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chapter.3 1日目・7時〜19時 


 東地区。
 鍾乳洞付近にある木々の間から差し込んでくる光で、和原 樹(なぎはら・いつき)は目を覚ました。否、目を覚ましたのは木漏れ日のせいではなかった。
「んっ……ちょっ、な、なんだ……」
 びくっ、と体を微かに震わせて、自分の背後に目を遣る樹。そこには、パートナーのフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が自分の服に手を突っ込み、まさぐっている姿があった。
「ちょ、フォルクスっ、変なとこ触るなよ……!」
「ふふ、樹、あんまり暴れると落ちるぞ?」
 彼らは、木の上で睡眠を取っていた。就寝中に襲われないようにという理由からの行動だったが、まさか身内に襲われるとは。
「それに、近くで寝ようと誘ってきたのは樹だろう?」
「た、確かに傍に誰かいた方が落ち着いて寝れるとは言ったけど、こんな密着するなんて……あっ」
「樹、普段殴られている仕返しだ」
「これが終わったら殴るっ、いっぱい殴るからなっ……!」
 樹上でいちゃつくふたりだったが、その時彼ら、いや、島にいる生徒全員の耳に声が響き渡った。
「おはよう、生徒諸君。ロイテホーンだ。現在の状況をお知らせしよう。現時点での生存者は78人。つまり、開始半日で12人の脱落者が出たことになる。では、今日も張り切っていこう」
 仮設スピーカーから聞こえてきたそのアナウンスに、生徒たちは驚いた。もう10人以上脱落したのか。しかし、次なるロイテホーンの言葉は、さらに生徒たちを驚かせた。
「そして、現在の時刻――朝7時半をもって、1回目の関羽タイムを開始する」

 関羽タイムを告げるアナウンスが終わると同時に、鍾乳洞の近くにいた関羽がすっと立ち上がる。その横にいたのは、七枷 陣(ななかせ・じん)だった。陣は関羽に続くように腰を上げ、関羽の方を見る。
「時間か……関羽さんの武勇伝、楽しく聞かせてもらったっすよ。じゃあ今度はオレの武勇伝を語る番っすね」
 彼、陣は明け方関羽のところへ辿り着き、関羽にお願いして武勇伝を聞かせてもらっていた。関羽からしたら朝っぱらから起こされていい迷惑だった。なので、彼の機嫌は若干悪かった。
「貴殿の……武勇伝?」
 陣はくじ引きで当てたアイテム、栄養ドリンクをぐいと飲み、その拳を関羽に向けた。
「関羽さん、オレの武勇伝の1ページ目は、あんたを倒したっていう伝説や! さあ、拳と拳の語り合いやで!」
 テンションが上がり関西弁っぽくなった陣がバーストダッシュで勢いをつけ殴りかかる。しかし、その中途半端な関西弁と何かかっこつけた風の言い回しがさらに関羽の機嫌を損ねた。
「むぅん!!」
 陣はすっ飛んだ。唯一の幸運は、飛ばされた方角に収容所があったことだった。

 同時刻、バットを手にした隆光は朝野3姉妹、そして美羽やベアトリーチェのところにいた。美羽らのアイテム、サラダ油と小麦粉を見て「あれは音が鳴らねえ、駄目だ」と判断した隆光は美羽らに興味をなくした。そして、その視線は未沙たちの持つ鍋へと移った。
「それはいかにもジャーンジャーンと音が鳴りそうじゃねえか、奪ってもいいか? 答えは聞いてない!」
 未沙から強引に鍋を奪い取った隆光。ついでに未沙のプレートにも衝撃を与え、3姉妹の長女はここで脱落した。鍋、フライパン、そしてバットを揃えた隆光は、声を上げて笑った。
「これで全ての準備は整った……いよいよ計画を実行に移す時だ!!」
 隆光はバットを手に、鍋やフライパンを狂ったように叩きまくった。ドラのような音が大きく鳴り響く。
「くくく、これだ! この音だ!」
 その時、音を聞きつけた関羽が目の前に現れた! 隆光はそれを分かっていたかのように、自らの表情を一昔前の漫画タッチ風に変え、音を鳴らしたまま叫んだ。
ジャーンジャーン。
「げえっ! 関羽!」
 それを言い切ると満足そうにバットを置く隆光。その後彼は「うるさい」という理由で関羽にボコボコにされ収容所に移された。



