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リアクション
「何と禍々しい風貌……アルマインをそこまで変える何かがあるということか」
遠野 歌菜(とおの・かな)とセタレに搭乗する月崎 羽純(つきざき・はすみ)が、所属不明機のデータを参照しつつ感想を口にする。
「歌菜、敵のイコンはこちらを上回る機動力を有している、風貌に惑わされるな」
「うん、分かったよ、羽澄くん! 仲間と連携して行動、だよね!」
「そうだ、皆が連携して隙なく行動すれば、どれほどの強敵であっても追い込める。焦らず行くぞ」
歌菜に注意を促し、周囲の索敵に従事する羽澄を背後に、歌菜が刹那の思考に沈む。
(魔族の支配を受けるのは嫌。けれど……支配するのも、正しい事とは思えない。少なくない契約者がザナドゥ側についていることも、彼らが純然な悪でないことを示しているのかも知れない。
魔族と共存も、不可能ではないのかも知れないけど……よく分からない。ただ私は、私達の居場所であるイルミンスールを守りたい。
それがたとえ、他の人を傷付ける事になっても……)
モニターの向こうに、同じアルマインに乗りながら、魔族に組していると思われる者の姿を見て取る。彼か彼女か知らないが、その者にも何らかの意図があって行動を起こしているのだろう。
――私はただ、大ババ様が居て、校長先生が居て……そんな当たり前のイルミンスールに戻りたいだけ。
所属不明機が砲撃を止め、ソードを抜いて近接戦を仕掛けてくる。
「歌菜、味方の陣形が一時的に崩れている。ここは俺達が奴に近接戦を仕掛け、足止めをする必要がある」
周囲の状況を素早く見て取った羽澄が、歌菜に指示を送る。刹那の間食い止めさえすれば、味方が陣形を組み直し、援護に入れるだろうとも。
羽澄の言葉に、歌菜はセタレにマジックソードを抜かせることで答える。
(敵の方が機動力が上、けれど、一時的にになら上回れるはず!)
歌菜の思いを汲み取るように、セタレの羽根が光を放ち、一時的に敵機を上回る加速を得る。
「やあああっ!」
すれ違い様に斬りつける、敵機もソードを当てて防ぐが、それ以上の行動には移れなかった。目的である“足を止める”ことには十分、成功していた。
「校長先生の所へは、行かせない!
絶対に、校長先生をアーデルハイト様の所へ送り届けるんだ!」
果敢に近接戦を挑むセタレを援護するように、別のアルマインが羽根を光らせ、ソードを手に飛来する。ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)と強盗 ヘル(ごうとう・へる)の搭乗するアルマイン・ハーミットであった。
「おまえのおかげで魔族が活気づいてやがるからな、これ以上好き勝手にはさせねぇぜ!」
所属不明機をターゲットに据え、機体の制御を請け負いながら、ヘルはザカコの背中を見やる。
(何だか吹っ切れたみたいだな。アーデルハイトを助ける、いいぜそのシンプルな目的。
物事は単純明快、そうあるべきだと思わないか?)
決して熟慮を蔑ろにするわけではないが、考え過ぎて動けなくなるくらいなら、いっそバッサリ切り捨ててしまった方がいい時だってある。
(ザナドゥの侵攻が始まり、そして自分も色々と考えさせられ、また気付いたことがあります。
……たとえ過去に何があろうと、どの様な姿になろうとも、自分にとって大ババ様……アーデルさんはかけがえのない大切な存在であり、愛しています)
今こそアーデルハイトへの想いを自覚したザカコに、もはや迷いは見られなかった。アーデルハイトがおそらく、自身の身を顧みない方法でこの戦争に決着をつけようとしている、そう伺ったザカコは即座にハーミットを駆り、アーデルハイトの元へ向かうことを決心した。
(クリフォト内部へ行くためには、校長の作戦が重要な役割を果たすでしょう。
そして、その作戦の障害になろうとしているあなたは……邪魔なのですよ!)
