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リアクション
chapter.2 1日目・19時〜7時
生徒たちの心配は杞憂に終わり、ほどなくして船は無事ロウンチ島へ到着した。
船が泊まったのは島の東部で、近くには数十名ほどが入れそうな鍾乳洞がある。各々に配られた地図によると、南部には森が広がっており、西部は平地、北部には小さな洞穴があるようだ。西部の平地には、脱落者用の収容所が仮設されているらしい。
生徒たちはランダムに名前を呼ばれ、順番に船を降りていった。数分感覚でひとり、またひとりと船を降り、やがて全ての生徒がロウンチ島に降り立った。最後に関羽が地面を踏むと、船からロイテホーンが顔を出した。
「では、これより3日後のこの時間、もしくは残り人数がひとりになった時点で再び私は戻ってくる! 生徒諸君、頑張って生き残るのだ!」
そして、船は島から離れていった。時間は19時00分、辺りは既に暗くなっていた。
◇
東地区。
シルバの携帯から音が鳴った。画面に表示されていた番号は、先ほど連絡先を交換した栗のものだった。
「おう、栗か、どうした?」
「あ、シルバさんですか? まだスタート地点の辺りにいますか?」
「ああ、夏希と一緒に東地区にいるぜ。栗はどこにいるんだ?」
シルバのその問いの後、少しの沈黙が流れた。
「あれ、電波が悪いのか? おーい! もしもーし!」
相方の夏希も、どうしたのだろうといった様子でシルバの方をじっと見つめる。
「もしもーし、栗、今どこだー?」
その時、栗の声が聞こえた。ただし、電話口からではなく、シルバの背後から。
「シルバさん、あなたの後ろですよ」
「!?」
驚き、振り返るシルバ。栗はそれを見透かしていたかのように、シルバの胸にあるプレートを指で弾いた。プレートが赤く変色する。
「な……栗、おまえ……!」
ぼとっ、とシルバが手からバナナを落とす。栗の後ろからすっと現れ、それを拾ったのは彼女のパートナー、羽入 綾香(はにゅう・あやか)だった。
「栗、上手くいったようじゃのぅ」
「自分でも、こんなに簡単にいくとは思わなかったよ。さあ、夏希さん、あなたはどうする?」
パートナーをやられた夏希は、怒りをあらわにした。
「あなたたち……騙したのですね!」
「騙した? これは何でもアリの勝負だよ? 私はただ、勝負ごとでは容赦できないだけなんだ」
「よくも、よくもシルバを……っ!」
石鹸をばら撒く夏希。しかし石鹸は空しく空を切り、綾香の装備していた小弓の先端が夏希のプレートをこつんと叩いた。
「悪いのう、これも魔女になるための一歩なのじゃ」
「さて、次のターゲットを探しに行くよ、羽入」
後ろを向き、その場を後にしようとする栗と綾香。
「あっ」
と、綾香が後ろに落ちていた石鹸で足を滑らせ、勢いよく転んだ。胸のプレートを見ると、色が赤くなっていた。
「え、えぇ〜っ……羽入、ドジっ子な魔女はもう流行らないよ……」
シルバ、夏希、綾香らは即座に収容所に移された。
良い子のみんな、石鹸は汚れを綺麗にするためのものだ! くれぐれも石鹸をばら撒いちゃいけないぞ!
