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chapter.6 3日目・19時〜7時 


 辺りが暗くなった頃、島内にロイテホーンの声が行き渡った。
「いよいよ残り24時間となった。現在28人の生徒がまだ残っている。生徒諸君、宿題を増やされたくなければ、頑張って他の27人を倒すことだ」
 このアナウンスは、残った者たちの心理に様々な影響を与えた。
 これまでアイテム「赤ペン」によるプレート偽装や罠設置、枝上での睡眠など徹底したサバイバル策により生き残っていた藤原 すいか(ふじわら・すいか)とパートナーのイーヴィ・ブラウン(いーびー・ぶらうん)は依然警戒を解いていなかった。
「まだ28人も残っているとは……お宝への道は険しいのです」
「すいか、相変わらず頭の中はそればっかりなのね……」
 相変わらずお宝お宝言ってるすいかに呆れ気味のイーヴィ。しかしその表情は満更でもないようだった。
「慎重に行動するのもいいけど、誰かと戦ってこの魔法の威力も確かめたいところね」
 最近魔法を覚えたてのイーヴィは、我慢しきれないといった様子で手に魔力を集め始めた。
「……イーヴィちゃんも、頭の中魔法のことばっかりなのです」
 そんな会話をしつつ、すいかたちは注意深く進み続けた。

 島にはもうひとり、緻密な計画のお陰で生き残っていた者がいた。彼はライ・アインロッド(らい・あいんろっど)。この2日間ひたすらほふく前進をして情報収集をしていた彼は、その地図にびっしりと各参加者の情報を書き込んでいた。
「どうやら、グループを組んでいた生徒たちはほとんどが脱落したようですね……グループで残っているのは、過激派、七星椿の人たちだけですか。彼らを倒さないと、優勝は成し遂げられませんね」
 ライはほふく前進をやめ、すっと立ち上がった。
「目覚まし時計などがあれば、大きな音を鳴らして隙を突くこともできたのですが……これで何とかするしかないようですね」
 その手に大根と決意を握り締め、ライは歩き出した。数歩歩いたところで、ぽきっという音がした。
「いたっ」
大根を握った時力んだせいで、肩を脱臼したらしい。彼は勇ましい外見とは裏腹に、脱臼癖があった。肩をぶらぶらさせながら、ライは七星椿のメンバーを探し再び歩き出す。

