リアクション
●ベルゼビュート城:王の間
「大ババ様! ここまで大きくなった事態に一人で決着を付けようなんて真似はさせませんよ!」
「もし、少しでも自分達を信じてくれる気持ちが残っているなら、早まらずに待っていて下さい!
皆さんが必ずそこへ向かい、貴女の事を助けます!」
城を揺るがす衝撃が、二人のアーデルハイトが居る王の間まで伝わって来る。それと同時に、樹の外から呼びかけていたザカコの声が二人の元へ届いた。
「むっ……何と、ヤツらめ、地上とこことを繋ぎおったわ。
喜べ妻よ、もうすぐ愛しの娘と再会出来るぞ」
「だから私のことを妻と呼ぶでないと何度言っておる。……そうか、やはり来るか、エリザベート……」
不敵に微笑むアーデルハイトを見上げ、アーデルハイトは嬉しさと悲しさがない混ぜになった表情を浮かべる。
バーン、と扉が開かれ、複数の生徒たちに囲まれるようにして、エリザベートが二人の前に姿を現した。
「よく来た、我が娘よ。人という器にあっても分かるぞ、我と妻の血を受け継いでいることがな」
王座に腰掛け、妖艶な笑みを浮かべるアーデルハイトを一瞥して、エリザベートは視線をスライドさせ、変わらぬ姿のアーデルハイトを視界に入れる。
「まったく……おまえまでこっちに来てしもうたら、イルミンスールはどうなるんじゃ。
おまえには今後のイルミンスールをだな――」
「……っざけんなこのクソババァァァァ!!」
腹の底から搾り出すような声と共に、アキラがジャンプ、勢いで空中を三回転半(トリプルアクセル)した後、最大出力によって人の背くらいになったハリセンで、アーデルハイトをぶっ叩く。横合いから顔面を強烈に叩かれ、アーデルハイトはアーデルハイトを拘束していた魔力線を離して吹っ飛び、少なくとも十数メートルは部屋を転がる。
「おやおや、ここに来て仲間割れかの? まぁよい、これで拘束も溶けた、貴様らまとめて――」
「照れて俺様ぶっとばしたパンチに、愛を感じたぜっ!
俺様もてめぇ(おっぱい)を愛しているぜっ!」
拘束が解けて自由になったと思いきや、突然現れたゲブーに一方的に告白されるわ、「てめぇは俺様の嫁だっ!!」と背後に回られ、豊満な両の胸を揉みしだかれるアーデルハイト。……そして他の者たちは、一体何がどうなっているのかと半ば呆然とする。
「ウチらの事が信用できなくなって飛び出して、
色々騒動起きて、
いっぱい被害が出た!
いっぱい人も死んだ!
その責任を全部一人で背負い込んで、
一人で勝手に消えていくつもりなのか?
ウチらの力を頼りにしないで、
ウチらに一言も相談も何も告げないままで、
……ウチらの事を、信用しないままで!
オメー一人でカッコつけて、一人でイルミン救おうとしてんじゃねぇぇぇ!!
そんな事をして償えるとでも、皆が喜ぶとでも本気で思ってるんかオメーはぁぁぁ!!
イルミンスールだってオメー一人のもんじゃねぇぇ!!
皆で頑張って、皆で未来を創っていくんだ。オメー一人で何でもかんでも背負いこむんじゃねぇぇ!!
大体もしオメーがいなくなったら校長が、皆がどんだけ悲しむと思ってやがるんだぁぁ!!
オメーのちんけなプライドを守るために校長の、生徒たちの未来をこれから一生泣かせて過ごさせるつもりなのかぁぁ!!」
床にうずくまるアーデルハイトの胸倉を掴んで起こさせ、アキラが言葉の一字一句をパンチ代わりに叩き込む。
「……今までどんだけオメーや校長のワガママに振り回されてきたと思ってやがるんだ。
それに比べたら、こいつらをブッ飛ばす事くらい、なんてこたぁないぜ!」
ハリセンをビシッ、とアーデルハイトに向ける、しかしそのアーデルハイトは、ゲブーに胸を揉まれていた。
「貴様、性懲りもなく……くっ、どうしてだ、何故引き剥がせぬ……!」
「がっはっは、もうてめぇは俺様のテクに一度敗北してんだ! 言葉では嫌がってても、身体はもう俺様の物だぜ!
