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プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

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プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

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UFO 


「さて、今日もUFOを探しに行きましょうか」
 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、ジュリオ・ルリマーレン(じゅりお・るりまーれん)とムショ前町の宿に泊まっていた。
 エメは宇宙人と話す為で、ジュリオは宇宙人(?)がその頃の事に興味があるなら情報源になれるだろうと、エメに同行していた。
 二人とも、害意がない事を示す為に武器は持たない。
「ひたすら相手からの接触を待つのは、どのような場面でも忍耐力を強いられるな」
 二人は町周辺を探し、空を飛ぶUFOを二、三度、見ていた。しかしUFO側と接触を持つ事はできていなかった。
 その時、外で「UFOだ!」と叫ぶ声がする。
 二人は急いで宿の外へと走り出る。
 ジュリオが外に出ると、人々がわーわーと騒いでいる。
「エメ、何をしている?」
 エメがなかなか追いついてこず、ジュリオは振り返る。
 そこには誰もいない。
「…………?」
 いつになく頭の中がすっきりしない感じに、ジュリオは邪念を払おうと頭を振った。
(今、私は何をしていたのだ?)
 エメを呼んだ記憶はある。
(すると、私はエメを探していたのか?)
 エメの姿が見当たらないから探している。
 情況から考えると、そのように思える。だが、何か納得できない。今の一瞬は確かに探していたが、本当にそれをずっとしていたのか。
 シャンバラの騎士として、護るべき対象に対して安易に、そうだったと思ってはいけない気がする。


 その頃、エメは光る円形の部屋の中で、一体の機晶姫と向き合っていた。肌が銀色で、古めかしいタイプの機晶姫だ。
 急にテレポートされたエメは、目を瞬かせる。どこかで機械的な唸り声がし、エメは頭の中を誰かにのぞかれているような気がした。
 機晶姫が直立した姿勢のまま、平板な声で言った。
「貸した物、返せ」
「ええと……あなたとお会いするのは、初めてだと思いますが?」
「シャンバラ区域での呼称『秘宝乳蜜香』。検索ワードにヒットした。借用書」
 ガキョンと音を立てて機晶姫の腕が突き出され、その上に四角いクリスタルがある。エメがそれをのぞくと、脳内にイメージが広がった。奇妙な記号の羅列と古王国語で書かれた文章だ。
 要約すると、シャンバラ女王アムリアナ・シュヴァーラがポータラカから何かを借り、その借用期間は彼女が女王である間、となっていた。
 文章の後には、奇妙な紋章と、アムリアナ女王のサインが並んでいる。
「つまり、レンタル期間が過ぎたので秘宝乳蜜香を返して欲しい、という事ですか?」
 機晶姫は微動だにしない。その間も、頭をのぞかれているような感覚は続く。
 エメは機晶姫に語りかけた。
「私は、アナンセさんと砕音先生を助けたいのです。
 できる事があればなんでも協力します」
 数十秒の沈黙の後、唐突に機晶姫が答える。
「検索終了。シャンバラ区域での呼称『砕音先生』。当該個体、確保データ有り。検索、ブロックにより不可。
 不明ワード『あなんせさん』」
「すると、砕音先生はここに来たのですね? なぜ先生をあんな状態にしたのですか?」
 またもや数十秒の沈黙の後、機晶姫は言う。
「検索終了。当該措置数0。理由。ブロックにより検索不可」
 答えてくれたが、意味が分からない。エメが困っていると、機晶姫は先程の言葉を繰り返した。
「貸した物、返せ」
 人間とのコミュニケーション機能は、かなりお粗末なようだ。
 エメは乳蜜香が何千年も行方不明になっている事を説明するが、機晶姫の反応は変わらない。
「貸した物、返せ」
 堂々巡りだ。エメは別の話題を振ってみる。
「借用書のクリスタルを貸していただければ、いま乳蜜香を探している方々にお渡ししますよ。
 ただ、この事を忘れないよう、記憶を消すのは勘弁願います」
「承諾。当該個体、情報削除処理不要」
 室内で妙な音が響き、あれからずっと機晶姫の手の平にあったクリスタルが、ふたつに増えた。機晶姫は何も言わずに突っ立っているので、エメはそのクリスタルのひとつを手に取った。
 そのとたん目眩がし、次の瞬間にはエメはムショ前町の路地裏に立っていた。

 エメが宿に戻ると、ジュリオと教導団員数人が話しこんでいる。聞き取りのようだ。
「兄さん、何か事件ですか?」
 現れたエメに、ジュリオが驚きの表情を浮かべる。
「エメ! 三日間もの間、どうしていた?」
「…………はい?」
 ムショ前町では、エメが三日間、行方不明になっていたのだ。
 エメの体感では、機晶姫と話していたのは三十分程だったが。UFO内部は、外界とは時間の流れ方が違うのかもしれない。



 その後、エメの話とクリスタルの内容は、刑務所のマイケル・キム所長を通して最終的に女王アイシャ・シュヴァーラにまで伝えられた。
「アムリアナ様がお返しするとお約束したならば、乳蜜香は見つかり次第、返却すべきでしょう」
 もちろん反対の声もあるにはあった。
「陛下、返せと言われたからとホイホイ返すのは、外交上、いかがなものでしょうか?」
「アムリアナ様の意思に反する事は許されません」
 結局、乳蜜香の返却が決定された。

 またクリスタルの解析からも、やはりUFOはポータラカのものらしいと結論づけられた。
 秘宝乳蜜香は、アムリアナ女王がポータラカのある人物、もしくは組織(固有名詞と思われ、解読不可能だった)から借り受けた物だったのだ。


 
 エメの前に、ワイバーンが舞い降りてくる。その背から、巨大な望遠鏡を背負った少女サアラ・フウが飛び降りた。
「エメさん! 砕音さんがおかしくなったのは、UFOのせいじゃないって本当?!」
「ええ、直接の原因ではないようです」
 エメの返事に、サアラは考え込む。
「……撃墜はちょっと待った方がいいかな」
 サアラはつぶやき、「ありがと!」と言い残して、またワイバーンで飛んでいってしまう。
 エメは首をかしげる。
「撃墜……?」
 なんだか分からないが、剣呑な事態を遠ざける事になったのだろうか。