一方同じ東地区にある鍾乳洞付近にいたのは、朝野 未沙(あさの・みさ)、朝野 未那(あさの・みな)、朝野 未羅(あさの・みら)の朝野3姉妹だった。この島で以前起こった出来事を未沙たちから聞いた次女の未那は、とても感動していた。その出来事とは、今回の企画の主催者ロイテホーンと、彼の恋人だった魔女リーシャの恋物語だ。なおこちらはリアクション検索で「吸血鬼の恋、魔女の愛」と入力していただければご覧になれるので、まだ読んでない方はぜひよろしくお願いします。
それはさておき、同じ魔女である未那は、リーシャのお墓参りをしたがっていた。そんなわけで、彼女たちはリーシャのお墓がある鍾乳洞へとやってきたのだ。しかし、彼女たちが鍾乳洞に入ることはできなかった。入口に関羽が門番のように立っていたからだ。意を決して、未那が話しかける。
「あのぉ、関羽様、私、リーシャ様のお墓参りがしたいのですぅ」
関羽は一瞬眉をひそめたが、未那の真剣な表情を見て、すっ、と道を開けた。
「その清らかな心、この関羽感銘を受けた。存分に供養されよ」
それを聞いた未那は関羽にお礼を言い、鍾乳洞の中へと入って言った。
「貴殿らも、同じか?」
関羽が少し離れたところに声を投げた。未沙と未羅が振り返ると、そこに立っていたのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とパートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)だ。
「えっとね、私たちは、ここを守りたいな、って思って来たんだ!」
「美羽さんからお話を聞いて、何も知らない人がここで戦うのを止めたいと思ったのです」
それを聞いた関羽はもうボロ泣きに近い勢いで感動した。
「歳をとるとどうも脆くなっていかんな。うむ、貴殿らの好きにするが良い」
「ありがとう関羽様!」
元気良く頭を下げる美羽たち。やがて未那も墓参りを終え戻ってきた。そこで未那は、未沙の元気がないことに気付く。
「姉さん、なんだか元気がないですぅ」
「お姉ちゃん、島に来てからずっとこんな調子なの」
未羅も心配そうに未沙を見る。未沙は何やらひとりでぶつぶつと呟いていた。
「愛美さんとデートだと思ってたのに……愛美さん来てないなんて。会いたいよ。愛美さんに会いたいよ。I miss youだよ愛美さん。愛美さん元気かなあ、ちゃんとご飯食べてるかなあ。あたしここにいるよ、どこにも行かないで待ってるからね愛美さん……」
彼女は目当ての女の子が今回不参加だったため、半端じゃないくらい落ち込んでいた。それはもう本当、怖いくらい落ち込んでいた。ていうか怖かった。
「そうだ! お姉ちゃんに元気出してもらうため、お料理つくるの!」
未羅がそんな未沙を見かねて、提案をした。幸い彼女らのアイテムは鍋、味噌、昆布とそれっぽいものが揃っていた。未羅は張り切って準備を始める。と、未那がどこからか野草を持ってきた。
「これもぉ、鍋に入れちゃいましょう〜」
「未那お姉ちゃん、ありがとうなの。これでお姉ちゃんも元気復活なの!」
そんなこんなで無事鍋が完成し、美羽とベアトリーチェも混ざってちょっとした鍋パーティーが行われた。
「お姉ちゃん、ほかほかで、温かいの」
未沙は未羅から一口貰うと、顔を綻ばせた。
「……ありがとう。あたし、どうかしてたね。今度愛美さんに会ったら、ちゃんとお話しようっと!」
普段の未沙が戻ってきて、安心する未那と未羅。と、ベアトリーチェが、少し離れたところにいた関羽に声をかけた。
「関羽様もご一緒にどうですか?」
「いや、貴殿らで仲良く楽しまれよ」
そう答え遠慮する関羽。こんな女子高生ばっかの会話についていける自信ないわ、と思ったからだ。
その時、彼の耳にロイテホーンから情報が入った。
――参加者の中に、プレート譲渡による違反者を発見。
関羽はすっと立ち上がり、西の方へ歩き出した。
「関羽様……どちらへ?」
「どうやら、ルールを理解していない生徒がいるようなのでな」
そう言い残し、関羽はその場を後にした。
◇
南地区。
村雨 焔(むらさめ・ほむら)は森の中でパートナーのアリシア・ノース(ありしあ・のーす)、ルナ・エンシェント(るな・えんしぇんと)らと向かい合っていた。
「ねー焔、なんで私が焔と闘わなくちゃいけないのー!?」
アリシアが頬を膨らませて文句を言う。
「アリシア、ルナ……お前らがどれくらい強くなったか、試すためだ。今回のこれは、いい機会だろう」
言って、自分のプレートを指差す焔。
