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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~決着~

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~決着~

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●イルミンスール魔法学校

「頼む! あんた、ザナドゥとの開戦の時にエリスと一緒に居ただろ? だったらエリスの事情を知っているはずだ!
 俺は……俺は、これ以上あの悪魔にエリスを好き勝手にさせたくはねぇんだ!」

 イルミンスール魔法学校の一室にて、リッシュ・アーク(りっしゅ・あーく)源 鉄心(みなもと・てっしん)に、水橋 エリス(みずばし・えりす)にまつわる一切の話をした上で、俺と一緒にエリスの魂を取り戻すため力を貸してほしい、と平伏して頼み込む。
「……話は伺いました。エリスさんの魂が奪われたのは、私の力不足でもあります。私の力で良ければお貸し致しましょう。
 ティー、機会が訪れました。必ず成功させましょう」
「はい……! 待っていて下さいエリスさん、今、魔族の呪縛から解放してあげます……」
「わたくしは……とりあえず隠れていますわ。ロットスさんが抵抗するようならその時は封印して差し上げますの。
 そうでなければ話をしてみたいですわ。聞けばロットスさんはアムドゥスキアスさんの部下。おそらく芸術には一定の理解を示して下さるはず。
 ここで話をしておくことは、これからのお付き合いも上手く行くかもしれませんもの」
 必ず、と意気込むティー・ティー(てぃー・てぃー)の横で、魔族との付き合いについてを口にしたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)を、リッシュが訝しげな視線で見遣る。それは仕方のないことではある。唯一無二のパートナーをいいようにされて、殺意が芽生えてもおかしくなかった。
「……納得はしてもらわなくても結構ですが、理解だけはしておいて下さい。ここで魔族ロットスを殺せばそこでお終いですが、戦争は今もまだ続いています。そしてその後には何とも面倒な、戦争の後処理というのが待っています。
 ロットスはアムドゥスキアスとのコネクションを持っている、であるならば彼を通じてアムドゥスキアスに負担を背負わせることも出来るでしょう」
 心の中には、これまで死んだはずのエリスを結果として生かしてくれているロットスを、ただ無為に殺すつもりはない、という言葉もあった。だがそれをリッシュに言っては、彼を困惑させるだけだろう。
「……分かった。ロットスのことはあんたらに任せる。俺はエリスを抑える」
 それだけ言って、リッシュが背を向ける。今はそれでいい、鉄心は頷いて立ち上がり、ティーとイコナを連れて後に続く――。

 リッシュと鉄心が計画した、エリスの魂奪還計画。
 ……しかしそれは、意外な形で裏切られることになる……。

「あーあ、何だよもう。利用できるって思ってキミをホーリーアスティンに接触させたのに、そこの当主が超身勝手なの。
 しかもアムドゥスキアス様、事もあろうに契約者に肩入れしちゃったし! そんなにあの女が気に入ったのかな!」
 ぷんぷん、とご立腹のロットスを、虚ろな瞳で見つめるエリス。
「……あーもー、やーめたっと。これならアムトーシスで絵でも描いてた方が楽しいよ。ボクはつまらないことはやらない主義なんだ」
 言うと、ロットスは虚空から壺を取り出し、中からふわふわとしたもの、エリスの魂を取り出す。
「あ、でも彼女、死んでたんだっけ。……そうだいいこと思い付いた。最後に一つ、キミと賭けをしよう。
 ここでボクがキミに魂を返す。キミは一旦は生き返るけど、そうだね、数分と持たずに死ぬだろう。その時は改めて、ボクがキミの魂を取りに来るよ。でももし、キミのパートナーや仲間がキミの元を訪れて、キミを救ってくれたら……そうだね、契約してもいいよ。ま、嫌でも勝手に付いてくけど。
 なんかさ、アムトーシス戻ってもろくなことにならなそうだし。それならいっそ裏切っちゃうのも手かな、って」
 ロットスの言葉を、エリスはただ呆然として受け入れる。
「それじゃ行くよ。……ああ、楽しみだなぁ」
 屈託の無い笑みを浮かべ、ロットスが魂をエリスへ戻す。瞳に精彩が戻り、一度はエリスの瞳がロットスを捉えるが、すぐに視界がぐらり、と歪み、エリスは苦悶の表情を浮かべながら床に倒れ、小刻みに身体を震わせる。
「うんうん、いい顔だねぇ。そういえば地上人は、風景を瞬時に保存出来る装置を持っているんだって? ボクがそれを持っていたら、キミの今の顔を保存してあげたのになぁ。絵を描くにはちょっと時間が足りないかなー」
「あ……う……あ……」
 エリスの腕が、虚空を掴むように伸ばされる。嫌だ、死にたくない……!
 カチャ、と扉が開かれ、リッシュが部屋に入ってくる。そして、地面に倒れ伏すエリスを見て驚き、即座に駆け寄る。
「エリス! おいエリス、しっかりしろ! 死ぬんじゃねぇ!」
 リッシュが癒しの力をエリスに送り込むと、若干だがエリスの顔色が回復した。そのまま癒しの力を送り続けると、体力が戻って来たようで、エリスの呼吸が穏やかなものになっていく。
「あーあ、ボクの負けかー。何だろうね、契約者とパートナーって不思議な縁があるよね」
 そこに声が聞こえ、直後にロットスが姿を表す。槍を構えたリッシュに、両手を挙げてロットスが答える。
「あー、ボクはもう彼女に魂を返してるからね。ほら、証拠に見せてあげる」
 言うとロットスは、エリスの魂を入れていた壺をリッシュに放る。訝しげな視線を向けつつリッシュが中を確認すると、そこには何も入っていない。この壺は何度か見たことがあるから間違いはないが、果たして本当にロットスがエリスに魂を返したのか、判別がつかない。
「そうだよね、確かめようがないよね。……ま、判断がつくまでボクは逃げも隠れもしないよ。
 だから……出てきてもいいんじゃないかな?」
 ロットスの言葉に、姿を隠していた鉄心とティー、イコナが姿を表す。ティーとイコナにエリスの治療を任せ、鉄心はロットスに話しかける。
「流石……と言うべきですかね。ですが、何故にこのような真似を?」
「ふふーん、ボクをナメてもらっちゃ困るなー。そうだね、理由を言えって言われたら……うーん、気紛れ? ほら、芸術家ってだいたいそうじゃん」
 ロットスの言葉はどこまでも嘘臭いが、いちいち疑っていては話が進まない。
「分かったよ、そういうことにしておこう。でもキミが此方側につくとして、アムドゥスキアスが黙ってないだろう」
「アムドゥスキアス様だって契約者に肩入れしてるもん、何も言われないよー。よっぽど手に入れた女が気に入ったとボクは思ってるねー」
 その後詳しく話を聞いていくと、どうやらアムドゥスキアスが契約者についたことと、ホーリーアスティン騎士団が自滅という形でなくなってしまったことが、ロットスの気分を変えたという結論を得た。
「……うぅん……あ……ここ、は……?」
「よかった……! エリスさん、もう大丈夫です……! もう、悪い夢は覚めたんです……!」
 向こうでは、懸命の治療により意識を取り戻したエリスを、ティーが涙を零しながらぎゅっ、と抱きしめていた――。