 南地区。
 うっそうとした森の中、茂みから妖しい声が聞こえてくる。
「あんっ……た、玉ちゃん、そこはダメっ……!」
「ふふ、何が駄目なのだ? きちんとその口で言わねば分からないであろう?」
「い、いやっ、そんな、だって……やぁっ……」
「いくら口で嫌だ嫌だと言っていても、こっちの口は喜んでおるぞ?」
「やっ、そ、そんな恥ずかしいこと、言わないで……」
「月夜、そんなに恥ずかしい声を出しているお前が今さら何を言う」
「あぁっ、もうダメ……!」
 ほぼ生まれたままの姿で、卑猥な音を立てているのは漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)玉藻 前(たまもの・まえ)のふたりだった。なお、ほぼ生まれたままの姿と言ってもきちんと大事な部分はお互いの手とかで隠れているので、そのへんは大丈夫だ!

 そもそもなぜこのふたりはこんなことになっているのか、それを説明しよう。船の中で、既にこの計画は練られていた。月夜が船内のトイレへと行っている隙に、彼女らのパートナーである樹月 刀真(きづき・とうま)は玉藻に話しかけた。
「玉藻、勝負に勝つには男ひとり、女ふたりというこの編成を利用するのです! 女性の参加者は俺が全裸になることで引き受けます。なので、男性の参加者は玉藻たちが油断を誘い攻撃するのです」
「ほう……と言うと?」
「とりあえず島に着いたら、月夜にエロいことしてください。それで男性たちは隙だらけになるはずです」
「うむ、面白そうだ、その計略に乗ってみよう」

 というわけで、現在に至る。ちなみに刀真は既に全裸になっており、準備万端だ。準備と言ってももちろんそういう意味の準備ではなく、敵を迎え撃つ準備だ。しかしなかなか他の生徒が現れず、刀真は月夜の体力を心配し始めた。もう結構長いことあのやりとりが続いている。
 そこに、ようやくというべきか、ひとりの生徒が登場した。船内の女子トイレで騒いでいた「フォーシスターズは蜜の味」のメンバーのひとり、大和である。
「くっ……やっと釣れたと思ったら女性とは……! ん? 女性、ですよね。いやどうだろう、あれ、違いますねこれ」
 服装のせいで一瞬女性と錯覚したが、落ち着いて見ると大和、いやヤマコはただの女装に失敗した変態だ。ヤマコは身も心も女になりきろうとしたが、女好きという本能だけはどうにもできず、卑猥な声を聞きつけやってきたのだ。月夜と玉藻の姿を見ると「おぉ……」と素の声に戻るヤマコ。その隙を、全裸の刀真がアイテムの紐を手に突こうとする。
「そのプレート、いただきました!」
「何っ!?」
 急に素っ裸の男が現れ、完全に意表を突かれた形のヤマコ。しかし、刀真の紐が捉えたのは、ヤマコのプレートではなかった。ヤマコの前に倒れていたのは、同じフォーシスターズ組であるケイのパートナー、カナタだった。
「なっ……カナタ姉様……!」
「ふふ、わらわはこんなことだろうと思っておったぞ……」
「なんで私なんかを庇ったの!? いざという時は盾になれなんて私に言っといて……どうしてこんなっ……!」
「さあの……そこのとこだが、わらわにもようわからんのよ」
 カナタのプレートが変色していく。
「まったく……本当にどうしようもないグズな妹よな、ヤマコ……は」
「カナタ姉様あぁぁーーーっっ!!!」
 ヤマコはカナタを抱え、うずくまった。そこに刀真が再び襲い掛かろうとする。が、その紐は空を切った。
「!?」
「君は、俺を怒らせた」
 後ろを振り返る刀真。そこには眼鏡を外したヤマコ……いや、大和がいた。
「君も同じ悲しみを味わうがいいっ……!」
 大和は刀真ではなく、月夜と玉藻目がけて突進した。慌てて服を掴み逃げようとする月夜と玉藻。しかし、大和がふたりのプレートを叩く方が早かった。
「は、速い……!」
「馬鹿な……この男、女性の裸を見ても動じぬのか」
「ひとつ教えておいてあげよう……男が皆裸に興奮すると思ったら大間違いだ。半裸……いや、むしろきちんと服を着ていて、その上で見える何かに興奮を覚えるタイプもいるのだ」
 彼、大和の言うことは一理ある。チラリズムとは人類が生み出した偉大な文化であり、事を始める際、自ら服を脱ぎ出すなどもってのほかだ。見えないからこそかきたてられる想像力! 意識外のエロス! これにはマスター・ハギもある程度同意せざるを得ない!
「カナタ! 先輩!」
 少し遅れて、ケイとラキシスもやってくる。3対1ではさすがに勝ち目がない。
「仕方ない……ここは退きましょう」
 全裸で逃げていく刀真。大和はカナタを見ると、自らのプレートを叩いた。
「大和ちゃん、何してるの!?」
「俺のせいでカナタさんは脱落した……だから、俺も共に罰を受けます。後は任せましたよ、ケイ、ラキシス」
「大和先輩……」
 月夜、玉藻、大和、カナタの4人がここで脱落した。



