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プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

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プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

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ダンジョン 怪物 


 囚人の受け渡しや補給を終えると、ふたたび一行は隊列を整え、地下階層へと挑む。
「良い機会ですからぁ、ダンジョンに戻る前にこれまで判明した事をまとめるですぅ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)の提案で、情報の再確認が行なわれる。
 リネンと協力して、これまで踏破した地域の地図を書き上げたユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)が皆の前に地図を広げる。
 ハンドヘルドコンピュータでマッピングしている者も多かったが、やはり大きな地図でいっぺんに示されると分かりやすさが違う。
「囚人から報告のございました怪物は、この辺りを徘徊しているものと思われますわ」
 ユーベルは地図の未踏破部分を、大きく赤ペンで囲む。
「怪物の見た目は、こういうのだよぉ」
 さらにパラミタ一の画家を目指す師王 アスカ(しおう・あすか)が、スケッチブックに描いた怪物の絵を見せる。囚人の目撃証言を元に描いたものだ。しかも、遠くから見た場合とか、不定形なので形を大きく変えた時のものなど、何枚もある。
 見た目はおおよそ、宙に浮いた霊体スライムで、襲いかかる時には人型の部分が軟体の中からいくつも現れるようだ。
 他に火は苦手なようで、魔法を使える囚人が火術を浴びせると逃げていったという。
「近づいてくる時はー、黒い大きな玉みたいなのがフワーッと飛んでくるみたいだよぉ。逃げられなかった囚人さんは、この怪物に食べられちゃったんだって……」
 アスカはその絵を指して説明する。
 これまで一行の後ろの方で、マッピングと言ってスケッチブックをひたすら描いていたアスカを不思議そうに見る者もいたが、この怪物の図で一挙に感心に変わる。
 保護した囚人に、残っていたお汁粉を残らず振舞ってきた七尾 蒼也(ななお・そうや)は、ロイヤルガード待望の情報を持ってきていた。
「あの階層のどこかに、アルサロムという守護天使の元大臣が収監されていたらしい、と複数の囚人が言ってる。乳蜜香については誰も知らないようだったが、これで一歩前進したんじゃないかな」



 古代の牢獄に戻った一行は、怪物が出没すると思しき場所へと向かった。
 後の探索の安全を図る為にも、まず危険なモンスターを退治するのだ。
 そちらに近づくにつれ、清泉 北都(いずみ・ほくと)の犬耳と尻尾がしきりに動く。超感覚で警戒にあたっているのだ。
「なんだか変な匂いがする……。カビ臭いのと、肉が腐ったような匂い。
 音や空気の感じから、この先に広めの部屋があるんじゃないかなぁ」
 北都の言葉に、一行は緊張を増しながら先を進む。
 途中、鍵がかかったままの格子戸が床に倒されていた。床や壁、天井の痛み具合から、何かが強い力で格子戸を押し破ったようだ。
 さらに進むと、それまでの牢屋とは異なる作りの場所に出た。
 北都が予言した通り、広い部屋だ。入口の上に「食堂」と古王国語で書いてある。
「近づいてくるよぉ」
 超感覚で異音を聞き取った北都が、警告する。
「照らすぜ」
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)が光精の指輪で召還した光の人工精霊を、食堂の奥へと飛ばす。隅の方から、空中を直径4m程の饅頭型の物体が浮いている。囚人に聞いた大きさよりも、ふたまわりは大きい。育ったのだろうか。
「UFO? じゃないよな」
 泥のような濁った巨大饅頭から、人の上半身のような物が出てきて、近くに飛んできた精霊を捕まえようとする。垂は人工精霊を操って、くるくるとその怪物の周囲を回らせる。
「殺気ビンビンだな」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が口に出して、仲間の注意をうながす。
 不気味な怪物は彼らの方へ、ゆっくりと近づいてくる。その表面がゴボゴボと不気味な音を立てる。と、そこから何体もの人間型のモノが飛び出してくる。
「予想の通りなのだよ!」
 ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)がサイコキネシスで人型を空中でブロックし、さらに氷術をお見舞いする。ダークビジョンで人工精霊がカバーしきれない場所まで、よく見えていたから反応は早い。
「次々と来るぞ!」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が自身の光条兵器の明かりを頼りに、食堂内へ走りこむ。
 エクスに向かって飛び出してくる人型に、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が得意の弓矢を叩き込んだ。勢いを失った人型に、エクスが掲げてきた光条兵器で左右になぎ払う。
 ふたたびルーツがサイキコネシスで人型を止める。今度はプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が両手剣を振り回して、叩き斬った。
 唯斗は人型をかわした上で、床に落ちたところにイーグルフェイクからアルティマ・トゥーレの冷気をお見舞いする。
「明倫館の忍を舐めるなよ」
 睡蓮が念を入れて、その人型にも弓を射込んだ。
「兄さん、援護してますから背後はご心配なく」
「応!」
 プラチナムは人型を振り払いながら怪物本体に近づくが、宙に浮く怪物には武器が届かない。エクスは光条兵器を射出して対応するが、人型と違って、こちらにはあまり効いているように見えない。
 垂もふたたび仕込み箒を振るって、怪物から飛び出してくる人型を斬って斬って斬りまくっている。
 しかし人型は後から後から湧いてくる。
「これじゃジリ貧だぜ!」
 コンジュラーの黒崎 天音(くろさき・あまね)がフラワシを呼び出す。
「やっぱり本体を叩かないと埒があかない、というケースじゃないかな」
 召還されるのは、焔のフラワシと粘体のフラワシだ。

