リアクション
* * * 「さ、上がって」 穂波 妙子(ほなみ・たえこ)は霧積 ナギサ(きりづみ・なぎさ)の部屋に招かれた。 「それじゃ、まずはベトナム偵察任務からだね」 ベトナムでの出来事は、関係した者達以外にはほとんど知れ渡っていない。 「運良くその任務に抜擢されたわけだけど、ベトナムで体験したのは『戦慄』だった。敵の基地を発見して、その中で開発されている巨大イコン――多分この前の戦いにいたあの機体を確認した。そのデータを持ち帰ろうとしたとき、謎の青いイコンが現れたんだ」 聞いたことはある。 偵察部隊を壊滅させたという、その機体を。 「ボク達の小隊は何とか帰還出来たけど、ハーディン教官がボク達を逃がすために、あの場に残った。他に、万一に備えて味方が呼んでいた救援部隊もいたけど、一瞬で消されたよ」 それがきっかけで、イコンの真の力について興味を抱くようになったという。 「その機体、気になるわぁ……」 海京決戦に現れた銀色のイコンとも違う、青いイコン。その正体は、はっきりとは分かっていない。 「それと、なんとかベトナムから持ち帰ったデータからだけど、以前にも『覚醒』に近い力を引き出す技術が有ったということが分かったんだよ。だけど、学院で同様のシステムを使っても、効果は得られなかった。さらに、非人道的だったとも言われていている」 そういえば、今日試運転を行っていたイコンは「いわくつき」の機体であるという噂が流れていたが、関係あるのだろうか。試運転は成功だったらしいが。 「最後に、この前のイコン覚醒についてだね。あの戦いのとき、ボクは天沼矛の光の中に人形の姿を見た。その人形の少女の歌をイコンが聞いたことで、真の力が解放されたんだと思う」 ナギサはまだ博士やその人形少女からそのことを確認したわけではないらしい。ただ、学院を流れる噂も合わせて考えると、どうもそのようだ。 「次は私やな」 妙子の方から渡せる情報といえば、コームラントの実戦データだ。 「口頭で伝えるよりも、見てもらった方がええかな。こいつや」 覚醒のとき、どれほど性能が向上したのかもちゃんとデータ化されている。パソコンを借り、そこに表示した。 「ただ、やっぱり覚醒時は消費が激しいから、そこは気いつけなあかん」 たしかに覚醒は強力だ。 だが、その分戦闘稼動時間が短くなるのはネックである。もっとも、ただでさえスペックの高いイーグリットやコームラントなのだから、覚醒状態となれば「性能上は」ほぼ無敵である。 話がひと段落すると、ナギサが妙子に近寄ってきた。 「…………っ!」 話し終えて疲れたのか、彼女の大きな胸の谷間に顔を埋める。 「穂波さんの胸に居ると、安心するよ……」 すっかり安らかな顔つきになっている。 (なんやかんやいって、まだまだ子供やなー) もう少しナギサが大きければ、多くの青少年には容易に想像がつく展開になっていただろうことは言うまでもない。 (まあ、たまにはこういうのも悪くはないもんやな。ちょっとここからからかってあげるのもおもしろそうやけどな) このまま胸で顔を挟んでみるとか。 実にけしからんことだが、今の彼は何処にでもいる十一歳の子供であり、マセたエロガキというわけでもない。 せめて思春期に入るまでは待ってやらなくては。 |
||