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プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

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看守のお仕事 


「ただでさえ人手不足なのに、数人かたまって見回らなくてもなぁ」
 シャンバラ人の古参看守が、やれやれと肩を揉む。
 共に見回りにのぞむハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が、捉えどころのない笑みを浮かべる。
「今のところ、一人で行動しないのが、行方不明への対抗措置ですから。
 砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)ほどの者でも対処できなかったとすると、いくら無事に戻ってこれるからと言って、楽観できるものではないでしょう」
 ハンスは、看守にも単独行動は控えるよう呼びかけている当の本人だ。
 その言葉に、古参看守はもう一人の看守に目を向ける。
「おめぇはさらわれて、何ともないのか?」
 言われた看守は、陰気につぶやく。
「一人で夜の見回りを押し付けられたあげく、知らない間に行方不明になってて、無断外泊は疑われるし、ウソつき呼ばわりされるし、彼女には浮気を疑われるし……ああっ、なんで俺ばっかり、こんな目に遭わなきゃいけないんだ……」
「レーベンの奴もそうだろ」
 古参看守が、看守で行方不明になったもう一人の名前をあげる。
「あいつ、海底遺跡に行ったからなぁ。いいなぁ」
「おめぇみたいなヒヨッコじゃ、ドラゴンに踏み潰されて終わりだろ」
「UFOにさらわれて、またドラゴンに踏まれる確率なんて無きに等しいよ」
「確率じゃなくて、おめぇがトロいってんだよ」
 ハンスはそんな同僚のやりとりに口を挟むことなく、周囲に目を配っている。
 見回りを熱心にしているだけでなく、行方不明になった看守も信用ならない、と思っている為だ。念のために、自身に禁猟区もかけていた。
 落ち込んでいる様子の同僚を見て、考える。
(あまり嘘が上手い人物にも見えませんが……何がどう繋がっているか、まだ分かりませんからね)



 看守の道明寺 玲(どうみょうじ・れい)は、囚人に一人歩きしないよう注意して回っていた。
 基本、囚人は時間ごとに区切られて集団生活を送っているので、そこから外れようとする者に目を光らせる事になる。
 なお玲にはイングリッド・スウィーニー(いんぐりっど・すうぃーにー)が必ず同行して、一人にならないようにしていた。とは言え、イングリッドはUFOをあまり信じていない。
 刑務所内の地図──新任の看守という事で、問題なくもらえた──を手に、周囲に目を配る。
「空に注意をひきつけつつ、実は穴でもあるとかあってもおかしくは無いと思う、この世の中だ」
「……運動場に、しっかりダンジョンが開いているが?」
「…………」
 玲に問われ、イングリッドは沈黙する。空にはUFO、地面にはダンジョン、という事で囚人も看守も、空に地面にと忙しく注意を向けている。
 脱走しようと穴でも掘ったらダンジョンに通じて、出てきたモンスターに襲われるのでは。などという冗談も、しきりに言われている。
(こんな見回りとか……単独行動をしている人には、発信機でも取り付けてしまえばよいのではないだろうか?)
 イングリットを面倒そうに、ため息をつく。口にすれば、「備品が無限にあるとでも思っているのか」と苦言を呈されるのが関の山だ。
 一方、真面目に監視を行なう玲は、さっそく一人歩きの囚人に目をつけていた。
「おぬし、どこに行くのだ? 一人で出歩くなと言っただろう」
「作業前にトイレだよ! 途中で行くと、工具を預けたり、持ち出ししてないか確認されてメンドい上に、時間がかかるんだ」
「だからと言って、今、一人歩きを認める訳にはいかん。同行しよう」
 囚人は玲をまじまじと見てしまう。妙齢の女性だ。
「……トイレだぞ?」
「先程、聞いた」
 答える玲は、あくまで冷静だ。
「……変な趣味に目覚めそう……しくしく」


 短い休憩時間。
 玲は茶を入れて、仲間の看守に振舞う。
「見回りで冷えた体も温まるかと」
 ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)はにこやかに茶を受け取る。
「ありがとうございます。……囚人に怪しい動きを見せる者はいましたか?」
「囚人は皆、怪しい、と言いたいところですが、UFO騒動を無理やり拡大させようという者は今のところ、発見していませんな」
 そうやって情報交換していると、仲間の看守が「あ、UFO!」と窓の外を指差した。
 光り輝く円盤状の物体が、空を横切っていく。
 ハンスたちが外に飛び出すと、囚人たちも「また出た」と口々に騒いでいる。UFOは空をふよふよと彷徨った後、忽然と消えた。
「……また囚人の人数確認をする必要がありますな」
 玲が肩をすくめ、看守たちは「仕事が増えた」とうんざりする。