明確に所属不明機を“敵”と定め、そしてハーミットは加速と回避行動を織り交ぜつつ、ソードでの斬撃を繰り出す。
アーデルハイトをこの手に取り返すまで、負けるわけにはいかないと――。
(見た目通り、速度には優れているようね。機体の装備が統一されていないのは、イルミンスールの方針なのかしら。
個々の操縦技能も、連携も、まだまだね。これなら多少数で押せば、あっという間に――)
相手の戦力をそのように判断しかけた彩羽は、直後、遠距離からの砲撃を知らせる警告に基づいて回避行動を取る。振り切ってきた別の相手が追いついてきたか、そう判断した彩羽はもう少しだけ戦ってみようとの結論に至る。
(魔族も落としてあげれば、一機や二機落とした所で大勢に影響しないはずよ)
その考えはある意味、魔族よりも魔族らしくあった――。
(あれは、エリザベートちゃんの邪魔をするヤツだ! だから、ここで落とすよ!)
一度は所属不明機に戦線を突破されるも、その後に続く魔族を味方との連携で打ち払って、峰谷 恵(みねたに・けい)はパートナーと共に愛機SAY−CEの装備するマジックカノンを発射する。
「我が読み手……分かっているだろうが、殺意に振り回されるな。余計な殺意は進む足も鈍らせるぞ」
今回は魔道書形態のグライス著 始まりの一を克す試行(ぐらいすちょ・あんちでみうるごすとらいある)が、魔力を機体に回しつつ恵が力を振り回す事のないよう釘を刺す。
「うん、今は大丈夫。エリザベートちゃんも決心した、そしてボクも一番大事な指針を思い出したから」
「……私は、ケイの言う指針に感心も賛同もしかねますが……」
恵の言う『一番大事な指針』を搭乗前に聞かされていたエーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)が、複雑な表情を浮かべる。その指針はというと、
『何が正しいか迷ったら、正否は置いといて自分の思う通り突き進め。後悔も反省も、走り疲れてぶっ倒れてからやれば良い』
であった。今も心に思う兄の言葉である。確かに、後悔や反省はわざわざ力を費やしてまでするものではないのかもしれない。それをするなら他の、もっと建設的なことに力を費やせと。本当に何もすることがなくなった時、それ以外に出来ることがなくなった時に初めて、反省して後悔して、そしてまた先に歩き出せ、それが人の歩く道なのかも知れなかった。
『指針はともかくとして……恵、校長が他の者を選んでも落ち込みはしないのだな』
そういえば、と思い出すように言葉を乗せたレスフィナ・バークレイ(れすふぃな・ばーくれい)に、恵は次のように答える。
「いや、神代さんも可愛いは可愛いし、こうなったら二人いっぺんにっていう気持ちもちょっと出てきてる」
「…………」
その回答に、レスフィナだけでなくエーファやグライスも、言葉にはしないまでも呆れた感情を覚えた。ここはパラミタ、ある意味恋愛事情に関しては自由である。“人間”の枠では禁忌ともされる関係も、当人同士がそれを望むのであれば許容されて然るべきであろう。……もっともこの場合、エリザベートはまだしも、明日香は難色を示す様な気もしないではないが、それはもはや与り知らぬ所である。
「とにかく、まずは前の敵を落とさないとだね。時間をかければかけるだけ、こっちに不利になる」
パートナーとの会話によって、ある程度の余裕を取り戻したらしい恵が、予測される戦況の推移を口にしてみせる。今地上に見えているクリフォトが敵の本拠地に繋がっている以上、これまで見てきたクリフォトの分身以上に、敵の出現は際限なく行われるはず。こっちには補給を行う飛空艇が待機しているとはいえ、いつまでも戦力が維持できるわけではない。だから短時間で一時的にも絶対的な優位を築いて、エリザベートの策を実行出来るようにするべきだ、と。
「……そうですね。恵の言う通りだと思います」
エーファが恵の言葉を認める、それは恵の言う『一番大事な指針』をも認めることになると分かりつつ、これ以上に有用な策を思いつけない段階では、そうしておくべきと踏んだようであった。
(陣形を崩されても即座の立て直し……隊所属でなかった方々の援護……たとえ一時だったとしても、皆さんが一つに纏まっているのを感じます)
赤城 花音(あかぎ・かのん)と共にクイーン・バタフライに搭乗するリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)が、ハッキリとした指示なしに連携行動を取ろうとしている仲間たちに、感嘆の思いを抱く。このような事態となってしまった以上、恐らくこれからは纏まるのに苦労するだろう、そんな思いを抱いていたリュートだったが、今この状況を目の当たりにして、なんとかなるかな、そんな思いも抱き始めていた。
(全て元通りとは成らないでしょう、ですが、背負える責任は分担したいですね)
思考を切り上げ、リュートはエリザベートの護衛に向かった申 公豹(しん・こうひょう)の様子を確認せんとする。
……直後、前方の所属不明機が周囲の全てを薙ぎ払うように腕のようなものを振るった後、軌道を変え、森へと降下していく。
『ハイ、ミナサン、トッテモヤル気デシタネ!
