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プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

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プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

リアクション



アルサロム 


 運動場に多くの看守が集まる。復活した階層を調査した探索者も、同様に集まっている。
 逆に、囚人はそれぞれの房に入れられ、この場にはいない。ブラキオも、一連のUFO騒ぎやダンジョン騒動に対するのと同じように、無視を決め込んでいる。

 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が改めて、周囲の者に説明する。
「こちらにあるのが、アルサロムの部屋で見つかった、一部分のみの笛です。これを演奏する際と同じように指で押さえると、特定の魔法波動を発っします。
 我々は、おそらくは何らかの曲を奏でるように指を配置する事で、何かの魔法を顕現させる物である、という結論に達しました」
 ウィングの説明と並行して、ロイヤルガードのソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が額縁を運んでくる。礼拝堂で囚人のアイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)が見つけた額入りの楽譜だ。
「こちらが、ブラキオさんが大事に書き残して、礼拝堂に飾っていた楽譜です」
 キム所長が一同に言う。
「笛を楽譜通りに吹いた結果、何も起きない可能性はあるけど、逆にとんでもない事が起こる可能性があるから各人、注意するように」
 そして所長に促され、ウィングが音を間違えないよう慎重に、楽譜通りに音の出ない笛を吹く。
 曲を終え、ウィングが笛を下ろすと、皆は周囲を見回す。
 ウィングの前の空間がグニャリと曲がり、轟音を立てながら何かの塊が現れた。人々はそれを囲み、身構える。しかし、その表情が怪訝そうに変わる。
「なんだ、これ?」
 それは地面から引っこ抜いた噴水のように見えた。
 ロイヤルガードのカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)がピンと来る。
「もしかして、これが乳蜜香じゃないの?! 噴水の先から出るのが、大地の豊穣によく効くんじゃないかな?」
 探索者の間から、感嘆の声がもれる。
 その時、警戒にあたっていた看守が叫ぶ。
「UFOだ!」
 いつの間にか、上空に光る円盤──UFOが出現していた。今までのように遠い上空ではなく、刑務所の運動場の真上に静止している。
 いきなり刑務所の防衛装置が、UFOに向けて発砲を始めた。
「UFOには攻撃するなって言ったでしょ。今すぐ停止しなさい」
 キム所長が通信機で命じるが、相手看守からは狼狽した声が返ってくる。
「そ、それが制御を外れて勝手に……我々の操作を受け付けません!」
 運動場では乳蜜香らしき噴水と、その周囲の空間が歪みだす。
「待て!」
 ベアが噴水にタックルをかけ、そのまましがみつく。他の探索者たちも、どこかになくなりそうな噴水に飛びかかり、押さえつける。
 その間にも刑務所の対空砲火は続き、UFOは煙をあげながら、ひょろひょろと動き出す。と、UFOの一点から刑務所の管理棟に向け、一筋の光条が走る。だが特に爆破などは起きず、UFOはそのまま姿を消す。
 すると防衛装置のコントロールが、看取に戻った。
 しかし、押さえつけられた噴水は、それでもものすごい力でどこかに行こうとしている。
 そこへ屋敷の方から、ブラキオが恐ろしいスピードで飛んでくると、噴水を押さえる者たちに魔法攻撃をしかけた。
 集まった探索者や看守が銃や魔法で応戦するが、ブラキオを囲む防御魔法で弾かれてしまう。
「フッ、現代の契約者の戦闘力とはこの程度か。この程度の奴らに、それは過ぎたる物だ」
 コンジュラーのウィングが、その姿に目をこらす。
「これはブラキオというより……何者かがブラキオの体に取り憑いて動いているようです!」
 同じくコンジュラーのエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が、その姿を見定めてハッとする。
「こいつは守護天使……アルサロムか?!」
 ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)の目の色が変わる。
「出たなー! 前女王様を裏切った極悪人!」
 ショットガンを撃ちまくる。
 ロイヤルガードカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)はそれを止めようとする。
「まだ、噴水が乳蜜香なのか確かめなきゃ!」
「ゴム弾だから平気!」
 ロートラウトはアルサロムを捕えて情報を吐かせ為、ゴム弾試用のショットガンを使っていたのだ。
 機晶姫ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は、メモリープロジェクターでアイシャ女王の姿を空中に投影する。
「アイシャ様に恥ずかしいとは思わないか?!」
 現女王の姿に、多少なりとも畏怖の感情を抱いてくれれば、と思っての事だ。しかしアルサロムは鼻で笑った。
「愚にもつかない平等主義でシャンバラを滅ぼさんとするアムリアナの、そのまた後継者を祀り上げるとはな……偽善者を崇拝するのは、やはり同じような偽善者どもという訳か」
 アルサロムはゴミでも払うように範囲攻撃魔法を放つ。
 ジュレールはそれに耐えながら、レールガンによる攻撃に切替えた。
 守護天使クナイ・アヤシ(くない・あやし)がオートガードと、北都の禁猟区で身を守り、空中からアルサロムに問いかける。
「何故、女王陛下を利用したのですか?
 貴方も、砕音先生の元パートナーのキュリオ様も……何故大切な存在を裏切ろうとするのか。私には判りません」
「裏切り? 違うな。私こそ真にシャンバラの未来を想う者! 国家神でありながら美辞麗句を並べ立ててシャンバラを裏切っているのは女王たちの方よ!」
 アルサロムの姿が消え、瞬時にジュレールの前に出現する。
「クッ……」
 やられる、と思いながらジュレールは必死にレールガンを発射した。
 しかしアルサロムの技の方が先に発動した。──自身への防御力、魔法防御力への大幅ダウン。
 アルサロムは胸に大穴を開けて、豪快に吹っ飛んだ。
「な……ブラキオ、何を……」
 驚愕の表情のまま、彼は事切れた。
 駆け寄ったエヴァルトが、その状態を確かめ、宣言する。
「アルサロムの魂が消えていった。
 ……依り代としていたブラキオが最後の抵抗をして、アルサロムの意思に反して体を動かしたと見るのが打倒だろう」