 西地区。
 岩陰に隠れて獲物が罠に掛かるのを待っているのは、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)とパートナーのシェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)だった。
「シェ、シェリス……本当にそれを使うつもりですか?」
 不安そうにシェリスの手を見つめるフィル。その視線の先には、何やら怪しげな薬品があった。
「当然じゃ。わしの研究により作られたこの薬を実験する、またとない機会じゃからな」
 彼女らは配られたアイテム、糸を使い簡単なトラップを作っていた。誰かが糸に引っかかると、つんのめった先に小さな落とし穴が掘られているという具合だ。そしてその仕掛けにはまった参加者を、シェリスは実験台にしようとしていた。
「ちなみに、どんな薬なのですか?」
 止めてもどうせ意味がないだろうと思ったフィルは、一応薬の効果を聞いてみた。
「よくぞ聞いてくれたの、フィル。この薬を飲んだ者は、その者が最も恐れている者の幻を見るのじゃ」
「相変わらずひどい薬を……けれど、いつもと比べればそこまで過激ではないのですね」
「あと、ちょっとだけラリる」
「……ですよねえ」
 そんなことだろうと思った。フィルは溜め息をつきながらそう心で呟いた。

 ふたりがそんな会話をしていると、向こうからひとりの少女がやってきた。柊 まなか(ひいらぎ・まなか)だ。まなかは糸に気付く様子もなく、キョロキョロと不安そうに辺りを見回しながら歩いている。
「うぅ……てっきりパーティーかと思って来たら、こんなことになるなんて……こんなことならシダとディクシーについてきてもらえばよかったよ……」
 彼女はパートナーも連れ添っていなく、淋しそうにしていた。その時、まなかが糸に足を引っかけた。
「わあっ!」
 流れのまま、落とし穴に落ちるまなか。それを見届け、シェリスが嬉々として走る。
「ようし、実験開始じゃ、フィル!」
「すいません、すいません見知らぬ女の子……」
 申し訳なさそうにフィルが後に続いた。シェリスは穴にはまったまなかを見下ろして言った。
「おぬし、大丈夫か? たまたま通りがかったらすごい音がしたので気になったんじゃが……」
「お、お願い、ここから出して……」
「これは大変じゃ、よし、今すぐ助けてやるぞ。怪我はないか?」
「ありがとう……うん、ちょっと擦りむいただけだから大丈夫」
「何、擦り傷を甘く見てはいかんぞ! これを飲むのじゃ! わしが開発した、内側から治す傷薬じゃ!」
 白々しい芝居で薬を飲ませようとするシェリス。まなかは一瞬戸惑ったものの、助けてくれたんだし、悪い人じゃなさそうだと薬を受け取った。そして……まなかは、薬を飲んでしまった。
「……どうじゃ?」
 シェリスがわくわくしながら尋ねる。まなかは少しの間目をぱちくりさせていたが、やがて彼女はどこかおかしな方向を見始めた。
「あれ〜、シダ、それにディクシーも! ふたりとも来てくれたの〜?」
 ふらふらと歩き始めるまなか。それを見てシェリスは首を傾げた。