 ぼみょん。

 奇妙な音を立てて、いくつもの人体を生やしたようなスライム状怪物の上に、燃え盛るスライムがのっかった。
 怪物は火炎への耐性が弱かったようで、グニャグニャと変形してフラワシを振り落とそうとする。
 しかしフラワシは複数呼び出すと、それらが合体して具現化する。
 その為、この燃えるフラワシは粘性もあって、怪物の上にくっついて離れない。
 怪物はあわてたようにグルグルと宙を飛びまわり、そして湿った轟音を立てて床に落ちた。そのまま不規則に、もがくように蠢いている。
「落っこちりゃ、こっちの物だぜ!」
 近接武器の使い手が一斉に怪物を囲んで、トドメを刺す。
 天音は機会を見計らってフラワシを消す。
「こういう風に融合するとは意外だったね」
 パートナーのそんな発言に、 ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は眉間にシワを寄せつつ、ヒーラーとして活動する。
「火傷でも怪我でもした者はいないか?」
 幸いブルーズが気にした程、フラワシを「ふざけている」などと気にした様子の者はおらず、通常通りにナーシングを済ませる。天音に言わせると、ブルーズの方が気にしすぎ、という事になるのだが。
 天音はコンジュラーとして、怪物の正体を推測する。
「これは怨霊が集まって誕生したもののようだね。おそらく消滅してしまった囚人の魂が、生者を取り込んでやろうという怨念を糧に動いていたんじゃないかな」
 が光精を飛ばして、部屋の荒れた様子を見てまわる。
「にしても、見事なまでのダンジョン化だ。こんな場所に乳蜜香ってな、そぐわないな」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が答えて言う。
「アルサロムという奸臣が隠し持っているままなのだろう。本人を生かしたまま捕えて、その在りかを吐かせるしかないな」
 彼の横でロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)も、ぷんすかと怒っている。
「アムリアナ前女王陛下を騙した極悪人! 見つけたらボッコボコに叩きのめして懲らしめてやるんだから!」
 垂は苦笑し、ちょっと引っかかっていた事を口にする。
「ただ、1つ気になるのはアルサロムって奴が『何故、乳蜜香を隠したか?』ってことだな。
 だって考えてみろよ。いくら大地の豊穣を司る秘宝とは言え、それを隠したら効果は無くなっちまうだろ? 使用し続けて金を取るとかなら兎も角、な?」
 エヴァルトも考えを巡らせる。
「確かに、そうだな……。だが本人としては、一時的に隠してほとぼりが冷めたら利用するつもりだったのかもしれん。
 まあ、本人から聞きただせば良い事だ」

 探索はこれから、いよいよ核心へと近づく。
 実は、垂の疑問は鋭い所をついているのだが、その関係性が明らかになるのは、しばらく後の事だった。