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プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

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プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

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ビートル 2 


 反省房から出された後、ビートルは不機嫌さに磨きがかかっていた。
 自由時間になっても他の囚人たちは「五千歳のジジイは、短気で困るぜ」と、彼には寄りつかない。
 そのビートルの足元に、滑空してきた紙飛行機が落ちる。
 ビートルはいぶかしげに拾いあげた。シャンバラでは、あまり見慣れない物だ。拾ってみると、飛行機には文字が書かれている。何の気なしに開いてみると、このように書かれていた。

魔鎧のビートルか
 俺は剣の花嫁の紫煙葛葉
 今は声を失っている為このような挨拶になるが、すまない


 ビートルが紙飛行機が飛んできた方向を見ると、紫煙 葛葉(しえん・くずは)がまた新しい紙飛行機を折って、飛ばしたところだった。
 ふたたび足元に落ちてきた飛行機を、ビートルは拾う。

古王国の頃は鏖殺寺院の騎士だったと聞いた
 主の悪魔は既に討たれたことも
 2人は戦場に何を、求めていた?


「…………」
 黙っていると、さらに紙飛行機が飛ばされてきた。

愚問だったか、すまない
 ところでブラキオが気に入らんという噂を聞いたが、奴はどんな奴なんだ?
 ブラキオ信者に聞くより、嫌いな奴に聞いた方が
 正確に知る事ができると思ってな


 ビートルは葛葉に歩み寄った。
「自分も主も、ただネフェルティティ様への忠誠の為。
 ブラキオは、誰の為だか分からんイカサマ宗教を五千年も続けてる、おかしい奴だ。大物ぶった小悪党に過ぎん。奴は信徒を集めて、隠れて何かやらせているようだが、近づかん方が身の為だ。以上」

 ビートルはずいと離れる。
 しばらくすると、また紙飛行機が彼の足元に滑り込んでくる。
 ビートルは疑わしげに葛葉を見てから、紙飛行機を広げた。だが、そこに書いてある事は、これまでとは異なった。

聞いてばかりでは公平じゃないな
 俺には契約した主がいる
 だが今の主の前に、俺には別の契約相手がいた
 鏖殺寺院の名も無きスパイの一人でしかなかったがな
 寺院に入ったのは唯一人の人間を守りたかっただけ、だそうだ


 ビートルは肩をすくめ、ゆっくりとその場を歩み去る。そろそろ、また労役が始まる時間だ。
 離れた所から彼らの様子を見ていた囚人が、ビートルに近づいた。
「ありゃ何だ? 地球人がやるっていうオリガミか?」
 ビートルは興味なさげに答える。
「知らん。アレを何度もぶつけてくるから、直接、そんなマネはするな、と注意してやったんだが、それでも止めようとしないから離れる事にした。それだけだ」
 囚人はビートルが誤魔化した事に気付かない。
「へえ、怒らなかったんだ。珍しい」
「そんな事でいちいち怒っていられるか!」
 意外そうな囚人に、ビートルは怒った。


 翌日、面会室で葛葉と天 黒龍(てぃえん・へいろん)は向き合っていた。
 黒龍はいまだに納得できていない表情だ。なぜなら葛葉は逮捕された理由を、彼には伝えていない。
 葛葉はやはりその事には触れずに、前回差し入れた本を黒龍に返す。
「もう読んだから、来週、新しい読み物を持ってきてくれ」
 黒龍は本を受け取り、彼の顔をじっと見た。
「……お前の主は、私だ。
 私の知らない所で身を削る事だけは許さないからな」

 面会を終えて刑務所を出ると、ムショ前町は相変わらずの喧騒に満ちていた。
 黒龍は急ぎ足で宿に戻ると、返された本をめくる。事前に聞いていた通り、こよりが隠されていた。
 広げると、ビートルから聞いた話が細かな文字で書かれている。
 黒龍は内容を頭に詰め込むと、宿を走り出た。
 ムショ前町では、明らか過ぎる違法商売がないか、時々、刑務所から看守が見回りに来ている。黒龍はその看守を見つけて、盗み聞きされない場所に移動してから、葛葉が伝えた情報を告げる。
「囚人であるパートナーから直接得た確かな情報だ。必ず所長に伝えてほしい」
 黒龍の強い念押しに、その看守は戸惑いながらも了承した。
 幸いその看守はブラキオに与した者ではなく、黒龍の話は、通常の住民の要望や苦情などと共に、所長へ報告された。



 囚人達は作業と夕食を終え、夜の自由時間を迎える。
 読書中のビートルに、酒杜 陽一(さかもり・よういち)が近づいた。
(鏖殺といえど騎士であるなら相応の自負があるだろう)
 陽一はそう考え、ビートルに礼儀ただしく挨拶する。ただ、すでに彼が怒りっぽく反省房の常連だと知っているので、いまいち敬意は払えなかったが。
「境遇や扱い等について何か言い分が事があるなら聞くよ」
「貴様などに話しても何にもならん」
 ビートルは不機嫌に返す。人と関わりたくないのだ。
 陽一は、そっぽを向いている彼に本題を伝える。
「秘密裏の工作活動であれば、望みの達成を手伝おう。だから乳密香について教えてくれないか?」
「知らん。だいたい工作とは何の事だ。誰か別の奴と間違えてるんじゃないのか?」
 ビートルは本から顔をあげずに答える。
「……タダで情報を教えて貰えないなら、所内の情報を逐一教えるし、ビートルさんの代わりに動く事を条件に教えてもらえないか?」
「不要だ。だいたい知らんものを、どうやって答えようとがある?!」
 ビートルが陽一をぎろりとにらむ。だいぶイラだっているようだ。
「知らないなら、色々聞いてすまなかった」
 騒ぎになる前に、陽一はビートルから離れた。
 彼らの様子を遠巻きに見ていた囚人たちが、陽一を迎える。
「大丈夫か? あんな乱暴者には関わらない方がいいぞ」
 囚人たちは陽一の味方だった。
 陽一が、彼らの怪我をヒールで治したり、酒や差し入れのバレンタインチョコを振舞って仲良くしていたからだ。
 特にチョコを振舞う際は、にっこり笑顔のフリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)の写真と、彼女が『お努め頑張ってください』と書いた手紙を見せていた。
 女性の写真に励ましの言葉、そしてバレンタインチョコ……囚人たちの陽一への心証は非常に良いものだった。

 陽一は一人になると、フリーレに差し入れてもらった推理小説の本を広げる。暗号でメッセージを伝える手筈になっているのだ。
 受け手のフリーレも
「乳蜜香の手掛かりや、早急に外的な介入が必要な緊急事態の情報が記されていれば、キム所長に伝えよう」
 と言ってくれていた。
 しかし陽一はハタと気付く。今日は、わざわざ暗号で伝えるような事柄は入手していない。「何もなかった」などと暗号で記して、ブラキオ側の看守にその存在を気付かれたら事だ。面会の時に、変わりない事を伝えれば、フリーレならピンと来てくれるだろう。
(いい機会だし、改めて理子様の為に何ができるか考えるか……。
 俺は理子様に、日本の歴史と共に歩んできた自分の血筋を誇ってほしい。だが、理子様が自分の血筋や代王としての誇りや責任に重圧を感じるなら、恋人として彼女を支えたいと思い告白した。動揺させてしまったが……
 どうすれば彼女を幸せにできるだろう……)
 陽一は代王高根沢理子(たかねざわ・りこ)の事を考えつづけた。