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はっぴーめりーくりすます。4

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6


 この時期になると、『Sweet Illusion』は限定ケーキを何種類か販売する。
 それを目当てに、ミミ・マリー(みみ・まりー)は『Sweet Illusion』にやってきた。列ができていたが、構わずに並ぶ。
 自分の番になって、まだ限定ケーキが残っていることに安堵しつつオーダーを済ませた。三種類のケーキをひとつずつと、紅茶だ。
「来ると思ってたよー。ごゆっくりどうぞ」
 にこやかに告げて商品を出すフィルに、「ありがとう」と返して席に座った。
 雪のように真っ白なスポンジ生地に生クリームが巻かれたロールケーキ、見るからに濃厚そうなチョコレートケーキ、透明なグラサージュで艶出しされたイチゴが食欲をそそる真っ赤なタルト。
 並んだお皿と可愛らしいケーキに、どれから食べようかと悩む。迷った末に、イチゴのタルトのイチゴ部分を食べた。甘くて、かすかな酸味が味蕾を刺激する。
 美味しい。ゆっくりと味わい、紅茶を飲んだ。
「……はあ」
 空っぽになったお皿を見て、ミミは一息ついた。
 ちらりと、店の奥に繋がる扉を見る。あの向こうには厨房があって、そのまた向こうにはきっと、ロシュカがいる。
 お話してみたいな、と思った。いつも美味しいケーキを作ってくれる彼女と、ひとことだけでも言葉を交わせたら。
 思い立ったら吉日とはよく言ったもので、ミミもそれに倣った。カウンターの向こうにいるフィルは忙しそうだったが、ミミが何か言いたそうにしていることに気付いてこちらに来てくれた。
「どうしたの?」
「今日は厨房にロシュカさんはいますか?」
「うん、いるよ。どうして?」
「お話、してみたくて」
 そう返すと、フィルが一瞬、黙った。すぐに、「ドア越しでいいんだ」と続ける。
 フィルは数秒黙った後、「まあミミちゃんなら平気かー」と呟いた。
「いいよ。そのドア開けると廊下があるから、その突き当りの扉をノックしてごらん。運が悪いと調理に熱中してて気付かないかもしれないけど」
「ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げて、ドアを開ける。廊下は、店と違って暖房が届いていないためひんやりとしていた。
 店へのドアを閉めると、音が遮断されてしん、と静まり返る。そのせいか、少し緊張した。
 一歩踏み出し、ドアへ向かう。ドアまでの距離はほんの数歩だ。冷たいドアを叩く。返答はない。
「ロシュカさん、ミミです」
 呼びかけてみると、ドアの向こうから何かを落としたような音が響いた。
「だ、大丈夫?」
 返答はない。少し待ってから、ミミは言葉を続けることにした。
「いきなり来てごめんなさい。でも、手紙だけじゃなくて、直接お話してみたかったんだ」
「…………」
「伝えたかったんだ。いつも、幸せな気持ちにしてもらえてるって。
 今日のケーキもおいしくて、僕すごく幸せな気分だよ。また食べに来ます。よいクリスマスを!」
 言いたいことを言い終えて、ミミは十秒、その場で数えた。それでも返答がなかったので、踵を返す。
 どん、と背後のドアから音がした。振り返る。ドアは開かない。何も音はしない。
「また、来ます」
 もう一度、同じ言葉を繰り返した。言葉の直後、ドアが一度だけ叩かれた。それはまるで、肯定しているようだった。