 一方、その七星椿の面々は西地区へと移動していた。否、移動ではなく追跡をしていた。追われていたのは先ほどライブ会場が本格的な乱闘になる前に逃げ出していたカレンとジュレールだった。
「おらおら、待てってんだ! あんたらだけ攻撃しといて逃げるなんてのは許されないぜ?」
 北斗、ベルフェンティータ、クリムリッテ、侘助、火藍らが猛烈な勢いでカレンとジュレールに迫る。カレンらは移動中にベルフェンティータとクリムリッテを見つけ倒そうとしたが、隠れていた北斗らの反撃を受けていた。5対2ではさすがに勝ち目がないと判断し、ふたりは必死で逃げた。が、その追いかけっこにもやがて終わりが訪れる。
「……全く、余計な体力を使わせないでくれる?」
 ベルフェンティータがゆっくりとふたりに迫る。カレンは、少しの間目を瞑ると何かを決心し、手に魔力を集めた。そして、カレンは氷術を唱え、七星椿の足元目がけ氷の塊を放った。それを際どくかわす5人。カレンはお構いなしに次々と氷を放つ。
「ジュレ、今のうちに逃げて!!」
「カレン、何を言っているのだ。我も共に戦う」
「憶えてる? 前にこの島に来た時、ジュレはこうやってボクを守ってくれたよね」
 カレンは以前の依頼でここに来て、吸血鬼に襲われそうになった時、ジュレールが身代わりになったことで一度救われていた。
「もちろん記憶は残っている。しかし、その話とこの話は同一ではない」
「ジュレ」
 カレンが、前を向いたまま後ろにいるジュレールの名を強く呼ぶ。
「ボクは、ジュレを優勝させたいんだ。だから、走って、ジュレ」
「……それが、我に課せられた任務なのか?」
 黙ってカレンが頷くと、ジュレールは何も言わず、その場を離れた。
「あははっ、健気な絆だね! でも、クリムちゃんそういうのきらーい」
 クリムリッテが氷を火術で溶かし、カレンに襲い掛かる。その時、彼女らの上から、ひとりの少女が舞い降りてきた。
「落下部隊1号、参上〜っ!」
 突然空から降ってきたのは、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)だった。彼女は木の上に身を潜め、その下を獲物が通る機会をずっと窺っていたのだ。滑り止めのため、手にはきっちりとアイテムの軍手を装着している。完全に不意を突かれたクリムリッテは、プレートを守れずミルディアによって色を変えさせられた。
「いいねえ、燃えてきたぜ!」
 パートナーの脱落を特に気にした様子もなく、北斗はミルディアに矛先を向ける。それを防いだのは、ミルディアのパートナー、和泉 真奈(いずみ・まな)だ。
「本当はこのような物騒なことは苦手なんですけど……そうも言っていられないようですね」
 ミルディア、真奈の参入で乱戦に入りかけていたこの場に、さらにひとりの生徒が乱入してきた。
「よぉ、何だか楽しそうじゃねえか。なぁ、俺もそろそろ混ぜろよ」
「カガチくん!」
 それは、先ほど関羽ロスタイムから逃げ延びたカガチだった。カガチは不敵な笑みを浮かべると、輪ゴムを手にし四方八方に発射した。その輪ゴムの雨に立ち向かったのは、七星椿の侘助だった。侘助はアイテムの巨峰を次々とちぎると、降り注ぐ輪ゴムを打ち落としていく。
「俺の巨峰を甘くみんじゃねえぞ!? さあ、いっちょ派手におっ始めようか!」
 カガチの指は関羽戦からの連戦で既に輪ゴムの跡がついて赤くなっていたが、それを気にも留めずさらに輪ゴムを放つ。
「一発打つ度に指が折れそうだ……だがよぉ、闘いってのはこうじゃなきゃ面白くねえよなぁ」
「輪ゴムごときにこの俺の巨峰が敗れるはずがねえ! 巨峰の力を舐めるなよ!」
 両者の間に激しく乱れ飛ぶ巨峰と輪ゴム! それを見ていた侘助のパートナー、火藍は冷静に尋ねた。
「あんた、なんでそんなに巨峰に自信持ってるんですか……」
「自信? そんなものないさ。だが、同じくらい俺には不安や迷いもない!」
 なんかかっこいいこと言ってる風であるが、実際に飛び交っているのは巨峰と輪ゴムである。しかしどうやら火藍はちょっとグッと来たらしい。
「あんたって人は……世話が焼けますね」
 火藍は持っていた七味唐辛子をさっと侘助の巨峰にふりかけた。これぞパートナーとの合成技、唐辛子オン・ザ巨峰である! カガチは気付かずに輪ゴムで飛んでくる巨峰を打ち落とす。弾けた巨峰から唐辛子が飛び散り、カガチの目に直撃した。
「いてえっ……なんだぁ!?」
 その隙に距離を詰める侘助。カガチが目を開けた時、既に侘助はカガチのプレートの前で指を構えていた。
「しょうがねえ……ちょうど輪ゴムも弾切れだからなぁ」
 そして、カガチは脱落した。

 依然七星椿の攻撃は衰えず、ミルディア、真奈、そしてカレンは追い込まれていた。北斗の大根がカレンに狙いを定める。
「とどめだっ!」
 北斗の放った一撃はしかし、カレンに当たらなかった。カレンの前に立ち、大根を防いだのは、逃げたはずのジュレールだった。
「ジュレ! どうして!?」
「我は『走って』という命令を受けた。だが、走る場所は指定されていないであろう? だから我は命令通り走ることにしたのだ。カレンのところに向かって」
 ジュレールが戻ってきたことで、数的には五分となった過激派組とカレン、ジュレール、ミルディア、真奈たち。天秤はどちらに傾くか、これで分からなくなった。