てめぇが満足するまでずっと愛し(おっぱい)続けるぜ!」
まだ拘束の影響が残っていたのか、それともゲブーの愛(おっぱい)の力が強靭な力を生み出しているのか、アーデルハイトはゲブーを引き剥がせずにいた。
「……と、とにかく、みんなちょっと待ってよ。
そりゃまあ、ぶん殴って終わりが分かりやすいんだろうけどさ。やっぱり、それじゃいけない気がするのよっ。
今までそうしてきたんだからさ、爺さんたちだって受け入れたらいいじゃんっ」
混乱するこの場を何とか収めようと、菫がエリザベートとアーデルハイトに話し合いを持てないかと呼びかける。クリフォトや魔族が地上に出たとしても、影響を抑えられる要素が見つかりかけていること、そして何より、イルミンスールにはそれを可能にするだけの何か、キャパシティがある、と菫は思っていた。
「そうですねぇ……私も、そう出来るならそうした方がいいと思いますぅ」
けど、と言って、そして言葉を切って、エリザベートが沈黙しながら歩き出し、玉座で悶えるアーデルハイトを階下からキッ、と見据える。
「殴っておしまい、はよくありませぇん。
ですが私は、殴らなければ終わらないと思うですぅ」
そう言って、エリザベートが足元にあった二人を拘束していた縄を、まずはアキラとアーデルハイトの方へ伸ばす。
「お? おぉぉ!?」
絡み取られたアキラとアーデルハイトが、エリザベートの下へ引き寄せられる。次にエリザベートは、「俺様と愛(おっぱい)の世界へ行こうぜ!」となおも口説き(説得)を続けるゲブーを縄を使ってアーデルハイトから引き剥がし、アキラと一緒に拘束して生徒たちの方へ放る。
「……おまえ――」
「後でいっぱい、いーっぱい、殴ってやるですぅ。だから今は皆さんと一緒にここを出るですぅ」
「我を無視して、そいつを連れ出せるとでも思っているのか? 我が娘ながら傲慢な――」
瞬間、アーデルハイトの傍に現れたエリザベートの、小さな拳が顔を真正面から殴りつける。
玉座ごとアーデルハイトは、後方数十メートルほど吹っ飛び、余波でさらに十数メートル転がる。
「おいおい、ハンパねぇな。説得力はある、つうかあり過ぎだけどよ」
「校長……あなたもそうして、ご自分だけで決着をつけるおつもりなのですか?」
真言の問いに、エリザベートは首を振って答える。
「そんなつもりはありませんよぅ。……ただ私は、自分の口にしたことを守りたいだけですぅ」
ザナドゥと戦う。エリザベートは自分の最も得意な戦いを、しようとしているだけ。
「一度イルミンスールに戻るの? アーデルハイト様を連れて帰る雰囲気になってるよね?」
「……多分、校長が身体を張ってルシファーを抑えてるんだと思う。だからここは一度退いた方がいい」
「じゃあ、ザナドゥのみんなにこれ、渡しておく! そして、次に会った時に返事を聞くの!
はい、ミカもロビンも、手伝って! 真言も!」
のぞみが言って、そして三人に渡したのは、直筆のメッセージカード。
『あたしはザナドゥのひとたちと仲良くしたいです。 三笠のぞみ』
「……おまえ、これ、本気か?」
「もちろん! 口約束だからよくなかったんだよ。こうやって形に残るもので伝えないと。
校長も分かってるんだよ、もう殴り合わなきゃどうしようもないんだって。でも、その後何もなかったように別れるのはやっちゃダメだと思うし、何よりあたしがイヤ。
あたしたちはきっと、分かり合える。あたしはロビンと仲良くはないけど、でもパートナーだもん。分かり合えるって信じてる」
「仲良くないって言われると、リアクションに困りますねぇ……」
ロビンが頭に手をやりながら笑って、ホント、のぞみは面白いな、と思う。確かに、これからも仲自体は変わらないかも知れないけど、それでもパートナーとしてはやっていくんだろうな、と思っていた。
「むぅ、これはリリの予想していた展開とは違うのだ。大ババ様が戻って来る点だけは予想通りなのだが」
「いいんじゃないかな! あとさ、ルシファーが肉体を失っている、ってのも合ってたよ!」
「そうだが……これをもう一度、持ち帰るのか?」
「だって、置いたってしょうがなくない? 大ババ様ここにいるし」
そんなやり取りを交わしながら、リリとユノが大荷物を抱え、王の間を後にしようとする。しかし騒ぎを聞きつけて、控えていた魔族がワラワラと湧いて出てくる。
「ちょっと、邪魔よ! 私たちは帰るんだから、すんなり通しなさいよね!
ほらカイン、キミもガンガン戦う!」
「いてててて! 分かった、分かったから槍の柄で突付くな、叩くな!
……ちくしょう、お前ら、覚悟しやがれ!」
玲奈とカイン、その他、一緒に来ていた生徒たちが武器を取り、詠唱を始め、入口(今回の入口はベルゼビュート城一階、入口の間に出来ていた)へと急いで向かう。
「私はエリザベートちゃんの伴侶ですから。どこにいても、エリザベートちゃんと一緒、ですよ」
「私も、お母さんと一緒です。ずっと、どこまでも、一緒です」
明日香とノルン、エイム、それにミーミルが、エリザベートと共に在ることを約束する。
……しばらくして、無事ベルゼビュート城一階に辿り着いた生徒たちは、地上へ帰還を果たす。
長く行方不明になっていたアーデルハイトと共に――。
猫宮烈です。
『イルミンスールの岐路〜決着〜』リアクションをお届けします。
・クリフォトへの攻撃は成功、防衛に当たっていた魔族の多くを沈黙させました。
しかし、ザナドゥ側に回ったアルマインを駆る契約者にアルマインの情報がある程度渡り、さらにウィール砦の存在が明るみに出ました。
・アーサーの襲撃は、契約者によって食い止められました。
彼の生死についてはアクションの結果、以上のようになりました。
・クリフォトへの道を開く方法は、最初に提示したのは他に案がなかった時のものだったので、色々と案が出た結果はリアクションのようになりました。ニーズヘッグとイルミンスールの出番が殆ど無くなってしまいました。
・イルミンスールを取り巻く環境については、リアクションの通りです。
だいたい収束に向かっている……と思います。
・最も重要な場である、二人のアーデルハイトとの邂逅の場が、とってもギャグにしか見えなくなりました(汗
結果として、アーデルハイトはイルミンスールに連れ帰ることが出来ました。代わりにエリザベートが、アーデルハイト(ルシファー)と対峙しています。言ってしまえばまあ、親子対決です。
『ザナドゥ魔戦記』は、次のグランドシナリオで最後となります。
それまでどうぞ、よろしくお願いいたします。