シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

リアクション公開中!

プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

リアクション



ダンジョン 特別エリア 


 立派で頑丈な扉を前に、一行は立ち止まった。
 見回してみても、食堂のように説明が書かれてはいない。
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が地上の地図と現在地を照らし合わせる。
「この扉の先は、刑務所管理棟の地下方向よ。より重要な場所があると考えてよさそうね」
 保護した囚人たちから情報収集した七尾 蒼也(ななお・そうや)は、祥子の推測にうなずく。
「奥の方に、貴族や高級官僚が入れられる牢屋があるって話だ。
 この高そうな扉なら、そうであっても不思議じゃないな」
 蒼也は、扉に彫られた美しい彫刻を指す。扉には、ドアノブも鍵穴も存在しない。
 祥子は扉をしげしげと観察する。
「さすがに囚人とはいえ貴人がいるエリアなら、相応の魔法の鍵や、不審者に対応する罠や警報などは設置されているでしょうね」
 すると小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が罠解除に立候補する。
「だったら、アドベンチャラーの私にまかせてよ! 皆は危ないから、盾を構えて離れててね」
 美羽は慎重に扉を探り、しばらく小道具を動かしている。
 そしてトラップを解除すると、扉の彫刻を動かした。扉は音も無く、天井に吸い込まれていく。
「扉開け完了☆ 念のために、ストッパーもかませておくね」
 美羽は扉が完全に閉じないように、金具をかませる。

 立派な扉の向こうは、明かりこそついていないが、集合住宅のような作りだった。廊下に扉が並び、中には門があるものまである。
 扉の間隔から見て、牢の広さは一般の独房とは段違いだ。
 廊下もこれまでとは違い、美しい壁画が描かれている。
「すごい。古王国時代の芸術だよぉ」
 ふたたびスケッチマッピングをしていた師王 アスカ(しおう・あすか)が目を輝かせて、模写を始める。
 黒崎 天音(くろさき・あまね)もそれらの壁画を観察する。
 そして物質化・非物質化で消していた小型カメラを密かに現し、マントに隠した状態のまま撮影していく。後日、砕音に見せる為だ。
 白砂 司(しらすな・つかさ)はいぶかしげに、周囲の気配をうかがう。
「ここは先程まで以上に、人気がなくはないか? まるで……空気がまったく動いていない……時が止まっているような感じだ」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)が犬耳と尻尾をひくひくさせながら、司に答える。
「封印されていた場所……ヴィシャリーの地下の神殿と同じような空気を感じるよぉ。たしか、あの時は、封印解除と共に時間が流れだしたんだっけ。
 ……ここは、僕たちが入ってきた事で目覚めつつあるような感じがするねぇ」
 北都は固まっていた空気がじんわりと溶けていくような感覚を、被毛に感じる。


 まず目の前の牢屋の、牢屋とは思えない小奇麗な扉をピッキングでこじあける。
 ドアを開けてすぐの場所には目隠し用の壁があり、数歩進んで視界が開けると、豪華なホテルのような部屋があった。見回せば、隣の寝室に天蓋つきベッドまであったが、探索者たちの視線は立派な応接セットにあるモノに集まる。
 うっすらと光り輝く人形のようにも見えたが、あまりにリアルだ。
 豪華なローブを身にまとい、何らかの役職にあった人物のようにも見える。
 だが呼びかけても反応はない。
「封印状態でしょうか? 蘇生を試みてみましょう」
 影野 陽太(かげの・ようた)がそっと触れた。とたんに光は消えていき、その人物は目をしばたかせ、大勢の人間がいる事にぎょっとした顔をする。
「君たちは何者だね?」
 やはり古王国語だが、これまでの囚人と違って綺麗な発音だ。しかし男性のように見えるのに、声が女性のように高い。
 陽太は、今が彼らの時代より五千年後である事や、自分達がなぜここに来たかを、かいつまんで説明する。
「にわかには信じられないが……アムリアナ様はどうしておられるのだ?」
 彼は心配そうに聞く。女声に聞こえるが、口調は男言葉だ。
 陽太は注意深く言葉を選んで返す。
「……次代の女王に御力を渡して、今は友好国で保護中です」
「なんと……!」
 ショックを受けた様子の彼に、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が疑わしそうに尋ねる。
「その声と服装……あなたは宦官なの?」
「ああ、そうだ」
 何を当然の事を、と言った表情で宦官が答える。
「じゃあ、あなたがアルサロム?!」
 宦官は顔をしかめる。
「あのような陛下への信仰に欠ける不敬の輩と間違えられるとはな!
 そもそも奴は宦官ではない。何をどうすれば間違う事ができるのか」
「アルサロムは宦官じゃなかったんだ?!」
「そうだ。あやつに用があるなら、会ってくればいいだろう?」
 エヴァルトが聞く。
「アルサロムが、この近くの独房にいるのか?」
「ああ。どこの房かまでは知らんが、悪事がバレて投獄された事は看守から聞き及んでいる。
 ただ、あやつの立場から、この近辺……もしや隣の牢にでもいるかと思うと実に不愉快だ」
 その返事に、一行は一気に色めきたつ。
 クリストファーはちょっと気になった事を宦官に聞いた。
「そういえば、なんでこの牢獄に入れられてるんだ?」
「アムリアナ様を冒涜した、エリュシオンの田舎貴族に自身の立場を思い知らせてやっただけだが。
 ドラゴンを乗り回す輩が幅を利かせるような蛮族どもには、パラミタ最強の国家である我々シャンバラ人が、痛い目に合わせて身の程を分からせてやるのが当然だと言うのに」


