族や騎士達が指に嵌めていた指輪である。
 5000年経った今も、その指輪は修理され、加工され王家の血を引く者たちの元に、幾つか残っていた。
「騎士の指輪という当時の呼び方を使っているということは、手紙の送り主はシャンバラ古王国時代の、知識がある人物だ」
 ファビオは同行に了承してくれた2人の女性――瓜生 コウ(うりゅう・こう)と、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)に、船室で説明をしていた。
「貴重な鉱石が嵌められているだけで、指輪事態に特別な力があるという話は、聞いたことがない……とはいえ、はっきりとしたことは分からないんだけど」
 ファビオもシャンバラ古王国時代のことを、はっきり覚えているわけではない。
「ダークレッドホールの発生と関係があるのかもしれないな」
 コウはダークレッドホールが気になり、単独で調査を行っていた。
 実際に足を運び、確認もしたし、ニュースや噂話の裏取りも行い、現在公にされている情報程度の知識は得てあった。
 コウはファビオと同様、騎士として女王に仕えていた女性『美しきマリザ』とパートナー契約を結んでいる。
『なるほど、裏切りがないようにヒモ(マリザ)を付けたいが当人に言うには憚られるという訳か』
 打診の際には皮肉気にそう言いながらも承諾し、マリザには事情を話さずに、ファビオと合流をした。もしもの時用のこれまでの調査資料とマリザへの手紙は、ラズィーヤに預けてある。
「指輪は具体的に誰が持っているのかしら?」
 亜璃珠がファビオに尋ねる。
 彼女は、神楽崎優子と親しい人物として、ヴァイシャリー家から紹介され、ファビオに雇われた。
 優子が不調であることは知っている。
 おそらく、行方不明のゼスタが危険な状態にあるからだ。
 その件と関係があると亜璃珠は考えて、同行を望んだ。
「わからない。ヴァイシャリー家では、独身の家督継承権を持つ者が1つずつ預かっているそうだ。婚約指輪として使われて、結婚後には一旦回収されるとか」
 ミケーレ・ヴァイシャリーは、少し前まで指に嵌めていたそうだ。
 しかし、今は持っていない。
「ヴァイシャリー家は、未成年の男子の存在さえ隠されてるものね」
「……見えてきたな」
 コウが鋭い目を湖に向ける。
 手紙に記されていた指定の場所は、ヴァイシャリー湖に浮かぶ無人島の一つだった。
「何が起きるかわからないから、聞いておいてほしいんだが」
 操縦をしながら、真剣な目でファビオは2人に言う。
「俺は、自他ともにどんな状況に陥ろうとも、自らの意志で、シャンバラを裏切ることはない。ヴァイシャリー家を裏切ることはない」
 もし、自分の意志で動けなくなった際には――確実な方法で、止めて欲しい、と。
「覚えておく」
「わかったわ」
 コウと亜璃珠はそう答えた。
 同時に、それは自分達に対してもそうなのだろうと思う。
 自分達が、シャンバラとヴァイシャリー家に敵対するというのなら。
 ファビオは確実な方法で、2人を止めるのだろう。

 島の近くに船を泊めると、まずはファビオが飛んで降り立って、辺りを確認してから、コウと亜璃珠を呼んだ。
 島には建物は存在しておらず、木々が密集している。
 木々の中を進んで、少し開けた場所へと出る。
「ここで間違いないはずだ」
 指定の時間まで、あと数分ある。
 3人は辺りを見回し、気配を探るが、自分達以外の人の存在は感じられなかった。
 そして、指定の時間――12時を迎えた。
「ん?」
 手を空に向けながら、コウは太陽を見上げる。
 3人を照らしていた太陽の光が、突如強くなった。
「太陽の光、じゃない?」
 亜璃珠が眩しげにファビオを見上げたその直後。
 強い光が3人を覆い――3人の姿は光の中に消えた。