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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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13:50〜


・パイロット科 訓練編


「ゼドリ、待ってくれ」
「なんだよ、裄人」
 藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)は天沼矛を上がり、空京へ繰り出そうとしていたゼドリ・ヴィランダル(ぜどり・ゔぃらんだる)を引き止めた。
「これから実技訓練なんだ。付き合ってほしい」
 海京決戦の前に体調を崩したもう一人のパートナーに代わり、サブパイロットとして一緒に受けて欲しいと伝える。
 もっとも、理由はそれだけではない。
 自分自身、これといった実績も出せていないこともあり、何かが足りないという思いが込み上げている。もっとも、それが何であるのかはっきり分からないから悩んでいるのだが。
「えー、しょうがないなあ」
 あまり乗り気でないゼドリに対し、苛立ちを覚える。
「正確な飛行操作を早く見に付けて欲しい。それと、オレの指示に従って欲しい。そうでないと、契約解除は出来ないけれど……一緒にイーグリットに乗ることはないと思う」
 真剣な表情でパートナーと顔を合わせた。
「どうせなら可愛い胸が大きな地球人と契約したかったなあ。そうしたらもっと真面目に頑張れちゃうんだけどな」
 相変わらず、それが本心かは分からない口調だ。
「……とにかく、行こう」

 ハンガーの中では、野川教官が待っていた。
「宜しくお願いします」
 徹底的に基礎からおさらいする、ということで彼に指導をお願いしたのである。
「それじゃ、始めよう。搭乗してくれ」
 教官の指示で、自分達の機体ICN0000404#ケルベロス・ゼロ}に乗り、ハンガーを出る。
『機体操作は、二人でそれぞれで割り振ることが出来る。基本は、片方が操縦全般、もう片方が武装操作――攻撃担当だ。人によっては、メインパイロットが機体移動と攻撃担当をし、サブパイロットが通信からセンサー系などの計器類を操作している。今のところ、パイロット全体では半々といったところか』
 外に出ると、野川教官のイーグリットから通信が送られてくる。訓練中は、基本的に繋ぎっぱなしだ。
 教官の指示を受けるため、切ることは許されない。
『まずは、飛行感覚からだ。変にブースターを吹かさずに、フローターの出力を調整して位置を保て』
 その場で静止し続けるのは、実は見た目ほど楽ではない。油断すると、少しずつ高度が落ちていく。
「こうかな?」
 今回、移動を含めた機体操作はゼドリが行う。火気管制は裄人の担当だ。
(覚醒とか、真の力とか、そういう不安定なものに頼りたくはない)
 だからこそ、覚醒に頼らなくても機体を乗りこなせる科長や教官長、あるいは覚醒がなくともそれと渡り合った敵のエースくらいに強くならなければならない。
『まだ少し不安定だ。もう少し安定させないと、戦闘時の回避行動が上手くとれないぞ』
 まだパートナーが機体に慣れていないせいもある。
 しばらくしてようやく安定するようになると、今度は射撃訓練に入る。ここからは、二人のパイロットの息があってないと厳しい。
 機体が少しでもずれると、当然狙いもずれるからだ。
『アサルトライフルか。精度はビームライフルよりは上だ。正確に狙え。弾は無駄にしないようにな』
 敵のイコンを想定したターゲットが現れる。
 それらに狙いを定め、トリガーを引いていく。
「ゼドリ、今少し機体が傾いたぞ」
「気のせいじゃない?」
 パートナーと上手く息が合わず悪戦苦闘するが、野川教官の下で基礎を固めていった。

* * *


 同じように、鳴神 裁(なるかみ・さい)アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)も基礎訓練に励んでいた。
 機体は自機のゴッドサンダーだ。
『イーグリットは機動力があるが、その分しっかりと安定させて操縦するのが難しい。飛行感覚を掴んでいないと、機体に振り回されてしまいますよ』
 パイロット科長や教官長ほどではないが、かなり腕の立つ教官から指導を受けている。
 なお、火気管制、攻撃担当が裁、機体操縦担当がアリスだ。
「まずは、速度を維持して……」
 飛行感覚を覚えていく。
 さすがに、それを掴まなければイーグリットの特性を生かすことは出来ない。高機動戦闘も可能な機体といえども、その性能を上手に引き出しているパイロットは、学生には少ない。おそらく、現パイロット科長くらいだろう。
 ある程度慣れてきたところで、近接戦闘の訓練に入る。
 武器はマジックソード。試作型のエネルギーコンバーターにより、機晶エネルギーで魔力を代用可能としている。
 射撃以上に、白兵武器による戦闘はパートナーとの連携が重要になる。機体移動と、刃を振るうという攻撃動作をどこまでスムーズに行えるかによって変わってくるからだ。
 最初はフロートしたまま向かってくるターゲットを斬ることから始め、それから機動状態からの斬撃といったように、少しずつ慣らしていく。
『なかなか良くなってきましたね。では、次の段階に移りましょうか』

* * *


「イコンの真の力……どうすれば『覚醒』を扱えるようになるのでしょう?」
 オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)もこの時間に訓練を受けていた。
 海京決戦の際、イコンで出撃出来なかったこともあり、まだ『覚醒』の本質を彼女は知らなかった。
 そこで、教官に申請し、単騎で訓練を行わせてもらっている、というわけだ。
「周りの者達は自在に力を引き出せるようになっているようですが……どうにもとっかかりが見えませんね」
 ミリオンが息を漏らした。
 カムパネルラの中で基本動作を延々と続けていたが、ふと、以前はなかった文面がパネルに表示されているのに気付いた。

『THE AWAKING』

 それを起動すれば、イコンの真の力が目覚める。海京決戦で目覚めた『罪の調律者』が大昔に施したプログラムだ。
 だが、本当にそれだけでいいのだろうか。ただ起動させるだけで、【カムパネルラ】が力を貸してくれるのだろうか。
 誰かを置いていくことがないように、そして誰かに置いていかれることのないように。誰かを守れるだけの力が欲しい。
 だから疑わず、信じる。
「起動!」
 その力を解き放つ。
「なんて……力なのです!」
 出力がそれまでの比ではない。だが、初めて起動したこともあり、まだその力を制御しきれていない。
(一体感を意識して、ミリオンとカムパネルラを信じて)
 覚醒状態がいかなるものかを意識する。
 押さえ込むのではなく、イコンにその身を委ねるような感覚。そうすることで自分の身体であるかのように機体を駆ることが出来るようになる。
 そのためには、パートナーもまた同調しなければならない。
「想像以上ですね、これは……」
 が、まだそうすべきことにミリオンが気付いてないように見受けられた。
「ミリオン。イコンを、カムパネルラを、信じてあげて下さい」
「信じる……ですか」
 それが簡単に出来れば、苦労はしない。
「分かりました」
 ミリオンもまた、その力に身を委ねた。三位一体が如く、自然と身体を動かすかのようにイコンを操る感覚に、徐々に慣れていく。
「そうです。この調子なのです」
 あとはミリオンと心を一つにするくらいになれれば、完全に扱うことが出来るだろう。
 覚醒の本質は、パートナーとの絆の深さによって証明されるものだ。