「ふたり掛かりでかかって来い。そうすれば、プレートを叩くくらいなら出来るかもしれないぞ?」
パートナーの成長を見たい焔はふたりを挑発するが、アリシアはまだ納得がいっていないようだ。
「うー、じゃあ、これで私が勝ったら、1日デートしてっ!」
焔は苦笑すると、「ああ、好きにしろ」と短く返事をした。
「ほんとだねっ? よーっし、ルナ、行っくよー!」
「了解です、ターゲット捕捉、村雨焔。攻撃開始」
ルナは特にデートには興味なく、ただ主の命令に従っただけだった。
アリシアが焔直伝の格闘術でプレートを狙うが、焔は隙を見せない。ルナは遠距離からゴム弾が入った銃で援護射撃を行うが、上手く周りの木を盾にして焔はそれらを防ぐ。攻め続けたアリシアに隙が見えると、焔はアリシアを足をひっかけ、下に組み敷いた。
「どうした、これで終わりか?」
すぐ近くに焔の顔がある。それだけでもうアリシアは、勝負のことなんてどうでもよくなった。焔に顔を近づけようとするアリシア。と、ルナがアリシアをどついた。
「戦闘と無関係な行動は謹んでください、アリシア」
「ルナ、勝負の最中に油断は禁物だ」
ルナはまさか、と自分のプレートを見る。その色は赤く変わっていた。ルナが近付いた一瞬の間に、焔が衝撃を与えていたのだ。
「……すみません、マスター」
「アリシア、お前もまだまだ隙が多い」
アリシアのプレートを軽く叩く焔。
「だが、なかなかのコンビネーションだった」
すっと立ち上がり、満足そうに焔は言うと、自らのプレートを叩こうとする。
「マスター、一体何を?」
「パートナーだけにペナルティを負わせるわけにはいかないからな」
焔が腕を振り下ろそうとしたその時、茂みからガサガサと音がした。焔が振り返ると、そこには笹原 乃羽(ささはら・のわ)がいた。かわいらしい百合園の制服を着ている彼女は、その目に涙を浮かべていた。
「た、助けてください……っ!」
「……どうした?」
焔が乃羽に近寄る。彼女は息を切らし、涙を流しながら焔を見上げた。
「あたし、男の人に追いかけられて……それで、怖くて、怖くて……!」
そこまで聞いた焔は乃羽の肩をぽんと叩くと、アリシアとルナの方を振り返った。
「悪いが、収容所に行くのが少しだけ遅くなりそうだ」
と、次の瞬間、焔のそばで声がした。
「いや、今すぐ行けるよ……あの子たちと一緒にね」
「っ!?」
とっさに距離を開けようとした焔だったが、乃羽の持っていた竹箒が焔のプレートを叩く方が早かった。
「お、お前……」
「普段クールな剣士も、女の涙には勝てないんだね。アイテムがこれで良かったよ、ふふ」
乃羽が取り出したのは、玉ねぎだった。彼女はこれで涙を作り出し、まんまと焔を騙し討ったのだ。
「自分より弱い女にやられる気分ってのは、たとえると……役も点数計算もろくに知らない、そんな人と麻雀で勝負して! いきなり役満をあがられた気分に似てる、ってのはどうかな?」
「ぐっ……」
「そして色は変わり出す」
焔のプレートが赤くなった。
「そういえば、名前も聞いてなかったね。キミ、名前は?」
「……焔、村雨焔だ」
「え? 何? うなされ野村? 随分かわいそうな名前なのね……じゃあ野村さん、さよなら」
こうして焔、アリシア、ルナはまとめて収容所行きとなったのだった。
◇
西地区。
収容所の前で仁王立ちしていたのは、九弓だった。そばにはパートナーのマネット、九鳥もいる。そこに、関羽が現れた。
「関羽……来てくれると信じてた」
「……プレートをどうした」
「さあ。ここにないのは確かね。プレートを持たない参加者が野放しになっていたら、どうなるのかな?」
関羽が九弓に向かい刀を構える。
「知りたくば教えてやろう、私の刀でな!」
九弓に向かい走り出す関羽。九弓はマネットから光条兵器を取り出すと迎え撃つ態勢を取った。
「はあっ!」
マネットから受け取った光条兵器。それは指輪をかたどった迫撃専用光条兵器で、使用者の半径1メートルを領域とし、領域内の打撃を斬撃に変換する機能を持ち、その接触部位は手だけに留まらず、足や頭でも発動するらしいけどそんな説明をしている間に九弓はやられていた。
「ますたぁ!!」
マネットが駆け寄る。
「さ、さすがね関羽……あたし、もっと強くなる」
がくっ、と崩れ落ちる九弓。その傍らで九鳥は関羽に「ねえねえ、劉備のこと着拒してるって本当?」とマイペースな質問をしていた。面倒臭くなった関羽は3人まとめて収容所に押し込んだ。なお収容所は簡易ネットカフェのような形態で、ふかふかのソファーに雑誌やノートパソコンも完備してある。おまけにフリードリンクサービスもあり、まさに至れり尽くせりだ!