 戦闘が終わると、謎の噴水も地面で動かなくなる。
 看守は現状の連絡、確認に飛び回る。探索者はひとまず戦闘の手当てを行なう。
 一番最初から噴水にしがみついていたベアが、くてぇと伸びていた。
「……で、これは乳蜜香だったのか、どーなんだ?」
「ベア、お疲れ様」
 ソアが彼の奮闘をねぎらう。
 探索者たちは顔を見合わせる。
 その時、倒された筈のブラキオがむくりと起き上がった。
「うむ、それは確かに乳蜜香だ」
「ブラキオ様は先程、ご臨終なされたのでは?」
 クナイが怪しそうに彼を見て聞いた。
「死んだとも。まあ、これで死んだっきりになるようでは、我は五千年前に死んでいよう。
 見事アルサロムを倒したようだな。あやつは本来の体が死んだ後も、シャンバラ刑務所の防衛や管理を司る機晶装置、今で言うコンピュータに取り憑いていた悪霊のような奴だ。しかも我を操って秘宝乳蜜香で麻薬を作らせていた大悪人である。
 おまえたちの活躍もさる事ながら、我の美しい自己犠牲が合わさって、ようやく倒す事ができたのだ」
「美しいとか、自分で言ったら台無しですよ……」
 ソアがこっそりと言う。
 キム所長はもっと手厳しかった。
「よく言うねぇ。五千年間、仲良く利用しあってきたのに、時代が変わって邪魔になったらポイ。
 それはそうと、いま言った麻薬畑には案内してもらわなくっちゃね。アルサロムに操られて無理やり作らされてたんでしょ? だったら喜んで捜査協力するよね」
 ブラキオは一瞬「しまった」という顔をするが、すぐにつくろった。
「もちろんだとも」
 キム所長は彼に言った。
「差し詰め、五千年もの間、アルサロムが騙し取った乳蜜香を使わせてもらって麻薬生産に励み、そこで得た資金を元手に裏・表双方で商売し続けていたら……小悪党でもなりあがるよね」
「ほう、麻薬捜査官どのは想像豊かだな」
 ブラキオはうそぶいた。
 その時、また刑務所上空に先程のUFOが現れた。
 所長が噴水──乳蜜香のそばにいる者に呼びかける。
「借りた物は返せ、とアイシャ様の仰せなので、秘宝から離れててよ。間違って一緒に連れていかれたら、後々面倒だから」
 ベアたちが秘宝から離れると、それはかき消えた。代わりに金属の台座に載せられた、小さなクリスタルのキューブが出現している。のぞきこむと、謎の記号と片言のシャンバラ語が並んでいる。一番先に書かれた「受領証」という言葉が、それが何であるのかを端的に示していた。
 見上げるとUFOはまた動き出しており、恐ろしい速さで北の空の彼方へと消えていった。
 これがシャンバラ刑務所でUFOが、確かに目撃された最後となる。