 探索者は他の、外側からの鍵さえなければ独房とは思えない豪華な「独房」を捜索していく。
 先の宦官以外に見つかったのは、捕虜を殺してしまった古王国軍軍人のヴァルキリー、恋敵を襲って重傷を負わせたヴァルキリーの二人だけだった。
 彼らから聞き出した話では、これらの豪華な牢屋はシャンバラ王国の特権階級用のものだそうだ。その為、投獄されているのは当時の特権階級であるヴァルキリーと守護天使が主で、他種族は宦官などごく一部の要職に携わる者くらいだ。
 また、恋敵を殺したヴァルキリーは「下賎な者がわたくしの部屋に入るとは!」と怒り狂って探索者に襲いかかって取り押さえられていた。
 さらに、今のシャンバラが種族間の格差がない社会だと聞くと「もうシャンバラは滅亡したも同然ですわ」と号泣している。

 少々憂鬱な気分になりながら、一行は最後の房へ向かう。
 ペルディータ・マイナ(ぺるでぃーた・まいな)がピッキングで牢の鍵をこじ開けにかかる。
「アルサロムもずっと閉じ込められてきたんですもの。自由になれるといいですね」
 李大尉が聞きとがめる。
「そいつは女王を騙し、利用し、その罪で投獄されたのだがな。
 しかもこの地下のどこかにいるなら、奴は五千年間投獄されていた訳でなく、投獄されている間に五千年の時を飛び越えてしまっただけだ」
 ペルディータはふぅと息を吐く。
「囚人だから油断できないけど守護天使ですし、そんなに悪い人じゃないかもしれませんよ……? 奸臣と言っても、罪をかぶせられたのかもしれないし。見つけたら、とにかく話を聞いてみましょう」
 カチャリと鍵が開く。
 その部屋も誰もいないかに見えたが、天蓋付きのベッドに寝ている者がいる。これまで同様、うっすらと光に覆われているが、なにか様子が違う。
 問題の人物は、メイド服を着た少女だ。
 普通にベッドに寝ているのではなく、ハタキを持ったままベッドに大の字になって爆睡しているような感じだ。
「ここって……最後の独房だよね?」
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が首をかしげる。だから、てっきりアルサロムがいると思っていたのだが。
 カレンがメイド服の少女を揺り動かす。と、少女を覆う光が消えた。
 師王 アスカ(しおう・あすか)が少女に呼びかける。
「もしもーし、朝……五千年後だよぉ」
「むにゃむにゃ……あと、もうちょっと……」
「起きて〜。聞きたい事があるの」
「Zzz……」
 アスカは少女をこちょこちょとくすぐりだす。
「お〜き〜て〜!」
 少女が目を開け、笑いもだえだす。
「にょははははは! ははっ、お、おひまふから、やめて〜っ」
 アスカがくすぐりを止めると、少女はむっくり起きあがった。
「け、けしてサボッていた訳ではー……ほげ? どちら様? ハッ! もしや鏖殺寺院! ぎゃー! 命ばかりはお許しをーッ!」
 少女はものすごい勢いで土下座を始めた。
「違うよぉ。私たちは鏖殺寺院じゃないよぉ。落ち着いてー」
 アスカが苦笑しながら、少女を起こそうとする。
「ん? と言う事は……エリュシオンの雇った傭兵の方々?! おおう、ミーはエリュシオンからの出稼ぎでげすよ。仲間なかーま」
「それも違うんだけどなぁ。もしかしてーメイドさんがアルサロム?」
 アスカは念の為に聞いてみる。少女はぶんぶんと首を振った。
「あの威張りんぼなら、取調べの為に上の階に連れてかれましたよ。なのでミーは、からになった部屋を掃除するよう看守から命じられたんで」
「ふーん、アルサロムって威張りんぼさんなんだぁ」
「そうそう! ミーたちエリュシオン人の事を蛮族扱いして『我こそは偉大なるシャンバラの政り事に携わる者ー!』みたいな、やーな奴!」