同じく西地区の一角では、一式 隼(いっしき・しゅん)とファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)、そして各務 竜花(かがみ・りゅうか)とパートナーの斗羽 神山(とば・かみやま)ら4人が集まっていた。隼が他の3人に告げる。
「自分の提案に賛同してくれてありがとう。この4人で、必ず生き残ろう!」
「作戦は、船の中で話したあの通りでいいんじゃな?」
ファタが確認を取る。
「うん、私とファタさんが囮になって他の人を誘いこんで、一式くんと神山がプレートを攻撃、だよね!」
「それはいいけどよ、とりあえず全員のアイテムを確認しようぜ」
竜花の言葉の後に神山が続いた。4人は「せーの!」で一斉に手持ちのアイテムを場に出す。
「……」
「おぬしら、揃いも揃って……」
ファタ以外の3人が、見事に大根でかぶっていた。
「何だよ、オルガナの殺虫剤だって大して使い道ねえだろ」
「大根三兄弟のおぬしに言われたくないわ」
「ま、まあまあ皆、チームは結束力が大事ですから、揉め事は無しでいきましょう」
隼が皆を落ち着かせ、まとめる。他の3人が落ち着いたところで、隼は皆の肩を組んでほがらかに言った。
「それでは、これよりチーム”美夢”の生き残りに向けた作戦を始めましょう!」
「おー!」
決意を固める4人。そんな中ファタは「おー!」と言いつつも、心の中であることを思っていた。
美夢は恥ずかしすぎるじゃろ、と。
そんなチーム美夢が最初の標的に選んだのは、御凪 真人(みなぎ・まこと)だった。彼を選んだ理由はふたつ。ひとつは彼がたまたま近くをひとりで歩いていた男性だったから、もうひとつは、彼が手にしていたのが大根だったからだ。真人に気付かれないよう、ファタと竜花、隼と神山が二手に分かれる。そして準備が整ったことを確認すると、ファタ、竜花が真人の前に姿を現す。
「すいません! あの、私たち女ふたちで心細くて、仲間を探してるんです……! どうか、お話だけでも聞いてもらえまえんか?」
身を寄せ合い、体を小さく震わせているふたりを見て真人は放っておくわけにはいかないと感じた。一見冷たく見られがちな真人だが、実は面倒見が良く、情に厚い好青年なのだ。以前この島に来た時も彼は、行方不明者の救助に尽力していた。そんな素敵な彼だったが、今回ばかりは運が悪かった。アイテムを数多く欲しいと願ってしまったため、罰が当たり大根を手にサバイバルすることになってしまったのだ。
「それは不安になるのも無理はないですね……俺でよければ、力になりましょう」
そう言って歩み寄る真人。その時だった。
「一式! 今だっ!!」
両脇から隼と神山が飛び出してきた。突然両脇から挟み撃ちを受けた真人はとっさに大根で攻撃を受けようとするが、もちろん受けきれるわけがなかった。隼のカルスノウトが真人のプレートを捉えた。
「しまったっ!」
作戦は見事成功し、真人は脱落した。
「よし、チーム美夢、この調子でどんどん行きましょう!」
テンションの上がる隼を見て、真人は膝をつきながら思った。
こんな恥ずかしいチーム名に負けたのか、と。
◇
北地区。
久多 隆光(くた・たかみつ)は目を血走らせて辺りを徘徊していた。その手にはフライパンを持っている。
「ちくしょう……フライパンだけじゃ音が鳴らせない……ジャーンジャーンというあの音が! 自分でももうこの鳴らしたい衝動を抑えることができねえぜ!」