 その日の夜。退行していた砕音が、急に元に戻った。
「……あれ? 俺……うわーっ! な、なにしてたんだ、俺っ?!
 ……この度は俺がご迷惑をおかけしました……って、う〜わ〜」
 恥ずかしさに真っ赤になりながら砕音は、皆に謝りまくった。退行している間の記憶はあるようだ。恥ずかしさで、しばらくは立ち直れそうにない。
「砕音さんのせいではありません」
 そこへ彼のパートナーの機晶姫アナンセ・クワク(あなんせ・くわく)が訪ねる。彼女も動けるようになったのだ。
「偵察装置を備えたポータラカの飛行体に対し、私に設定されていた情報漏えいを防ぐ防御機構が発動して、自動的にシステムダウン状態になっていました。私の部品を組み込んでいる砕音さんにも、その影響が出てしまったようです。
 問題の機体が周辺から去ったのを感知した為、復帰しました」
 砕音はへなへなと力が抜ける。
「そういう事はあらかじめ伝えておいて欲しい……」
「すみませんでした」
 アナンセによると、UFOはシャンバラでは未知のレーダーを装備していたようだ。それによって、シャンバラ刑務所内の機械装置に故障した物が多かったようである。


 その後、念のために検査したところ、砕音の体調は悪化していた。既往症もある事を考えると、医療施設に移した方がいいと結論づけられた。引き受け先は、砕音が以前に入院していた聖アトラーテ病院である。
 これにはルカルカ・ルー(るかるか・るー)の報告書もあって、砕音は拘束しておかなくても、逃亡を図る恐れもないだろうと判断された為だ。
 また今のシャンバラがおかれている情況が、長々と裁判をして重要人物を法廷に呼べるような状態ではない、という理由もある。
 なにより、刑務所のあるシャンバラ大荒野にも、エリュシオンの軍勢が迫っている。
 これまでシャンバラ刑務所に収監されていた囚人についても、他の刑務所に移送したり、再犯の恐れがなければ仮釈放するなど、教導団は対応に追われていた。


 こうしてUFO騒動は終わりを告げる。
 探索者は報酬を受け取って、刑務所を後にした。
 ロイヤルガードも隊長に報告を入れ、また別の任務へと向かう。

 しかし、静かになった刑務所で事件は起きた。
 日中、女囚刑務所の監獄棟に残っていた看守と女囚が全員が惨殺されたのだ。
 多くの囚人は作業場に行っており、看守もその監視や指導にあたっていた為、被害は数十人。
 体が内側から爆発したり、巨大な力で八つ裂きにされた無残な殺され方だった。しかし物音や悲鳴を聞いた者は誰もいない。
 ただ、小さな女の子の笑い声が建物から聞こえた、という証言がいくつかあった。もっとも刑務所には、外見だけ幼い女囚も複数いる為、その時は誰も怪しいとは思わなかった。事件発覚後、該当する女囚について調べられたが、全員アリバイがあった。
 そして厳重封印されていたカリアッハが、牢から消えていた。
 特別独房の床には、ビリビリになった封印帯と死体から引きずり出された臓物で文字が作られていた。
 古王国語で「あたしは自由」。


担当マスターより

▼担当マスター

砂原かける

▼マスターコメント

 
 リアクションが大幅に遅れて、皆様をたいへんお待たせしてしまい、申し訳ありません。
 今回の問題の根は深いので、この後、運営チームと話し合う所存です。



 今回リアクションでは、1PCが複数箇所に登場(名前のみ含む)しているケースが多めです。
 もともとのアクション行数が少なかったり、シナリオガイドから外れたアクションでもないのに、登場が名前のみだったり、2,3行しかない場合には、別の場所に登場している可能性が高いです。
 同様に、MCとLCの登場シーンが大きく離れているケースもございます。

 ただ行数を使って書いた推測が外れており他プレイヤーへのミスリードになる恐れがある場合、またルールに抵触する行動については描写しておりません。
 他に、アクションが多数PCとかぶった場合、なるべく他の方と違う部分をクローズアップして描写しております。


 リアクション中で囚人だったPCや捕らわれたPCも、務めを終えて出所したり、脱獄したとして、自由の身です。
 また今回は、元囚人、脱獄犯などの称号は付与しておりません。

 リアクションではカリアッハが脱獄していますが、複数アクションの結果によるものです。
 シナリオ開始前の予定には無かった事ですので、リアクション本文ではヒキのような記述になっておりますが、この後にカリアッハがらみのシナリオがすぐに出される事はございません。

 また「奸臣」と「宦官」を結びつけて考えられる方もいらっしゃいましたが、単語の読み方や部首が似ているだけで、何の関係もございません。
 宦官の中にも奸臣はいたかもしれませんが、宦官=奸臣ではありませんので、ご注意ください。

 なお、シナリオの内容と関係ない上、その結果も決められているアクションがありましたが、こうした内容は採用する事ができません。


 他に、貴重なアクション欄をお使いいただいての私信、NPCへのプレゼント、バレンタイン企画でのNPC御指名など、本当にありがとうございます。励みになります。

 当シナリオは連続性が薄い為、後日に落ち着いてからマスターページにシナリオのネタばらしや感想を書かせていただこうと考えております。