 そんな激しい闘いを陰で見ていたのは、脱臼したてのライだった。
「これはチャンスです……この混乱に乗じて強敵を倒せれば……!」
 しかし彼はタイミング悪く脱臼中だ。
「くっ、この肩さえ……この肩さえ治っていれば……!
 彼は怪我で試合に出れなくなった高校球児みたいなことを言い出すと、何かを覚悟した様子で大根を持った。
「止むを得ませんね。もう片方の腕でやるしかありません!」
 そしてライは戦場のど真ん中に、大根を投げようとした。
 が、利き腕じゃない方の腕で遠投しようとしたせいか、大根を投げる前に彼の腕は脱臼した。
「うっ……とうとう限界みたいですね」
 両腕が使い物にならなくなり、うなだれるライ。そんなライの背後から、ふたりの生徒が姿を現した。
「混乱に乗じるとはどういうことか、手本を見せてやるのだわ」
「なっ……!?」
 驚き振り返るライ。声を発した少女はライから大根を奪い取ると、持っていたおろし金で大根をすりおろしていく。
「いや、京……絵になってない、その仕草は絵になってないよ」
 横にいた男が少女からおろし金を取り上げた。少女は少し残念そうな顔をして、おろし金で軽くライのプレートを叩いた。
「唯、作戦開始なのだわ!」
 その言葉を合図にふたりの生徒――九条院 京(くじょういん・みやこ)とパートナーの文月 唯(ふみづき・ゆい)は戦場がより見やすい場所へと移動を始めた。

 ジュレールが加わったものの、七星椿の勢いはやはり激しく、このまま決着が着くかと思われた。
「全く、愉快よね。参加者がゴミのようよ。さあ、あなたも脱落しなさい」
 ミルディア、真奈に攻撃しようとするベルフェンティータ。しかし次の瞬間、その背後から炎が迫る。
「えっ!?」
 慌てて回避するベルフェンティータ。その視線の先には、北斗がいた。
「……何火術なんて使ってるの? パートナーを丸焼きにする気?」
「あ? 俺は火術なんて使ってないぜ?」
「あなたがいる方向から炎が来たのよ。犯人はひとりしかいないじゃない。そう、ひとりだけ抜け駆けしようとしたのね」
「よく分かんねえけど、やるってのか?」
 途端にふたりは同士討ちを始めた。それを木に隠れて見ていたのは、京と唯だった。
「上手くいったね、京」
「当然なのだわ! 魔性の小悪魔ウィザードの京にかかれば、あのくらいのことわけないのだわ!」
 どこでそんな言葉憶えてきたんだろう……ていうか魔性も小悪魔も関係ないし。唯は毎度のことながら軽い頭痛を起こした。
 魔性かどうかはともかく、京の作戦は成功した。それは、仲間同士を争わせ、人数を一気に減らすことである。

「っ!」
 襲い来るホーリーメイスでの殴打をかわしつつ、ベルフェンティータのプレートを弾く北斗。
「ったく、ネット環境がなさすぎてついに狂っちまったのか……?」
 一方、七星椿の侘助、火藍らもカレン、ジュレール、ミルディア、真奈たちに数で押され、劣勢にあった。
「やばいな、もう巨峰がなくなっちまった……」
 4人に囲まれる侘助と火藍。と、火藍が一歩前に出る。
「あんたを守るのが俺の役目なんで、ちょっとすっこんでてください」
「火藍……!?」
「行きますよっ!」
 火藍がカレンとジュレールの方に走り出す。
「ジュレール、危ないっ!」
 とっさに相方を庇ったカレンは捨て身の攻撃を受け、プレートが変色した。しかし火藍のプレートも、また同時に赤くなっていた。
「今ですっ、逃げてください!」
 火藍が命を賭してつくった抜け道、そこから侘助が脱出を図る。が、火藍の犠牲も空しく、残った3人によって侘助はやられた。
「ここまで、か……楽しかったぜ、なあ火藍」
「これを楽しかったとは……やはりあんたのパートナーは苦労しますね」
 そして、ベルフェンティータ、カレン、侘助、火藍の4人はここで脱落した。

「皆やられちまったか……こうなったら、派手に散ってみせるぜ!」
 最後に残った七星椿のメンバー、北斗は雷術を使い、自分を中心とした地点に雷を落とした。ジュレール、ミルディアは間一髪で逃れたが、真奈が避けきれずプレートに衝撃を与えてしまう。
 北斗、真奈のふたりもここで脱落となった。残ったジュレールとミルディアは、正々堂々勝負をすることにした。もう散々バトルシーンは描写したので割愛するが、闘いの結果今まで出番の多かったジュレールが負けた。ジュレールは落ち込んだ。それはもうほんと、めちゃくちゃ落ち込んだ。優勝してほしい、というカレンの願いを叶えられなかったこと。くじ引きアイテムが望んでいたビニールシートではなく大根だったこと、そしてやられ方がこんな適当なことに落ち込んだ。