どうやら彼は、何か確固たる目的を持っているようだった。ただそのモチベーションがいささか高すぎて、目が軽くイっちゃっていた。運悪くその狂気に巻き込まれたのは、高務 野々(たかつかさ・のの)だった。
「あら、こんなところにも大根が……」
落ちていた大根を拾う野々。彼女はハウスキーパーなどのスキルを使い、メイドとして動いていた。戦ってる感じを出してたら危なそうだから、それならいっそメイドとして島に溶け込もうという作戦だった。相手が通常の生徒、もしくはメイド好きならこれもある程度有効だったかもしれない。しかし野々の前に現れた隆光は、もはやジャーンジャーンと音が鳴る物以外は眼中になかった。
「おい、そこのお前! ジャーンジャーンと音を鳴らせる物はないか!?」
「え、え?」
いきなりわけの分からない質問をされて戸惑う野々。と、その手に持っていたおたまに隆光が食いつく。
「それはジャーンジャーンと鳴るか!? 鳴らないのか!? よこせっ、よこすんだ!」
隆光のあまりの迫力に、野々は完全に引いていた。怖かったのでとりあえずおたまを渡す野々。隆光は野々の手からおたまをぶん取ると、それでフライパンを叩き始めた。カン、カンと中途半端に甲高い音が空しく響き、隆光は悔しがった。
「違う……俺が求めている音はこれじゃねえ! ちくしょう、いるかこんなものっ!」
隆光はおたまをぶん投げた。そのおたまが野々に当たり、彼女のプレートが変色する。
「え、ええ〜っ……」
呆然としている野々に脇目も振らず、隆光は次なる獲物を求め走り去っていった。
丑三つ時。そんな隆光にそっと近寄るのは飛鳥井 蘭(あすかい・らん)。隆光は彼女の存在に気付かず、ぐっすりと眠っていた。蘭は音を立てないよう、慎重に距離を縮めていく。
昼間、皆が起きている時に争うなんて愚の骨頂。寝込みを襲うのが堅実な勝ち方なのですわ。ほほほ、わたくしったら、なんて賢いのでしょう!
心の中で呟く蘭。その口調はお嬢様風だが、現在の彼女の外見は間違いなく職務質問されちゃいそうな格好だった。バットを片手にプロレスマスクを被っており、絵に描いたような不審者だ。なお本来の彼女の所持アイテムはコショウだが、バットもマスクも元からの装備品なのでルール上問題なしだ。ただこれを装備して船に乗り込んでくるって、どれだけ用意周到だよとはつっこまざるを得ないが。
やがて蘭はバットで殴打できる距離にまで辿り着いた。大きく振りかぶる蘭。しかしその時、隆光のジャーンジャーンレーダーが反応した!
「ジャーンジャーンと音が鳴るものの匂いがするぜ!」
目を覚ました隆光は、蘭の一撃をすんでのところで回避した。
「くっ……しとめ損ないましたわ、ええいっ、これでも喰らえですわ!」
コショウを顔面目がけぶっかける蘭。だが隆光は怯まない。
「えっぐしょい! お、お前そのバットは……ぐしゅっ、さてはジャーンジャーンとなるな!?」
くしゃみをしながら襲い掛かる隆光。彼の執念の前に、蘭はあえなく敗れ去った。
「こ、この男只者じゃないですわ……」
「ふ、ふふ……このバットとフライパンさえあれば……ぐしゅん!」
隆光は溢れ出る鼻水を風になびかせ、東へと向かった。
こうして、ロウンチ島生活最初の夜が明けた。
【残り 78人】(うち2人はプレートが変色していないが、収容所にいるため実質76人)
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