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リアクション
・生身でイコンは倒せるか?
「五月田教官長、なにやら妙な方がいらしてます」
「……所属は分かるか?」
「空京大学の学生さんだそうです」
午後の訓練に合わせて、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は天御柱学院にやってきた。
「たのもー!」
目的は実にシンプルだ。
生身でイコンと戦う。ただそれだけのために、訓練に殴りこみをかける。
「一番強い教官はいねぇか?」
そんなラルクの前に、そこそこには若いだろう男性教官が現れる。
「生憎、科長は今出払っててな。ああ、俺はパイロット科の五月田。一応、肩書きは教官長だ」
「おお、そうか! 俺は空大のラルク・クローディス。修行するために、ぜひ戦ってもらいたい」
「そうか。で、お前のイコンは?」
「イコンには乗らねぇ。この身体一つでいくぜ」
五月田は呆れ返っている。
「知ってると思うが、うちのイコンは空飛ぶぞ。お前、どうやって飛ぶんだ?」
「それなら心配いらねぇ」
レッサーワイバーンを連れてきている。
ワイバーンではない、あくまで『レッサー』ワイバーンである。
『五月田だ。俺のコームラントの出撃準備を頼む』
イコンを取りに行く前に、一言だけ告げた。
「あくまでも対イコンにおける非殺傷性の模擬武装だ。大怪我しても責任は負えん。それだけは覚悟しておけ」
「血迷ったヤツだと思うかもしれねぇが、これも修行なんだ。すまねぇが付き合ってもらうな」
教官がイコンに搭乗しに行く間に、ラルクは指定された場所に向かった。
いかに空で戦うとはいえ、足場がなければどうしようもないだろうという五月田の配慮らしい。
そこへ、コームラントが飛来してくる。
『よし、始めよう』
そう発せられたかと思うと、早速コームラントから大型ビームキャノンの光が放たれた。
「……! 初っ端からそれかよ!」
もし、実際の戦場だった場合、触れた瞬間肉体が消し飛ぶ。ヒロイックアサルト『剛鬼』で身体能力を上げた上で神速、さらに先の先で射撃タイミングを図っていたからこそかわせたようなものだ。
疾風の覇気により、さらに加速。
「覇ッ!」
龍の波動を放つ。
『イコンの装甲特性を理解した方がいい。その程度の距離では傷一つつかん』
ミサイルポッドが開き、一斉射出される。
(さすがに数が多い!)
容赦のない攻撃に焦りを覚えるも、速度と龍の波動で最低限のものは撃ち落とし、道を作る。
イコンの欠点の一つは、センサー類が人間サイズを正確に感知出来ないことにある。ならば、その視覚をついてやればいい。
(どこだ……!?)
頭部のカメラ頼りなのは分かっている。だが、そのカバー範囲がどの程度かはまだ判断出来ない。
いや――
(絶対に見えねぇ場所がある!)
背後だ。
イコンの最大の弱点の一つが、背後からの攻撃だ。特に、生身の人間サイズでは取り付かれたら迎撃手段がない。
それは、「取り付かれる」ことを想定していない、むしろ音速域で戦うイコン同士の間に人が割り込めるという考えなど常人には及びもつかないだろう。
レッサーワイバーンを呼び、飛び乗る。
「うおおおお!!!」
一気に加速し、近付く。
『無駄だ!』
被弾。レッサーワイバーンが海上へと落下していく。
「まだだ!」
ならば、とワイバーンを強く踏み、神速で飛び込んだ。
高度はイコンよりも上、ならば落下の勢いも合わせれば……
『チェックメイトだ』
ビームキャノンの一撃を全身で受け、そのまま海上に叩きつけられた。
* * *
「……ってぇ」
「気がついたか」
ラルクは海から引き上げられ、目を覚ました。
「大した頑丈さだ。一応、出力は出来る限り抑えたが、それでもあばらの一本や二本くらい折れてもおかしくないぞ」
さすがに、天学トップレベルの教官相手に生身で挑むのは無謀過ぎた。攻撃の有効範囲に入るどころか、傷一つ与えることが出来なかった。
「だが筋はいい。イコン相手の有効な戦い方を覚えさえすれば、通用するレベルにはある。少なくとも、新米パイロットのイコンを倒すくらいなら余裕だろう。あとは、もっと経験を積んで感覚を掴むことだ」
まあ、無理して戦う必要もないんだが……
単純に、ラルク自身の能力ならイコンとは渡り合えるが、まだ実戦経験が足りていないというだけらしい。
「ありがとうございました!」
一礼して、教官長と別れる。
これで、今の自分の限界と課題がよく分かった。