 時刻は0時を回った頃だった。大事な部分の痛みが治まった竜司は、早速新たな獲物を見つけていた。それは無防備に寝ている久世 沙幸(くぜ・さゆき)だった。
「おいおい、こんな格好で寝てたら、襲ってくれって言ってるようなもんじゃねえか」
 沙幸はミニスカートで、頑張れば何かが見えそうだ。竜司は遠慮なく近付く。島に来て最初はもっと警戒していたが、こんなのはオレのキャラじゃねえ、とか言い出しとにかく人を見つけたら手当たり次第ぶん投げることにしたのだ。しかし、キャラ的には正解だがこの島では不正解な行動だった。
「うおっ!?」
 ビニール紐が竜司の足元に引っかかり、竜司は派手に転んだ。その近くには、たった今まで寝ていたはずの沙幸が立っていた。そう、彼女はトラッパーのスキルで罠を設置し、夜襲にあらかじめ備えていたのだ。
「女の子の寝込みを襲うなんて、サイテーね!」
「ちょっ、ちょっとま……」
 沙幸は思いっきり竜司の大事な部分を蹴った。
「はぉおおっ」
 竜司は死にそうな顔で、息も絶え絶えパンツからプレートを出す。今度こそプレートが赤く変わっていた。
「私には、ねーさまとの楽しい冬休みが待ってるの! だから、こんなとこで脱落するわけにはいかないんだもん!」
 1日に2回も金的蹴りを喰らうという不名誉な記録と共に、竜司はゲームから脱落した。

 同時刻、彼らとは離れたところで五条 武(ごじょう・たける)サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)は向かい合っていた。彼らは戦闘に積極的に関わろうとしなかったためここまで出番がなか……いや、生き延びていたのだ。サレンが武のベルトを見て目を輝かせる。
「おぉ、もしかしてそれ、変身ベルトってやつッスか!? 」
「あっ、ああ、そうだが……」
 別に正体を隠す必要もないのであっさり認める武。するとサレンはさらに身を乗り出し、ハイテンションで話しかける。
「ヒーローッスね! ヒーローなんスね! 変身してみてくださいッス、変身!」
 えぇ〜、ぐいぐい来るよこの子、ちょっと鬱陶しいくらいの勢いだよ……。武はちょっと引いた。しかしサレンが変身変身うるさいので、仕方なくポーズを決め変身した。
「改造人間パラミアントだ。はい、これで満足しただろ? ね、いい子だからおうち帰って」
 しかしサレンはますます興奮した。
「おぉっ、すごいッスねこれ! 実は私も変身グッズ最近買ったんスよ! 見てもらっていいッスか?」
 サレンはそう言うと、糸こんにゃくでつくったネックストラップで首から下げていたプレートを胸の谷間から取り出した。これはなかなかのおっぱ……もとい、胸だ。これにはさすがの武もちょっと興奮した。chapter.3でも触れているが、チラリズムとは人類が生み出した至高の宝である。下手に胸をさらけ出されるより、このように不意に見える谷間にこそ、ロマンはある。谷間。そう、それはまさに男を獣へと堕とす深き闇である。そもそも女性の胸とは女性ホルモンが分泌され、乳腺と呼ばれる部位が発達することにより大きくなっていくのだが、生物学的に見れば睡眠不足、過度なストレスなどでホルモンバランスが崩れた場合胸は大きくなりにくい傾向にあるとされる。胸を見るのが1番正確な健康診断だ、とはよく言ったものである。
 とまあそんな説明をしている間にサレンは着替え終わって、愛と正義のヒロイン、ラヴピースになってましたとさ。