「なんじゃ……? 全く怖がっておらんな……それどころか、喜んでおる」
「もしかして、反対の効果が現れてしまったのではないですか? 最も恐れている者ではなく、最も安心する者の幻とか」
「うぅむ……実験は失敗か。まあこれはこれで面白いからしばらく観察してみようかの」
 そんな会話をしているふたりの前で、まなかはぼうっとした表情を浮かべている。
「ねえディクシー、私ディクシーの新しいあだ名考えたよぉ。あのねぇ、ディクシー・ディーって地味だと思うんだぁ。だから、ちょっとワンランクアップさせよう? ディーをシーにさせよう? あとついでに一文字二文字いじったらほら、何か素敵な夢の国が見えてきたよ!」
「ちょっとシェリス! あの女の子、段々発言が危なくなってますよ! 喋り方も変ですし!」
「うむ、ラリる部分だけは成功したようじゃ。面白そうじゃからもうちょっと見てみよう」
「ちょっと、シダ〜、拗ねないでっ、ね? シダにもちゃあんとあだ名つけてあげるからぁ。そうだ、後ろにアルファベット一文字足して、シダッ」
「シェリス、もう限界です! 止めましょう! どうすれば薬の効果をなくせるんですか!?」
「慌てずとも、時間が経てば勝手に効果は切れるのじゃ」
 その後まなかは「歌おう、歌いたい」と連呼していたが、シェリスの言葉通り、ほどなくして薬の効果は切れ、まなかは横になった。
「……で、どうするのですか? この女の子は」
「ふむ……豪華特典には興味ないが、実験も終えたことじゃし、この子には悪いが収容所へ行ってもらおうかの」
 そう言ってプレートに手をかけようとするシェリス。
「あー、ちょっと、ちょっと待ってー」
 とその時、後ろから声が聞こえた。フィルとシェリスが振り返ると、そこにいたのは佐伯 梓(さえき・あずさ)とパートナーのカデシュ・ラダトス(かでしゅ・らだとす)だった。
「だ、誰じゃ!」
「通りすがりの、イルミンスール生だ。目立たないようにしよーって思ってたけど……こんな場面に出くわしちゃったらしょーがないよなー」
「アズサ、珍しく男らしいですね」
 カデシュが拍手しながら梓と共に歩み寄る。
「おのれイルミン!」
 シェリスが薬を片手に飛び掛かるが、梓は冷静に持っていたビニール傘で薬を叩き落とす。そして、胸のプレートに傘で軽く衝撃を与えた。
「こ、ここまでか……」
 シェリスは力尽きた。傍でおろおろしているフィルに、カデシュは少し離れたところから珈琲豆を一粒投げた。
「女性にも食べ物にも優しくない行為、申し訳ありません」
 豆が正確にフィルのプレートにヒットし、色が変わる。脱落したふたりを尻目に、梓はまなかの元へ近付いた。
「ねー、大丈夫?」
「う、う〜ん……あれ、ここは……シダは? ディクシーは?」
「どうやら、変な夢を見てたみたいだな。次からは、気をつけなよー」
 彼女の無事を確認すると、梓は立ち上がった。数歩歩くと梓はぴたっと立ち止まり、もう一度まなかの方を向く。
「一応聞いてみるけど……一緒に来る?」
 まなかの表情が驚きから、やがて笑みへと変わった。
「……うんっ」
 体を張って自分を助けてくれたこの人たちなら、信じられる。まなかは差し伸べられた手を握りながら、そう思った。