……それと、ソコソコに楽しい話がアリマスヨ』
姿を偽り、商人としてイルミンスールに潜り込んでいたアルラナ・ホップトイテ(あるらな・ほっぷといて)から、彩羽は最近完成した砦の存在を知ることとなる。
(砦ね……情報を掴んでおけば、後で魔族に高く売れるかしらね。
“進化”を目の当たりに出来なかったのは残念だけど、この辺りが潮時ね)
目的をアルマインの実力を測ることから、砦の調査に切り替えた彩羽が、『アル・アジフ』に触腕召喚を命じる。
「みんなまとめて吹っ飛びなよ!」
瞬間、トーフーボーフーからこの世のものとは思えない腕が伸びたかと思うと、自身を中心に旋回する。その攻撃は前方だけに留まらず、後方で戦闘を繰り広げていた敵味方共々巻き込み、少なからぬ損害を負わせる。
「さ、今の内に離脱よ。持ち帰る情報は多ければ多いほどいいものね」
混乱する戦場を後に、トーフーボーフーは高度を落とし、森に隠れるようにして一路、『ウィール砦』へと向かう――。
「……サテ、長居は無用デスネ。ここはササッと引き上げ――」
「そう簡単に、行くとお思いですかな?」
彩羽に必要なことを伝え終え、イルミンスールから移動しようとしたアルラナは、響く声に振り返る。そこにはイルミンスール内を哨戒していた沢渡 隆寛(さわたり・りゅうかん)とティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)の姿があった。
「あなた、悪魔ですわね。ここで何をしていましたの?」
「オヤオヤ、見つかってしまいマシタ。クククッ、メンドクサイ事はシマセーン!」
人を不快にさせる笑みを浮かべて、アルラナは隆寛とティティナに向けて同時に刃を放つ。軽い見かけの割に強力な一撃に、二人が防御に徹しざるを得ない所を、アルラナは追撃するでもなく退いていった。
「……取り逃がしましたか。ティティナ、怪我はありませんか?」
「ええ、なんとか……。ルーカン様、どうしましょう?」
「まずはマスターに事情をお伝えしましょう。それと砦の方にも、ティティナ、そちらはお任せします」
「あ、は、はい……!」
隆寛の指示を受けてティティナは、そういえばケイオース様はどうしていらっしゃるかしら、と思いを馳せる。最近は会うことが出来ず、寂しい思いをすることもあった。
(……平和になったらまた、お茶をすることが出来ます……わよね?)
事が済めばその時には、お菓子とお茶を用意して誘ってみよう。そう思い至り、ティティナはウィール砦へ今あったことを伝える――。
(逃げた? いや違う、あの進路は砦への……!)
所属不明機の進路から、目的地がウィール砦であることを察知したリュートだが、それを防ぐ手立てはなかった。所属不明機の必殺とも言える攻撃で、アルマイン隊の中にも損害が生じていたし、魔族の方も攻撃をされたことにより統制を完全に見失い、狂える暴徒と化していたためである。
……そして、悪い時に限って、悪い事は重なるものである。連絡を取ろうとしていた公豹から、襲撃を受けているとの知らせが飛び込んできた――。
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