 既に時間は真夜中、なんやかんやで結局ふたりともテンションが上がり、意気投合していた。そこに、妙な笑い声が聞こえてきた。不思議に思ったふたりは声をする方に歩いていく。するとそこには、漫画を読んで笑っているうんちょう タン(うんちょう・たん)がいた。
「この漫画、とても面白いでござる!」
 彼はくじ引きアイテムで少年誌が当たり、それにプレートを挟んでガードしようと思ったが、何気なく中身を読んでいるうちに、すっかり読書に夢中になってしまっていた。
「あれは……関羽か?」
「ん〜、暗くてあまり見えないッスけど、あのシルエットはきっとそうッス!」
「そうか、ならこっちに気付いていない今がチャンスだな」
「た、武さん、関羽とやるつもりッスか!?」
「英霊だのヒロイックアサルトだの、かっこいい名前が並んでるのが許せないんだ!」
「分かるッスその気持ち! よーっし、行くッスよ!」
 ふたりは一斉にうんちょうに襲い掛かった。漫画を読んで完全に油断していたうんちょうはあっさりやられた。
「……あれ、これ、偽者か?」
「……そうみたいッスね」
 武とサレンは申し訳ないことしたなあ、と反省しつつその場を後にした。倒れたうんちょうのところに、トイレに行っていたパートナーの皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)が戻ってくる。伽羅はいきなりうんちょうがやられていて驚いた。
「え、えぇ〜っ!? 何があったっていうんですぅ!?」
 うんちょう、関羽っぽかったせいで脱落。
 余談だが、このゲームの期間中は仮設トイレが数ヶ所に設けられているので、変な想像をしてはいけない。

 深夜3時。
 真夜中にも関わらず、ロイテホーンのアナウンスが流れた。
「ただいまより、本日の関羽タイムを開始する」
「……!?」
「うるせえぞ、今何時だと思ってんだ!」
「今まで朝8時くらいだったろ、ふざけんな!」
 そんな生徒たちの文句を予想していたかのように、彼は言った。
「関羽タイムは常に朝だ、などというのは間違った推測だ。それに、こういう変化球もあった方が面白いだろう?」
 主催者的にはそうかもしれないが、参加者からしたら「お前だけだろ!」という話である。ともかく、3回目の関羽タイムが始まった。

 ゆっくりと腰を上げ、関羽が動き出す。そこに立ち塞がったのは、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)だった。
「ぬ……?」
「私は、六本木優希! 関羽さん、どうか、私と一戦交えてください! お願いします!」
 彼女はどうやら、自分の腕試しをしたかったらしい。大人しそうな外見に似合わず、なかなか過激なお嬢さんだ。彼女は最初、スコップか何かで落とし穴を掘り、そこに関羽を誘導させ地の利を活かして闘おうとしていた。しかし彼女はスコップと雨合羽という、複数のアイテムを心で願ってしまったために、スコップではなく大根が当たってしまったのだ。大根で土は掘れないので、その作戦は諦めざるを得なかった。なんなら逆に大根は土に埋まってる側のアイテムである。ちなみにスコップ単体でもスーパーになかったので、どのみち彼女のアイテムは大根となる運命だった。
「……ここまで生き残ったのに、自らその命を捨てると申すか?」
 関羽が降参を促す。しかし優希の意志は固かった。
「わ、私だって、やれば出来るんですっ! 外見だけで判断しないでください!」
「ふむ……これは失礼した。ではこの関羽、貴殿の望み通り、お相手致そう」
 関羽のその言葉を聞き、嬉しさと緊張で身震いする優希。彼女は震えを落ち着かせると、一際大きく返事をした。
「はいっ! お願いします!!」
 そして優希はランスを持ち、果敢に関羽に向かい走っていく。
「むぅん!!」
 優希は飛んだ。世の中、やる気だけではどうにもならないこともある。彼女は身をもってそれを僕らに教えてくれた。そんな彼女の犠牲を、僕たちは忘れてはいけない。

 そして関羽の犠牲者がもうひとり。
 チーム「美夢」最後のひとり、竜花だ。普通に寝ていた彼女の前にいきなり関羽が現れた。
「えっ、えっ!? なっ、何!?」
 寝ていたのでアナウンスを聞き逃していた竜花に、関羽が告げる。
「すまぬな、関羽タイムだ」
「えっ、だって今真夜中っ……!」
 むしろ「タイム」と言いたいのは竜花の方だった。が、関羽は無論取り合わない。
「貴殿はもう充分出番があったらしいのでな……収容所へ向かわれよ」
 そして竜花は関羽にすっ飛ばされた。世の中、いつどんな災害が起こるか分からない。睡眠中に関羽が来ることもある。彼女は身をもってそれを僕らに教えてくれた。そんな彼女の犠牲を、僕たちは忘れてはいけない。

 やがて夜が明け、最後の朝が始まった。
 【残り 14人】