 同じ西地区内で収容所がある方角を見つめていたのは、船の上で関羽にやられた張飛のパートナー、月島 悠(つきしま・ゆう)だった。横にはもうひとりのパートナー、麻上 翼(まがみ・つばさ)もいる。
「張飛……その犠牲は無駄にはしないぞ」
「ふたりで頑張るしかないですねー、悠くん」
「しかし、この参加者の数だ……私たちだけでは厳しいのも事実だな。ここはやはり、協力者を探すべきか……」
 と、悠が少し離れたところに人影を見つけた。後を追うと、そこにいたのは宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)だった。
「おお、あなたは、戦友の祥子ではないか!」
「……?」
 悠は祥子のことを知っている様子だったが、祥子の方はどうも覚えがなかったらしい。こういうことって、たまにあるよね。
「あぁ、勝手に舞い上がって悪かった、同じ教導団の月島悠だ。突然だが、私と組まないか?」
 祥子は少しの間考えたが、その提案を呑むことにした。
「確かに、私もひとりじゃ難しいと思っていたの。いつ野蛮な男に襲われるか分からないものね」
 祥子が悠の提案の呑んだのには、彼女なりの理由があった。彼女、祥子はスキル「女王の加護」で、常に危険を感知していた。近寄ってきた悠に女王の加護が反応を示さなかったことから、現段階で自分に敵意はないと判断し、即席チームを組むことを承諾したのだった。
「よろしくね、悠」
「こちらこそよろしく。出来ればあと数名は協力者が欲しいところだな……」
 そう言った悠は、背後に気配を感じた。慌ててバッと振り返ると、そこにはクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)と彼女のパートナー、ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)がいた。クレアのプレートは既に赤くなっており、よく見ると体にも赤い染みがついていた。
「はぁ……はぁ……私は見ての通り、脱落者だ。もうすぐ収容所からの迎えが来るだろう。済まないが、応急処置をしたいので薬を持っていたら分けてもらいたいのだが……」
 クレアの言葉を聞き、祥子は笑い出した。
「ふふ、残念ね、その手には引っかからない。あなたのパートナー、その翼と装備からして守護天使でしょ? 相方がそんなに傷ついていたら、ヒールするのが普通じゃない? 嘘はもうちょっと上手につくことね」
 しばらく黙り込むクレアだったが、やがて顔を上げると静かに笑みを浮かべ、ふたりに再度話しかけた。
「素晴らしい。実に素晴らしい観察眼だ。そう、これは自らの血で塗ったプレートだ。当然傷も既にヒール済み。あなたたちのような力のある参加者を探していた。私と共に力を合わせ、生き延びないか?」
「ク、クレア様、もう少し丁寧にお願いした方が……」
 ハンスが困ったようにフォローする。悠と翼、祥子は顔を見合わせ、クレアたちの方へと向き直った。
「なかなか面白い人だ。最後まで残って争うことになっても、恨みっこなしだぞ?」
「じゃあボク、料理担当しますね〜」
「教導団生徒がこれだけ揃ったら、負けるわけにはいかないよね」
 こうしてここに悠、翼、祥子、クレア、ハンスの即席教導団チームが出来上がった。彼女らにはぜひ、たまにでいいから真っ先にリタイアした張飛のことも思い出してやってほしい。



 北地区。
 小さな洞穴から出てきて南地区の森へと向かっていたのは、駿河 北斗(するが・ほくと)とパートナーのベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)クリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)、そして久途 侘助(くず・わびすけ)とパートナーの香住 火藍(かすみ・からん)の5人だ。北斗と侘助たちは船内で「七星椿」という名の同盟を組んでいた。彼らの目的はひとつ、プレートハンターとして島中で暴れまわることだった。七星椿というチーム名のイメージとは真逆の過激派集団である。その中でも一際過激な言動をとっていたのは、ベルフェンティータとクリムリッテだった。
「ありえない……こんな電子機器の全くない孤島で3日間も過ごすなんて……悪夢を通り越して絶望よ」
 ベルフェンティータは重度のネット中毒で、パソコンがゲームがないと露骨に不機嫌になる困った生徒だった。くじ引きアイテムで携帯ゲーム機が当たることに一縷の望みを繋いでいたが、今ベルフェンティータが手にしているのは残念ながら大根だ。
「何? 大根って。馬鹿にしてるの? ああもういっそ、森に火つけたい。放火したい。島全体が燃えて大惨事になったらいいのに。そしたらさすがに迎えが来るはずだもの、それでうちに帰ってネットしたい。蒼空のフロンティアやりたい。こうしてる間にも新しいシナリオガイドが出ているかもしれないのに……!」
 隣にいるクリムリッテは、ベルフェンティータがなぜ不機嫌なのかよく分かってない様子だったが、放火自体には賛成らしかった。
「ベル、私ガスボンベ持ってるよ! 火術も使えるし、放火なら任せて! みんな燃やしちゃえば、もっと他の生徒も命懸けで戦うはずだもんね! ふふふ、そんな必死な生徒たちを狩るのが、超気持ちいい……!」
「北斗……お前のパートナーすごいな……」
 祭りごとや馬鹿騒ぎが好きな侘助も、さすがに軽く引いていた。
「いいじゃねえか侘助の兄ちゃん、俺も激しい闘いが出来たらそれで満足だ! 男の強さってのは、無法の中にこそあるもんだろ?」
 そんな過激派集団、七星椿はやがて南地区へと移り、森の奥へと入っていく。19時00分、もう、夜の帳は下りていた。

 生徒たちが島に来てから、ちょうど24時間が経過。1日目終了。
 【残り 69人】